134 一段落
クレーム処理を終えてツクヨミの前に戻ると、アケとユウが一緒に御手玉をして遊んでいた。
少し忙しくて午後からあまり構ってやれなかったので相手をしてくれて有難い。
これが腹黒のアマテラスなら全力でお断りする所だけど、話した感じではツクヨミの方は真面そうだ。
顔は似てるけど目の届く範囲でなら安心して任せられる。
「こっちは終わったぞ。」
「ご、ご苦労様です。よっと・・・。これで・・・きゃっ。平和は保たれました。・・・おっと。」
しかし御手玉と言っても遊びながら言われると危機感も半減してしまう。
ただ、アケとユウは少し前まで遊ぶ時間や余裕すら無かったので、こうして笑いながら遊んでいるだけでもとても幸せそうだ。
これからはもっとこうした楽しい時間を増やしてやって周りを幸せに出来るような大人に成長してほしい。
「よっ・・・ほっ・・・あ~~~~。」
「わーい落とした~。」
「次は私の番だよ。」
「ふふ。でもごめんなさいね。そろそろ仕事に戻らないといけないの。」
「「え~~~!」」
「また今度遊びましょ。今日のお礼にこれをあげるわね。」
そう言ってツクヨミはアケとユウに1つずつ小さな袋を手渡している。
それを受け取って口を開けると中を覗き込んでいるけど、2人は首を傾げてツクヨミへと視線を戻した。
「何も入ってないよ。」
「空っぽ~。」
「そうね。でもそれには目に見えないけど、思い出という大事な物が入ってるの。だから大切に持っていてね。」
「うん!」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
3人は互いに笑い合うとアケとユウは立ち上がり母熊の許へと向かって行った。
俺とツクヨミはそれを見送ると再び互いに向かい合って座り視線を交わしている。
どうやら仕事モードに戻ったみたいで先程までとは違い真剣な表情を浮かべておりここだけ他とは違う空気を纏っていた。
「良かったのか。あれは唯の小袋じゃないだろ。」
変な物だと困るので一応は鑑定してどんな物なのか確認を済ませている。
問題になりそうなら後で別の物と取り換える事も考えたけど危険物ではなさそうな効果が付いているのでそのまま持たせておくことにした。
「それが分かるとは流石ですね。あれは一種の神具なのでこちらでは貴重な物ですよ。でもあれ単体だとただの小物だから問題ありません。アナタの方で何かを入れて御守りにでもしてあげてください。」
それなら丁度良い物があるのでそれを入れておこうと思う。
きっといつか2人が心の底から望む事があれば真の力を発揮してくれる・・・かもしれない。
ちなみにさっきの小袋は入れた物の効果を時間が経過する程に高めてくれる効果がある。
人間の一生は神に比べると短そうなので意味があるか分からないけど、少しは効果を高めてくれるだろう。
「そう言えば一つ頼みがあるんだけど良いか?」
「変な事でなければ少しは聞いてあげられますよ。ただし、タダとは言えませんけど。」
「ああ、それで構わない。実は浄化の出来る殺傷能力の低い武器が欲しいんだ。あっちだとアマテラスが木刀をくれたんだけどそれは別の件で弁才天に譲って今は手元にない。出来れば似た物があると助かるんだけど。」
「そういう事なら戻って相談してみます。それで、アナタは何を支払うつもりなのですか?」
「支払うと言うか互いに交換して貸し出すというのはどうだ。それで良いならこちらはこれを貸し出そうと思う。」
そして俺はフルメルト国で大蛇を倒した時に手に入れた剣を取り出した。
これはかなり強力な武器ではあるけど、この時代ではオーバーキルにしかならない。
ただ、付いている効果がツクヨミの状況に凄く適していると言える。
そして、取り出した剣を見てツクヨミの顔色が変わった
「ま、まさかそれは草薙の!・・・いえ、あれは前線でスサノオが使ってるはずよね。それにこれには強い浄化の力を宿してるわ。」
恐らくこの剣なら魂の浄化は簡単だろうけど、これで生きている人間を斬ると確実に原型を留める事なく消し飛んでしまう。
それでは蘇生も大変だし何よりも蘇生薬の数には限りがあるので何処の誰とも知らない奴にはなるべく使いたくないのが現状だ。
話を聞いた限りだとポーションの様な物はレアアイテムとして稀にドロップするみたいなので問題の起きやすい蘇生薬よりもポーションで済ませられるようにしたい。
それに出来れば複数の貸し出しを希望したいところだ。
こちらで魂を浄化しておけば黄泉での仕事も楽になるのでこれなら一石二鳥、いや三鳥と言った所だろう。
その辺もなんとか説明を終えて俺からの提案を終えた。
「確かにそれなら私達にも大きな利がありますね。」
