166 海戦 ②
大型の魔物が現れ始めたので俺も本格的に行動を起こす事にした。
まずは周囲の気配を探り大型の魔物を探す。
そして望遠で場所を確認して動きを観察する。
「射程に入ってる奴は居るか?」
『今のこの距離ならどれでも刃は届かせられます。』
「そうか。それと今の状態で物の回収は出来るのか?」
『試した事が無いから不明です。そう言えば倒した魔物から何か落ちていましたね?』
「そうなんだ。出来れば魔石とアイテムが出たら回収して欲しい。海で大型な奴は良く落とすんだ。」
『分かりました。試してみましょう。』
それならと俺はさっそく右から迫ってくる巨大鮫に刃の先端を向ける。
するとクオナは巨大鮫へと刀身を一瞬で伸ばし鼻先から尾までを刺し貫いた。
そして、魔物が消えてすぐに結果を俺に教えてくれる。
『どうやら可能の様ですね。しかし、この状態では収納は万全ではないようです。収納スペースは今のだけで5パーセント埋まりました。』
「それなら適度に回収したら俺が貰っておこう。回復アイテムとか魔石は要らないよな?」
『ええ、私には必要がない物です。ただ、金属に関してはこちらで貰っても構いませんか?』
「ああ、それに関しては大丈夫だ。他に欲しい物は有るか?ゴムやポリエステル、金とかも今は持ってるぞ。」
『それでは金とゴムを貰えますか。ゴムはこちらで組成を変えれば色々と使えそうです。』
きっと新しいボディーを作るのに使うのだろう。
組成を変えるなんてアンドウさんの使う錬成みたいだけど発達した化学は魔法と区別が付かないと言うからな。
それに甲板でも戦いが本格化して来たみたいだ。
おっと!蛸や烏賊タイプは事前にこちらで始末しておかないとな。
俺はスキルで海中を見回して触手を持っている様な奴らを優先的に始末して行く。
そしてウツボやカマスの様な標準的に魚っぽい奴は見逃してやる。
中には巨大鮫だけでなく巨大な蛸にイカも居る様でこちらに長い足を伸ばし船を絡め捕ろうとしてくる。
しかし俺はそれよりも長く刃を伸ばして胴体へと刃を突き立て船を護る。
いくらダメージを受けないと言ってもそれは船だけの話で沈められたら意味がない。
そして甲板でも戦闘が激しさを増し、魔物が侵入を果たしていた。
「ギョギョ!」
「お姉ちゃん上がって来たよ。」
「任せなさい!」
アケは背中の刀を抜くと槍を構えたサンマ顔の半魚人へと斬りかかる。
すると半魚人は予想を上回る速度で間合いに入られたために槍を引いて咄嗟に防御の体勢に入った。
しかしアケの持つ童子切の切れ味は既に常識の範囲を超えている。
何でも爺さんとの稽古中に大人の胴回りは有りそうな木の幹を呆気なく斬り裂いて倒してしまったそうだ。
そして、その威力がここでも発揮され、槍の柄を一瞬の停滞もなく切り取るとその先に有った魔物の体も一緒に両断して見せた。
するとその横を駆ける様に1匹の魔物が通り過ぎ、後ろに居たユウへと襲い掛かる。
そしてそれを迎え撃つ様にユウも刀を抜き取り右の腰溜めに鬼切を構えた。
「ギョギョギョー!」
「業火よ。」
しかしユウは構えたまま小さな声で呪文を唱え相手の顔を炎で焼いてしまう。
それによって相手は瞼の無い大きな目を炎で炙られ視力を完全に失ってしまった。
そして、その隙を突いてユウは相手の手にある刀と一緒に魔物の胴体を綺麗に切断してみせる。
ちなみに、こちらは他の玄武のメンバーが練習に付き合ってくれたそうだけど、慣らすために刀を使わせたところでそれを真っ二つに斬り裂いてしまったそうだ。
まあ、相手に怪我は無かったそうだけど、こちらも凄い切れ味である事が分かる。
流石は多くの武将や大名が手に入れようとしている名刀なだけはある。
この2人に関しては油断しなければ大丈夫だろう。
そして熊親子に関しては母熊がやっぱり凄い。
その巨体と剛腕から繰り出される攻撃は数匹の魔物を一撃で葬っている。
