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2 神からの救済

家族を失ってしまった俺は今にも怒りでどうにかなりそうだ。

そんな俺の視界が再びぼやけて始めると僅かに残っていた冷静な思考が再び浮かび上がる字を追って行く。


『アナタの思いは分かりました。ならば世界の理を解除し、希望を取り戻す手段を与えましょう。所持している小瓶を確認してみなさい。』


俺はそう言われて急いでポケットから小瓶を取り出して睨むように見詰めた。

しかし、今の俺にはこれが何なのかを確認する方法は無い。

この世界の常識から考えれば物語のように見ただけで分かる様な力があるはずがないからだ。


「待てよ確かスキルに!!」


先程ゴブリンを倒した時にスキルを獲得できるとメッセージが届いていた。

そして取得可能なスキル欄には今の俺が最も必要とするスキルが存在したはずだ。


「確か・・・あった!もしかすると鑑定を覚えればこの小瓶の正体が分かるかもしれない!!」


俺は後先の事は一切考える事なく指を動かして鑑定の文字をクリックした。

すると文字が白く表示されれるようになったのでこれで鑑定の能力が使用可能になったはずだ。

後はどうやってスキルを使えば良いのかだが、まずは小瓶を睨みつけながら心の中で鑑定と呟いてみる。

すると視界に文字が浮かび上がりそこには驚くべき事が書かれていた。


「蘇生薬・・・。はは、マジかよ。」


そして名前の下には効果などの詳細も書かれており、急いでそちらへも視線を走らせた。

どうやらこれは下級蘇生薬といって死んだ相手が1週間以内なら生き返らせることが出来るみたいだ。

すなわち先程殺された俺の家族なら誰でも生き返らせることが出来る。

しかし、こんな怪しい薬をいきなり人間に使っても良いのだろうか?と疑問を感じる。

鑑定の結果を信じるなら大丈夫なはずだけど心配であるのには変わらない。

それに有難い事に期間は1週間もある。

これが救済だと言うならば更に魔物を殺して殺して殺しまくれば、もしかするともっと蘇生薬が手に入るかもしれない。

俺は腰に差しているナイフの感触を確かめると服を着替えて準備を始めた。


「確かここにバイクのヘルメットがあったはずだな。」


相手がどんな攻撃をしてくるかは分からない。

俺が死ねば家族が蘇生できる機会は永遠に失われるかもしれないのでなるべく万全な態勢で挑みたい。


「あった。次は鎧の代わりだな。」


フルフェイスではないけど無いものは仕方がない。

そして普段着ている服だとナイフなんて防げるはずがないのだが、鎧なんてないし鎖帷子なんかもあるはずはない。

それに今は深夜の三時半だ。

他の人には悪いけど俺が蘇生薬を手に入れる可能性を増やすために敵は独占したいので時間を掛けずに準備する必要がある。


「鎧の代わり・・・鎧の代わり・・・。」


しかし、そういった物が無いため仕方なく週刊誌の真ん中あたりのページに紐を通し、それを首から下げて体の前で固定することで胸だけでも守れる様にした。

武器は倉庫を漁っている時に木刀を見つけたのでそれを腰に差し、反対には先程ゴブリンから奪ったナイフを固定する。

そして外に出て物干し竿を手にすると片方を金槌で叩いて尖らせたのでこれを槍として使用する事にした。


どうやら今の俺は魔物を殺す事に躊躇いを感じなくなっていると予想される。

先程は夢中だったので確証はないけど今も殺す事には何も感じていない。

逆に殺す事で希望が生まれると知って早く殺しに行きたいとすら思えている。

そして準備を整えると家から飛び出して周辺を歩き魔物を探し始めた。


「居ない・・・、居ない・・・、居ない!」


しかし俺は魔物が発見できない事に焦りを感じ始めていた。

もしかすると家に来たゴブリンは1匹だけで、本当に運が無かっただけなのかもしれない。

それとも、この周辺の家は既に襲われ尽くして他に移動してしまったのだろうか。


そして歩いていると道の先で影が動くのを発見した。


「居た!」


俺は足音を殺しながら曲がり角で足を止め、そこからゆっくりと顔を出した。

すると暗い夜道に3匹のゴブリンが歩いており2匹は棒を担いで何かを運んでいる。

さらに目を凝らしてみると次第に影の正体が明らかになりそれが何なのか気付く事が出来た。


「んーんんーーー。」


そこには口を塞がれた一人の少女が手足を棒に括られ、まるで狩りで生け捕りにした獲物の様に運ばれている。

もしかすると食料か持ち帰って玩具にするつもりなのかもしれないが、ゴブリンたちは少女から漏れ出る泣き声にゲラゲラと笑い腰蓑の一部を膨らませる。

どうやらアケミが穢されなかったのは唯の偶然だったみたいだが、これは大きなチャンスかもしれない。

相手は3匹だけど2匹は少女を縛っている棒を担いですぐには動けず、家に入り込んだゴブリンと違って目立った武器は持って無さそうだ。

