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17 新たな魔物

食事と仮眠を終えて夜の戦闘に突入したがこちらも順調に進んでいた。

空には照明弾が打ち上げられ周囲は昼の様に明るく視界を気にする必要もない。

魔物の数自体も次第に減り始め、目に見える範囲ならもうじき100を切りそうだ。

ここまで来ると自衛隊の間でも安堵の声が上がり始め、仲間たちも無事に蘇生できたことで余裕も見え始めた。


しかし、ここでも簡単には幕を下ろしてはくれないらしく突然ダンジョンの入り口が巨大化すると中から大きな猪が姿を現した。

見た目は本当に猪を大きくしただけだがオークたちと違い戦車砲にも揺るがず、戦車よりも大きな体は今のこの状況では最悪の相性と言える。

せっかくもうじき魔物を殲滅できると言う所で奴が暴れたら陣形が崩れてしまう。

それに巨大な魔物を見て自衛隊の間にも動揺が広がり始めたのが伝わってくるのでアイツはこちらで早く始末しなければならない。

なので俺はステータスを開くと新たなスキルを取得する事にした。


「確か前に見たときはあったはずだけど・・・。あ、あった。」


俺は前衛としては定番であるスキルの挑発を覚えた。

このスキルは相手の気を引いて自分に攻撃を集中させる効果があり、囮をするにはどうしても必要になる。

何処まで効果があるか分からないけど自衛隊の攻撃では牽制にすらなっておらず、既に猪は地面を前足で掻きながら正面の戦車に狙いを定めている。

確か日本で使っている戦車は新品だと10億近くするらしいのだけど、なんと俺達の報酬を合わせた額の10倍以上なのであんな魔物に壊されてたまるか。


(それに壊すくらいなら俺にくれ!戦車には男のロマンが詰まっているんだ!)


