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184 京の都

京の都に到着すると町の入り口に立って周囲を確認していた。

ただ、そこは今まで見て来た民家でも下から数えた方が早いくらいに酷い有様だ。

そして、この町では中央に行くにつれて建物が立派になり一部では確かにとても立派な物もある。

ただ、一般の人の生活はどちらかと言えば貧しさを感じさせる。


そのため歩いていると道のあちらこちらに物乞いや餓死寸前の人が座り込み、裏手には実際に死んでいる人間も発見できる。

そして少し歩くと人通りの少ない商店街のような市場があり、そこを見てその理由を知る事が出来た。


「ハル、食べ物が凄く高いわよ。他の所に比べると数倍くらいかな。」

「物価が高いんだろうな。それにかなり治安が悪そうだ。」


実は町に入ってすぐに俺達に尾行が付いている。

コイツ等はアンドウさんの仲間にしては動きが稚拙なので俺を抜いて少女2人と女性1人のこの集団に目を付けたのだろう。

ミズメは顔を隠していてもその体の線や服装から女性だとは分かるので、ハッキリ言えば今の俺からすると最優先で始末したい奴らだ。

ただ、今のところは見張りだけなので千歩譲って手を出さないでおく。


そして、しばらく進むと幾つもの焼けた寺が目についた。

敷地は荒れ果てていて火事になってから何年も経つのだろう。

人が居たり居なかったりしているけど、その多くは僧には見えないので恐らくは住み着いたゴロツキの類だろう。

そうに見えない奴等は腰に刀を差して武装しているし目付きも鋭いので道を尋ねるのに向かない相手なのは確実だ。


しかし少し進んで周囲に誰も居なくなった所で前後から30人程が駆け寄って来た。

左右は壁に囲まれているので通常なら逃げられそうにない。

俺達なら余裕だけどこの町に来てからのファーストコンタクトなので用件ぐらいは聞いてやっても良いだろう

そして俺達を囲み終わると前方に居る男の1人が前に出て来たので、どうやらコイツが話をするようだ。


「テメー等は他所者だろ。ここの通行料を払ってもらおうか!」

「通行料?この町には道の真ん中に関所があるのか?」

「へへへ。別に俺達は金でなくても良いんだけどよ。そこの後ろに居るのは女だろ。俺達に渡せば・・・。!『バキッ』」

「強く殴り過ぎたか。首が変な方向に向いてるな。」


それならついでなので少し実験をしてみようと思う。

コイツは俺の様な医学の素人から見れば確実に死んでいると言える状態だ。

しかし、心臓は動いているし脳細胞もまだ生きており、頚椎が折れて自発呼吸が止まっているだけだ。


なので俺は頭を掴んで正面を向けると回復魔法を試してみる。

すると折れた首が治り呼吸も再開されたので死とは明確な線引きがされているようだ。

この思考と魔法使用に掛けた時間は1秒以下なので、この程度ならこの世界の理としても死んでいるとは見なされないらしい。

なら死ぬまでどのくらいの時間が掛かるのか試してみるか。


「お前らがどれくらいで死ぬか試してやろう。」

「あ?な、何しやがった!?」

「次はお前か。」


俺は次のターゲットを決めると同じように殴って首を折る。

そして今度は2秒ほど経過してから魔法を使ったので周りの奴等も俺が何をしたのか見えたみたいだ。

それにコイツは首が一周回ったので良く見えただろう。


「次はお前だな。」

「ヒィー!た、助け・・・『バギ!』」

「まだ生き返るか。意外と人間も丈夫なんだな。」


そして10秒を少し過ぎた辺りまで続けるとようやく魔法が効かなくなった。

