201 僅かなやり直し
俺はスサノオの攻撃で意識を失い闇の中を浮遊している。
すると遠くから目覚まし時計の様な大きな泣き声が聞こえてきた。
どうやら、この時代に来てから初めて夢を見ているようだ。
そして目を開けるとそこにはこの時代の実家の風景が広がっている。
それに、どうやらこの声の主は生まれたばかりのアケの声のようだ。
ただ、この時の俺は幼くて朧げにしか覚えていないはずなのに今は現実の様に鮮明な光景が目に映っている。
その横のは俺の父親以外にも祖父と祖母が居て笑顔でアケを抱き上げているのが見える。
しかし、この2人はもうじき死ぬ事になるはずだ。
この時の俺は知らなかったけど、この年にこの周辺で病が流行したらしい。
その犠牲者になったのが歳を取って抵抗力の下がった老人たちだ。
この年に殆どの高齢者が死んだため、村に年寄りが殆ど居なくなったと畑仕事をしている時に聞いた事がある。
だから幼い俺が畑で仕事をしていても最初は不審に思う者が居なかったのだけどそれが良くなかった。
元々サボリ癖のあった両親は祖父と祖母が戒めて働かせていたらしく、その枷が無くなり俺を働かせれば楽が出来ると知ってしまった。
そして村の人間も働き手が減った事でしばらくは自分達の事で手一杯だったのも運が無かった。
すると急に目の前の景色が切り替わり目の前には1つの家が姿を現れ、ここは確か病気が流行っていた時に使われていた隔離場所だ。
それにこの時代の貧しい村で出来る事と言ったら限られているので隔離して放置したり死んだ者を焼いて処分するくらいだ。
この年は死体を焼くために沢山の薪を使い冬に苦労した経験があり、両親が育児放棄を始めたのもこれくらいだ。
アケは幼いので冬の夜に放置すれば死んでしまう。
俺が薄い布を巻いて温めたり山の奥まで言って薪を集めて何とか凌いで生き残った。
もしこの時に彼らが死んでいなければ、もう少しは良くなったかもしれない。
「体は動くな。力は・・・出せるみたいだ。」
やけにハッキリとした夢だけどこれなら問題ないだろう。
今の俺なら彼らを確実に助ける事が出来る。
どうせ夢なんだからたまには好き勝手にさせてもらう事にした。
俺は家に入る前に周辺と家の中を浄化して綺麗にする。
なにせ隔離という名の監禁なので周辺の状況もそんなに良くない。
トイレの処理すら恐れて誰も行わないので臭いもかなりしていた。
「邪魔するぞ。」
「だ・・誰だ。ゴホッ!ゴホッ!」
すると丁度良い事に目的の祖父が姿を現した。
俺にとってはお爺ちゃんになるのか、この頃の俺もそう呼んでいたみたいだ。
ただ、あちらは俺が姿を見せた事でその手を伸ばして来る。
だが、それは頭を撫でたり可愛がるためではない。
病気の蔓延したこの家に入れない為に俺を突き飛ばすためだ。
やり方は乱暴だけどその表情からそれが不本意である事が伝わって来る。
やっぱりこの人はここで死ぬべき人物では無いみたいだ。
「ここに来てはいかん!早く帰りなさい!」
「そうはいかない。アンタにはこれからもっと生きてもらわないといけないからな。」
俺は祖父の突き出した手を躱すと同時に神聖魔法をかけて病気を治療する。
そのついでにここに隔離されている者達を全員治療するとその場を去った。
次は精の付く物でも取って来よう。
俺は山を駆け獣を数頭仕留めると家の前に積んでおいた。
祖父は解体が得意なので後は勝手に捌いて食べるだろう。
ついでに病気の潜伏者が居ては意味が無いので闇夜に紛れて周辺の町や村を回り全員の治療を行っておいた。
すると1週間ほどで村は元の状態へと戻り初期の段階で対処できたおかげで死者は殆ど出なかった。
すると再び周囲の風景が勝手に切り替わった。
そして再び赤ん坊の泣き声が聞こえ、その傍には祖父と祖母が笑顔を浮かべている。
その様子からどうやらあの冬を生き抜いてくれた様だ
それに俺の傍にアケが居るのであの赤ん坊はユウで間違いないだろう。
父親の方は少し精鍛な顔つきになっているので、もしかすると少しは真面目に働く様になったのかもしれない。
この光景が見られただけでも少しだけ安心できる。
やはり子供にとって親とは大切な存在だからだ。
すると再び景色が切り替わり一気に数年の時が過ぎていた。
しかし周囲はとても暑く空には雲の欠片すらない。
