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182 北の地 ④

2人の強化によって俺の速度は熊の魔物を上回った。

そのおかげで一瞬の攻撃で手足を深く切り裂き大きなダメージを与える事に成功している。


「人間の分際で再び我に傷を付けるとは!」

「これでお終いだ!」

「舐めるなーーー!!」


首を狙って斬撃を放つと奴は更に体を縮小しながら屈むと紙一重で回避して見せる。

それにコイツの強さはここで打ち止めではなかったらしく、速度が更に増している

しかし魔物にここまで粘られたのも初めての経験で、いつもは第2形態で徹底的に攻撃して仕留めていたから第3形態を見るのは初めてになる。

ただ、コイツは体が縮むだけなので見た目的に驚く要素は何もない。

何処かのオカマ言葉を喋る宇宙人みたいに見た目が大きく変わるならツッコミの入れようもあるけど熊は熊のままだ。


しかし先程は半分ほどに小さくなって速度が大きく強化された。

今はそのさらに半分の2メートル程だけどさっきまでとは明らかに雰囲気が違う。

なんだか背中から『ゴゴゴゴゴ!』とオーラが立ち上っているようだ。


「まさか人間相手にこの最終形態を見せる事になるとはな。」

「それで打ち止めか。魔物はそうやって単純に強くなれて良いよな。」

「黙れ!この姿は我にとっては見られたくない姿なのだ!貴様らは楽に死ねると思うなよ!」


さっきからコイツが言ってる殺し方でも十分に楽ではないと思うのは俺だけではないだろう。

やっぱり魔物とは会話が成り立たないみたいなので肉体言語が一番しっくりくる。


「行くぞ!ゴアーーー!!」


すると奴は気合の咆哮を上げてこちらに飛び掛かって来る。

その早さは再び俺を上回ると巨大な砲弾のように距離を詰め、腕を振り上げ力任せな1撃を放ってきた。

それを剣で受け止めてはみたものの勢いと力は今迄で最強と言えるもので俺は後ろへと弾き飛ばされると、背後にあった木を数本薙ぎ倒してようやく止まる事が出来た。

まさか漫画みたいな事を自分がするとは思ってなかったけど、今のは腕が1撃で痺れる程に強力なものだった。

今の強化されている状態でこれなら明らかに攻撃力でも上を行かれているので、これはかなり不味い状況と言える。


「これからは貴様を明確な脅威と認定する。もはや我に先程までの油断は無いと思え!」


これでさっきの様に遊ぶ事も無くなり、ここからは小技ではなく一撃必殺の強烈な攻撃が来る。

それに俺が何発耐えられるかだな・・・。


そして奴は最初に俺と打ち合った時の様に足を踏ん張ると突撃の体勢に入る。

恐らくは次は更に強い1撃が来るだろうから、もしかすると防御しきれずに死んでしまうかもしれない。

それならと俺も覚悟を決めて防御ではなく攻撃によって次の一撃に勝負をかける事にした。

剣を上段に構えるといつでも飛び出せる体勢を作り、もしかすると防御を完全に捨てて相打ちを狙えば勝てるかもしれない。


「どうやら相打ちを狙っているようだな。しかし、全てにおいて貴様を上回っている我に勝てると思うな!」

「その為の捨て身の1撃だ。」


互いの間に緊張が走ると空気が張り詰め、それに気付いて遠くの鳥たちも逃げ出していく。

そして互いに飛び込むための何らかの変化を待っていると家の方から声が聞こえて来た。


「ハル~早く片付けて戻って来なさ~い。ご飯にするわよ~。」

「愚かな人間だ。この状況が分からぬと見え・・・る。」


その瞬間に奴の首が宙を飛んで言葉が詰まった。

そしてその背後には俺が剣を振り切った状態で膝を付き、その直後に周囲へと暴風が巻き起こる。


「馬鹿・・・な。何が・・起きたと・言うのだ・・・。」


奴はそれを最後の言葉としてドロップアイテムを残して消えて行った。

しかし俺の戦いはここで終わりではないく、奴が消えて経験値となった直後に体の奥底から何かが割れる様な音が聞こえ、それと同時に激しい痛みが全身を駆け抜ける。

それは熱く、冷たく、痛くあらゆる感覚が内側から湧き起こり、体を蹂躙して味わった事のない極限の痛みで意識が流されそうになる。

しかし、その中で俺の中で何かがゆっくりと変わっていくのが伝わってくる。

まるで決壊したダムを激しい流れの中で必死に作り変えて直しているみたいだ。

きっと覚醒した時の様に魂が作り変えられているのだろう。

しかし、あの時は何も入っていない器を粘土の様にこねて作り直す感じだった。

だが今は器には経験値という水が満たされそれが俺の変化を妨げている。

このままだとクオナが言っていた様に魂が完全に壊れて死んでしまうだろう。


『・・・おい・・・えるか?』

(なんだ?聞き覚えのある様な声が聞こえる。)

『聞こえてなくても聞いてくれ。俺が今からお前の壊れかけの魂を修復する。』

(誰だ?)

