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19 2つ目のダンジョン ②

3階層に到着すると俺達は異変に気が付いた。

少し離れた所から黒煙が上がり、階層を薄い煙が覆ている。

ただ、天井に触れた煙は横に広がるのではなくそこで消えていっている様に見える。

もしかするとダンジョンの壁には空気を浄化する効果があるのかもしれない。


それはさて置き、俺達は煙に向かい全力で走っている。

もしかするとまだ間に合うかもしれず、最悪ベリー・ウェルダンまでなら大丈夫だ。

炭化していなければ恐らく下級蘇生薬でも何とかなる。

そして到着するとそこでは魔物たちが作業の真っ最中で磔にされている遺体の足元に薪を重ねて手に持っている松明で火をつけて回っている。

生きている人はいない様だけど、これなら間に合いそうだ。


「魔法を使える人は消化を任せる。前衛で魔物を全滅させよう。」


この階層にいるのはミドルオークのようで俺の指示で皆が動き始めた。

そして魔物たちはこちらに気付くと松明を捨ててナイフに持ち替えて襲い掛かって来る。

しかし俺達の周りには杭に固定された遺体が乱立しているので、それが上手い感じに障害物になってこちらに有利な戦場を提供してくれる。

今がまさに殺された人たちも恨みを晴らす絶好の機会だろう。

足元から昇る煙は意思がある様に魔物たちに襲い掛かり意識を逸らす役割を果たしてくれる。

俺はその隙を突いて魔物を次々に切り裂き容易く倒す事が出来た。

この程度なら彼らの助けが無くても問題はないけど、ここは祟られたくないので黙っておく。

それに生き返れば死者として祟っては出来ないだろう。


そして敵の殲滅は瞬く間に終わり、魔法使い2人と1匹のおかげで火も消し止めらた。

しかし、ここにある遺体も100はあるけど上と合わせて250~300と言ったところだろう。

だからまだ200人分は足りないので細かい捜索は自衛隊に任せるとして俺達は少し離れた所でいったん集合した。

何やら死者から見られている気がするけど気のせいだろう。


「何か気付いた事はある?」

「死体の状態が良くなっているな。もしかしたら少し前まで生きていたのかもしれない。」


確かにさっき触ってみたら焼けてない死体も暖かさが残っていた。

もしかすると次の階には生存者が居るかもしれない。


「それなら、更に前進しようか。」

「そうね。危険だけどそれしかないわね。」


別に生存者の発見が俺達の目的ではない。

それでも中途半端な状態で先に進むのは好ましいとは言えない。

出来れば誰かここに残ってくれると助かるんだけどな。

すると俺達が来た方角から声と文明を感じさせる音が聞こえて来た。


『ブオーン。ドドド・・・。』

「おーい。」


俺達がそちらを向くと自衛隊カラーのオフロードバイクに乗ったツキミヤさんがやって来た。

体には手榴弾を幾つも取り付けており背中には剣を背負っている。

どうやら目を覚ましてすぐに俺達を追って来たみたいだ。

そしてツキミヤさんは俺達の前まで来るとバイクのエンジンを切って親指を立てた。


「俺を置いてくなんて酷いじゃないか。」

「いや、アンタはまだレベル1だろ。未踏のダンジョンには危なくて連れて行けないぞ。まあ、丁度良かったけど。」


しかし、これでここの見張りを任せる人員は決まった。

それにバイクがあれば階段もすぐに見つかるだろうから俺はここまでの経緯を説明しすぐさま行動に移した。


「それじゃあ、頼んだからな。」

「任せておけ。」


そう言ってツキミヤさんはエンジンを吹かして走り去っていった。

そしてそれぞれに捜索を開始し、先程よりも早く階段の発見に成功した。

俺達は再集合するとここに残して行く事になるツキミヤさんに最後の確認を行う。


「それじゃあ、ここは任せて大丈夫だな。」

「ああ、安心して任せておけって。このバイクも完全に乗りこなせるようになったから魔物が来てもイチコロだぜ。」


ツキミヤさんは俺に軽い感じの二指の敬礼で答えるとウインク付きの笑みを浮かべた。

いったいこの爽やか刑事は何処の誰だと問いただしたくなるけど実力は確かなもので、俺達と合流する直前にミドルオークとツキミヤさんの戦闘を目撃したので心配はしていない。