しかも槍で突かれても刀で斬られても体毛がそれを阻み傷すらついていない。
しかし子熊の方はまだそこまでの力を身に付けていないのか敵の攻撃を伸ばした爪で器用に逸らしたり受け止めたりして防いでいる。
こちらはこちらで上手に戦っているけど今日の戦闘で更に成長が期待できそうだ。
それに熊は体毛と脂肪と言う2つの鎧を身に付けているので攻撃を受けてもそう簡単には死ぬ事は無いだろう。
怪我をしたら後でポーションを飲ませてやれば大丈夫だ。
そして夜に灯りへと群がる羽蟻の様に集まって来る魔物を次々に始末し、1時間ほど戦闘をしていると魔物が現れなくなった。
その間で手に入れたポーションは100を超え、魔石はその数十倍にもなる。
これだけの魔物が潜んでいたとなると安全な航海が出来る瀬戸内海も危険な海に成り果てていたという事だろう。
これでもまだ全てでは無いのだろうけど時間を無駄にしたくない。
目の前に出て来た魔物は別にしても後の事はこの時代の人達に任せる事にする。
そして魔物が居なくなったのならこれからの移動は全力運転だ。
今まで低速とは言っても移動を続けていたので急げば1時間とかけずに目的地に到着するだろう。
なので今回の戦闘で全く役に立たなかったコバヤカワをそろそろ目覚めさせる事にした。
「おい、コバヤカワ。そろそろ起きろ!少しは動け!」
「は!熊は!?」
なんでカナエと同じリアクションをしてるんだ。
もしかしてこの2人は似た者同士なのか?
まあ、そんな事はどうでも良いとしてやっと心の整理がついて再起動してくれてので少し働いてもらおうと思う。
「良いからそこの扉から出て皆を呼んで来てくれ。」
「そ、そうだ!これから魔物との戦闘が控えてるのだったな!」
そこから説明しないといけないのか。
もう戦闘は終わってこれから本格的に移動をしようとしているのに面倒な事だ。
そしてコバヤカワは立ち上がって勢いよく扉を開けるとその光景に足を止めてしまった。
「「「ガウ?」」」
どうやらタイミングが悪かったようで目の前には立ち上がった母熊とそれを囲む子熊が待ち構えていた。
それを見たコバヤカワはまるで魂が抜けた様な顔になるとそのまま床にばたりと倒れてしまった。
「これがまさかの熊に出会った時の死んだふりか。リアルで見ると滑稽だな。」
すると母熊はその巨体に似合った巨大な溜息を吐き、その息がコバヤカワの顔を激しく撫でつける。
それによって血の気の引いた顔色が更に悪くなり額に汗を浮かばせる。
そして母熊は倒れたコバヤカワを跨いで船室に入ると部屋の隅で丸くなって目を瞑った。
どうやら今回は放置する事に決めた様で我関せずと言った感じだ。
しかし好奇心旺盛な子熊はそうはいかず、鼻先で突いてみたり汗の浮かんだ顔を舐めたりと様子を窺っている。
そして心優しい子熊はコバヤカワの両脇に手を入れて持ち上げるとそのまま二足歩行で母熊の許へとドナドナして行った。
せっかく母熊が気を使って離れたのに、どうやら子熊にはその心が理解できなかったようだ。
しかし子熊もきっと心配して偉大な母熊の許へと運んでくれたのだろう。
先程から頻繁に顔を舐めているけど餌と勘違いしてはいないはずだ。
でもこのままでは落ち着いて移動も出来ないので、この機会にアイツには熊に慣れてもらう事にした。
そして扉が開いたままになっているのでまだ外に居るアケとユウへと声を掛ける。
「2人とも危ないからそろそろ入っておいで~。」
「「は~い。」」
するとアケとユウは揃って中に入って来ると俺の傍へとやって来た。
そして笑顔でその場でクルリと回ると無傷である事を見せてくれる。
心配でずっと見てたから知っているけど目の前で見ると安心感が違う。
しかもその笑顔が眩しくて暗めの船室がまるで昼の太陽に照らされた様な錯覚を覚える。
ペダルを漕いでいなければ咄嗟に抱きしめて頬擦りしそうだ。
「ハル・・・。心の声が駄々洩れよ。もう少し自重しないと知らない人から見ると変態に見られちゃうよ」
