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15 準備 ③

俺は理事長が力を手に入れたのでその説明を行った。

そして納得してくれたようで大きな頷きが返って来る。


「そうか。まだ、力を手に入れる条件は不明か。」

「ええ、ウチの家族は生き返った時に。ユウナは助けた少し後に。その両親は生き返った後で。スナイパーの数人は魔物を倒した後です。」


ただ、スナイパーだけはもしかすると魔物を倒したことに意味があるのかもしれない。

でも、それぐらいの事しか今は分かっていなかった。

すると理事長は少し悩んだ後に重い口を開いた。


「実はこれは一部の者だけの極秘事項なのじゃが、生き返った者の中に同じ症状を起こした子供が数名いたと報告があった。」

「全てではなくですか?」

「そうじゃ。そして、残念な事にそれらは全員、親の強い要望でNoを選択しておる。親としてはよく分からん質問にYesとは答えさせたくなかったんじゃろう。ところでこの事実を知っているのはお前らだけか?」

「こちらのツキミヤさんに報告済みです。」

「俺はその日の内に報告書を提出済みです。」


俺が話を振るとツキミヤさんは即座に返事を返してくれた。

と言う事は、何処かで報告が止まっているか伝達が遅れたかのどれかか。

それとも彼らの中にメッセージを受け取る可能性がある事に考えが至らなかったのだろう。

情報が伝達されていなければ子供の身としては親の指示に従うしかない。

これは仕方がない事なので誰にも責められない事だ。


「それなら儂の方で手を回し、それでもYesを選んだ者が居ないか探させよう。聞いた話では物理でのダメージを受けんのじゃろ。」

「はい。俺は30メートルほど上から頭頂ダイブをしましたけど痛みすらありませんでした。」

「そうか。ならば血液検査か点滴と称して確認してみよう。」

「お願いします。」


俺達だと傷害事件になりそうなのでこういった所はお願いした方が良い。

それにしても理事長も俺の言葉に驚かなくなっているようだ。

普通は飛び降りたと聞くと何かしらの反応があるんだけどサラリと流されてしまっている。


「それで、理事長はこれから俺達とダンジョンに向かいますか。魔物を倒せばスキルが得られますよ。」

「そうじゃな・・・。ウム、ならば少し同行するか。」


理事長は少し考えた後に頷いて答えた。

それなら今日は素早く2階層までを処理して4階層に進むめば良いだろう。


そして、ダンジョンに到着するとそこには3名の男性が待ち構えており、その服装と顔には覚えがある。

この人たちはあの晩にホブを倒して力を手に入れた人たちで間違いないだろう。


「要請を受けて急いで来たよ。」

「やっと検査から解放されました。」

「今日からよろしく。」


これで父さんズがくればフルメンバーになる。

まずは情報の共有を行い、更に前衛と後衛でどちらのタイプかの確認をしなくてはならない。


「皆さんの中で魔力が高い人はいますか?」


すると全員が首を横に振っているのでどうやら全員が前衛タイプみたいだ。

もしかすると初めての斥候タイプの可能性もある。

まあ、ステータスで強化できるのは3つなので後はスキル構成が大事になる。

確か補助系に気配遮断とかもあったはずなので方向性は色々と決められる。

ちなみに理事長は魔力が高いので魔法使いタイプなので早くスキルを選択可能にしてもらう事にする。


そして中に入るとゴブリンを見つけて倒してもらいスキルを覚えてもらった。

選べるスキルは2つだけど敵を剣で倒しているのでもれなく剣術は覚えている。

なので理事長は攻撃魔法と回復魔法を習得し、他の3人は身体強化と気配遮断を選んでいた。


「そう言えば3人の名前は聞いてませんね。」

「すまないが俺達は本名を名乗れないんだ。だから好きに呼んでくれ。」