これは上手く不意を突けばどうにかなるかもしれないので悪いとは思うけどあの子の安全は2の次にさせてもらう。


俺は道を迂回して先回りをすると奴らが次に通るであろう交差点の影でその時を待った。


そうだ・・・もっと泣いてくれ。

そうすればゴブリンたちの笑いが激しくなってタイミングが取りやすくなる。

ゲスな考えなのは理解しているが失敗すればあの少女も助からない。

それにこんな所で死ぬ訳にはいかないのに相手の数はこちらの3倍も居るので油断できない条件ばかりだ。


そして、とうとうその時がやって来た。

先端を尖らせた物干し竿を構えると姿を現した最初のゴブリンに一気に突きを放ち、その横腹に力の限り押し込んで遠くまで押し倒す。

すると当たり所が良かったのかゴブリンの姿は消えると、そこには一つの石が残された。


「クソ、今回はドロップ無しか!」


そして支える者を失った為に少女は地面に落とされると背中を強く打ち付けて悲鳴を上げる。

しかし、そんな事に構っている余裕はなく、敵はまだ2匹も残っている

突然の事態に対応できていない様で無防備に俺を見詰めているので、この機会にもう1匹を仕留めれば有利に戦闘が運ぶ事が出来る。


俺は竿を横に振って右のゴブリンを力の限り殴りつけると、長物を使っているおかげでかなりの威力があったのか完全に体勢を崩して路上へと倒れ込む。

しかも側頭部にクリーンヒットしたおかげで脳震盪を起こしたようで立ち上がる様子はなさそうだ。

俺は物干し竿を手放すと武器を木刀に切り替え残ったもう一匹に襲い掛かった。

これではどちらが危険人物か分からないけど手を抜く余裕なんて最初からない。

俺は力の限り木刀を振り下ろすと当たった頭の形が変わりそのまま呆気なく消えていった。

そしてそこには一つの石と小瓶が残されたがここで油断する訳にはいかない。

2匹目のゴブリンは行動不能でも死んではおらず、俺は油断なく竿を手にすると離れている所から腹部へと突き刺した。


それによって最後のゴブリンも消え去ったがそこには石が1つ残されただけだ。


「そう言えば、さっきは余裕が無くてこの石は調べてなかったな。」


状況からして魔石だと思うけど確認をしてみることにした。

もしかすると俺が思っている以上に重要なアイテムかもしれないので石と小瓶を拾って鑑定を使用する。


「まずは小瓶からだな・・・。よっしゃーーー。これであと二つだ。」


小瓶は見事に蘇生薬だったのであと2つで目的は完了となる。

こんなに早く手に入るのはもしかすると今だけの救済期間かもしれないので下手をすると再び手に入れようとしてもずっと先になる可能性がある。

その期間がいつ終わるかも分からないので俺は急いで石の鑑定にも入った。


「これはやっぱり魔石か。使用用途は・・・。ん!」


俺は説明を読んでその内容に驚きの声を漏らした。

何故ならそこに書かれている事が本当なら、この魔石を使えばステータスの強化が可能とあるからだ。


俺のステータスの数値は

レベル1

力 15

防御 10

魔力 1


こんな感じになっている。

そして、先程の戦闘で剣術と槍術が有効化しているので、どうやらポイントを使わなくてもスキルを覚える事が出来たみたいだ。

俺が任意で覚える事の出来るスキルはあと1つなので今後の事を考えれば大事に選択していきたい。


俺はまず魔石をどうやって使えばステータスを強化できるのかを考えた。

時間が無いかも知れないけど俺も死ぬわけにはいかないので自身の強化は大切だ。

するとステータスの端に魔石ポイントと書かれた場所を発見できた。


「もしかして、このプレートに触れさせれば良いのか?」


物は試しと押し付けてみると魔石は跡形もなく消え去ってしまった。

しかし魔石ポイントの数値は0のままで変化はない

そして手元にある残りの3つも押し付けるとそこには2ポイントが溜まる事になった。

どうやら1つでは1ポイントに足りなかったらしく、2つで1ポイントになるようだ。

あとはこれがステータスをどの様に変化させるかだが、今は防御を上げても大した違いは無い。

必要なのは相手を上回る力だけなので防御と魔力は後で上げる事にして力へと全振りすることにした。


すると数値が変化し15から17に上がったのでどうやら1ポイントでステータスの数値を1上げる事が出来るようだ。

この調子で今後はレベルアップも体験してみたいが、魔物を殺していけばいずれ1つくらいは上がるだろう。

俺はここでの用事が終わったので次の獲物を探しに向かう事にした。


「んーーー!んんーーー!」


しかし、その場を去ろうとした俺の背中に悲鳴のような声が聞こえて来る。

そう言えば捕まってる娘が居たので仕方なく後ろを振り向くと身動きの出来ない少女に歩み寄って行った。

そこで初めてその娘が顔見知りである事に気が付くと縛られている手首へと手を伸ばした。


「まさか優奈ユウナだったのか。」

「んー。」


