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159 力の回収

俺がサチコを連れてミズメの許へと向かうと2人は緊張で顔を強張らせた。

恐らくはサチコは今までの不幸な体質が本当に解消されるのか半信半疑なのだろう。

そしてミズメに関してはそれが悪化するのは確実なので不安しかないはずだ。

最終的にはアズサを上回る事が予想されるので回収が進むにつれて迅速な行動が求められる。

なので最も面倒な四国を最初に回れたのは運が良かった。

どっち道、1番目か2番目には来るつもりだったけど、順番としては最良と言えるだろう。

ただ、後の問題は互いの支部の距離だ。

もしこの時代の速度に合わせていると明らかに大量の問題を抱え込む事になるので可能な限り迅速な行動が求められる。

そして不幸を引き受けるミズメだけど勇気を振り絞ってその手を差し出した。


「それじゃあアナタの力を貰うわね。」

「ええ・・・お願い。でも本当に良いの?今のままでも命に係わるくらい危ないのに。」


力を集める事がどれだけ危険なのかは本人が身を以て分かっているのだろう。

サチコはその危険性に気付いて手が伸ばせないでいる。

するとミズメはその優しさに笑みを浮かべ、手を伸ばすのではなくそのまま勢い良く体に抱き着いた。

それにより力の移譲は滞りなく終了し、サチコから力を感じなくなっている。

代わりにミズメの力が増した事で以前よりもハッキリと贄の役割を持つ者だと分かる様になった。


「これで終了だな。サチコはこれから家族と平和に暮らせるようになったぞ。」

「うん・・・ありがとう。」

「そんなに落ち込まないで。私の事はそいつがしっかり守ってくれるから。」


ミズメは明るい表情を浮かべ、いつもよりも過剰なスキンシップで腕に抱き着いてくる。

それを見てサチコは苦笑を浮かべると納得してこちらに顔を向けて来た。


「絶対に護ってあげてね。」

「言われるまでもない。お前だって力を無くして普通になったからって油断するなよ。今は普通にしていても死んでしまう可能性があるんだからな。」

「ええ、なんでも昨夜はこのお寺に盗賊が来たらしいから気を付けるわ。」


すると俺達の許に後ろで話を聞いていたゼクウと爺さんがやって来る。

ここで爺さんと一緒という所に僅かな不安を感じるけど何か言いたい事があるようだ。


「先に聞いとくけど2人は知り合いなのか?」

「コイツは儂が若い頃に助けてやった坊主でな。その時にちょっとだけ手解きをしてやっておる。」

「あの時は死ぬかと思いましたが少しだけ気を扱えるようにしてもらえました。その後は独学で修業をしてある程度は使いこなせる様になったのです。」


それで気の流れに敏感なのか。

でもゼクウの気の使い方は爺さんの様に攻撃的ではない。

まるで薄く広く伸ばして相手を優しく包み込む様な使い方をしていて向けた相手に安心感を与える事が出来る。

恐らくはそのおかげで高いカリスマ性を発揮しているのだろう。


「それで?娘が解放されたから再び旗揚げでもするのか?」

「そんな事はしませんよ。私も既に多くの弟子を抱えていますからね。彼らには日頃から煩悩を捨て大事な人を思いなさいと説いています。」


俺としてもサチコの親であるゼクウに危険な事をさせるつもりは無い。

せっかく家族で過ごせるようになったのだから出来れば平穏な生活を送って欲しいと考えている。

コイツを九州の島津ヨシヒサの様に代表にして仏教による統制も悪くないと考えたけど、全ての寺が同じ宗派とは言えないのでそこでまた変な対立が起きるかもしれない。

やっぱり旗印にするのは力のある家で、頭のキレる奴が良いだろう。


しかし俺がこんな心配をしているのもさっきまでゼクウは爺さんと話をしていて、その時に変な笑い方をしていたからだ。

どんな笑い方かと言えばガキ大将が悪戯を思い付いた時の様な感じだろうか。

時代劇で言えば悪代官と越後屋を思い出させる。

もしかして、この2人は友は友でも悪友の方だったのかもしれない。


「それでじゃが儂らからちょっとした提案があっての。」