そう言えば特殊部隊の人は身元を明さないとかテレビで見たことがあるので適当に名前を付けるのが一番だろう。

どうせ俺達の事もテレビに出たら少年Aとか少女Aとかになるんだろうからな。


「ならハジメさんと信二シンジさんと一二三ヒフミさんで。」


俺が適当に付けたけど3人とも頷いて問題がない事を示してくれる。

その後3階層までを掃討して4階層へと訪れた。

そして今日の調査はこの階に発生している魔物の数だ。

今の所連日の調査で各階層で1日に発生する数は10匹と分かっている。

そして、この階層は昨日狩り尽くしたので確認は初めてだ。


「居ましたね。」

「近くで見ると思ってたよりもデカいな。」


そんな感想がハジメさんの口から洩れる。

あの時は夜でスコープ越しだったから分からなかったのだろうな。


「それじゃあお願いしますね。」

「ああ、発砲の許可は下りてるからな。」


そしてハジメさんはここへ持ち込んでいる銃を構えた。

サブマシンガンなどではなく普通のハンドガンだが、効果を確認するだけならこれで十分だ。


「耳を塞いでおいてくれ。」


その声でみんな耳を塞ぎリリーも地面にしゃがんで器用に前足で耳を塞ぐ。

そして発砲と同時に銃弾が飛び出すとホブに命中した。

しかし、ホブにダメージを受けた様子はなく、こちらに気付いて元気に駆け寄って来る。

次にシンジさんが手に拳大の石を握り、それを全力で投げつけた。

するとそれは見事に頭部へと命中し少しだが傷を負わせることが出来ている。


「どうやら銃はダメで投擲なら問題ないみたいですね。」


検証が終わりモブは周りの皆が倒してくれた。

そして俺はハジメさん達と一緒に先程の結果を話し合っている。


「以前にガラス片をマキビシにした事がありましたけど、あれはもしかすると投擲と判断されたのかもしれませんね。」

「そうだな。この調子だと地雷も効果が無さそうだ。」

「飛べるわけではないので落とし穴も有効かもしれませんよ。地上の調査はどうなってますか?」


ここは地下ダンジョンなので地上から穴を掘ると突き抜けてしまうかもしれない。

それを心配したのだけど。


「調査の結果、町の下にこんな巨大な空洞は無いそうだ。もしかするとあの入り口は異界へのゲートの可能性があるな。」


もしかしたらと思ってたけどやっぱりそうだったようだ。

と言う事は、ここに生き埋めにされたら掘っても外には出られないという事になる。

まさか埋めただけで安全になるなんて考えてないだろう。


「それなら、ここは周りを工事してますけど入り口ごと埋めるとか案は無いですよね?」


すると俺の質問に彼らの表情があからさまに歪む。

どうやら手段の候補としては挙がっていたようだ。


「案はあるが・・・今のところ有力ではない。」


これはちょっと気を付けないとダンジョンから出られなくなる可能性もありそうだ。

念の為にこの体で何日なら食べなくても生きられるかを確認しておくべきかもしれない。

水に関しては魔法でどうとでもなるが食料に関しては絶望的だ。

しかし政府の決定を立場上は一般人の俺達が変えられるはずもないので最悪を想定して覚悟だけはしておくことにした。


「バカをしてダンジョンから魔物が溢れない事を期待するしかないですね。」

「ああ、他の2カ所の様な事は御免だからな。上の責任で泣きを見るのはいつも現場にいる俺達だ。」


そう言って3人は少し遠い目をしているのできっと昔に痛い目を見た事があるのだろう。

そして今日予定していた検証も終わったので本日は終了となった。

外に出てハジメさん達と別れ、他のメンバーは俺の家に向かう。

こうして見るとダンジョンは100メートル位しか離れてはおらず、周りに住んでいる人も避難しているのでとても静かだ。

あの防壁が完成すれば少しは帰って来るだろうか?

