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174 次の目的地へ ②

「今の俺のレベルはっと・・・ゲ!」


俺は最初にレベルの所を見て思わず変な声が洩れてしまった。

そこには予想を大きく上回る90という途轍もない数字が書いてあるからだ。

ここに来る前が60だったので奴からレベル30もの力を吸い取った事になる。

それに伴ってステータスもかなり成長している。


レベル60→90

力 320→440

防御 295→415

魔力 85→115


それだけじゃなく思っていた通り称号に変な物が増えている。

しかも一つだけではなく複数だ。

ただ、それを見る前に一つ気になる事がある。

それはステータスの右下に点滅しているマークがあるからだ。

それは簡単に言えばスマホなどでよくあるメールを示す表示だ。

俺はそれをタップして中身を確認してみる。


『恵比寿より

今回の話を聞き君のステータスに付いているリミットを一部解除した。

但しそれには大きな代償が伴う事になる。

使わない事を切に願う。』


どうやら恵比寿がまた何かをやらかしたようだ。

これを読んだ後だとさっきの称号を見るのが不安になってくる。

俺は嫌な予感を胸にその称号をタップして内容を確認してみる。


怠惰・・・この怠け者が!

憤怒・・・心が浅いわ!

色欲・・・エロ~い!

暴食・・・食い過ぎだ!

嫉妬・・・ハーレムなど許さん!


「・・・・・・。」


なんじゃこりゃーーー!

一応最後に7つの大罪シリーズと書いてあって全て揃えると新たな次元の力が手に入ると書いてある。

しかも、知らない間に5つも揃ってるし。

でも最後のはどう見ても俺じゃなくてお前の感情だろうが!

