20 2つ目のダンジョン ③
次はとうとう5階層になる。
地元のダンジョンでも慎重に行動した結果、いまだに足を踏み入れた事が無い階層だ。
当然最大の警戒を行い先程と同じ様にそっと中を覗き込むと、そこには村がありオークたちが中で動き回っている。
まるで戦国映画で見た戦支度をしている場面の様だ・・・というかその通りなのだろう。
ただ、ここには先程までの階層の様に磔にされている人は誰も居ない。
ただ村の一角に人形の様に捨てられた女性と思われモノが大量に積み上げられている。
以前のゴブリン村の時と比較すれば50人くらいだろうか残り50人が何処かに居るかもしれない。
そして様子を窺っていると村から女性の悲鳴が聞こえたのでそちらを見るとオークが盾に何かを縛り付けている。
かなり乱暴にしている様で悲鳴もそこから聞こえ、準備が整ったのかオークは盾の調子を確認するように持ち上げ構えを取った。
そして盾が動くたびに女性の苦痛に染まった悲鳴があがり、此方に向いた時にその理由が視界に飛び込んでくる。
どうやら女性は無理やり盾に縛り付けられている様で、肩は脱臼し、腕は関節でない場所で曲がっている。
折れた骨は皮膚を突き破り、そこからは血が流れ出していて酷い有様だ。
それに女性の顔は苦痛と涙で彩られ今にも発狂しそうになっている。
周りを見ればそれと同じ盾を持っているオークが数十匹は村の中を移動している。
声が上がっていないのは既に出血で死んでしまったのか意識が無いのかのどちらかだろう。
全てが先程の様に酷い訳ではなさそうだけど肉の盾と言われる物に間違いなさそうだ。
魔物にとって人間という生き物は、物か玩具にしか映っていないのかも知れない。
しかし、だからと言って俺達のする事に変化がある訳じゃない。
彼女たちを助ける手段は唯一つで奴らを殲滅する事だけだ。
俺達はフィールドに姿を現すとそのまま村に進んでいき、リリーだけはその小柄な体高を生かして先行し別の位置へと配置に着いている。
すると見張りをしていたオークの声が上がり村の前に集まり始めた。
奴らは肉の盾を持つ者が前面に展開し、それ以外が後ろに控えている。
ただし先程と違いその顔には油断が無い様で肉の盾さえ持っていなければ戦士の風格がある。
そして互いに武器を構えて対峙すると意識のある女性が枯れた喉で小さな呻き声を上げ、それが聞こえてくる程に辺りは静寂に包まれている。
しかし次の瞬間、俺達の姿を目にした1人が声を張り上げた。
「助けてーーー!」
その声は静寂を掻き分けオークたちの意識がそちらへと引き寄せられる。
奴らの顔には僅かな嗜虐の色が浮かび、自らも手にする女性たちへと向けられた。
しかしその直後には頭部に石の針が突き刺さり女性たちは唯の死体へと変わる。
それを見てオークたちの動きが止まり、次には目を怒りに染めてそれを行った犯人へと向けられた。
しかし、あんな扱いをしておきながら怒りをあらわにするとは酷い対応に呆れてしまいそうだ。
「ブヒー!ブフォー!」
「ギャフォー!」
そして、その先にはリリーが枯草に紛れて潜んでおり今は姿を晒してこちらに駆け戻っている。
保護色なので完全に見落とされていたらしく今になって警戒しているけどフリフリお尻を警戒するとは情けない連中だ。
しかし、その隙を逃す事なく今度はアケミとユウナの魔法がオークたちを襲った。
大量の石槍の雨が降り注ぐとその体を貫いてダメージを与えていく。
ただし疲労の限界近くまで魔法を使うため2人は両手に持っていたポーションを使い、体力が減ればそれで補いながら攻撃を継続させている。
中には盾を上に向けて防ごうとする個体もいるけど、そういった奴はリリーの餌食となってヘッドショットを喰らい消えて行っている。
俺達はその間に距離を詰めると怒涛の攻勢で敵を倒し更に数を減らしていった。
そして接近しても相手の身長は頭1つか2つ分大きいので自然と態勢が下向きになる。
それを利用して魔法使いの3人は頭部を集中攻撃しており俺達はその隙を突いて敵を効率よく始末していく。
特に水が効果的で一瞬視界を塞いでくれるためダメージは小さくても大きな助けになっていた。
そして、中には顔が濡れる事で絶叫を上げる者も居り、よく見ると何やら赤い粉末が顔に付いている。