これは日照りで作物があまり取れなかった年で間違いないだろう。
この時は食べられる物は何でも口にし、虫や鼠など色々な物を食べた。
アケとユウも死ぬ寸前まで衰弱して危ない所だったのを覚えている。
そして村の中央に行くと何やら集会の様な事が行われていた。
「食料がもう底を尽きそうだ。」
「そうなると・・・年老いた者から切り捨てるしか無かろう。」
どうやら俺があの時に病人を治療した事で食料の不足に拍車が掛かっているようだ。
水も枯れかけているので既に泥水を啜っているのに近い状況らしい。
ならばどうするかと言う話だけど雨を降らせる手段は無くても持っている奴に心当たりがある。
俺は厳島の神社に向かうとそこにある弁財天の神像を回収し外に出た。
そして拳を握り締めると一切の容赦と躊躇を排除した攻撃を全力で放つ。
「死ねやーーー!」
「ちょっと何してくれてんのよ!」
すると地蔵菩薩の時を思わせる動きで弁財天は俺の攻撃を紙一重で躱し地面を転がった。
やっぱりこの方法が神を呼ぶには最適なようだ。
ちょっと睨まれるのが問題だけど、こちらとしてもそんなに時間がない。
いつ夢が切り替わるか分からないので急いで用件を言おう。
「ちょっと九州に安定して雨を降らせて欲しいんだけど。」
「雨~・・・なんでそんな事を私がしないといけないのよ!」
「降らせてくれたらお前に飴をやろう。」
「何言ってるのよ。砂糖菓子なんて興味ないわ!」
「まあ食ってみろ。」
俺は素早く飴の袋を空けるとそれを口へと放り込んでやる。
すると不機嫌そうな表情を浮かべて口の中で転がすと俺の手にある飴の詰まった袋を奪い取った。
既に現実でコイツの好みは把握済みなので何味を食わせれば良いかも分かっている。
今食べさせたのはイチゴミルク味でこの時代にはない味だ。
それに弁財天の味の好みはフルーツとミルク系に偏っている。
そのコンボを喰らえば少しは対応が柔らかくなるだろう。
「それで、何か言う事は?」
「こ、こんなので『ドサ!』私がアンタなんかの言う事を『ドサ!』聞くとでも思ってるの!?『ドサ!』・・・しょうがないわね。今年だけよ。」
「それで構わないから頼んだぞ。」
飴玉を3キロほど消費したけど、どうせ夢の中だから良いだろう。
オマケとしてお湯で作れるココアスティックを数箱とホイップクリームスプレーを付けておこう。
「これは何なの?」
「こうやって使うんだよ。」
俺はマグカップにココアを作りそれにクリームを乗せて渡してやる。
「それじゃあ俺は行くから後はよろしく。」
「ちょっと待ちなさい!」
しかし俺は急いでいるので制止の声を振り切って村へと帰って行った。
すると既に空は雲が覆われ雨が降り始めていて村は大喜びで空と神に感謝の祈りを捧げている。
これで今回の飢饉も何とか乗り切れるだろう。
ついでに持っている食料を追加で置いておけば大丈夫なはずだ
そして、ついでに周辺の村々に夜の間に飛び回って貯水池を作ったり海から魚を取って周囲にバラまき終えると再び景色が切り替わる。
ただし、ここから先はこれと言った問題はないのでどういう事かと思っていると自分の体を見て理解できた。
どうやら俺がこの時代に来る2年ほど前の様で、今回の目的はこの村ではない。
それにアケとユウも祖父と祖母に懐いているようなので少しくらい俺がここに居なくても大丈夫だろう。
なので俺は祖父の許に向かい相談を持ち掛けた。
「ちょっと村を空けるから2人の事をよろしく頼む。」
「その口調は・・・分かった。儂らに任せておきなさい。」
何か注意を受けるかと思ったけど祖父は快く2人の面倒を引き受けてくた。
そう言えばこの時の俺はもっと子供っぽい喋り方をしていたので口調の変化に何か違和感でも感じているのかもしれない。
しかし、引き受けてくれたので俺はその場から立ち去ると移動を開始した。
あの時は歩きで1日かけたけど今なら数分で到着するだろう。
問題はどちらが先かと言う話だけどそれは細かい時期まではどちらにも聞いていない。
そして、見慣れた町に到着すると玄武の支部を覗き込んだ。
「誰じゃな?」
すると中に居たゲン爺さんから声を掛けられた。
そして、その横には婆さ『ギロ!』モモカさんがお茶を淹れているのでこちらでは無いのかもしれない。
2人とも高齢になっても感覚だけは鈍っていない様で流石と言える。
