146 告白
町に帰り海賊たちを陸に上げると全員が安心したようにその場に座り込んだ。
さっきの恐怖の後なので仕方はないけど、君たちは犯罪者である事を忘れないでもらいたい。
そして恐らく40人は海賊船に乗っていただろうけど回収できたのは10人にも満たない。
それ以外は殆どが鮫の魔物に食べられ海の藻屑となっている。
そして今は爺さんの尋問によって情報を聞き出されている最中だ。
でも命を助けられたからかそれとも下っ端しか残っていないからかまるで口に油でも塗っているかの様にペラペラと喋り始めた。
「それで、お前らは何処の海賊じゃ?本州の方から来たと聞いておるぞ。」
「へ、へい。俺達は元は村上の一派でやす。いつもならこんな事をする集団じゃあねえでやすが少し前からお頭の考えが変わっちまいやして。今では3つある各家がいがみ合っておかしな事になってるしだいでやす。」
村上と言えば現代で言う所のしまなみ海道の辺りを本拠地とする海賊の事だ。
それに彼らが戦に参加していた事があるとは聞いた事はあるけど、コイツ等のように一般人の虐殺をしていたとは聞いた事がない。
何でも普段から漁をしたり、岩礁地帯などの危険な航路を他の船が通る時に案内人などをしているはずだ。
その対価として荷物やお金を取るので海賊の様に思われていたと以前に本で読んだ事がある。
それとも俺の知る歴史の方が間違っているのかもしれないので、まずはこの男達の話しを聞いてから考えようと思う。
「それでおかしな事って何なんだ?」
「それが俺達は元々が因島に居を構える一派なんですが隣の能島の連中とはそれなりに仲良くやってたんでやす。それなのにお頭がそこの連中を襲撃してそこの頭に重傷を負わせちまいやして。」
「それって良くないのか?」
「当たり前でさ!そいつ等とは付いてる陣営も一緒で肩を並べて戦う事はしても攻撃しちゃあ裏切りでやす。俺達はそれに異を唱えた奴らの集まりでやんすが教育と言って非道な事を強要されてたんでやす。」
「それならいっそ海賊を抜けるか武器を持ってるんだから戦ってみれば良いだろ。」
力が全てのこの時代に口で言うだけでは効果は無い。
自身の力で意思を伝えないと得られるのは相手の反感と暴力だけだ。
それはこの体の持ち主である子供のハルですら知っている。
「言っても信じてくれるか分からねえでやすが、さっきの船に乗ってた奴の半数は人間じゃねえでやす。怒ると化物みたいになって人間なんて布を絞るみたいに簡単に殺しちまうんでやすよ!」
「いや、信じるよ。」
「ほ、本当でやすか!」
すると男達は少しだけ嬉しそうな顔になると恐怖に染まった顔に笑みを浮かべる。
しかし、その直後に俺の背後にある海から水柱が上がり、20程の影が姿を現した。
「やはり教育が足りなかったようだな。」
「ひ、ひーーー!お、お頭ーーー!!」
「貴様らは苦しめて苦しめて苦しめて声も出ない程に絶望させて殺すつもりだったが気が変わった。お前らはこの町諸とも皆殺しだー!」
「ひえーーー!」
すると海賊たちは全員が再び顔を恐怖一色に染めると表情を引き攣らせながら俺に視線を向けた。
すると1人の男が立ち上がりこちらへ向かい駆け出して来る。
しかし俺の横を通り抜けると魔物へと体ごとぶつかって行った。
「お前らは逃げるでやす!ここは俺らが抑え込んで時間を稼ぎやすから!」
「邪魔なんだよ!」
すると魔物は手に持った棍棒で男の背中を突き刺し地面へと縫い付ける。
そしてその男が意識を無くす寸前まで呟いていた言葉は「逃げろ」だった。
「奴は見所のある漢じゃったな。」
「ああ、それにコイツ等にはまだまだ聞きたい事がある。それと別の意味でも生かして帰すつもりは無い。」
コイツ等は恐らく、あの鮫に気を取られている間に海の深くまで潜って身を潜めていたのだろう。
でも別に相手が魔物だから逃がしたくない訳ではなく、コイツ等の外見が問題で蛸や烏賊の様な姿をしているからだ。