それとも、もう誰も帰って来ないかもしれない。


そして理事長も家の前に置かれている高級車に乗り込むと軽く手を振って帰って行った。

なかなか様になってるので本当に元気な爺様だが、あれで70歳を超えているのだから驚きだ。

それにあの調子ならあと30年は余裕で生きられるだろう。


そして家に入ろうとすると再び車が家の前に停まった。

今日は本当に客が多い日だと思っていると車自体には見覚えがある。

それもその筈、今朝も家の前に来ていたからだ。

ただ、ここに来たのはあの政府の男ではなくツキミヤさんだけで彼は車から降りるとその場で高らかに声をあげた。


「き、来たぞ。とうとう来た。」

「来たって何が。便秘でも治ったのか?」


人によっては大変だというからこの慌てようも納得が出来る。

有難い事に俺の知る人には便秘で悩んでいる者はいないが、彼が栄えある1人目かもしれない。

そしてツキミヤさんも既に親しい相手と言えるくらいには深く関わっているのでウチの家族は拍手をしながら「おめでとう」と言葉を送った。


「ち、違うわい!それよりも来たんだよ要請が!」

「ああ、そっちか。」

「か、軽すぎだろ!もっと驚けよ!」


驚けと言っても来ると分かってたので驚き様が無い。

ただ、要請と言うがどれ位の金額で俺達を雇ってくれるというのか。


「それで報酬は?」

「1人に1000万だそうだ。」

「あの状態を鎮静化させるのに俺達だけでも8000万か。・・・安いな。」


ダンジョンからは何百という魔物が溢れ出しており、この数日で更に数も増えているだろう。

そこで命を懸けろと言う割には少ない気がする。


(まあ、アケミの為の学費にはなるから丁度良いか。)


すると今度は我が家の車が帰って来たのだけど、そこからは当然のように会社に出勤したはずの父さんが姿を現した。

続いてパトカーに乗せられたリクさんが現れたので、どうやらお膳立てはあちらで済ませてくれたみたいだ。

ただダンジョンに入っている人物は名簿で把握されているので当然と言えない事もない。


「ハルヤ。警察から会社に連絡があって早退させられたんだが何があった?」

「ハルヤ君。俺の所も急に警官が来てこの有様だ。さっそくで悪いが説明を頼む。」


どうやら二人とも理由は聞かされずにここに帰って来たみたいだ。

しかし、俺もまだ詳細は聞いていないので、そちら関しては目の前の刑事ことツキミヤさんにお願いするしかない。


「俺もさっき知った所なので皆で説明を聞きましょう。こちらからも幾つか報告がありますし。」


そして集合してそれぞれに席に着くとまずはお茶の準備をして改めて話を聞ける態勢を作る。

その間にリリーは父さんが早く帰って来たから大はしゃぎでジャレ付いている。

そして床に腰を下ろすと足の上に体を滑り込ませて子供の様に甘え、その光景を見て俺達は微笑ましい視線を向ける。

そんな中で普通の感覚を持ち合わせているツキミヤさんは咳ばらいをすると注目を集めて話しを始めた。


「それでは説明します。」


そう言って座卓に地図を広げて一点を指し示した。

そこはここから北に300キロほど行った所にあり、2つある内で近い方のダンジョンになる。


「目的地はここで近くの空港に自衛隊のヘリが待機しています。皆さんはそれに乗って現地へと向かって頂きます。」

「俺達に拒否権は無いみたいだな。」

「悪いな。要請と言っているが懇願と言った感じで頼まれた。その代わり色々と情報も仕入れさせてもらった。」

「それなら今の時点で一般には出回っていない情報は持っているか。ネットは規制されていてテレビでも手に入る情報が偏ってるからな。」

「それなら他の国からの情報も入手出来てる。場所によっては日本よりも酷い状況みたいだが、主に時間帯が良かった国は対応に成功しているようだ。」


ここより酷いって事は既に周辺が魔物によって制圧されて生存圏を奪われた国があるって事になる。

いったいどの辺の国かと頭に思い浮かべると位置的にはオーストラリアかモンゴル辺りかもしれない。


「それで、さっきの話だと1人1000万の報酬があるそうだけど、それはしっかりとした契約書を交わしてくれるんだろうな。後で知りませんじゃあ俺らはこの国を捨てて他に移るぞ。」


これは半分嘘だけどそれも視野には入れている。

命がけの戦いに強制参加させた挙句に嘘までつかれたら今の俺達でも流石に怒る。


「大丈夫だ。ここに書類も預かってるからな。」


そして差し出された紙を父さんズがしっかりと確認しているので流石は会社に勤める社会人はちゃんとしてる。

俺なら受け取っても中身をちょっと見て契約内容も読まずに収めていただろう。


「この内容なら問題は無さそうだし生活の足しにもなりそうだな。」

「ウチも娘の学費に丁度良さそうだ。」


リクさんの考えは俺と似ており高校の次は大学もあるのでお金は沢山あるにこした事はない。

それに早く鎮静化させなければ新学期も迎えられないので進学に響く事も考えられる。


俺達はサインを書き込んで契約を交わすと外に待機していたパトカーに乗せられて空港へと向かって行った。

こういう時は周囲に人がいなくて良かったと感じる。

傍から見れば犯罪集団が逮捕されてパトカーで搬送されている様に見える。

そして市街地を抜けて高速道路に乗り空港に到着すると俺達は現地へと向かって行った。

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