なので俺は支部に他のメンバーが居ないのを確認すると中へと入って行った。
「ここは玄武で支部で良いのかな?」
「そうじゃよ。お前さんは仕事の依頼に来た訳では無かろう。それに今日は本部から大事な者が来る事になっておる。他の支部はピリピリしておって危ないから行かない様にな。」
「ああ・・・理解した。」
俺はその場を後にすると他の支部を覗き込んだ。
しかし、どの支部にも動きが無く、俺は港の方へと向かって行く。
ミズメは確か船でここまで運ばれたって言っていた。
すると港に船が到着した所でそこから檻に入れられた何者かが下ろされている。
ただその姿を見た瞬間に俺の中で何かが噛み合い魂が激しく燃え上がると今までの何倍もの力が湧いてくるのを感じる。
そして気が付けば俺はミズメが閉じ込められている檻の前に立ち声を掛けていた。
「今度は助けられそうだな。」
「誰ですかアナタは?」
「お前を救う者だ。」
「アナタは子供でしょ。それに大人にも私を助ける事は出来ません。」
どうやらこの頃のミズメは俺の知る時よりも丁寧な口調みたいだ。
それでも親兄弟に見捨てられて組織に売られた事で精神的には凹んでいるのが分かる。
しかし話が終わる前に俺の周りを組織の奴等が武器を手にして包囲を始めた。
どうやら登場が突然だったので子供の姿でも最大の警戒をしているようだ。
でもこのまま引き渡す選択肢は皆無なのでエスコートをする権利だけ頂くとしよう。
「コイツは俺が貰って行く。文句がある奴だけ掛かって来い。」
「舐めるなよ人間風情が!」
(はい、自分が人間でない事を暴露した馬鹿が1人。)
なので俺はそいつに限っては即座に首を飛ばして始末した。
すると周囲からどよめきが生まれ下がる者と前に出る物に別れる。
下がっている奴らは自分達の中に魔物が混ざっていた事に気が付き疑心暗鬼になっているようだ。
それに比べ前に出て来た奴らは隠す気が無くなったのか、その姿を魔物に変えて襲い掛かって来た。
「手間が省けたな。」
俺は手に持つ刀を一閃するとそいつ等を真っ二つに両断して一瞬で始末する。
人数にして3割と言った所で10人くらいだろうか。
他の20人程に関しては突然の光景に腰を抜かして呆然自失となっている。
これは丁度良いのでそいつ等に向かって浄化を放ってみると更に数人が魔物の本性を現した。
そういえばフルメルト王国の王子であるデトルに浄化を掛けた時にも凄い苦しがっていた。
魔物に対しても正体を確認する方法としては手頃な方法かもしれない。
そして魔物になった奴はその場で始末して他の奴等は放置しておく。
夢だから皆殺しでも良いけど好んで人殺しがしたい訳じゃない。
現実で無いのだからなるべく殺さずに終わらせておきたい。
そして一仕事終えてミズメの許へと戻って行くと剣を収めて檻に付いている南京錠に手を伸ばす。
そのまま指の力だけで軽く引き千切ると扉を開けて手を差し出した。
「行こうかミズメ。」
「どうして私の名前を知っているの?」
「お前の事は色々知ってるよ。それよりも行くぞ。」
「わ!待って、心の準備がまだ出来てないのよ!」
俺はミズメを両手で抱き上げるとそのまま玄武の支部へと向かって行った。
そして中に入ると番台で茶を啜っている爺さんへと声を掛ける。
「ちょっと預かっててくれ。」
「預かれと言うが・・待たんか!この娘はもしや・・・。」
「贄の少女だ。他には渡すなよ。」
俺はそう言って他の支部へと入りそこで浄化を乱射する。
するとそこに居た全員が魔物へと姿を変え苦しみにのた打ち回っている。
そして、浄化を止めると立ち上がり武器を抜いて構えを取った。
「テ、テメーは何もんだ!」
「ボス、殺しちまって良いですかい?」
「正体を見られたんだ。容赦するんじゃねえ!」
こういうストレートな奴らは楽で助かる。
しかし奴らが動き出そうとした時には既に勝負が着いていて全員が黒い霞に変わり消え去っていた。
その後も他の2カ所を周ると同じ様なセリフをくり返すので、ここに居た3人の支部長は仲が良かったのだろう。
間に合えば助けてやろうと思っていたのにとても残念だ。
俺は3つの支部を壊滅させるとそのまま爺さんの許へと戻りこの事を報告しておく事にした。
こんな夢の中でも仕事に励むとは俺も社会に揉まれて常識が身に付いてきたのかもしれない。
