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171 2人目の贄 ②

俺達は船に乗って漁村に到着するのに1時間と掛からなかった。

敵の拠点を潰した効果があるのか魔物の気配が殆ど無かったからだ。

もしかすると奴らのボスが海の生物を使って魔物を生み出していたのかもしれない。

そうだったのならこの辺もしばらくは平和になるかもしれない。


四国がまだ心配の種ではあるけどあのゼクウ和尚なら大丈夫だろう。

爺さんとも知り合いなので何かあれば報告をするはずだ。


しかし安全な航海の後には問題も待ち受けていた。

到着してすぐに俺達はそこに居る兵士たちに船を包囲されたからだ。

そう言えば説明もそこそこだったので混乱させたままここから出航したのだった。

あの時はコバヤカワも放心状態だったので説明が出来なかったが、他の武将も何人か話を聞いていたのに説明責任を放棄するとは困ったものだ。

なので今となっては子熊たちと仲良くなっている本人に登場してもらうことにした。


「ここは任せたぞ。」

「もちろんです。」


そしてコバヤカワは2頭の二足歩行熊に抱えられた状態で堂々と甲板に姿を現した。

それはまさに派手な御輿に乗って登場する程のインパクトあり、集まっている兵士たちの視線を釘付けにしている。


「「「うおーーー!」」」

「あれを見ろ!コバヤカワ様が熊を従えているぞ!」

「しかも以前よりもお顔が凛々しくなられたよう!」


少し過剰な演出と思っていたけど意外と丁度良かったらしく、兵士たちの反応も上々と言ったところで警戒が消えて驚きの声が上がっている。

そんな彼らにコバヤカワは腰に差している刀を抜いて空に掲げながら声を張り上げた。


「皆の者!私は帰って来た!」


俺はその言葉を聞いて現代のアニメネタかと思ったけど、そんな物をアイツが知るはずはない。

きっと偶然の一致だろうと流してツッコミは控えることにした。

その後も演説は続き、俺達の事も理解されて無事に上陸に成功し怪我人の許へと向かっている。


「アケとユウはカナエに付いて行ってくれ。」

「任せて!」

「頑張ります。」


あの2人なら部位欠損は無理でも普通の傷なら治す事が出来る。

人数的に見てもかなり居るので魔法の良い練習になるだろう。

そして俺とミズメはコバヤカワと一緒に少し行った所にある陣幕へと入って行った。


「それで、あれから組織との連絡は取れましたか?」

「魔物が居なくなった為に馬は走らせていませんが未だに連絡がございません。」


そう言えばここを出る前に組織との連絡が取れなくなっていると話していたので、これは早めに確認へ向かうべきだろう。

まさか、壊滅しているとは思いたくないけど、何かが起こっているのは間違いない。


「それなら俺達がついでに確認してくる。もしもの時はこの一帯は任せたからな。」

「大丈夫です。その場合はさっき話したように私の方で纏め役を代行しておきましょう。」

「そうしてくれ。それと周辺の国は敵ではなく見方と思って行動してくれよ。以前とはもう違うからな。」

「そうですね。これからは争いの無い時代を期待していますよ。」


とは言っても西日本は落ち着いてきたけど東側がまだまだ落ち着いていない。

これはアンドウさんに期待するしかないけど、あの人でも苦労しそうなので国境付近だと小競り合いくらいは起きるだろう。


そして確認を終えたので俺達は先程の漁村へと戻って行った。

熊たちは村の外に待機させているので後で合流するとして、アケとユウを迎えに行かないといけない。

2人と別れて1時間ほど経過しているので順調に進んでいればそろそろ終わる頃だろう。


そして村を歩いていて気付いたけど周りの視線がこちらに集まっている。

最初はコバヤカワとの事で見られているのかと思っていたけどその視線の殆どがミズメへと向かっているようだ。

その殆どが男で女性の方は殆ど気にしていないようなので、これは力が強まった影響だろう。

これからミズメを町中で歩かせる時には顔を隠して警戒もする必要がありそうだ。


「ミズメ、俺から離れるなよ。」

「うん。」


どうやらミズメもこの視線には気付いているようだ。

あからさまな物が多いので当然だろうけど、ここは昨日までは魔物との最前線の一つだった。

危機感がある状態でこれなら今後は必ず誰かを護衛に付けておかなければ人攫いに遭いそうだ。

それにしても今までにこんな目を向けられていなかったのでこの時点で知れたのは幸運だった。