そして急いでスキルを使うとその顔が急にこちらへと向けられた。

これは確実に挑発の効果が出ているのだろうけど次の瞬間には俺に向かってまっしぐらに走り出した。


「速い!」


予想以上の速さに俺は咄嗟に剣を捨てて縮地を使い真横に避けた。

すると猪は地面を抉りながら落とした剣を踏み砕くとそのまま駆け抜けていく。

しかし大きく円を描きながら方向転換をすると加速しながら再び向かって来た。

どうやら完全に奴のターゲットにされたみたいだが、ここで戦っているだけで自衛隊の邪魔になってしまう。

猪には彼らの攻撃が通用しないので駆け抜ける時に射線を塞ぎ、他の魔物への攻撃を妨げてしまっている。

これならここは皆に任せて俺が奴を連れたままここから移動した方が良さそうだ。


「コイツは俺が引き受ける。その間にここを片付けてくれ。」

「良し、行って来いハルヤ。」

「ここは私達に任せて先に行きなさい。」

「早く倒して戻って来てね。」


すると家族から頼もしい言葉が帰って来たけど母さんだけはなんだか変なフラグが立ちそうなセリフだった

だけどあれがウチの母さんなので「全て倒しても良いからね」と言い残してこの場を移動していく。


そして俺は再度の攻撃を躱すと落ちている剣を拾って後方へと駆け出した。

それを見て人も車両も俺を避けて道を作ってくれるけど、ここは住宅地のど真ん中でその後ろには民家が続いている。

下手に逃げ回ると被害が大きくなるかもしれないので、ここから少しは慣れた場所にある河川敷を目指すことにした。

すると少し先の交差点からジープが姿を現すと運転手は親指でクイクイッ!と助手席を差して口元を歪めて笑ってみせる。


「乗ってくかい。」

「良いタイミングだなツキミヤさん。」


こちらに来てから何処に行ったのかと思ってたけど、まさかこんな演出で現れるとは思わなかった。

俺が助手席に飛び乗るとツキミヤさんはアクセルを吹かして素早いクラッチ操作と同時にエンジンをうならせながら出発していく。


「これまで何してたんだ?」

「ちょいと周辺の探索をしてたんだよ。タバコが切れちまってな。」


そう言って胸ポケットを指差しながらバックミラーに視線を移す。

どうもカッコ良過ぎる登場だと思ってたら、ただ買い物に出ていて巻き込まれただけのようだ。


そして俺も後ろを確認すると猪は諦める事なく俺を追って来ているが、なんだかいつか見た有名監督の映画を思い出した。

たしかあの時に追いかけて来てたのはティラノサウルスだったけど今の俺なら遺伝子操作で生まれた恐竜の方を相手にしたい。

映画の様に大口を開けて追って来てくれるなら手元にある予備の手榴弾を投げ込んで一瞬で勝負を決められる。

しかし相手が5メートルを超える大猪でもこちらは口を噤んで寡黙に追いかけてくる。

それにここからだと鼻が邪魔で口なんて狙えないので素直に諦めるしかない。

そして、しばらく走っていると目的地に辿り着き、そこには川があって30メートル程の古い橋が掛かっているのが見える。


「あそこに行ってくれ。」

「任せておけ!」


俺は橋を指差して指示を出すといつもと違う力強い返事が返って来る。

そして念の為にもう一度スキルで挑発を使用すると何やら大興奮して速度を上げて来た。

今でも速度は60キロを軽く超えているのに、そこから更に加速してスピードメーターは90キロを示していた。


するとツキミヤさんは更に加速すると橋の手前で見事なブレーキとアクセルワークでドリフトを行い90度の交差点を見事に曲がって見せた。

どう見ても今日のツキミヤさんのキャラが崩壊気味なので後から揺り戻しが来ないか不安になってくる。

俺は橋の手前にある標識を確認しながらそんな事を考え、確認のために後方へと顔を向けた。


そして猪の方はというと道路を抉りながらツキミヤさんを真似てのドリフトカーブ・・・を試みようとして足を滑らせてコケてしまった。

それをツキミヤさんはバックミラー越しに見て勝ち誇った様に大笑いしている。

もしかしてハンドルを持たせると性格が変わる人なのだろうか?