確かに下半身だけ!・・・は人間らしく二足歩行をしている。
今もそれで地面に足を着けて立っているけど、上半身はまるで軟体動物の様にウネウネと動き複数の触手が蠢いている。
コイツ等の事は断じてアケとユウに見せる訳には・・・。
「お兄ちゃんお帰り~。」
「見てください。話を聞いた漁師さんがお魚をくれましたよ~。」
すると他の座り込んだ男達も立ち上がると魔物に向かって走り出し特攻をしかけ始めた。
「お前ら逃げろ。コイツ等は女と見たら見境がねえ!」
「ボロ雑巾の様にされて食われちまうぞ!」
ああ、そんな事だろうと思っていたよ。
俺は男達が言い終わる前には既に動き始めており両手に刀を握っていた。
そして最初の蛸の頭を3等分に斬り裂き、その横に居る烏賊を輪切りにする。
更に魔物の間を縫う様に走り抜けて手足を斬り取って再生と変身が不可能な程にバラバラにし、全てが地面に落下するよりも早く連続の咆哮で海へと吹き飛ばした。
「フ~危なかったぜ。危うく2人に卑猥な存在を記憶させるところだった。」
「お前は時々凄いのか馬鹿なのか分からなくなるわい。」
「何を言ってるんだ。俺は未来永劫良いお兄ちゃんだぞ。」
「馬鹿な所を否定せんのはお前らしいのう。」
そして俺は一瞬で邪魔な奴らを始末し、先程倒された男の許へと向かった。
「ゴホ!」
「生きてるとは運の良い奴だな。これならさっきのポーションで十分そうだ。」
「お前は馬鹿なのか優しいのか分からん奴じゃな。」
「俺は未来永劫、優しいお兄ちゃんだ。」
「やっぱり馬鹿な所は否定せんか。」
外野がさっきから五月蠅いけどポーションを飲ませると傷は綺麗サッパリ消えて穴の開いている服からは綺麗な肌が見える。
肺の半分が潰れていた程の傷が治り、複雑骨折も治っているので俺の知っている中級ポーションと同じくらいの効果はありそうだ。
出来れば部位欠損まで効果が出るのかを確認したかったけどあの傷で手足を切り離す程の傷を与えると死んでしまうかもしれない。
まあ、終わった事を悩んでも仕方なにのでこれはこれで良しとする事にした。
すると近くまで来ていたアケとユウはそのまま俺の体に抱き着いてくる。
その顔は別れる時と違い太陽が霞む程に眩しく、もうじき夕方だというのに周りが昼の様な錯覚を覚える。
「ただいま。魚を貰えたんだって。」
「うん。これ以外にもたくさんくれたんだよ。」
「兄さんとお爺ちゃんが海賊を退治してくれるって宿の人が言って回って短い時間だけど沢山の人が漁に出てくれたんです。」
「そうか。それなら今日は美味しい魚が沢山食べれそうだな。」
「「うん!」」
「だから早く帰ってお風呂に入ろ!」
「お背中を流しますね。」
俺は2人を抱きしめてからその手を握ると仲良く宿へ向かい歩き始めた。
こうしているとアケミとユウナの2人と一緒に歩いている様だ。
「奴もあの2人には形無しじゃのう。」
「あれがさっきの奴らを一瞬で片付けちまった子供だとは思えないでやす。」
「鬼神かと思えば妹思いの優しい奴とはな。」
「まあ、あんな奴じゃが怒ると怖いからのう。今の内に知ってる事を話して楽になれ。奴も敵対しなければ簡単には人を殺さんからな。」
「それだと敵対したら命が無いって事ですかい。」
どうやら爺さんが俺をダシに飴と鞭を使い分け、情報を聞き出してくれてるみたいだ。
あの調子ならすぐに話を終えて宿に戻って来るだろう。
俺は少しの時間、柔らかくて小さな手の感触を感じながら宿へと向かって歩いて行った。
そして宿に到着すると厨房から料理をしている音と匂いが漂って来る。
気になって中を覗くとそこには何故かミズメとモモカさんが料理を手伝っていて右へ左へと駆け周っていた。
「2人とも何してるんだ?」
「あ、お帰り!見て分からない。夕食まで時間が無いから手伝ってるの。」
どうやら、食材が届いたのはついさっきみたいで活きの良い蛸が壺から脱走を試みている。