どうやら即死でも場合によっては10秒の余裕があるみたいだ。

今迄は周りに遠慮して試した事が無かったけど良いデータが取れた。

ちなみに30人の被検体は逃げられない様に手足を縛って転がしてある。

そいつ等は既に青い顔をしていてこちらに恐怖の視線を向けて来る。

しかし他人に悲しみや苦しみを平気で与えようとする奴等ならどう扱っても良いだろう。

こいつらもいつかは自分達の番が来ると覚悟は出来ていたはずだ。


「そう言えば通行料がどうとか言ってたな?」

「た、助けてくれ・・・。」


しかし何故か途中から同じ事を言い続けるだけになっているので人を襲っておきながら都合の良い奴らだ。

しかし、こういう奴らは使い道があるのでこれからは俺の為に働いてもらおうと思う。

もちろんタダで何て言わないから大丈夫だ。

俺はそんなブラックな事をするつもりはサラサラないので、やってもらうのも普通に人を集めてもらったり情報を教えてもらうくらいだ。


「それじゃあ今から聞く事に答えろ。それと死にたくなかったら今から俺の配下になれ。」


すると全員が揃って了承してくれた。

その様子にミズメは呆れた目を向け、アケとユウは楽しそうに見ている。

情操教育に悪いので2人には後でこの事はあまり良くない事だと教えておこう。

今後こう言う事は誰も見ていない所でした方が良さそうだ。


「それならこれをやるから明日にでもまたここに来い。その時に用件を伝える。来なかったら分かってるな?」

「「「「へ、へい!」」」」


意識の無い10人に関してはコイツ等が説得するだろう。

又は他の奴ら以上に働いてくれるかもしれないので俺は1人に小判を1枚ずつ握らせると解散させた。

全員が予想外の報酬に大喜びしており、これだけあればしばらくは生きて行けると叫んでいる。


「平和的に手下も出来たし天皇が住んでる宮に向かうか。」

「平和的?」

「平和的~!」

「とても平和的でした。」


自分で言っててなんだけど、やっぱりアケとユウの前ではこういう事は控えておこう。

平和の意味を勘違いしたら大変な事になりそうだ。

そして、しばらく進むと目的地へと到着し、その広さには流石に驚かされる。

そこは周囲を高い壁に囲まれまるで巨大な公園の様な面積に立派な建物が幾つも建っている。

まるで以前に見たユカリの住んでいる社みたいで、こちらの方が年代を感じさせ・・・言っては何だけどちょっとボロい。

かなり控え目には言っているんだけど金欠と言っていたのでそれが原因だろう。

そして門の前に到着すると兵士が待機しており俺達に気が付くと腰の刀に手を掛けた。


「止まれ!」

「俺達は怪しい者ではない。組織の者だがここにゲンの爺さんが居るだろ。」


確かしばらくはここに泊って生活すると言ってたから多分居るはずだ。

て言うか、俺の気配に気付いて飛んできている。

もう言葉の通り空の上から凄い勢いで。

あれは明らかに落下速度を生かした流星蹴りと言う奴だろう。


「お前ら少し離れてろ。」

「何を言っている!?」


俺の言葉で理解してくれたのかミズメたちは逃げるように離れて行った。

流石に長い旅を一緒にしていると咄嗟の時にはとても助かる。

そしてポッと出の兵士に俺の言っている意味が分かるはずもなく、爺さんとの衝突で発生した衝撃波で吹き飛ばされて行った。


「うおーーー!?」

「な、なんだーーー!?」


だから事前に言っておいたのに人の話を聞かないからだ。

最低でも対ショック体勢で地面に伏せていれば飛ばされずに済んだのに。

そう言っている俺もただ立っているだけなので人の事を言えない。

それでも俺は1ミリも動いてないので今までよりもどれだけ能力が上がったかが分かる。