「ようやく悪狸のご登場か。それで何の話しをしていたんだ?」

「何の事かさっぱり分からんな。」


そう言いながらもその顔が笑っているので本人も分かっているのだろう。

それにしても、どうやったらこんな楽しそうに悪い顔で笑えるんだろうな。


「それで、こっちに来たって事は何か思いついたんだろ。ここに来るまでにかなり時間も有ったしな。」

「そうじゃな。まずはこの地に関してじゃが丁度良い人物を選出して後奈良から檄文を出してもらう事にしたのじゃ。」

「檄文ってなんだ。聞いた事はあるけどよく分からないんだよな。」

「ようは任命書みたいなものじゃな。あまり意味は無いが理由にはなる。」


何でも、ここに来るまでに天皇と色々と話して、その地域を統率する大名にその任命書を送る事にしたらしい。

九州は既に島津家が管理する事になっているのでそこに送るそうだ。

ただ支配するというよりもあくまで代表なので何かあった時や反乱が起きた時は美しい翼の里が動き首謀者を始末する事になってるのだけど。

この時代の人間の中にはそうやって他人の命も軽く見て無謀をする奴が居るから困る。


「それで、さっきゼクウと誰にするか話してたのか?」

「そうじゃな。何でもここから少し離れておるが長宗我部家なら見込みがあるそうじゃ。」


なんだかアニメで出て来たような気がするな。

まあ、あれは時代だけ真似て人間性は完全無視と言う話なので参考にはならないか。


「それで、そいつがオススメなのか。」

「一条家も考えたがあそこは当主が過激じゃからな。長宗我部家の当主である国親は政治の出来る奴らしい。」

「それにその子供である弥三郎も大人しいながらも聡明な子供でした。頭角を現すのはまだ先でしょうが今後の管理者としても期待が出来るでしょう。」


ここで統治ではなく管理と行っている所がしっかりと目的を理解している証だろう。

それならアンドウさんが到着したら話してみたら良いかもしれないな。

ツバサさんが一緒だから時間が掛かってるんだろうけど・・・。

それにしては少し遅い気がするけど、いったい何処で何してるんだか。

しかし、噂をすれば何とやら。

俺達の前にツバサさん?を抱えたアンドウさんが現れた。


「待たせたな。それでこれはいったいどういう状況なんだ。」

「その前にそれぞれに自己紹介をしよう。そうすれば少しは理解できるだろうからな。」


そして互いに自己紹介をして今までの事を説明して行く。

何をするにしてもアンドウさんの判断が必要な事が多いのでかなりの時間を使ってしまった。

俺が口を出す所は天皇を広告塔にする所なので最初に説明を終えており、今は子供にお菓子を配り甘味タイムを堪能している。

それに半数以上が加わっているのでアンドウさんの方は数人しか居ない。

やはりこの時代の最強は甘味で決定だな。


しかし皆で美味しく食べていたのに配り終えて少しするとアンドウさんに襟を掴まれ会議へと強制参加させられてしまった。

周りに助けてと視線を向けても誰も目も合わしてくれず、背中を向けて見ないフリをするだけだ。

仕方ないのでお菓子の借りはまた今度返してもらう事にしよう。


「それで、なんで俺がこっちに参加しないといけないんだ。」

「それは自分の胸に手を当てて聞いてみろ。」


しかし手を当てても何も思い当たる節が無い。

それどころか歴史も覚えていない馬鹿な俺がこちらに参加しても時間の無駄だ。

仕方なく俺はPRも兼ねて今度は大学芋を取り出して中央に置くと軽く説明をして皆で摘まみ始めた。


「お前は本当に子供が好きそうな物ばかり持ってるな。」

「子供が好きそうでは無くて皆が好きそうな物だ。」


ちなみに一番嬉しそうに食べているのはツバサさんだったりする。

現代からこの時代に来れば当然と言えるけど、この人も俺と同じ甘党だった。

家でも母さんと語り合いながら酒ではなくお菓子とお茶を楽しんでいたほどだ。


「1人で独占するなよ。皆にも食べてもらうために出してるんだからな。それよりも、まさかツバサさんがこっちに来てるとは思わなかったよ。てっきり歴史が変わって消えただけかと思ってた。」