『最後の遺言だと思って聞いてくれ。お前のおかげでアケとユウは幸せな道を歩み始めた。あのままだと俺は2人を救えずに擦り切れていただろう。だからこれからも俺の代わりに2人を頼む!』


それだけ言うと声は消え俺の魂に同質な何かが触れるのを感じる。

すると互いに共鳴し合うと破損した部分へと流れ込み1つとなっていくのが分かった。

そして崩壊寸前だった魂が修復され痛みが消えていくと同時に体に新たな力が湧いてくる。

しかし、それと同時に今までは記憶として見ているだけだったこの時代の俺の記憶に変化が起きた。

それはまるで思い出と言えば良いのか、思い出せばその時の喜怒哀楽までを心が感じ取る事が出来る。

それだけでさっきの声の存在が誰だったのか確信が持てた。


「まさかこの時代の俺に助けられるとは思わなかった。でも確か魂が融合しない様に手を打っていたはずだ。それがどうして唯の人間であるアイツにこんあ事が出来たんだ?そう思わないかクオナさん。」

『さあ、何の事ですか?ピピピッ!メモリーエラー。一部記憶が消失しています。』

「何を自分で言って誤魔化してるんだ。まあ今回も色々と助かったよ。」


ただし、これで元の時代にはすんなりと帰れなくなった。

どうやらアズサたちに会うのはずっとずっと先の事になりそうだ。

でも、ここにはアズサの前世であるミズメも居るしアケとユウも居る。

このまま帰っても心配だったので覚悟も決まって丁度良かったのかもしれない。


そして俺はもう一つの疑問を解消するためにステータスを開いた。

ある程度は予想はしていたけどやはり勇者の称号が有効になっている。

どうやら、あの瞬間に数倍の力が発揮できたのはコイツのおかげみたいだ。

しかし、前回と同様に戦いが終わると力が抜け始め再び文字がグレーに変わったので、この様子だとまた使えなくなったと言う事だろう。


それにしても条件は何だろうかと疑問に感じるけど、まさかミズメの「ご飯ですよ」の声に反応したのだろうか?

そうなるとあの魔物も少し可哀相に思えて来る。


そして他にも『壁を越えし者』という称号が増えている。

それ以外の変化としてはレベルが105まで上昇している事だろうか。

やっぱり俺が勝っても負けても死ぬように細工がしてあったみたいだ。

流石に手強い相手ではあったけど5人で経験値を分けてこれはおかし過ぎるので、いつもながら陰険な事が好きな野郎だ。

後はステータスの殆どが倍以上に上昇し、称号に傲慢が追加されている。


傲慢は放置するとしてステータスの上昇は壁を越えた事とレベルアップに関係ありそうだ。


レベル90→100

力 440→480

防御 415→455 

魔力 115→125


恐らくはレベルが100に達した時がこれくらいのステータスだろう。

それが壁を越えた事で


レベル100→105

力 480→1010

防御 455→990 

魔力 125→1005


まで上昇している。

微妙にそれぞれで上昇にバラツキがあるので後でレベルが上がった時に検証してみないといけない。

それが何時になるかは分からないけど邪神との戦闘を生き残る事が出来れば確認できるだろう。


それにしても魔力の上昇が馬鹿げてるので、きっとこれは弁財天のおかげだろう。

およそ9倍も一気に上昇しているのでアイツがどれだけ俺に力を注いだのかが分かる。

次に会う機会があれば感謝の気持ちをしっかりと形にしておこう。

これで俺も魔法を使っても十分な効果が得られる。

それに取得できるスキルも増えているので必要な物を後で選んで幾つか取っておく必要がある。

今のところは取得可能な個数は9つあるので何か有用なスキルがあれば5つは取っておこうと思う。


すると再び家の方からミズメの声が聞こえて来た。


「ハル~みんなも待ってるわよ~!」

「すぐに行くよ。」


俺は返事を返すとステータスを閉じ、珍しく待っていると言っているミズメの許へと向かって行った。

アイツ等にもこれからの事を色々と話しておかないといけない。


そして家に入ると何故か山と積んであった鮭の切り身が半分ほどに減っていた。

その代わりにミズメの口の周りには光る何かが付着している。


(おかしいな。待ってるって言ってた気がするんだけど?)