そしてアケとユウが治療を行っている場所に到着するとそこでは喜びの声が溢れ返っていた。

その中心では人々が集まり、その中心で2人が感謝の言葉を贈られている。

どうやら治療した方法は超常の力でも、彼らにとって怪我が治ればどうでも良いみたいだ。

それにカナエも傍に居るので上手く説明もしてくれたのだろう。

俺が傍に行くとアケとユウもこちらの気配に気付いて人を掻き分けて向かって来る。


「お兄ちゃん終わったよ。」

「みんな元気になりました。」


そう言って笑顔で頭を突き出して期待の籠った視線を向けて来る。

それに応えて頭を優しく撫でてやると2人は嬉しそうに受け入れて更に笑顔の輝きを増加させた。

そして少し遅れてカナエも来たので視線をそちらへと向ける。


「カナエもご苦労さん。終わったなら俺達はそろそろ行くよ。」

「え!もう行っちゃうの!?」

「ここから近い組織の支部で何かあったかもしれないんだ。その調査と元々の目的を果たさないといけないからここに長居は出来ないんだよ。」

「そうなのね。・・・それなら気を付けてね。」

「ああ、色々と助かったよ。」


そして俺達は背中を向けると熊たちの待つ場所へと向かって行った。

しかし合流するとそこには母熊と子熊が1匹だけしか居ない。

もう1匹はどうしたのかと思えばかなり離れた所に気配があるので1匹はコバヤカワの所へ行ったようだ。


「良いのか?」

「ゴッフ『コクリ』。」


どうやら親離れの時期でもあるようでようやく一人前の熊になったと認められたという事だろう。

あれだけコバヤカワに懐いていたので仲良くやっていけそうだ


「もう1匹は大丈夫なのか。そっちもかなり懐いていただろう。」

「それなら大丈夫だよ。あっちは雌でこっちは雄だから。」

「そうなのか。まあ、アケが言うなら良いんだろうな。」

『『コク。』』


雌と雄でどう違うのかは知らないけど熊たちも納得してるなら良いだろう。

そういう訳でこれからの移動は母熊がメインとなりなるので頑張ってもらわないといけない。

あちらなら3人同時に乗れるからアケとユウがミズメを前後から支えれば落ちないはずだ。

それに空歩で進めば殆ど揺れないだろうから熊酔いの心配もないだろう。

そして俺達は準備を整えると厳島に向かい走り出した。

ただ、陸に沿って進むと40キロ近く距離があるけど海の上を走ればその半分程度に短縮できる。

熊たちが空歩を覚えていてくれて本当に良かった。


そして島の前に到着するとそこには意外な光景が広がっているのが視界に飛び込んでくる。


「まさかこんな状況になってるとはな。」

「グルグルだね~。」

「目が回りそうです。」


俺の知っている厳島の周辺は台風で被害が出る事はあっても今日の様に風のない日はとても穏やかな海だったはずだ。

それなのに今は周囲の海に幾つもの渦潮が出来ており海路を完全に閉ざしている。

しかもそれだけではなく、空には薄く雲が有るだけなのに稲光が走っていおり不思議な光景が広がっていた。

そして鳥は素通りしているけど魔物と思われる影が近づくと容赦なく黒焦げにして海へと叩き落している。

これは明らかに異常な状況でこれ以上近付けば俺達でもどうなるか分からない。

そのため島を迂回すると一番近い陸地に進路を変更し、そこにある町へと向かって行った。

するとその周囲には多くの人が集まり海岸は船で埋め尽くされている。


そして、その中の幾人かが抜身の刀や槍を構えて俺達を包囲してきた。

どうやら熊に乗って現れた俺達を警戒しているようだ。


「皆は少し下がっていてくれ。ここは俺が始末する。」

「お前らは何者だ!」


俺は既にゴーグルを下ろして魂の確認を終了している。

それにより人間の中に魔物が混ざり込んでいるのは分かっている。

俺は刀を抜くと俺達を警戒する奴らに無造作に近づいて行った。


「止まれ!命令に従わなければ攻撃するぞ!」

「いいからやっちまや良いんだよ!」


すると先程から警告のみに留めていた男の横から槍が突き出された。

それは殺意を持って的確に心臓へと向けられており、周りは突然の事に声すら出せないでいる。

俺はその槍を素手で払い除けると片手で刀を上段に構え容赦なく振り下ろした。


「待て!」


すると先程から声を掛けていた男が慌てた感じに前に出ようとしている。

しかし俺の攻撃が止まる事は無く、相手の頭頂から股までを真直ぐに通り過ぎると黒い霞に変えて消し去った。