「おっと。」
「「フフフ~。」」
するとミズメが呆れた顔を向けて来るのに対し、言われた2人は口元を抑えて笑い声を零す。
その背後ではコバヤカワが子熊に両サイドから抱き着かれて今も顔を舐められているけど誰も助けようとはしない。
既にあそこまで行くと揶揄われていると言うよりも懐かれていると見ても良いだろう。
そして俺達はいつもの様に笑い合いながら目的地へと向かって行った。
その後しばらくすると目的地へと到着し、荒れ果てた漁村へと船をつける。
周りを見ると家屋は完全に破壊され、いたる所から煙と炎が上がっている。
どうやら先程までここに敵がいた様だけど1つの死体もなく、地面にある足跡も乱れてはいない。
恐らくはここで戦闘は行われず、丘の上にある城へ籠城しているのだろう。
周囲を護る塀も高く、城は健在なので間に合ったと言って良いみたいだ。
俺達は城へ向かうとこちらでは激しい攻防が繰り広げられた後のようでいたる所にその痕跡が残っている。
それに動ける者は傷だらけの城門から外に出て地面に落ちている弓矢を必死な表情で拾い集めては城の中へと運んでいるようだ。
恐らくは再利用できる物はそのまま使い、壊れた物は修理して使うのだろう。
鏃は鉄製の様なので折れた矢柄や矢羽を取り換えれば再利用も出来そうだ。
そして矢を集めている人たちが俺達を見つけると声を上げながら城門の中へと逃げる様に入って行った。
「何か来たよー!」
「すぐに城へ退避しろ!残った矢は放置して良い!」
物よりも人命を優先するとは良心的な判断だ。
カナエから聞いていた様にここの人々は皆が1つの家族の様に生活しているというのは本当みたいだ。
警戒をしているようだけどカナエやコバヤカワを連れてきて正解だった。
この2人なら警戒を解いて中に入れてもらえるだろう。
「カナエ、コバヤカワ。説明は任せたからな。」
「分かったわ!」
「ハハハ!生まれ変わっら私は一味違いますよ。」
コバヤカワは子熊に舐められ続けて変な悟りが開けてしまったみたいで今では平気な顔で子熊と戯れている。
もし親離れがあるならコイツに任せても問題ない程の懐き具合だ。
そして、まずは同盟を組んでいるコバヤカワが前に出ると城に向かって声を掛けた。
「私は小早川水軍大将のコバヤカワだ。そちらの危機を知り駆けつけたぞ。」
最初は見捨てる気でいたのに物は言い様だけど、現実にこうして来ているので嘘とも言えないだろう。
しかし彼の登場は別の意味で彼等としては信じられなかったで即座に罵倒が返って来た。
「テメー何を吹かしてやがる!あの臆病者のコバヤカワが熊と戯れてるはずねーだろ!嘘ならもっと相手の事を調べて言いやがれ!」
「・・・。」
すると身に覚えがあるのかコバヤカワは肩を落としてこちらに戻って来てしまった。
その様子に子熊が頬を舐めながら慰めてやり、周囲に微妙な空気が流れる。
「よし、ここはカナエに任せたぞ。」
「流したわね。」
「日頃の行いが大事だよね。」
「是非もありません。」
「ゴフ。」
「ん?」
すると俺に続いてミズメがツッコミを入れ、アケとユウの悪意のない意見が続く。
そして母熊も頷き、その傍に居るシラベは意味が分からず首を傾げた。
するとそれぞれの反応が返されたコバヤカワは次第に小さくなってその場でしゃがみ込むと地面にノの字を書き始めてしまう。
しかし、そんな状況を洗い流す様にカナエは胸を叩いて前に出た。
「仕方ないわね。私に任せなさい。」
そして城門に近寄ると城壁の上で警戒してい男達に声を掛ける。
「みんな助けを呼んで来たわ!それにあそこに居るコバヤカワは本物よ!今の姿を見れば分かるでしょ!」
意外と酷い説得の仕方だけど男達は今のコバヤカワの姿を見て首を縦に振り凄い納得顔だ。
「確かにあのナヨナヨした姿は間違いねえ。」
「あの小せえ背中には見覚えがあるぞ。」
「ありゃ熊を従えてるんじゃなくて懐かれてるだけみてーだな。」