「俺の聞き間違いか?」

「・・・味見よ。」


するとミズメは視線を逸らして食べた事を自白し、その量はおそらく鮭2匹分と言ったところだ。

味見でそこまで食べるのは鮫かシャチくらいじゃないだろうか。

ただ、あまり待たせていると再びミズメのお腹が唸りを上げそうなので食事を始める事にした。


「その辺の話は抜きにして食べようか。動いたからお腹が空いてるんだ。」

「そ、そうよね。細かい事を気にしちゃダメよ。はい、良い所をあげるからしっかり食べてね。」


ミズメにとって鮭の2匹分が自分の腹に消えた事は細かい事のようだ。

しかも良い所と言って腹身をくれるのかと思っていると渡されたのは尻尾の先の方だ。

形が三角なので絶対に間違えないはずだけど、それは意識の違いなのだろうか?

確かにサワラは尻尾が美味しいと言うけど今の俺の気分は油滴る腹身なんだけど。


「ミズメさんや。俺にも腹身をくれんかね?」


すると何故かミズメは自分が食べている腹身へと視線を落とした。

なんだか次の行動が思い浮かぶのは俺だけだろうか・・・。


「し、仕方ないわね・・・!」


どうしてそんな苦渋の決断をしている様な表情を浮かべるのだろうか。

この鮭は俺が取って来てミズメが捌いたのである意味では権利の半分は俺にあるはずなんだけど。

そしてミズメは食べている最中の鮭を予想通りこちらに差し出して来た。

なんだか、以前に九州に居た時にも同じ事があった気がするけど、コイツはよっぽど自分の食いくさしを俺に食べさせたいらしい。


(まあ、別に文句は無いんだけどね。)

「それじゃあ頂きます。」


そう言って俺はミズメの差し出した切り身に嚙り付いて口で受け取った。

するとミズメの顔が赤くなり、慌てた声が返って来る。


「ちょっと、冗談で言ったのに何で食べちゃうのよ!」

「いや、お前の目は絶対にマジだったからな。」

「マジだったね。」

「マジでした。」

「俺も否定はしない。」

「皆さん仲が良いですね。」

「うぅ・・・関節・・。」


声が掠れて聞き取り難かったけど、どうやら俺が食べた後になって間接キスだと気付いたみたいだ。

そんな事を気にしていたら鍋なんて一緒に食えないけど、ミズメの声はアケとユウにもしっかりと聞こえていたようだ。

2人は目の色を変えると俺に食べかけの鮭を突き出して来る。


「お兄ちゃん、私が食べさせてあげる~。」

「私の分もど~ぞ。」


なんだか目が怖いのは気のせいだと思うけど、ここで食べなけれ後になって良くないシコリを残すかもしれない。

これからこの時代で死ぬまで生きて行く身としてはこれは仕方ない事だ。

そう仕方ない事なのだ。(大事だから2回言っておく。)