そして持ち主が消えたことで身に着けていた服や武器が無造作に落下し、それを見た周りの者達から悲鳴が上がると同時に混乱が広がっていく。

周りで見ていた何も知らない者は逃げ惑い、戦う意思のある者は武器を手にしてこちらへと向かって来る。


「まさか仲間の中に魔物が紛れて居たのか!」

「そういうことだ。」


その中で先程の男だけは驚きを感じながらも冷静に状況を分析して周囲を警戒している。

そして俺の方は既に次のターゲットを間合いに捉えており、人の姿で紛れている魔物を次々と消し去っていた。

それに合わせて次々に悲鳴が上がっているけど誰かが怪我をした訳ではなく、自分の横に居た人間が死体も残さず消えて行く事に驚いているからだ。

俺はここに集まる人々の中から魔物だけを選別して始末していき、敵が居なくなると元の場所に戻り男に視線を向けた。


「キャーーー!」

「逃げろー!」

「俺達も消されるぞー!」


そして驚きと恐怖に囚われた人々は一目散に俺達の前から逃げ出して姿を消した

それにより周りから人が居なくなり魔物が身に付けていた武器や衣服だけがこの場に残されている。

すると、どの服にも組織の人間である事を示す刺繍がされており、今回は4つ全ての印が揃っているので全ての支部に問題がありそうだ。

そして俺の前には今も唯一逃げずに残っている男が立っているので、そいつに近づくと軽い感じに声を掛けてみた。


「おい。」

「・・・。」


どうやらあまりに多くの魔物が紛れていた事を知り、その事に意識を向け過ぎて声が聞こえていないようだ。

そのせいで返事が来ないので今度は強めにコンタクトを試みてみる。


「おい!『ポコン。』」

「イッテ~~~!」


俺は声を掛けても返事が返って来ないので正宗に持ち替えてその頭に優しく一撃を入れてやる。

これでコイツの濁り始めていた魂も綺麗になったので一石二鳥・・・いや、初めて使ったけどコレも一応は聞いてた通り効果があるみたいなので一石三鳥か。


「お前は何処の組織の奴だ。」

「も、もしかしてお前も組織のメンバーだったのか。」

「そうだ。ここにちゃんと証明の札がある。」


俺は懐を漁るフリをしてアイテムボックスから木札を出すと男に見せる。

それでようやく信用した様で手に持っていた刀を鞘に納めた。


「それよりもここには組織の支部があるだろ。そこまで俺を案内してくれ。」

「わ、分かった。それと俺は白虎のレイだ。」


レイと名乗った男は意識の切り替えが早いのか今は穏やかな顔で握手を求めて来た。

俺はそれに応えて手を握り、用の済んだ木札を収納しておく。

それにしても先程の木札で俺が玄武の人間だと分かっているのに気にしている様子がない。

どうやら、そういう事で相手を侮ったり馬鹿にしたりしないタイプの人間のようだ。

俺は手を離すと自己紹介を済ませて軽く他のメンバーも紹介しておく。


「俺はちょっと支部の方を確認してくるから皆はここで待っててくれ。」

「分かったわ。あまりやり過ぎないようにね。」

「大丈夫だって。逆らう奴・・じゃなくて、魔物を皆殺しにしてくるだけだ。」


俺はミズメからの冷たい視線をスルーしてその場から離れると、レイの案内で支部へと向かって行った。

するとここでも各支部のメンバーが仲良く出入りしており、多くの人数が集められてる様だ。


「ちょっと行って来るからここで少しだけ待っててくれ。」

「お、おい!」


そして、まずは支部の一つである玄武の中に入ると、そこは魔物の巣窟と化していて殆ど人間が居なかった。


「面倒だな。クオナ最大出力で頼む。」

『分かりました。』


俺は周囲に向けて刀を振り切り魔物を全て斬り伏せていく。

さらに2階に向かってもそれを行い、悲鳴や断末魔も無く全ての魔物が消えていった。

どうやらここの支部長も手遅れだったようで残ったのは雇われたばかりなのか数人の使用人風の男が3人だけだ。

誰もが今の光景に腰を抜かしているけど放っておいても何時かは勝手に動き出すだろう。


しかし暖簾を潜って外に出ると、周りの支部から大勢の者達が駆け出して来た。

その顔には明らかな殺気が宿り俺の前に並んで逃げ道を塞ぎ包囲してしまう。

どうやら気配に敏感な奴が居て多くの仲間が消えたのを感じ取ったみたいだ。

それにしても・・・。


「クックック!何て好都合なんだ。」

「貴様、何言ってやがる!それよりも仲間をよくもやってくれたな!」

「仲間?仲間ねえ。お前らにそんな意識があるとは知らなかった。」