「と言うことで、これからミズメの事は頼んだぞ。」
「うむ、それなら任せておけ・・・。と言いたいが儂も齢じゃからあまり期待するなよ。」
(こう言う所も現実と同じなのか。)
仕方ないので俺は元気になる薬、中級ポーション・改を渡しておく。
過剰な気もするけどこれでどんな怪我も一発回復だ。
ついでに婆さ・・・モモカさんの分も渡しておけば良いだろう。
「それじゃあなミズメ。ここに居たら安全だから爺さんにしっかりと守ってもらえよ。」
「ちょっと待つのじゃ。お前はどこの誰じゃ!?」
「名前くらい教えて!」
「俺はハルヤだ。」
それだけ言って俺は村へと帰って行った。
そして到着してすぐにアケとユウの所に行って頭を撫でてやり風景が変わるまで村で困っている事を解決して回った。
すると再び周囲の光景が変わり俺は良く分からない所へとやって来た。
ただ今回の視点は俺自身ではなく上空から見下ろす様な俯瞰視点だ。
地上を見ると巨大な禍々しい存在が居てその周囲を魔物の大軍勢が護る様に密集している。
どうやら何らかの大きな戦いの光景を見ているようだ。
そして、その巨大な存在が顔を向けている先に視線を向けると俺ではない俺が必死な顔で走り手を伸ばしていた。
それに不安を感じ伸ばしている手の先を確認するとミズメが今にもその存在に喰われようとしている。
ミズメはそんな状況で泣き笑いの様な表情を浮かべ一言だけ言葉を口にした。
何故かその声は遠く離れた俺の耳にも届き夢だと分かっていても大きな不安が巻き起こり心を満たしていく。
するとそこで周囲の景色が消えて闇に変わると、俺のすぐ傍に光が生まれそれは人の形へと変わっていった。
最初は誰か分からなかったけどすぐにその正体が分かる姿となって形を整える。
その人物とは少し前に蘇らせた安倍家の末娘であるルリで今は綺麗な少女の姿に成長している。
どうやらこの訳の分からない状況はコイツの仕業で間違いなさそうだ。
「やっとあなたが眠ってくれたので私の力が干渉できる様になりました。」
「そうなると今のはやっぱりお前が俺に見せた夢と言うことか?」
「ええ、でもただの夢ではありません。私は一時的にですが過去に魂を飛ばす事が出来ます。そして、その人に過去を変えるチャンスを与える事が出来るのです。」
「それは凄い能力だな。でもそんなのは代償無しで出来るものなのか?」
現代でユカリから聞いた話だけど強い力には代償が必要となる。
俺達も覚醒する時に何かを支払っているはずだと言われていてそれは担当した神によって違うらしい。
その時に例として俺が何を代償にして失っているのかと聞くと一部の感情だと教えてくれた。
ただし感情は成長するので運が良ければある程度は回復するそうだけど、今の状況から考えてあまり期待が出来そうにない。
そして一時的でも時に干渉する力となると代償もそれなりに大きいモノを支払う必要があるはずだ。
俺か又はルリがいったい何を失ったのだろうか。
「それに関しては大丈夫です。彼らのおかげで十分過ぎる程の代償を頂いています。」
「彼ら?それはまさか風神たちの事か?」
ルリが生き返ってからの僅かな時間で俺が失った物と言えばさっき切り飛ばされた手足くらいだ。
そうなると今回の事はイザナミ様も関わっていると見て間違いないだろう。
そうでなければあの面子が簡単に動くとは思えない。
「あなたが想像している通りです。私の力には双方の血肉が必要になります。今回の力の行使にはあなたの腕を使わせてもらいました。」
「ならお前もかなり重症なんじゃないか?」
するとルリは苦笑を浮かべながら軽い溜息を吐き出して見せる。
そう言えばゆったりとした着物姿で気付かなかったけど両足と片腕が無い様に言える。
どうやらそれだけのものを俺の為に払ってくれたと言うことらしい。
「その手足は大丈夫なのか?」
「死ぬわけではないので大丈夫です。それに私は命を救って頂いたのでこれくらいは大した事ではありません。」
「そうか。後で行ってやるからハルアキラに持たせているポーションで怪我だけは治しておけよ。死なれると面倒だからな。」
「ありがとうございます。」
ルリはそう言ってはにかんだ表情になると深く頭を下げてくる。
しかし、そうなると最後の夢は何なんだ。
あれは明らかに過去ではなく未来の出来事のような気が・・・!?