そして返ってくる反応も同じく酷い物だった。
しかし、それが今までのコバヤカワなので仕方ないだろう。
まだまだ若いのだからこれからイメージを変えて行けば良い事だ。
そして本物だと理解された所で城門が開かれ俺達は無事に城内へと迎え入れられた。
コバヤカワに関しては動こうとしないので再び子熊によって両側から抱えられドナドナされながらの入城となる。
見ていて明らかに締まらない光景だけど、村上の男達は当然の様に受け入れている。
それに魔物との戦闘後なら熊が普通に二足歩行で歩いていようと、人をドナドナしていようとも気にはならないだろう。
そしてカナエとシラベが無事に城内に入ると、すぐさま1人の男が駆け寄り城の奥へと案内されて行った。
「急げ!頭の容態がもう限界なんだ!死に目に戻って来れたのも海の神の導きかも知れねえ!」
「そんな!せっかく助けを呼んで来たのに!」
俺はそんなセリフが聞こえたのでドサクサに紛れてその後を付いて行き城の最上階へとやって来た。
するとそこには親族なのか何人もの人が集まり布団に寝かされた男を囲んでいる。
しかもその表情は誰もが暗く、悲しみを押し殺しているようだ。
きっとそこに寝かされている包帯男がカナエ達の父親であり、この一族の当主なのだろうけど、その割にはちょっと形がおかしな気がする。
布団からは足が膝くらいまではみ出し、指の間には鳥の様な水掻きや魚の様な鱗の様なものが見える。
顔も変な感じに前へ突き出しているし明らかに人間ではなさそうだ。
しかしカナエはそんな事は気にならないのか布団に横たわる者の枕元に腰を下ろすと泣きそうな顔に無理やり笑みを張り付けて話しかけた。
「ただいまお父さん。」
「・・・か、カナエ・・・どうして・・戻って来た。」
「助けてくれる人を連れて来たんだよ。みんな凄く強いんだから。だからもう大丈夫だからね。」
「そ・・そうか。う、ヴゴアー!」
「お父さん!」
「に・・逃げろ!俺から・・・離れるんだ!俺は・もう・・じき、俺ではなくなる!オアーーー!」
「お父さん!しっかりして!!」
しかし、返って来るのは獣の様な叫び声だけで、恐らく今までは強靭な精神力で衝動を抑えていたのだろう。
ゴーグルを通して見てもその体に邪神の強い影響を受けている証である鎖が伸びているのが分かる。
しかし鎖は体の周りを拘束するだけで、ユリの様に体へと突き立ってはいない。
恐らくはそれが邪神の力から魂を守り、体だけが変化している原因だろう。
ハルアキさんが以前に強い精神力があれば堕ちる事無く戻って来る者も居ると言っていたけど、これがその状態に近いのかもしれない。
しかし、どうやら状況が悪く、今のままだと確実に邪神へと取り込まれそうだ。
「俺に任せろ。」
「な、何をするの!」
「良いから俺を信じろ。」
「・・・分かったわ!皆も少し離れて!」
するとカナエは俺を信じてその場を離れ同時に周りにも声を掛けてスペースを作ってくれる。
そして俺はSソードを抜くと虚空へと伸びる鎖を睨みつけ上段に構えて一閃する。
「もうお前の好きに出来ると思うなよ!」
すると斬撃は最後まで振り切られ、鎖は見事に切断された。
それによって先程まで叫びを上げていた男は糸が切れた様に大人しくなり動かなくなる。
しかし次の瞬間に俺の脳裏へと小さな笑い声が聞こえた気がした。
そして切断した鎖が何倍にも太くなり、俺の体へと巻き付いてくる。
『捕まえたぞ!』
「そう言う事か。」
コイツはこの刀を俺が手にした事でこうなる事を予想していたという事だ。
それでこの瞬間をずっと待ち構えており、俺をこうして捕られる瞬間を待っていたのだろう。
「神との戦いもあるだろうにコイツはもしかして暇人なのか?」
しかし、お前は一つの大きな勘違いをしているようだ。
こちらはあの夜に魂を作り変えられ、お前の天敵と言える存在に変化している。
俺は体に巻き付いている鎖を無視してSソードで鎖を更に絡め捕った。