海産物の蛸や烏賊まで敵視するつもりはないのであちらは良しとして、匂いからすると煮つけ、塩焼き、アラ汁だろう。
それ以外にも刺身や魚飯なども作っている様でまるでここだけ戦場を思わせる程の熱気が漂っている。
するとモモカさんは前掛けを外しながら逃げ出そうとしている蛸に止めを刺すと仕事をしているミズメに声を掛けた。
「もう大丈夫だからあなたはお風呂に入りなさい。私はあの人が帰って来て時間があったら入るから。」
「え、は、はい。それではお先に失礼します。」
そう言ってミズメは軽く頭を下げると上の階へと上がって行ったのでタオルでも取りに行ったのだろう。
俺は既にタオルは持参しているのでそれを3枚取り出してアケとユウにも手渡し準備完了だ。
「それじゃあ入りに行くか。」
「「うん!」」
こうして2人と一緒に風呂に入るのは初めてで河原で一度は入った様な物だけど、あの時は洗う方が大変で殆ど風呂に入れなかった。
そして服を脱がしてやり、俺も服を脱いで扉を開けるとそこには大きな岩風呂が待ち構えている。
それに少し空気が冷たいので湯船からは沢山の湯気が上り夕日の光に照らされて幻想的な光景が広がっていた。
「わ~い!」
「大きなお風呂です!」
すると2人は揃って湯船に飛び込むとお湯を掛け合って遊び始めた。
その楽しそうな姿に、やっぱり連れて来て正解だったと笑みが浮かぶ。
「お兄ちゃんも早く~。」
「一緒に遊ぼう~。」
「よ~し。俺も混ぜてもらおうかな。」
今日の宿泊客は俺達だけなので今は俺達の貸し切り状態だ。
他の客が居れば注意をしていただろうけど、今だけは少し童心に帰り遊びに興じる事にする。
そして少しすると外に人の気配を感じ服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえ始める。
すると扉が開いて誰かが入って来たけど、湯気と日差しの関係でシルエットしか見えない。
そして湯船の前で掛け湯をするとゆっくりと湯に浸かり小さな溜息を零した。
「ふ~、いいお湯ね~。」
その声は明らかにミズメの声なので、もしかするとここの湯は混浴だったのかもしれない。
俺はタオルを腰に巻くとアケとユウの手を取り、そちらへと向かって行く。
するとそこには肩まで湯に浸かり、気持ち良さそうに全裸で手足を伸ばすミズメの姿があった。
「ヨッ!」
「・・・。」
すると驚かせない様に気配を抑えて近寄って声を掛けたのに、こちらを凝視して固まってしまった。
今は子供のはずなのにどうしてそんなに意識するのだろうか。
「き・・き・・・。」
「きゃ~~~!」
「それは私のセリフでしょ!」
どうやら先にセリフを取ってしまったので怒らせてしまったみたいだ。
でも恥ずかしいなら早く前を隠せば良いのに体を起こしたせいで胸が全部見えている。
ただ、あちらも子供なのでストン!ではないけど目立っているとは言い難い大きさだ。
「隠さないのか?」
「・・・もう良いわよ!そ、それに・・・そんな事を気にする様な綺麗な体じゃないから・・・。」
そう言って少し暗い顔になると寂しそうに笑って見せた。
その顔が無性に俺の胸を騒めかせ、右手が自然とその頭へと乗せられる。
「何、憐れんでるの?」
「かもしれないな。ただ、そんな顔のお前を見てると胸がザワザワするだけだ。」
「そうなんだ。フフフ・・・。」
すると何故かミズメは暗い顔から一転して声に出して笑い始めた。
人が原因不明な胸の違和感を訴えているというのに笑うとは酷い奴だ。
コイツがこんなに薄情な奴だとは思わなかったけど、その笑い声を聞いていると思いに反して胸の騒めきは消え去って行く。
俺は不思議に思いながら右手を頭から下ろすとミズメの横へと腰を下ろして肩まで湯に浸かった。
すると俺の左右にアケとユウが滑り込み肩を寄せて来る。
「もう遊ばないのか?」
「防壁!」
「安全の為です。」
しかし俺の問い掛けに返って来たのは意味不明な言葉だった。