しかし、猪はすぐに戻って来て更なる震脚を持って橋を渡り始めたけど、それが止めとなった様でその足は見事に橋の路面を踏み抜いてくれた。

そしてコンクリートと鉄骨に足を挟まれてしまい完全に拘束されて動けなくなっている。

恐らく橋の下から見れば水鳥のように必死で足をバタつかせるコミカルな風景が拝めるだろう。


「お前、まさかあれを狙ってたのか?」

「ああ、古い橋には重量制限があるだろ。俺も18歳だから自動車免許を取るための勉強くらいはしてたんだよ。」


この橋の重量制限は2トン。

重量は偶然だけどあんな走り方をする猪なら踏み抜いてくれると思っていた。

俺達は動けずに鼻息荒く体を動かしている猪に近寄ると俺は容赦なく剣で滅多斬りにする。

縦に横にと斬り裂いて筋肉を突破し内臓を掻き回して全身を赤く染めていく。

猪は激しく暴れているけど橋が壊れない限りは抜け出す事は出来ないだろう。

それでも生命力が強いのか、ここまでしてもなかなか死んでくれない。

俺は顔に付いた血を拭うと手に持つ剣をツキミヤさんに差し出した。


「一度は魔物を斬り裂く経験ってものを味わってみたらどうだ?」

「俺にも出来るのか!?」


一応俺が斬り裂いた場所ならダメージを与えられると先日のスナイパーたちが証明してくれた。

ただ、時間経過でどうなるかを知りたいので今のこの状況はうってつけだ。

ツキミヤさんは嬉々として剣を受け取ると俺の代わりに猪を攻撃し始めた。


「オラオラオラオラー!」


そして1分ほど攻撃を加えると剣が突然刺さらなくなった。

ツキミヤさんが攻撃を始めるまでに1分くらいはあったので2分くらいなら攻撃が通るようだ。


「どうやら2分くらいなら攻撃が可能みたいだな。」

「なんだ、もう終わりか。」

「まあ、複数の意味で終わりだな。」


既に猪は殆ど動けない程に体力を消耗しているのでこの状態ならもうじき死ぬだろう。

そして、その予想は当たったようで目の前の猪は霧の様に消えて行き、今までで一番大きな魔石とドロップアイテムを残した。

そして一つの変化も置き土産として残してくれたようで・・・。


「あ、あれ・・・。視界がぼやけて・・・。」

「やっぱり魔物を倒すとそうなるんだな。まあ、どうするかは任せるけど。」

「ハルヤお前、嵌めやがったな!」

「何を言ってるんだ。最後の選択は自分で決められるんだからいやなら断れば良いだろ。でも、これからの回復薬と蘇生薬の収入を考えれば・・・。」


俺はそこまで言って見えないのを良い事にニヤリと笑って見せる。

そしてツキミヤさんも俺の言葉で理解できたのか完全に動きが止まっていた。

恐らく蘇生薬を2本売れば一月の給料を超えるだろう。

何時までこの高確率のドロップが続くか分からない現状で早ければ早いほど可能性は高まる。

これを下衆な考えと蔑みたい奴は蔑めば良いのだが、この日本ではお金が無ければ出来ない事が多すぎる。


生活するにも、優秀で大事な妹を高校に行かせる為にもお金が掛かるのだから、これについては今のところ妥協するつもりは無い。

そして沈黙していたツキミヤさんは静かに意識を失いその場へと倒れた。

声をあげないとは見上げた精神力なのでこれからの活躍が期待できそうだ。

俺はツキミヤさんを抱え上げて車に乗せるとそのままダンジョンへと戻る事にした。

仮免までしか取ってないけど安全運転すれば大丈夫なはずだ。

誰も車で走ってないのが唯一の救いだけど、落ち着いたら早く車の免許を取ってしまおうと思う。


そしてダンジョンに到着するとそこには数日ぶりの平穏と人々の歓声が溢れていた。

彼らは互いに喜び合い、その中央では家族や仲間たちが周りからお礼を言われている。

どうやらこちらは無事に鎮静化できたみたいなので後はダンジョン内に居る魔物を減らせば大丈夫だろう。

そして俺が車から降りるとそれを目にした人々が歓声で迎えてくれる。

すると皆の許まで道が開き、そこを通ってようやく合流を果たす事が出来た。


「ただいま。」

「お帰りお兄ちゃん。」

「お帰りなさいお兄さん。」


俺が声を掛けるとアケミとユウナが真っ先に返事を返してくれて怪我もなさそうで安心した。

その足元ではリリーが胸を張りこちらを見上げているので「私が居るのだから当然!」と言っているみたいだ。

他の皆も無事な様で服に破損はあるけど全てプロテクターが防いでくれたようで体にまで届いている様子はない。

すると父さんが手に持つ剣を渡して来るのでそれを受け取って頷きを返した。


「仕上げと行くか。」

「そうだね。中の確認をしないと安心してここを離れられないからね。」

「少しは休んだ方が良くないか?さっきもあまり休んでないし食事くらい食べたらどうだ。」

「無理をすると危険が増すぞ。それにこの中はアナタ方も初めてなんだろ。」

「リリーさんの毛が汚れてるからブラシしないと。」

(最後の奴だけ何か違うな・・・。)


しかし、内部の確認を怠ると再び同じことの繰り返しになりかねない。

それに他のダンジョンを見てみたい気持ちもあるので俺達はやんわりと彼らの好意を辞退してポーション片手にダンジョンへと入って行った。

そして中に入るとそこには緑豊かな自然が俺達を待ち構えていて空は青く気温も心地良い。

ただ、ここが箱庭のような場所だと示す様に階段の出口に沿って土色い壁が周囲を囲んでいる。

そこからすると空の青さも何らかの手段で天井に映し出された何かだろう。


そして索敵を使用すると其処彼処から魔物の気配を感じる。

ここは遮蔽物が無いので感度が良いらしく、かなりの広範囲まで感じ取る事が出来る。

どうやら俺のスキルと相性が良さそうでここでは効率の良い戦闘が行えそうだ。


「今日は纏まって行動して行ける所まで行こうか。」

「そうね。ここの法則は分からないけど私達の知る範囲で収まるなら魔物の発生は深夜0時からになるものね。今から間引いておけば後は自衛隊の人達が調べてくれるわ。」


もしかしたら以前の様に攫われた人も居るかもしれないので死体が発見できれば中級ポーションなら生き返らせることも可能だ。

そう言えば攫われた人たちの蘇生後がどうなったのか聞いていなかったので後でツキミヤさんにでも聞いてみれば良いだろう。


そして俺達は初めて訪れたダンジョンの探索を開始した。

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