彼は先程バイクを操りハリウッド映画並みのアクションシーンを披露して見せた。

敵に急速接近し前ブレーキで後ろタイヤを見事に浮かせるとそのままスピンして相手の顔面を殴打。

更にタイヤを滑らせながら高速旋回すると一気に距離を詰め、直前で足を地面に付けたと思えばバイク前輪を持ち上げて勢いを殺さず後輪で相手の首を圧し折ってしまった。

しかも、そのままだとバイクが手から離れてしまうのでシートに飛び乗るとバランスを整えて走行を継続させた。

まさに人機一体の神業だけど、少し前までの冴えない刑事は何処に行ってしまったのか。


(いや、深く考えるのはよそう。頼もしい味方が出来たと思えば良いだけだ。)


そして、俺達はツキミヤさんを残して4階層へと向かって行った。

すると階段の先から声が聞こえ始め、それは明確に助けを呼ぶ声で魔物のものとは考え難い。

俺達は進む速度を早めると出口の手前で足を止めた。

ここで慎重に動かなければ助けられる者も助けられなくなる。


俺はそっとフィールドを覗き込むと、そこには杭に縛り付けられた人たちが魔物に剣を向けられている。

そして人々はそれに恐怖し、口々に命乞いをしていた。

ただ全員が生きているのではなく既に何人かは殺されているようで順に殺されているのか、それとも見せしめかは分からない。

そして魔物は外で見たのと同様の大型のオークで身長は2メートルを超えてデップリとした腹に太く短い手足をしている。

数は50と言ったところで、その大半は俺達の居る階段に体を向いていた。

どうやら俺達を歓迎する準備をしてくれていたようでそれぞれの横には生きた人間が悲鳴を上げている。


それに先程からオークは1人の男性に剣を突きつけるだけで殺そうとはしていない。

恐怖を煽って傷を負わせても致命傷にはならない所を攻撃しているので声を出させるのが目的なんだろう。

しかし歓迎という意味では有難く受けさせてもらおう。

なにせアイツ等からは中級蘇生薬がドロップするので少しでも多く確保したい。


そして俺達は状況の確認を終えると奴らの前に姿を現した。


「ブヒョアー!」


すると俺達に気付いた1匹のオークが声をあげた。

それを聞いて男を痛め付けていたオークはこちらへと視線を移し口角を上げて笑みを作る。

そして俺達に視線を向けるとそのまま容赦なく男の心臓を貫いた。

オークはすぐに剣を抜くとその横に居る男に剣を突きつける。


「ブヒャーブヒャー!」


何を言っているのか分からないけど、止まれと言っているのかもしれない。

もしかしたらリリーなら理解できるかと思い確認を取ってみる。


「何言ってるか分かるか?」

「ク~ン?」


リリーも首を傾げているのでオークの言葉は分からないようだ。

やはり種族の壁は高く険しいようでコイツで分からないのなら俺に分かるはずもない。

そしてオークは剣を突きつけた男を刺し殺して再び声をあげる。


「ブヒャーブヒャ!」


鳴き方は似てるけど何だか先程よりも必死さが伝わってくる。

これがボディーランゲージによる効果だろうか。

そして再び一人の男性の命が儚く散って行った。


「ブヒャー!ブヒャー!」


幾ら殺しても俺達の歩みが止まらないのでオークは叫びながら地団駄を踏み始めた。

もちろん人々からは先程から助けを求める声が聞こえるけど次第に罵声へと変わり始めている。

ここにずっと捕まっていたのなら蘇生薬の事も知らないだろうし、好んで死にたい奴もいないだろう。

しかし俺達には人間やオークに関わりなく彼らの言葉は届いていない。

そして一定の距離に近づいた瞬間に俺達は一斉に動き始めた。


「GO!」


俺の掛け声で一斉に魔法が放たれオークを牽制し、その隙に前衛は間合いに捉えた敵を倒していく。

魔物たちは俺達が止まると思い込んで油断し無防備な体勢で攻撃を受けているので一撃一殺で決着がつく。

前衛だけで考えると1人10匹がノルマなのでこの間に倒せるだけ倒してしまいたい。

すると半数を超えた所で相手も立て直し始め、武器を持って反撃してくる個体が出始めた。

しかし、そう言った相手はリリーが優先的に処理しているので常にこちらが有利な流れを維持している。

そして先程から後ろで人質を取っていたオークもそれに意味が無い事に気付いてこちらへと向かって来た。

しかし、そのオークが到着した時には既に仲間は数匹となり、数秒後には他の仲間を追って消えていった。


俺達は戦闘を終えると周辺にあるドロップアイテムを回収してから捕まっている人たちの解放に移った。

もちろん人質を無視した俺達には罵詈雑言が複数の人から飛んでくる。

しかし、それを無視して俺達は元気のない人から解放し手元にある下級ポーションを渡していった。