なんだか真剣な顔をしているのでそれで良いなら好きにさせる事にする。
「3人とも仲良しね。私の所とは大違いだわ。」
「お前の所はどうだったんだ?」
「私の所は誰も大事になんてしてくれなかったわ。災いを呼ぶと言って蔑まれ、虐待されてもう少しで殺される所だったの。そんな時に組織の人が来て私を買い取って行ったのよ。みんな喜んで私の首に縄を掛けて突き出したわ。そして、そのままあそこに入れられてそれまでが生温いと思えるほどの苦しみと辱めを受けたの。だからその・・・助けてくれた時は疑ってごめんなさい。」
そう言ってミズメは恥ずかしそうに顔を背けた。
しかし、こういう時の言葉は別にあるはずだ。
「俺が聞きたいとすれば謝罪じゃないんだけどな。」
「・・・う~~~!分かったわよ。助けてくれてありがと。これなら良いでしょ。お礼なんて言うの初めてなんだからね!有難く受け取りなさいよ!」
「ハイハイ。ありがたく頂戴しますよ。それよりもさっきから言おうと思ってたんだけどな。」
「何よ!?」
「前ぐらい隠したらどうだ?流石の俺も目のやり場に困るぞ。」
とは言っても視線を逸らしていないので先程からバッチリ見えている。
まあ、本人が良いならそれは自由なんだけどな。
「もう、うるさいわね!こうなったらこうしてやるんだから!」
するとミズメは大胆に立ち上がると俺に飛び付いて抱きしめて来た。
そして発展途上ながらも膨らみを見せている胸が押し付けられ柔らかい感触が伝わってくる。
(それにしてもダメージは通さないのにこういう感覚は伝えてくれるので本当に不思議な障壁だな。)
しかし、まだまだ膨らみ始めたばかりの胸を顔に押し付けられても・・・痛い?
俺にこんな感覚を与えるとはある意味では凄い事なのかもしれない。
「おい、そろそろ離れろ。こう言う事はもっと大きくなってから・・・。」
「にゃ、にゃにお~!こう見えても最近は少し大きくなってきたんだからね!」
「だからもっと成長してから・・・。」
「アケさんユウさん、貧ヌ~の良さを分からせてあげなさい。」
「分かったのだ!」
「お任せあれ!」
するとミズメは何処かの御老公みたいな事を言って2人も巻き込み俺を揉みくちゃにしてくる。
そこにはさっきまで在った警戒心も悲壮も感じられず、明るい少女の笑い声と笑顔が浮かんでいた。
すると外から宿の従業員が声を掛けてきて食事の準備が終わった事を教えてくれる。
どうやら爺さんとモモカさんは食事前の入浴に間に合わなかったみたいだ。
でもこんな光景を見られると誤解されそうなので来なくて良かった。
・・・そう思っていたのだけど脱衣所に入ると凄く良い笑顔のモモカさんが「仲が良いわね~」と言って出て行った。
どうやら今のやり取りは一部始終聞かれていたようだ。
「ハル。」
「なんだ?」
「今がとても幸せよ。」
「アケもだよ!」
「私だってそうです。」
何が言いたいのかは分からないけど幸せなのは良い事だ。
さっきみたいに暗い顔をされていると俺も精神衛生上あまり良い気がしない。
これから出かける時に希望が有ればなるべく3人を同行させてやろうと思う。
綺麗な物を見て、美味しい物を食べて、更に幸せを感じられれば昔の事なんてどうでも良い事になるかもしれない。
俺は溜息を零しながら前も隠さずにいるミズメに大きめのバスタオルを掛けてやり、他の2人の許へ髪を拭きに向かう。
「ありがとう・・・ハル。」
「お前も少しは自分を大事にしろよ。それと俺にくらいは我儘を言え。受け入れてばかりだといつか我慢が出来なくなるぞ。」
「うん。」
そして俺達は服を着て身嗜みを整えると部屋へと向かって行った。
するとそこには海の幸を生かしたご馳走が並び、俺達を出迎えてくれる。
どうやら話に聞いていた通り、ここの料理はとても美味しそうだ。
これなら3人も満足してお腹いっぱいに食べられるだろう。
その後は料理に舌鼓を打ちながら全ての料理が無くなるまで食事を楽しんだ。