ハッキリ言って今からでも殴りに行きたいけどこの時代の恵比寿には関係のない案件だ。

この怒りは未来に帰るまで大事に取っておこう。


ただ、力が手に入るとは書いてあるけど恵比寿はこれを使わない方が良いとメールで書いていた。

あの恵比寿が言うくらいだから俺もなるべくそんなピンチにならない様にしておこう。

もしかすると何処かのヒーローみたいに巨大化するかもしれないからな。

そうなれば敵とマッパで戦う事になってしまう。

武器だって今の装備なら明らかに戦力ダウンだろう。


そして、ここに来てもう一つの問題が発生した。

俺はフルメルト王国から今に至るまでスキルを取得していない。

なのに今回のレベルアップで合計で8個もスキルが選べるようになっている。

しかし、俺の持つ取得可能スキル欄には有用な物は一つもない。

あるのは計算とか料理とかあれば便利だけど無くても困らない物ばかりだ。

一応はそれなりに魔力が高くなっているので魔法と言う手もあるけど今のところはアケとユウが居るので保留にしたい。

まあ、もしもの時を考えて回復魔法と延焼短縮だけは取っておこう。


後の6つは今のところ保留で良いだろう。

今は急いで取る必要の無い物ばかりだからな。


「さて、そろそろ寝るか。明日も朝から早いからな。」


そして、俺はアケとユウの眠る布団に挟まれて眠りについた。




朝になり目が覚めると俺の布団の中にアケとユウが潜り込み、左右からしがみ付いていた。

そう言えば最近はあまりのんびりと寝る事が無かったのでこうして3人で寝るのも久しぶりな気がする。

やっぱり今の俺にはこれがベストポジションと言っても良いだろう。

そして、横を見るとそこにはミズメの姿が無くなっていた。

俺は今の状態で一人で出歩いてるのかと焦りを感じて体を起こした。

しかし、それは俺の早とちりだったようだ。

何か下半身に違和感を感じそちらに視線を向けると足元の布団から白い足が飛び出している。

俺の足はあそこまで長くないし白くはないのでどうやら問題の人物は布団の中に潜んでいるらしい。

そして布団を捲るとそこには予想通り、ミズメが下半身をガッチリとホールドしていた。

どうやって潜り込んだのか気になったけど俺も目を覚まさないとは意外だ。

よっぽど昨日の来客に精神が疲れていたんだろう。


それにしても皆の寝顔はとても穏やかそうだ。

なので仕方なく皆が起きるまではもう少し横になる事にした。

神が社で待っているだろうけど少しくらい待たせれば良いだろう。

俺もたまには朝をのんびりと過ごしたい気分だ。


するとしばらくしてアケとユウが目を覚ましてゆっくりと瞼を開けて。


「おはようお兄ちゃん。」

「おはようございます兄さん。」


そして、寝惚けた顔を寄せてくると頬にキスをしてくれる。

これはもしかして昨日のお返しかなと思っていると下半身の方にも動きがあった。


「ん~・・・。おはようハル。」

「おはよう。それよりもそろそろ離れてくれないか。身動きが取れないんだ。」

「え・・・!ひゃうあ!」


どうやらこの体勢はミズメにとっても事故の様な物だったみたいだ。

きっと寝相が悪いので布団を跳ね除け、俺の布団にでも潜り込んだのだろう。

俺は寒さを感じないけど周りの風景から夜は冷えて来てるみたいだからな。


「風邪をひくなよ。」

「う、うん。・・・ありがとう。」


俺はミズメの頭を軽く撫でて立ち上がると出かける準備を始めた。

そして、準備を終えると3人へと一声掛けて出口へと向かう。


「白虎の支部に言って来るよ。もし準備がすぐに終わるならそっちに来てくれ。」

「分かったわ。」

「「は~い。」」


ここから支部は目と鼻の先なので大丈夫だろう。

俺は道を歩きながら周囲に魔物が居ないかを探り白い虎が描かれた暖簾を潜った。


「よう爺さん。ここでも換金はしてもらえるのか?」

「そうじゃな、昨日の内に他の支部のは全て回収しておいたから大丈夫じゃ。それで払ってやろう。」

「それならこれで頼む。」


俺は先日から集めていた魔石の一部を老人に見せて換金を行った。

かなりの数があったのだけど他のは既に魔石ポイントに変換して手元に無いからな。

雑魚ばかりだけど数があるので当面の資金にはなった。

まあ、俺のアイテムボックスには大金が入っているのでこれ位は端金にしかならないけどな。

そして、ついでに以前のゲン爺さんにも行ったように魔石の件を話してみる。


「それなら構わんよ。最近は海が荒れていて運べずじまいじゃったからな。かなり大量が蔵に入れておる。」


俺はそう言われて案内されて蔵へと向かって行った。

するとそこにはかなり大きな蔵があり錠前を外して中に入ると山の様に魔石が積んである。

どうやら、この辺は魔物がかなり多いようだ。

しかし、覚醒した爺さんには丁度良いだろう。


「爺さんはステータスを手に入れたんじゃないのか?」

「うむ、儂もよく分からんが昨夜に神の使いが来て色々と言って行ったのう。ようわからん事も多かったが。」

「それならステータスを使えばこの魔石を処分できる。まずはそれを出して魔石を当ててみると良い。」


そして、魔石についての説明を行い、ここに在る魔石の半分を処分する事が出来た。

魔石ポイントも大量に得られたので爺さんを更に強化してくれるだろう。


「残りは小早川水軍のコバヤカワと、村上水軍のタケヨシに渡してくれ。そっちにも魔石が必要だ。」

「ああ、そうしておくぞ。それとお前はこれからどうするのだ?」

「俺は今から厳島の神社に呼ばれているんだ。」

「そうか、それならこの手紙を持ってあの嬢ちゃんを送って行ってくれないか。あそこで巫女をしたいそうじゃ。」

「ああ、それくらいなら良いぞ。」


俺は出された手紙を受け取って老人と一緒に支部の玄関へと戻って行った。

するとそこでは既にミズメたちが来ており、その横にはクレハも一緒に居る。

どうやら、全員が旅支度を終えているようだ。


「それなら今から神社に向かうからな。それでクレハは・・。」


俺がクレハをどうするかと考えているとミズメから声が掛った。


「クレハはハルが運んであげて。」


その言葉と同時に珍しくアケとユウも頷いて答える。

いつもは怒るのに珍しいので俺が来るまでに話が着いていたという事か。


「皆が良いなら俺も構わないぞ。」

「ありがとうございます。一生の思い出にしますね。」


そう言ってクレハは深く頭を下げてくるけど、運ぶくらいで大げさだな。

これからは自由になんでも出来るだろうに。

そして、俺達は外に出ると熊たちと合流して島へと渡って行った。

今は穏やかで季節も良いからか島の輪郭もハッキリしていて木々も色付いて紅葉している。

それに俺の抱えているクレハも少し寒いのか俺の首に回している手に力が籠っているようだ。

毛布にでも包んでやった方が良かったかもしれない。


「寒くないか?」

「大丈夫です。この方がアナタをしっかりと感じられるから。」

「もう少しだから我慢しろよ。」

「はい。」


そして、島に到着して社に向かうとそこでは巫女たちが入り口で待ち構えていた。

昨日に比べると顔色も良くて声にも元気がある。

この様子だと渡した食材をちゃんと食べたみたいだな。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。それと履物はそのままで構いません。」