ただし、あくまで実力が上がったと思える要素は無いので今回は完全にステータスによるゴリ押しでしかない。

そして爺さんも納得したように地面に着地すると大きく頷いて見せた。


「うむ。想像以上に良い旅だったみたいじゃな。」

「ちょっと最後が危なかったけどな。運良く勝つ事が出来たよ。」

「そうか。謙虚なのは良い事じゃ。これからも励むようにな。(これは本気で殴れる良い玩具じゃわい。)」

「何か言ったか?」

「いいや。さあ早く入るぞ。」


どうやら爺さんが居ればここを顔パスで入れるみたいだ。

とは言ってもここを守っていた兵士は倒れて目を回しているので止める者は誰も居ない。

まあ、こんな爺さんの居る屋敷に攻め込んで来る馬鹿は居ないだろう。


「そう言えば本部の方はどうなってたんだ?」

「それか。・・・簡単に言えば腐りきっておった。」

「まさか魔物にでもなってたのか?」

「いや、金と権力に酔いしれ体は肥え太り、もはや害悪でしかなくなっておった。なので・・・。」

「まさかやっちまったか?」

「そんな事はせんよ。お前じゃなかろうしな。」


俺は魔物以外は殆ど殺してない・・・とは言い切れないけど被害は少ないはずなんだけどな。

しかし支部長の殆どが魔物になる様な人間を選抜する奴らだ。

本部長が居るとすればそうなっていてもおかしくは無い。


「それで、どうしたんだ?」

「汚い手段で稼いだ金は全て没収しておいた。食うには困らん程度には残してやったが元々は各地の大名が魔物の討伐の為にと出した金じゃ。無駄には出来んがお前達のおかげで日ノ本の魔物は激減しておるからな。」

「そう言えば四国はどうなったんだ。途中から任せて来たけど大丈夫か?」

「魔物は修行ついでに儂とモモカで根絶やしにしておいた。人間の方はゼクウが居ればどうにかなるじゃろう。奴は人心の掌握は上手いからな。」


そして詳しく聞くと四国の支部も壊滅状態だったらしい。

あちらで聞いた時に言葉を話す魔物がかなり居たそうなのでそんな気はしていたけど状況はあまり良いとは言えない。

もしかすると魔物と戦える物が殆ど残っていないかもしれないので各地に覚醒者と熊たちを残して来たのは正解だった。


「でもこうして見ると支部はほとんど壊滅だな。」

「こうなればせっかくじゃから4つの組織を統合して新しい組織を作るかのう。」


それは薄々と俺も考えていて、もともと四神の名前を取って4つも組織があるのが間違いなんだ。

それなら人員も少なくなっている今なら無理やり1つにしてしまっても良いだろう。

どうせ文句を言いそうな奴等は魔物になって死んでいるだろうから都合も良さそうだ。


「それなら組織名を考えないといけないな。」

「それなら既に決めておる。」

「もしかして九十九とか言わないよな。そんな名前にして次は無数に分裂したらどうするんだ。」

「違うわい。それは既にモモカが店の名前にしておる。」


どうやらモモカさんはこの短期間で既に店を出しているようだ。

でもこんな所で商売が出来るのか?

まあ、それは後で聞くとして爺さんが決めた名前を聞いてみよう。


「それじゃあ何て名前にしたんだ?」

「それはもちろん四神を統合するならその長である黄龍以外に無いじゃろう。」


黄龍か。

名前の通り黄金の龍の姿で四神が東西南北を現し、その中心に居るリーダーの様な役割をしていたと思う。

確かにそれなら良い名前かもしれない。


「統合後の名前なら良いんじゃないか。」

「そうじゃろう。そして、儂らが新しく作った九十九商店をバックアップして全国に九十九の名を轟かせるのじゃ!」


そっちが本当の目的か!