こいつはアケミの同級生のユウナで近所に住んでいて俺も何度か話をした事がある。

そして、この子も数少ない推薦枠に入っており、来年からはアケミと同じ高校に通う事になっている。

なのでアケミの事を考えれば助けておいても損は無いだろう。

こんな時に損得勘定で動くのもどうかと思うけど今は緊急事態で普通なら他人に構ってなんていられない程だ。

でも、アケミの友達ならと思いユウナの縄を解いて助け起こした。


「大丈夫だったか?」

「うあーーー。お、お父さん・・・と、お・お母・・・さんが・・・。」


しかしユウナが立つのに手を貸していると彼女は俺の胸に飛び込んで顔を埋めて泣き始めてしまった。

どうやら、この子の両親も既に殺されてしまったようで、その後にユウナは捕まってここまで運ばれて来たようだ。

だが彼女は泣きながら手を目元にやると視線を彷徨わせて言葉を零した。


「あ、あれ。目、目がおかしいです。」


どうやらおかしな行動をしていたのはさっき俺も見たメッセージが視界を隠してしまったからのようだ。

最初は視界ぼやけるだけなので知らなければかなりの不安を感じてしまうだろう。


「大丈夫だユウナ。落ち着いて見ていれば字が浮かび上がる。それで最後の選択をすればまた見える様になる。でも今は時間が欲しいから俺の背中に乗ってくれ。」


俺は彼女の手を取って背中に触れさせるとそのまま乗る様に促した。

それに早く次の獲物を見つけないと朝になってしまい騒ぎになるのは目に見えている。

更に最初の予定では必要な蘇生薬は4本だったが、今はユウナの分も合わせるなら6本必要になる。

少し振出しに戻った感覚だが得た物もあり、俺は歩きながらステータス上昇の恩恵を確認する。


どうやらしっかりと上昇分の仕事はしているようで、たとえ2だとしても1割以上は上昇しているので実感が持てる。

ユウナは小柄で胸以外は可愛らしい体つきなのでここから家まで送っても歩いて行けるだろう。

武器が少し邪魔だけどあの説明はすぐに終わるので俺と同じ選択をすれば不安は小さくなるはずだ。


すると説明が終わったようでユウナは不安そうに問いかけて来た。


「お兄さんはどちらにしましたか?」

「俺の所も皆が殺されてしまったんだよ。」

「そ、そんな・・・。それじゃあアケミちゃんも!」


その瞬間にユウナの体が震え肩に置かれていた手が離れると嗚咽が聞こえてくる。

仲の良かったアケミも殺されたと言っている様なものなので、この反応を見ると今は少し嬉しさすら感じる。

やはりこの反応が普通なんだろうけど俺の精神はあの時に変化してしまったようだ。

そうでなければさっきもこの子を置いて立ち去ろうとは思わなかっただろう。

もしかすると俺はもう普通の人間ではなくなっていて怪物や殺人鬼のような精神構造になっているのかもしれない。

でも、おかげで平気で奴等を殺せるし、希望も手に入れる事が出来た。


「でも、大丈夫だ。みんな生き返えらせれば良いだけだからな。」

「え?いったい何を言っているんですか?」


すると背中から驚きと不信に彩色された声が聞こえてくる。

確かに普通なら狂人の発言にしか聞こえないだろうけど俺の手には確かに蘇生薬がある。

彼女がどう判断するかは分からないが、それに関してだけは狂っていないはずだ。


「もし、この異常な状態を打開する力が欲しいならYesを選べば良い。俺からはそうとしか言いようがないしNoを選んで今後も同じチャンスが訪れるのか俺には分からない。どちらを選んでも後悔するかもしれないけど、俺は得ずに後悔するよりも得て後悔したい。」


もしかするとNoを選んでも後で選択が自由意志で選べるかもしれない。

しかし、それはあくまでも仮説であって確認した事例を俺は知らないのでチャンスは1度と覚悟して選ぶべきだ。

それにYesを選べば完全に後戻りできない事になるが、それを言う必要の無い事だと今の俺なら思える。

戦力はいくらあっても困る事はないので今はダメだとしても明日からでも・・・。


「分かりました。私はYesを選びます。」


そう言った直後にユウナの口から悲鳴が響き渡り、俺の肩には彼女の爪が食い込み背中に暖かい湿り気を感じた。

恐らく俺に起きた事と同じ現象が彼女を襲っており、激痛が全身を駆け巡っているのだろう。

それも少しすると力は緩んで静かになり、ぐったりと背中に倒れて意識を失った。

すると見た目よりも成長過多で豊満な胸が背中に押し付けられるのを感じるが、数時間前なら心臓がドキドキしていただろうに俺の心はとても静かだ。

そして彼女をしっかりとした門のある家の庭影に隠すと再び町を歩き魔物を探し始めた。


「悪いな。でも必ず蘇生薬を集めて迎えに来るから。」


そして俺は心の籠っていない詫びを告げると効率を上げるために新たなスキルを習得する事にした。

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