「これを飲めば少しは元気になる。」


どんな扱いを受けていたのか多くの人には痣や刃物による創傷が目立ち、元気な者は目立った外傷が無いので運の良かった連中だろう。

それでもポーションを飲んで体の傷を癒すと立って歩けるまでには回復した。

ただしポーションでは心の傷は癒えないので小さな声でお礼を言われた程度だ。

これが心が折れていると表現すればいいのか覇気が全く感じられないので、この中には力を手に入れた人は居ないだろう。

そして喚いている者達も感情的過ぎるので同様だということが分かる。


そして次に殺されている20人程の人を解放する。

死んではいるけど体に欠けている部分はなく、死因は胸を刃物で刺された事が原因だろう。

今も乾いていない血液が服を伝って足先から地面に滴っている。

すると俺達の動きを見た数人が先程までとは違った意味合いの罵声を浴びせた。


「ウチのモンに触るんじゃねえ!」

「この人で無し共が!女房をどうするつもりだ!」


どうやら生き残りの中に死んだ者の家族が居るみたいだ。

ならばと声を出した人の許に向かうと拘束を解いて解放してやった。

すると彼らは物言わぬ躯となり果てた家族の前に駆け出して行くと怪我をするのも気にせずに大事な人たちを救い出し始めた。

ただ、硬く縛られているので中々上手く作業が進んでいないようなので足元に落ちているナイフを拾うと彼らの足元に放り投げた。


それを見て、すぐさまナイフを拾うと拘束しているロープを切り離して家族の遺体を地面に寝かせる。

そして彼らは涙を流しながら立ち上がると俺達に向かって来た。


「手前ら何考えてやがる!」


集団心理も働いているのか、この非常時に俺達へと詰め寄って来る。

俺は溜息をつくと解放中の遺体を後回しにして彼らの対応に切り替えた。


「あそこで人質を優先して俺達に死ねと言うのか?」


すると俺の言葉に全員が言葉を失い向けていた視線が一斉に逸れる。

まさか見た目が子供の俺からこんな言葉が返って来るとは思っていなかったのかもしれない。

すると今度は小声で「最近の子供は」とか「異常者が」といった言葉が漏れ聞こえてくる。


「それじゃあ作業に戻る。悪いけど死んでる奴らにこの中身を振り掛けてくれ。」


俺が先頭の男に向かってベストのポケットに入れてある幾つもの下級蘇生薬を渡す。

それを受け取った男は中を覗き込んでそれを地面に投げ捨てた。


「テメーふざけてんのか。こんな怪しいもんを家族にかけられる訳ねえだろう。」

「そうか。それは残念だな。」


俺は投げ捨てられた蘇生薬を拾うと目の前の遺体を解放し代わりに振り掛けた。

すると傷が消え去り血の気の失せた顔に赤みがさすと呼吸が再開された事が目に見えて分かる。

そして、それを見た人たちの顔が驚愕に染まると一人の男が俺の方を掴んで来た。


「な、何をしやがった!」

「知らないと思うがこれは蘇生薬だ。1週間以内に死んだのなら生き返らせることが出来る。」


すると男は俺の服を掴むと顔を近づけて至近距離から睨みつけて来た。


「それを俺達に寄こせ!」

「だから手伝ってくれと言ってるだろ。死んでる奴は生き返らせて連れて行く。脅さなくても差別しないから行動してくれ。予定ではあと100人は行方不明者が居るんだ。こうしている間にも死者が増えていくぞ。」


俺の言葉で彼らも漸く現状を思い出したのか周囲を見回しはじめた。

ここにも助けるべき人はたくさん居て、生き返らせる必要がある人も残っている。

自分達だけが助かれば良いのなら別だが、大事な人がいる前で彼らにそんな行動はとれないだろう。


「確かに、俺達がここに連れて来られた時よりも人数が少ねえ。・・・仕方ねえから手伝ってやるよ。」


そう言って俺が渡した蘇生薬を受け取ると周りに配り始め、元々リーダー気質なのか上手く指示を出して周りを動かしている。

そして俺の所に戻って来ると睨んでいるのはそのままに声を掛けて来た。


「ここは俺達がやっといてやるからお前らは先に行きやがれ。」

「分かった。それじゃあ任せたからな。」

「チッ、愛想のねえガキだぜ。階段はあっちにある。とっとと行っちまえ。」


そう言って背中を向けると彼も自分の奥さんの許へと向かって行った。

最優先で駆けだして行きたいだろうに、こうして周りを優先しているので根は良い人なのかもしれない。

それに今のような非現実の中ではさっきの行動も仕方ないことだ。

俺も家族に対してなら感情が動くので十分に理解できる。


そしてここは彼らに任せると男が示した方向へと走り出した。

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