まさかそんな計画があるとは流石は商売人であるモモカさんの旦那だ。

それともそこまで考えてモモカさんが先に店の名前を決めたのかもしれない。

もしそうなら本当に恐ろしいのはあの人の方なので、生きている間はあまり逆らわないようにしよう。


その後、俺は爺さんに案内されて天皇の許へと到着した。


「よく来たな。汚い所じゃが好きに使うと良い。床は抜けなかったかの?」


床が良く軋むので侵入者対策かと思ったけど違ったみたいだ。

そう言えば爺さんが微妙にふらふら歩いていたのは床の弱い所を避けていたという訳か。

それとこれからしばらくここで世話になるから土産を渡しておかないといけない。


「ありがとうございます。これはちょっとした気持ちなので食べてください。」


俺はそう言って新鮮な鮭を10匹ほど取り出して適当な入れ物に入れて渡し、必要なら後で10匹追加しておこうと思う。

ここは大所帯だし鮮度や保存を考えれば小出しにした方が良いはずだ。

ついでに小判も500枚ほど出して生活費として渡しておく。

先日のハルムネの所で大量に魔物を倒したからお金だけは大量ゲット出来ているのでこれくらいは大した量ではないけど、何故か天皇から微妙な表情を向けられてしまった。


「言っておくが今の儂らに返せるものは何もないぞ。」

「いえいえ、お金は天下の回り物ですから別に良いですよ。それよりもウチの3人と仲良くしてやってください。」


どうやら何か見返りを求められていると思われたみたいだ。

そんな物よりも天皇家には10歳くらいの子供も居たので勉強を教えてもらったり一緒に遊んだりしてもらうだけで十分だ。

その辺の事を噛み砕いて説明すると無事に納得してくれた。

一緒に居れば反対に護衛にもなるのであちらとしても助かるらしいけど、この屋敷を襲う奴なんているのだろうか?

面積だけはあるけど一目でお金が無いことが分かり、家中を見回しても換金できそうな美術品は見当たらない。

それどころか、入って捕まったら身包みを剥がされて道端に捨てられそうだ。


その後、貸してもらえた部屋に案内されると次の行動に移る事にした。


「ミズメ、アケとユウを連れて料理の準備をしてくれないか。」

「炊き出しでもするの?」

「その通りだけど鋭いな。味見と称して食べ尽くすなよ。」

「・・・分かってるわよ。」


分かってるなら良いけど最初の間が凄く心配になる。


「配るのは明日からだけどな。あんまり拘らないで昨日の鍋みたいに簡単なので良いからな。」

「分かったわ。何か魚とかある?あ、鮭は無しでね。」


美味しい物を他人に譲らないとはミズメも平常運転なので、それでこそ安心できると言うものだ。


「それなら以前に捕獲したよく分からない魚でも出すか。」

「そんな物もあったのね。我慢できるか心配になって来たわ。」

(しまった!こちらは逆効果だったか!)


さすが食のチャレンジャーミズメと言ったところか、仕方ないので方法を変えるしかなさそうだ。

何も対応しなければ魚が入っていないサッパリとした野菜スープになってしまう。


「それでは、ここにとてもとても美味しいスペアリブがあります。」

「『ジュルリ』・・・まさかそれを材料にするつもりじゃないわよね!」

「涎を垂らすな。これの肉を削いで骨だけにすれば良い出汁が取れる。それで野菜を茹でれば十分な物が出来るだろ。」

「・・・それしかなさそうね。」


なんでそんな苦渋の決断を強いられた司令官みたいな顔をしてるんだ。

お前が食い意地を出さなければもっと簡単だったんだよ。

ただし俺は空気を読める男なので否定せずに頷いておく。

しかし、これから最後に肝心な事を伝えておかないといけない。


「それと肉は後で回収するからな。」

「・・・え!?」


なんでそこで崖際に追い詰められたような顔になるんだ。

もしかして最近は甘やかし過ぎたか・・・。


「後で食わしてやるから我慢しろ!」

「・・・。」

「返事は?」

「はい。」


料理の過程でちょっと口に入れるくらいは良いだろうから、その辺はやんわりと伝えておいた。

すると、とても良い返事が返って来たので回収できる肉は少ないかもしれない。

その場合は仕方ないと諦める他にないだろう。


そして空いている時間で今後の為にもそろそろスキルを選ぶ事にした。

もちろんゴミを焼くための『攻撃魔法』は必須として今回の事で俺には初めて見るスキルが出て来た。

それは『神聖魔法』と言うものでこれがあれば浄化や強力な回復魔法が使える。

体の欠損も直せるようなので即座に取得しておいた。


それ以外にも速度を2倍にしてくれる『加速』。

後は最近は能力が上がっているので人を殺さない様に『手加減』と、能力を物に与える『付与』を選んでおく。


「こんなもので良いか。後はちょっと町に出て買い物をして来ないとダメだな。」


そして太陽もまだ高いので必要な物を手に入れる為にここから出掛ける事にした。

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