そう言えばアケミはここに来る前に一味をポケットに忍ばせてたのであれはまさに一味違う水刃だったのだろう。
そのオークは剣を滅茶苦茶に振り回して周りの仲間を切り裂いており、そんな光景が何カ所かで見られ同士討ちもしているようだ。
そんな時に急に攻撃力が増加した感覚に襲われた。
この感覚にも覚えがあり以前にゴブリン村を殲滅した時に感じたのと一緒だ。
どうやらここに来てようやくオークキラーの称号が手に入ったようで俺の攻撃力は2倍へと跳ね上がり殲滅速度が更に上がった。
それに今回は皆が同じ戦場で戦っていて倒した数もそれほど変わらない。
見ると皆も同じようにオークを1撃で倒せるまでに攻撃力が上がっているので、そこからは瞬く間に数を減らし戦闘が終了した。
そしてそこには大量のドロップアイテムと、盾に縛り付けられた女性たちの死体が残っている。
どうやらこれで魔物は全て殲滅できたみたいなので荷物を減らすためにその場で魔石を分配、ポイント化すると蘇生薬とポーションを回収した。
そして、その中に中級ポーションが幾つか混ざっている事に気が付いたので鑑定してみると効果は欠損部以外の完全回復だった。
少し残念な性能の気もするけど死なずに回復できるので納得する事にする。
いざとなったら一度死んで中級蘇生薬で生き返れば良いだけだ。
そして戦闘を終えた俺達はここをこのままにして上の階へと戻る事にした。
ここには死者が多すぎて蘇生薬の数が足りず、状況的にも手伝いが必要になる。
既に上で使った分の蘇生薬は補充してあるけど彼女たちは一糸纏わぬ裸の姿だ。
色々な意味で生き返らせて歩かせる訳にはいかないので上に戻りながら魔物を殲滅し、ここまでの安全を確保すれば自衛隊が対応してくれるだろう。
それに敵が残っているのも2階層と3階層だけなのでそれ程の時間は掛からないだろう。
そして上に戻るとそこには先程助けた人たちが固まって俺達を待っていた。
これは危険なダンジョン内で勝手な行動をせずに待機していたのは良い判断だと思う。
3階層にはツキミヤさんしか居ないので生きた人間を100人以上も守りながらの移動と戦闘は不可能だ。
そして俺は今も指示を出し続けながら周りを鼓舞している先程の男に声を掛けた。
「今戻ったよ。」
「おう戻ったか。それで下に居た連中はどうした?」
「助けられる状況じゃなかったから後で回収に向かう。まずはそちらを外まで誘導するから付いて来てくれ。」
俺がそう言うと何となく意味を察したのか顔は歪めているけど罵声は飛んで来なかった。
自分達の状況もあって下の状況を想像する事が出来たのだろう。
でも、下はここよりも遥かに酷い扱いだったので静視が出来る人は殆ど居ないはずだ。
それにわざわざそれを伝えて不快にさせる必要はないので彼らを連れて移動を開始した。
まずは階段の前まで移動し俺達だけで上がる必要がある。
「それではここで少し待っていてください。上の様子を確認して来ます。」
「ああ、任せたからな。」
気分が少しは落ち着いたのか最初に比べると少しは態度が軟化している。
それでも、ここから出て時間が経てばこの中から俺達を罵る者が出てくるだろう。
日本は平和だけど平和ボケも酷い国なので危機感が薄く、自分に都合が悪いと簡単に手の平を返す。
この中で救って貰ったと意識できる人が何人いるかは分からないけど、そう考えれば警察や自衛隊の苦労が分かる気がする。
そして3階層に戻るとそこでツキミヤさんはのんびりタバコを吹かしていた。
まるでタバコのCⅯみたいに様になっているけど、その周りには焼死体が大量にある。
これではタバコではなくホラー映画のCⅯだろう。
そしてツキミヤさんは俺達に気付くとバイクに乗ったままこちらまでやって来た。
「もう終わったのか。」
「ああ、それでこの階層の状況は?」
「まあ、こんな感じだな。」
そう言ってツキミヤさんはポケットから魔石を取り出した。
その数は30近くあるのでどうやら寄って来るのを待つのではなく自分で倒して回ったみたいだ。
「この階層の掃除は終わらせといたぜ。」
そう言って歯をキラリと光らせてるけどイメージが崩壊寸前で対応が取れない。