俺は口元に笑みを浮かべると目の前の奴等へと言い放った。

この騒動で既に周りから余計な通行人も居なくなり、レイは俺が言った通りに少し離れた所でこちらの様子を窺っている。

これなら無駄な被害も少なくて手っ取り早く終わらせられそうだ。


そして目の前の奴等は手にした武器を構え一斉に襲い掛かって来た。

その顔や四肢には既に魔物の本性を表しており、化けの皮が剥げかけている。

それにしても包囲するのは戦法としては間違っていないけど、それは常識的な範囲に限られる。

俺は笑みを浮かべたままSソードの刀身を伸ばして一閃すると纏めて魔物たちを始末した。

そして、その中に混ざっていた数人の人間だけが残り、まるで糸の切れた人形の様にその場へと倒れる。

恐らくはまだ魔物までは至っていなくてギリギリ助かったみたいだ。

俺はそいつ等を放置すると次の場所へと向かって行く。

そして白虎の支部に入るとそこに座る男へと視線を向けた。


「お前は何もしないのか?」

「老いた儂にはもはやその力はない。」


支部に入ると正面には白髪の老人が座っており鋭い眼光を向けて来る。

コイツは人間の様だけど老いたと言いながらその目はまだまだ死んでいない。


「それならこれでも飲んでもう少し頑張って働け。俺は他の2つを見て来る。」

「フム、これは回復薬か。その若さでこんな貴重品を持っておるとはな。」

「すぐに戻って来るからそれまでに飲んでおけよ。」

「うむ。」


男が頷くのを見て俺はそのまま外に出るとレイを呼んで伝言を頼む。


「悪いけどさっきの所まで行って皆を呼んで来てくれ。」

「わ、分かった。」


レイは倒れている人を介抱していたけど俺の言った通りに海へと皆を呼びに行ってくれた。

その頃には白虎の支部から雄叫びが上がっているので猛獣でも飼っているのだろう。

そして青龍と朱雀の支部の前に立った時に入り口を破壊して巨大な魔物が姿を現した。


「今日は牛男と馬男か。」


青龍の支部からは巨大な斧を持った牛男が姿を現し、朱雀からは巨大な槍を持った馬男が現れた。

互いに身の丈が4メートルはあり、支部は半壊と言っても良い程に壊れてしまっている。

その体には鎖が突き刺さっておりコイツ等が原因でこの辺の奴等が魔物になっているようだ。

それにしても牛と馬とはまるで牛頭と馬頭のように見える。

そして魔物の前で構えを取ると白虎の支部から1人の老人が飛び出して来た。


「うおあー!力が戻って来たぞーーー!」

「貴様は白狼鬼!」

「老いて牙が折れていたはずではないのか!?」

「ガハハハ!貴様らよくも今まで好き勝手してくれたなーーー!」


飛び出して来た老人は両手に気を纏い、それで地面を抉りながら魔物に接近すると牛男の脚を引っ掻くように爪を立てる。

それだけで攻撃された場所の肉が大きく抉れて5本の爪痕から血が噴き出した。


「グオーーー!!」

「足を抉り取る予定だったがまだまだ体が鈍っているようだ。・・・ん?」


しかし、その視線が一瞬泳ぐと、その隙を見逃さなかった2匹は斧と槍を頭上から振り下ろした。


「死ねやジジイーーー!」

「今の俺達はテメーよりも強えんだよ!」


そう言っている割には1撃目には全く反応が出来て無かったので唯の強がりだろう。

しかし、白狼鬼と呼ばれた老人は襲い来る攻撃に対して両手をクロスさせると頭上へと掲げた。


『『ガキン!!』』

「なに!」

「コイツは本当に人間なのか!?」

「温いぞ小僧共ーーー!!」


その攻撃は人に当たったとは思えない音を立てて止まり、その先では素手で受け止めている老人の姿がある。

おそらく漫画などでも出て来る硬気功という技だと思うけど、強度だけならゲンの爺さんよりも上だと思う。


「うむ・・・どうやら神は儂にもっと戦えと言っているようだ。」


そう言って槍と斧の刀身を掴むと素手で握り潰してしまった。

魔物はそれに驚愕し、武器を手放して後ろへと飛び退くけどその着地地点には1つの問題が存在している。


「あ。」


俺はどうやら完全に忘れられているらしく目の前には無防備に背中を晒している。

そして更に都合の良い事にコイツ等に繋がれた鎖も目の前にある。

なのでSソードを一閃させて鎖を切り取ると2匹に数十の剣線を走らせて戦いを終わらせた。

そして鎖は前回と違い切られた瞬間から引き寄せられて一瞬で消えていった。

どうやら俺に吸われるのが嫌で逃げる事を優先させようなので次に見つけたら切る前に絡め捕ってみようと思う。