「簡単に逃げられると思うなよ!」
『何を言って・・・何!』
俺は鎖を通して送られてくる奴の力を吸収して経験値に変えていく。
最近は魔物を倒してもレベルが上がった気配を一切感じなかったけど今はグングンと体に力が染み込んでくる。
「テメーが出涸らしになるまで吸い尽くしてやる!」
『おのれーーー!貴様はいったい何者だ!どうしてそんな事が出来る!!』
「そんな事をテメーに言う訳ねーだろ!」
俺は送られてい来る力を貪り、更にこちらからも根を伸ばす様な感覚で相手の力を無理やり吸い上げる。
どうやらこの瞬間に何かの称号かスキルを覚えてくれたみたいだ。
『仕方ない。遊びはここまでにしてお前には死んでもらう。』
すると虚空の先から巨大な蛇の頭が姿を現した。
鎖はその蛇の舌が伸びた物の様で俺を飲み込もうと巨大な口でこちらへと迫ってくる。
「ここで暴れるのはヤバそうだな。」
俺は鎖を引き寄せると蛇を連れてそのまま窓を突き破り外へと飛び出した。
そして100メートルほど上空へと移動すると城内から蛇の体が全て抜け出し、更に俺を飲み込もうと迫ってくる。
「蜥蜴の尻尾切って所か。この程度の魔物で今の俺が倒せると思うなよ!」
俺は鎖を断ち切り上空へと飛び上るとそれを追ってきた蛇へとSソードを振り下ろした。
「クオナ出力全開だ!」
『任せなさい!』
するとSソードの刀身が延長し、太陽の様に激しく輝きながた大蛇の頭から尻尾までを一瞬で通り抜ける。
それによって大蛇は呆気なく黒い霞となって消えていくと1本のポーションへと姿を変えた。
「おっと、良い物が手に入ったな。」
俺はそれを持って城の部屋に戻り周りを見回し被害の確認を行う。
「怪我人は無さそうだな。」
「ええ、被害はハルが壊した窓くらいよ。」
それ以外は目立った被害は無さそうで布団で寝ている男も暴れる様子はない。
どうやらカナエの誘導で他の人も俺から離れていたのが良かったのだろう。
それにしても、邪神から解放されても姿までは元に戻らないようだ。
これはユリを助けたとしても人に戻す事は出来ないと言う事かもしれない。
しかし、俺の手の中には1つの可能性があり、まだ使った事は無いけど試すには丁度良い相手が目の前に居る。
「カナエ、これをお前の父親に飲ませてみろ。」
「これは何なの?」
「ちょっとした薬みたいなものだ。」
さっき手に入れたのは俺も初めて見る上級ポーションだ。
フルメルトでは全てが上級蘇生薬だったので使うのも初めてになる。
ちなみに効果は完全回復としか書いていない。
なので何処まで回復するかが分からず、使いどころが難しい代物だ。
まずは目の前に全てにおいて重症である人物がいるのでちょうど良く実験台になってもらおうと思う。
そしてカナエは父親の口元にある包帯を寄せて人とは思えない口を露わにするとポーションを流し込んだ。
するとその効果は絶大で光に包まれながら姿が人へと戻って行く。
しかも巨大化して2メートル半はあった体も小さくなり、2メートル程に縮んでしまった。
そして、もちろん重症であったらしい傷も完全に消え去ると男はガッチリとした筋骨隆々な体を起き上がらせ周りへと視線を巡らせる。
「お父さん・・・大丈夫なの?」
「ああ。まるで悪夢から覚めたみたいに万全な気分だ。」
男はそう言って布団を抜け出すとカナエを抱き上げ笑みを浮かべる。
それを見て近くまで来ていたシラベも駆け出しその足へと飛び付いた。
「シラベも心配かけたな。でも、もう大丈夫だ!」
そう言って反対の腕でシラベを抱き上げると髭ズラの顔で頬擦りをする。
それをシラベは笑いながら押しのけ代わりに首元に抱き着いて額を擦り付けた。
どうやら効果の説明通りに肉体の異常まで完全に回復したみたいだ。
その光景に周りも歓喜の声を上げるとその周りを取り囲み涙を浮かべながら声を掛け合っている。
俺はそれを見届けると静かにその場を離れて下へと向かって行った。