俺は言われたままに土足で上がるとそのまま奥へと進んで行く。

そして、部屋に入って襖が閉まると目の前に昨夜見た3人の女神が姿を現した


「それで、お前らが俺を送ってくれるって話だな。」

「その通りです。昨日はそのつもりで行ったのですが痴態を見せてしまいましたね。」

「それにしても一人普通の者が混ざっているがそいつも同行者か?」

「あ、でもこの子はここに居たあの子だよ。自由になったのに戻って来たの?」


そう言えばあのままここに来たから手紙も渡せてないな。

ちゃんと言っておかないと一緒に連れて行く所だった。


「コイツはここに用があるみたいなんだ。一応は手紙を預かってるから後で誰かに渡してくれないか。」

「分かりました預かっておきましょう。」

「何が書いてあるの?」

「ちょっと見せて~。」


そう言って勝手に手紙を開けると読み始めてしまった。

まあ、誰に渡せば良いのかも知らないので中身を確かめないといけないのは確かだけどな。

そして、読み終わったのか3人は互いに頷くとその手紙を懐へとしまった。


「・・・そうですね。それならこちらお預かりしましょう。」

「覚悟は出来てるみたいだしね。」

「あの子はしばらく療養させないといけないから丁度良いよ。」

「何を話してるんだ?」

「「「乙女の秘密よ。」」」


なんだか息ピッタリだな。

でも神が保証してくれるなら任せても大丈夫だろう。

同じ甘党な者同士なので悪い奴等ではないはずだ。


「それなら任せたからな。あ、これ賄賂・・じゃなく御布施な。」


俺はさっきの支部で換金した小判200枚ほどを渡しておく。

これだけあればクレハがここでしばらく生活する資金くらいにはなるだろう。


「何やら変な言葉が聞こえましたが神は細かな事は気にしません。」

「これで家も直せるわね。」

「みんなお腹もいっぱいになるね~。」


きっと神は神で色々と事情があるんだろうな。

少し気にはなるけど後はアイツ等に任せておくしかないだろう。


「ゴホン、それでは次の目的地へとあなた達を送ります。」

「あと2つだからしっかり頑張るのよ。」

「アナタ達の道が平坦なものでありますように。」


そして、3人が同時に手を叩くと俺達の前に丸い渦が生まれた。

どうやらこれが次の場所へと続く道のようだ。


「さあ飛び込みなさい。」

「ああ、それじゃあなクレハ。元気でな。」

「ハルも気を付けてください。」


そして、短い別れの挨拶を終えると俺達は渦へと飛び込んだ。

母熊の体が閊えるかと思ったけどサイズに合わせて広がったので問題なく入って来れた。

そして、中に入るとそこには光の道があり、俺達はそれに沿って進んで行く。

すると数分もすると出口に辿り着き外に出ると見た事のない景色が広がっていた。




その頃のクレハは3人の女神の前に正座で座り、額を床に着くほどに下げていた。


「覚悟は出来てますね。」

「はい。ここで巫女をする覚悟は既に。」

「何か勘違いしてるわね。今聞いているのはアンタが人を止める覚悟があるかって事だよ。」

「ちょっと私達もここを任せていた神使の子が使えなくなって困ってたんだ。だからあなたにここを任せたいの。」


その言葉にクレハは僅かに悩んだがすぐにその顔を上げた。


「そうすればいつかハルと再び会えますか?」

「知っているのですね。彼がこの時代の人間ではない事を。」

「はい。それにミズメ自身の事も彼女から聞きました。」


「・・・残念だけどその保証は神である私達にもできないわね。ただし、人の魂は転生を繰り返す。アンタはそれから外れるけどいつかは会えるかもしれないわ。」

「分かりました。その言葉を信じて私は神使となります。」


「やったね。ならこれからよろしくね。」

「よろしくお願いします。」


そう言った瞬間に彼女は3人の女神から力を分け与えられ姿を変える。

髪は白くなり黒かった瞳が金色にかある。

服装も赤い袴に白服へと変わり、神の眷族となった彼女は神に解放されるその時まで永遠に輪廻の輪からも外された。


「それでは、これからはここをアナタに任せますよ。」

「空も飛べるのでこの周辺なら移動できますよ。」

「今はここに縛られてるから遠くへは行けないけど長く生きれば何処にでも行ける様になるからね~。」


そして、クレハの最初の仕事はここに住む巫女たちの食料調達と連絡等のやり取り。

それと海に住む魔物の討伐となり、周囲の助けを借りながら無事に成功する事になる。

しかし、それが歴史に残る事は無く、数十年後に表向きは寿命で死亡した扱いとなって表舞台から去っていった。

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