「それが私も気が付いたらこちらに居て最初は夢かと思ってました。アニメも漫画も小説も無いこの世界はまさに地獄でしたが、そこは意識を切り替えました。」

「そうか。どうせリアル武将にコスプレさせたり、無いなら絵師を雇って作れば良いじゃないとか考えたんだろう。」

「何故それを!」


きっとそれが奇行をしていると捉えられたのだろう。

しかし漫画を読んだ事のない人が簡単に書ける程に創作作品は甘くはない。


「そして失敗して今度はどうせ国取のゲームでも始めるために装備と兵士の強化でもしてたんだろ。」

「どうしてそこまで見て来たように言い当てるんですか!?」


俺がツバサさんと同じ状況なら同じような事をするだろうからな。

ただしそれは力が無ければで今の様に力を持っていれば1人で戦国無双をしていただろう。

今の俺ならそれくらいは容易く出来るくらいの力がある。

実際は俺とアンドウさんで日本を横断して統一戦争を終わらせてからの方が色々と楽ではあるのだけどそれだと明らかに歴史が変わってしまう。。

それに、そんな事には意味もないし、やり始めればツクヨミにゴット・フィン〇ーをされて頭を潰されそうだ。


そしてツバサさんを誰が何故こちらに送って来たのかも問題だ。

誰がやったかはある程度の想像は付くけど、そんな事をする意味が分からない。

知ってる奴は遥か未来の彼方だし、この時代の本人に会えたら確認してみよう。

そしてツバサさんの状況もある程度分かったというか肝心な所は分からないのだけど、やっぱり俺がこちらに参加する意味は浮かんでこない。


「やっぱり俺には心当たりが無さ過ぎるな。」


するとアンドウさんが今日も深いため息で疲れた表情を浮かべる。

きっとツバサさんの事で最近は夜も寝かせてもらえな・・・ゴホン!夜も寝られなかったのだろう。


「は~~~お前の無意識に得ている人脈が羨ましいぞ。」

「そう言えば京に居る贄の女性については何か分かったのか?」

「そちらに関しては問題ない。俺の方で調べた結果では腐敗しているのは支部だけだ。それに京には陰陽寮という別の機関もあるからな。流石の魔物たちも好き勝手できていないみたいだ。」


そうなると京都は最後にして次に近い所なら広島の方か。

この時代なら毛利元就が最有力だな。


「それなら俺は次に広島の支部に向かう。」

「場所は確か厳島だったな。」

「一応は神の島と言われている所だ。あんまり気乗りしないけど行くしかないだろうな。」


あそこは弁才天を祀る場所でもある。

居ればきっとあの理不尽な奴の事だから確実に姿を現すだろう。

その他にも俺達の良く知る海際にあるあの社ではスサノオの娘さんが3人ほど祀られている。

しかもこの中のイチキシマヒメは子供の守護神と呼ばれているとても立派な神様だ。

これはアケとユウの為にもしっかりと参ってお賽銭を奮発しておかないとな。

弁才天さえいなければ本当に良い所だと思うんだけど・・・。


すると落ち込んでいる俺に天皇がホクホク顔で話しかけて来た。

まあ、大学芋もホクホクで美味しいんだけど、俺の言っていた提案も上手く受け入れられたみたいだ。


「お前の言っておった広告塔というのは無事に了承を得られたぞ。これで食卓が華やぐじゃろうて。」

「それは良かったですね。明日には本州に送って行きますから今日は早めに休んでください。」

「それとじゃ。どうやらゲンたちが京まで送ってくれるそうじゃ。」

「良いのか爺さん。一応は支部長だろう。」

「大丈夫じゃよ。お前らのおかげであの地の魔物は枯渇寸前じゃ。儂が居らんでもどうにかなるし留守はヒルコに任せて来た。それに本部のある京には一度足を運んで説明をする必要が有ると思っておったしな。」


確かに支部は組織の一部でそれが最弱と言われる玄武だとすれば事情を正確に知らなければ吊し上げを喰らっているかもしれない。

爺さんはかなりの実力者で有名人らしいから説明に行くには丁度良いだろう。

広島の方ならある程度の土地勘もあるし、人の暮らす町並みは違っても海岸線が変わっている訳じゃない。

多分だけど辿り着くだけなら難しくないはずだ。


「それならそっちは任せるからな。」

「弛んでおる本部の奴等にちょいと喝を入れて来るわい。」


爺さんはそう言って楽しそうに笑ってるけど、この笑っている時が一番危ないんだよな。

きっと本部に血の雨が吹き荒れるのは間違いない。

出来れば普通の人間で死者が出ない事を期待する。


「死なない程度に程々にな。それと出立までにアンドウさんと話し合いも済ませておいてくれ。」

「それはゼクウの担当じゃから大丈夫じゃ。こ奴も馬鹿げた争いで家族を失いたく無かろう。」


すると爺さんは話を横に居るゼクウへと振った。

彼も真剣な顔で頷くと少し離れた所で楽しくお喋りと甘味を楽しんでいる家族へと視線を向ける。


「そうですね。今では争いに仲間をも疑わなければならなかった頃が愚かな時だと自覚してますよ。やはりこの世は愛と安らぎで満たされるべきなのです。その第一歩として飢えのない事が必要不可欠でしょう。」