まあ、安全なら下から彼らを連れてきても良いだろう。
「それなら生き残りが居るから2階層の掃除も頼むよ。」
「任せときな。行くぞフランチェスカ。」
そう言って向きを変えると上りの階段へと向かって行った。
「ねえ、お兄ちゃん。フランチェスカって誰?」
「気にしちゃだめだアケミ。アイツはもう昔のアイツじゃない。それにしても俺も早く免許を取らないとな。」
アケミはコテリと首を可愛らしく傾げると俺と一緒に歩き出した。
しかし戦車と同様にバイクや車にもロマンを感じるので早く免許を取りたくなってきた。
「それなら免許を取ったら最初のドライブの時に私を助手席に乗せてね。」
「そう言われると俺も頑張らないとな。」
「なら私はお兄さんの膝上を所望します。」
するとユウナが会話に加わって来るけどそれだと前が見えないので不可能だ。
そうなると大きめの車を買って二人が助手席に座れるようにするか・・・いや、シートベルトが無いから交通違反だ。
すると俺が悩んでいる間にも2人の会話はヒートアップし最後には俺に二択が迫られた。
「お兄ちゃんはどっちを乗せてくれるの!?」
「私ですよねお兄さん!?」
しかし、俺は考え事をしていて2人が何の話をしているのか全然聞いていなかった。
これは助手席に乗りたいのか俺の膝の上に乗りたいのかいったいどっちなんだ。
周りに視線を向けても笑ってばかりで助けてくれる様子はない。
こういう時に魔物が来れば話を逸らせるのにそれはツキミヤさんが倒し終えている。
何とも学校帰りの様に気の抜けた会話だけど、俺にとっては究極の選択と言っても良い。
妹を選ぶのか・・・それとも他の女の子を選ぶのか。
いったい何と答えれば正解なんだ!?
しかし、歩き続けたおかげで先にタイムリミットがやって来た。
「2人ともそれくらいにしなさい。」
「「は~い。」」
階段に到着した為このほのぼのムードは一旦終了となり、俺は僅かな時間を得た事で胸を撫で下ろした。
ここから出るまでに答えが出れば良いんだけどな・・・。
そしてツキミヤさんとは再び3階層で合流し2階層へ向かって進み始めた。
その途中に3階層で犠牲者になった人たちの横を通過してしていると生存者たちの声が止まり、その場で膝を付く者が続出した。
見た目が自分達と同じ状況で更に焼かれており、俺達が来なければどんな事になっていたのかを想像してしまったのだろう。
それにここは腐臭こそしないけど人の焼けた臭いが充満しているので気分を害する人が出ても仕方がないか。
しかし心と頭にしっかりとこの光景を刻みつけてもらわなければ困る。
自分達の置かれた状況を理解して今後どう振舞うことが正しいかをしっかりと考えてもらいたい。
そして何とか2階層に上がると先程よりも酷い光景が彼らを襲う。
既に耐えられる者は居なくなり周囲に胃液の臭いが充満する。
そんな中でツキミヤさんはバイクに跨ったままその光景を見詰めていた。
「俺も少し前ならあんなになってた自信があるぜ。」
「でもそれなら俺が最初に言ってた事も今なら理解できるだろ。」
俺達が出会って最初の会話で「上手く感情が働かない」と告げた。
その意味が本当の意味で理解できるようになったはずだ。
「ああ、今なら分かる。それに魔物との戦いには必要な事かもしれないな。」
「そうだな。特に今みたいな状況だと普通の精神で戦ってたら確実に負けてた。」
普通の精神の持ち主が人質を皆殺しになんてしないので昔の俺なら4階層で死んでいただろう。
でも心が壊れた今の俺達だから5階層まで進んで人々を回収できるので、これが完全に悪い事とは今の人類には断言できないだろう。
もしかするとダンジョンが全て消え去り、この世界の神が勝利すれば話も変わってくるかもしれない。
その時になれば大量殺戮者の烙印を押されるかもしれないが、今は未来の事を考えるよりも今を生き残る事を優先するべきだ。
それに世界規模で見ると明らかに劣勢な場所も存在する様なのでそちらをどうするのかが気掛かりだ。
この世界が長い年月を消費して培ってきた化学兵器が奴らには通用せず、核兵器の使用も遠くない未来に何処かの国が実行する可能性もある。
そして数時間かけてようやくダンジョンから出ると周囲は驚愕に包まれた。