そして、この周辺から魔物が消え去り、俺はSソードを鞘に戻して視線を老人へと向けた。


「なんかデジャブを感じるな。」


そして視線の先では先程から俺を睨んでいる老人が居り、獲物を取られた事を怒っているのだろう。

しかし、あれだけの隙を晒されて手を出さないのは俺の主義に反するけど、お楽しみを中途半端に奪ってしまったのは事実だ。


「止めを取って悪かったな。」

「構わんよ。戦場では良くある事じゃ。それで、お前さんは何者なんじゃ?」


視線は鋭いのに声が穏やかなので、もしかすると目付きが悪いだけかもしれない。

それに怒っていると思っていたけど、この様子だとそうでもなさそうだ。


「俺は玄武のメンバーでちょっとそこの島に用があって来たんだ。だけど島の周りがあんな状況だから先にこっちへ来て支部の調査に来た。でも到着してすぐに大量の魔物が居たんで安全の為に掃除をしてたんだ。」


俺は再び木札を見せて自己紹介と一緒に説明を行った。

すると頷きが返され何とか理解してくれたみたいだ。


「うむ、それはゲンの所のか。もしかして奴も儂の様になっておるのか?」

「現在は京で今の状況についての説明をしてると思うよ。それに本部の奴等に喝を入れて来るって言ってたしな。」

「そうか。ならばあちらは任せても良さそうじゃな。そうなると、この辺は儂が出向て始末を終えておくか。」


そう言って獰猛に笑ってるけど、きっと本人は微笑んでるつもりなのだろう。

それにしても人数だけならかなり居たのに残っていた人間は数人だけなので、これは今後が大変そうだ。


「それでだけど状況を教えてもらいたいんだけど良いか?」

「そうじゃな。お前が向かおうとしておる島に特別な娘が居るのは知っておるな。」

「まあ、俺はそいつに用があったからな。」

「ならば簡単に説明するが、あの島にある社は白い大蛇が守護しておるんじゃ。その者はかつて人間だったらしいのだが今では人を捨てて神に仕えておる。その者が魔物だけでなく全ての通行を妨げておるんじゃ。」


そいつの事なら現代のネットで書いてあるのを読んだ事がある。

確か平清盛が惚れた巫女が厳島に居て、それと会うために音戸の瀬戸の工事を行ったとか。

でもその巫女は約束を破って逃げ出し、白い蛇に変わって海の底へと姿を消したらしい。

ただ、俺としてはこの巫女は自分を対価にして清盛に工事をする様に言ったのにその約束を破っているので嫌いな話だ。

最初から結婚する気が無いなら自分をダシに使うなと言いたい。

まあ、これは個人的な意見でどうでも良いとして、その白蛇がウチのリリーと同じく神使となってここに居るのかもしれない。


「そうなると、その白蛇があの渦を作ってるのか?」

「そうじゃ。何でも迎えが来るまで神に護る様に言われたそうじゃ。」

「直接話してみないと分からないな。ここも落ち着いたみたいだし後でちょっと行ってみるか。」


そして話しているとミズメたちもここに到着した。

周辺は少し散らかってるけど建物も2軒は無事なので問題ないだろう。


「ちょっと出かけて来るからミズメはこの爺さんと一緒にここで待っててくれ。」

「分かったけど、また派手にやったのね。」

「俺は壊してないけどな。今回は全て魔物がやった事だ。」


しかしミズメだけは呆れた視線を向けて来るので、どうやらあまり信じてはいないようだ。

それにしても家が2軒半壊して人が数人ほど道の真ん中に昏倒しているだけなのにおかしな話だ。


「俺は無実だからな。。」

「はいはい、そう言う事にしておきますよ。」


おかしいな・・・俺はそんなに破壊的な行動を取って来ただろうか。

確かに全ての人が魔物に変わった拠点を破壊したり、ちょっと城を燃やしてもらったりしたけどあれ位は些細な事のはずだ。

でもこの辺の信用が無いのは後になって致命的な状況を作り出すかもしれないので次はもう少し上手くやるとしよう。

でも今は過去を振り返るよりも次の行動に移ろうと思う。


「悪いけどしばらく預かっておいてくれ。俺は少し海に行ってみる。」

「分かった。しかし、話しによればその者は男嫌いだそうじゃから気を付けろよ。」

「善処するよ。」


まさかこんな出発直前に嫌なフラグを立てられるとは思わなかった。

俺は相手が仕事を真っ当してくれますようにと祈りながら男嫌いだという白蛇に会うため海へと向かって行った。

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