確かにこの時代は何が一番不足しているかと言えば食料で間違いないだろう。

現代と違い毎年多くの人が飢餓で死んでいるので争いの理由もそれが原因だったりする。

戦をして勝てば略奪が許され、兵士が死ねば簡単に口減らしが出来る。

だからと言ってそれが全てではないけど食べ物が充実すれば争いが減る。

それ以外で支配が目的な奴らに関してはこちらも武力で対応させてもらう。


「食料に関して今年は無理でも来年からはかなり改善するはずだ。それ以外の奴等は無理やり黙らせる準備が出来てるから心配するな。」

「ええ、期待していますよ。誰もが争いが無い将来を夢見て居るはずなのに、その為に争わなければならないこの流れを断ち切ってください。」

「ああ。」


ちなみに次に行く土地はもうじき毛利によって支配が完了するそうだ。

彼は日本の覇者になろうとはしていないらしく、天皇家とも付き合いがあるのであそこは平和に向かっているらしい。

なんでも既にアンドウさんが話を通していたらしく、九州の北部を支配していた大内家が家臣に殺された時に動いたそうで、その時の首謀者も始末済みなのだそうだ。

それにより毛利が当主の居なくなった土地を素早く支配し、今では一大勢力となっている。

アンドウさん曰く、ちょっと歴史を先取りしただけと言っていた。

後は魔物を一掃すれば平和な時代を謳歌できるだろう。


そして本州の中部を織田家、北部を伊達家に任せるのが今のところ当面の計画だ。

でも、これらに関しても今後の状況次第だろう。

なにせ織田信長であるらしいツバサさんがここに居るのでどうなるか分からない。

それに2人が揃って視線を逸らす部分もあってまた何かやらかして帰って来たのだと分かる。

ただ、あの辺は戦国時代でも有名な武将が多くて激戦が繰り広げられた地域でもある。

恐らくは俺やアンドウさんが動いて積極的に鎮圧する必要も出て来るだろう。

そうすれば色々とやらかすだろうから今の時点でやらかした事なんてたかが知れてる。

例えば何処かの家の当主をウッカリ殺しちゃったみたいな事でもない限り。


それに出来れば誰も無駄に死なない様に理解を持って行動してもらいたいものだ。

その後も色々と話し合いが続いていたけど俺には理解できない難しい内容になって来た。

まるで学校で歴史の授業を聞いている様で、夢にうなされそうな気がする。


「悪いけど俺は脳が震えて限界を訴えてるからそろそろ寝るよ。」

「自虐行為はしないでくださいよ。」

「ああ、それじゃあおやすみ。」


俺はツバサさんのツッコミに軽く手を振ってその場を離れるとアケとユウの所へと向かった。

どうやらこちらは既にお眠の時間でミズメを枕にして寝息を立てている。


「悪いな。そろそろ寝かしつけるよ。」

「良いのよ。それよりも早く寝ましょ。」

「そうだな。」


そして俺達は境内の隅に大きめのテントを出すと4人で中へと入って行った・・・4人?

俺は変に思って周りを見るとアケとユウを中央に寝かせその反対側へとミズメも寝転がっている。

どうやら既にここで寝る気で居るようだ。


「何やってるんだ?」

「何ってここで寝るんじゃない。寒いからもう1つ毛布を頂戴よ。」

「俺もここで寝るんだけど。」

「・・・他の所だと何か起こりそうで不安なの。」


するとミズメは本音を口にして表情を曇らせた。

確かにしばらくは様子を確認するために俺達の近くで行動を共にするのが安全でアケとユウが居れば女性特有の所でも同行が出来る。

俺は軽く苦笑を浮かべると注文のあった毛布を追加して渡してやり、ついでに枕も付けてやる。


「ありがとう。・・・何これ、凄く柔らかいわよ!」

「綺麗に使えよ。あんまり数は無いんだからな。」

「う、うん。でもこれを使うといつもの枕で寝れなくなりそうね。」

「確かにな。」


この時代の枕は高くて硬いのが一般的で、俺は最初の時に即行で部屋の隅へと追いやった。

アレを使うなら無い方が安眠できるだろう。

ちなみにアケとユウはそれぞれに黒い熊と白い熊の縫ぐるみを枕にしている。

これは誕生日の近かったアケミとユウナの為にプレゼントの一つとして買っていた物だけどきっとここで使っても許してくれるだろう。

現代に帰ったら新しく買い直せば良いだけだ。


そう言えばこうして寝るのも数日ぶりになる。

明日からも忙しいので安心して眠れるメンバーが周りに居る今日はしっかりと寝ておこうと思う。

そして俺はテントの入り口を閉めると明日に備えて眠りに落ちて行った。

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