そこまで思い至って問いかけようとした時に俺の脳内に膨大な情報が流れ込んで来た。
それはまるでパソコンの圧縮ファイルを解凍した時の様で幾つもの光景が浮かんでくる。
ただ、そこに映るメインとなる登場人物は全員が違っていて俺やミズメは登場しない。
一瞬何かと混乱したけどそう言えばイザナミ様が俺の頭に情報だけは入れておくと言っていた事を思い出した。
そして時が来れば俺の頭に施されているブロックも取り払われるので真実を知る事が出来るとも言っていた。
きっとさっきの光景を見た事でそのブロックが解除されてしまったのだろう。
ただそのおかげで誰が何を企みあの光景を作り出したのかも理解する事が出来た。
それと同時にユカリの行方や現代でのちょっとした矛盾も知る事になったけどそれは後回しだ。
しかし全てが理解できたからと言ってあの光景を許容する事は出来ない。
このままでは俺の知る事が出来た12人と同じ運命を辿る事になるだろう。
でも、あの未来を回避するためには情報だけではダメだろうから、あの称号を使う事になる。
そして俺が少し頭を抱えていると心配そうにルリが声を掛けて来た。
「大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫だ。それよりもあの未来はお前が殺された理由なんだな。」
「そうです。何故か未来が見えないはずの私が未来の夢を見てしまったのです。そして私がこうして夢を介してあなたにこの事を伝えられたくない何者かによって事故に見せかけ殺されたのです。」
「それじゃあ地蔵菩薩はある意味ではお前を守ってたのか。」
神にとっては死んだ後の魂をどうにかする事も容易い。
それに記憶を消去するには輪廻転生させるのが一番手っ取り早いのでそれをされていると邪神との決戦まで何も分からないままで挑む所だった。
「ちょっとやり方は良くなかったですが結果だけ見ればその通りです。だからあの方をあまり叱らないであげてくださいね。」
そう言ってルリは苦笑を浮かべているけど、それなら少しは良いと言うことだな。
次に会う事があればもう少しだけ優しく接してやる事にしよう。
具体的には饅頭が怖いと思えるくらいまで饅頭を口に突っ込んでやるとかな・・・フッフッフ。
「だ、大丈夫ですか?」
すると再び心配をしている様な声を掛けられたけど、なんだかさっきと感じが違う。
どこか頭は大丈夫かと聞かれている様で距離も少し離れている気がする。
「問題ない。幾つか聞きたい事はあるけど、そろそろ起きるとするよ。」
「分かりました。それでは後ほど会いましょう。」
そう言ってルリは消えて行き、俺は夢から覚める気配を感じて目を開けた。
すると俺の体はいまだに空中を飛ばされていて進路上にある桃の木をなぎ倒している。
どうやら俺が夢を見ていたのは1秒程度だったみたいだ。
俺の居た場所にはスサノオがやり過ぎた感を漂わせる表情を浮かべ、頭を抱えている。
まあ、かなり痛かったけど死んでいないのでセーフだろう。
俺は折れた骨と損傷した内臓を瞬時に再生させると体を回転させて静止した。
「さて、リベンジマッチと行こうか。」