そう言えばこうやってのんびりと自由に食事をするのも久しぶりな気がする。

料理屋や宿だとこうやって食べられないのでこういう雰囲気も良いかもしれない。

邪神関係が片付いてユカリを発見する事が出来たら何処かで家を手に入れて一緒に住む事も検討してみよう。


そして俺は現代であったように口に詰め込まれて窒息して死んだような醜態を晒す事無く食事を完遂した。

実は口よりも胃が破裂するかと思ったのは俺だけの秘密だ。


そして最後は締めとして鮭茶漬けにワサビを入れた物を準備する。


「ミズメ、このワサビを入れ過ぎるな・・・。」

「え?」


するとチャレンジャーなミズメは容赦なくゴッポリとワサビを入れてしまった。

いつもながらに新しい食材でも躊躇しない奴だ。


「いや、何でもない。鼻に気を付けてな。」

「花?今の時期には殆ど咲いてないわよ。」


これは食べるまで分からないから身をもって体験してもらおう。

今は鼻に仄かな刺激しか来ないだろうけど食べれば分かるはずなので、コイツのこういう所は諦めた方が良いのかもしれない。

そして俺は茶漬けを口に運びながらそっとミズメを観察する。

口に米を入れていると吹きそうなので控え目にしてなるべく食べない様にしつつ様子を窺ってみる。


「・・・キュ~!は、鼻が!匂いが鼻に刺さったんだけど!」

「ははははは!予想通りのリアクションだな。」

「もうーーーハル!今回も計ったわね~!」


計るも何もいつも言っているのに聞かないミズメが悪い。

さっきくれた鮭の尻尾のお返しに存分に笑っておこう。


「コイツ等は本当に仲良しだな。」

「そうですね。私達もいつかあの様に成りたいものです。」

「俺はもう少し穏やかな方が・・・。」

「フフフ、そうですか?」


そして、その陰でシアヌとウシュラも笑みを浮かべ、互いに手を握り合っている。

その後、楽しく明るい夕食は終わりを告げ、囲炉裏を囲んで眠りについた。


しかし俺はその夜に3人へとそっと声を掛ける。


「実は皆に話があるんだ。」

「どうしたの?」

「俺はこの騒動が終わったら遠くに行かないといけない。」


すると左右から俺の腕を掴んでいるアケとユウの手に力が籠る。


「お兄ちゃん何処か言っちゃうの!?」

「もっと良い子になるから何処にも行かないでください。」


そして2人の目には涙が浮かび、小さな声で懇願してくる。

俺は掴まれている手を優しく解くと頭の下に手を入れてそっと抱き締めてやる。


「でも、もう行かなくても良くなったんだ。だからこれからは一緒に居られるぞ。それにお前達がこれ以上良い子になったら他の子供がみんな悪い子になっちゃうだろ。」


すると2人は嬉しそうに笑うと顔を擦り付けてきた。

まあ、ハンカチは持ってるけどもう手遅れだからこれで良いだろう。

しかし、ここで問題があるとすればミズメの方でコイツの反応は喜びや悲しみではなく驚愕だ。

それなりに仲良くなっている自覚はあるのでこの反応は明らかにおかしい。


「その顔だとミズメは知ってたんだな。誰から聞いたんだ?」

「・・・。」


ただ本人が何も言わなくてもある程度は分かっており、この事を知っているのはクオナを除けば神たちだけだ。

その誰かがミズメに何かを吹き込んでいるのは間違いない。

それに以前から時々様子がおかしいとは思っていたのだけど、遠くない内にこの時代を去るだろうからと見過ごしていた。

しかし、この時代に残る事が確定した今となっては見過ごす事も放置する事も出来ない。

今の俺にとってミズメも大切な存在となっており、悲しい思いはさせたくないと思えるようになっている。

するとミズメは観念したのかその時の話を聞かせてくれた。


「夢で神様に会ったの。その人がアナタはもうじきここから居なくなるって言ってた。それで私はある事を約束する代わりに来世でハルと・・・その時代だとハルヤともう一度やり直させてくれるって約束したの。」

「何を約束したんだ?」

「言えないの。・・・ごめんなさい。それだけはその時になるまで言えないの!」


そう言ってミズメは泣き出してしまったけど、コイツは俺から見ても強い心の持ち主だ。

それが泣くという事は死ぬほどの苦しみか死が代償の可能性が高い。

俺はミズメの頭に手を伸ばすと泣き止むまで優しく撫でてやった。


(こちら側の神もあまり信用できそうにないな。出来ればツクヨミとスサノオがこれに加担してなければ良いけど。)


でも、俺は既にこの事に関しても予想が着いており、こんな事を企てて実行できる奴は1人しか居ない。

どうやら弁財天は俺の中にある2つの魂に対して均等に加護を与えてしまっていた様で、今ではそれが一つとなって強い加護が発揮されて頭が冴えている。

それでも逆転の手段は一つしか思い付けない。

その為には力を揃えてミズメには囮の餌として完成してもらう必要が有る。

どうやら1つの坂を登り切っても、まだまだ厳しい上り坂は続いているみたいだ。


俺は心で刃を研ぎ澄ませながら明日に備えて眠りへと落ちて行った。




その頃、クオナはと言うと・・・。


これでこの子も大丈夫でしょう。

それに気付いてないみたいですがこの子の精神力が桁違いに強化されています。

もしかすると邪神との決戦までに私の準備も整うかもしれませんね。

そうなれば少しは有利な状況を作り出せるかもしれないので、こちらも準備を急がなければ・・・。

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