「これは預けとくから話が纏まったらまた来てくれ。俺はしばらくここを拠点にして動く事にするから。」
「分かりました。なるべく早く戻ってきます。」
そして去り際に俺は大事な事を思い出してツクヨミを呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。そう言えばお前らはこれにアクセスできるのか?」
俺はあの時に弁才天が勝手にゴーグルを通して連絡してきた時の事を思いだし、ツクヨミにゴーグルを見せる。
彼女はそれを手にして何やら確認すると頷いて返してきた。
「問題ありませんね。これならこちらからなら意識を飛ばして連絡が可能です。もしアナタから私達に連絡しようとするならかなりの集中力と精神力が必要になると思います。それでも繋がるかは微妙な所ですね。」
そこは精神生命体としても強みなのだろう。
俺は未だにこれを使いこなせないので繋げられない可能性が高い。
「それなら贄に関して情報があれば教えて欲しい。勝手に死なれると困るんだ。」
「そう言えばアナタの目的はそちらでしたね。しかし、贄の一族ですがこの時代では多いですよ。あなた達の時代と違い1人ではなく一度に何人も生まれていて各地に分散しています。ただ私が把握している人物くらいは教えておきましょう。」
そう言ってツクヨミは俺の額に人差し指で触れて情報を流し込んでくる。
これって凄い痛いんだけど忘れないからとても便利だ。
もし俺が学生の時ならこれで教科書を丸暗記させてもらいたかった。
・・・いや、公式が分かっても問題が解けるとは限らないので一部は無理かもしれない。
結局はその辺で赤点は免れないだろうから馬鹿な考えは抱かない方が良さそうだ。
「何やらバカバカしい事を考えていませんか?普通はこれを人間にすると脳が溶けたり頭がパーになったりする程の痛みがあるのに意外と余裕そうですね。」
「それはアマテラスにも言われたな。でも俺がこれ以上パーになる事は無いと思うぞ。」
そして書き込みが終わり指を離したツクヨミは溜息と共に距離をとった。
「それでは私は戻ります。くれぐれも!くれぐれも!やり過ぎには気を付けてください。」
「そんなに念を押すくらいなら俺がやり過ぎる前に戻って来てくれよ。」
そしてツクヨミは溜息と呆れの表情を残してこの場から消えて行った。
これでようやく出発地点に立てた気分がするけど、ここは九州の南の方なので拠点としては不向きな場所だ。
早く移動して本州の中央付近か、最低でも家の近くまでは移動しておきたい。
そして頭に書き込まれた情報を確認してこれからの行動を考えることにした。
「その前にそろそろ飯にした方が良いか。」
ここに戻って来て色々あったのでかなり時間が経過してしまった。
アケとユウは空腹に慣れているので何も言わないけどお腹を空かしているのは間違いない。
俺は奥の部屋に行く時に見た竈のある場所へと向かい中を確認してみる。
すると火種がまだ燻ぶっているので火を点けるのは難しくなさそうだ。
俺は横に置いてある薪を追加して息を吹きかけてみると視界を遮る程の灰が舞い上がってしまい目の前が真っ白になった。
「あらら~。」
「フフフ。お兄ちゃんは不器用さんだね。」
「兄さんは家事がダメダメです。」
「2人とも助けに来てくれたのか。」
声のした方へと振り向くと覗き込むようにして笑っているアケとユウを見つけた。
どうやら俺の後を追って来た様で今の醜態もバッチリ見られてしまったみたいだ。
「こういう時の火起こしはこれを使うんだよ。」
「使うのです。」
そう言って2人は横に立て掛けている竹を手にして持ってくる。
見せてもらうと中の節部分は抜かれていて片方には小さな穴があけてあるので、これはキャンプ番組で時々使っている火吹き棒のようだ。
てっきりゴミかタダの棒かと思っていたけど、ちゃんとした道具だったらしい。
そしてアケはそれを俺の手から取り上げると灰が舞わない様に上手に吹き付け、簡単に火を起こしてしまった。
これでは兄の威厳もあったものじゃないけど、なんだかホワイトデーの時に皆でお菓子を作って食べた日の事を思い出す。
「それで火を起こしてどうするの?」
「料理なら私達に任せてください。」
すると2人が料理を作るのをかって出てくれけど、それだと家に居た時とそんなに変わらない気がする。
何もさせない訳ではないけど、まだ村を出てから日が浅いので少しは楽をしてもらいたい。
「それだと家に居た時と変わらないんじゃないか?」
「そんな事ないよ。ちゃんと私達も食べられるし、何よりお兄ちゃんにも食べてもらいたいの。」
「これからは兄さんの為に作れるからとっても嬉しいよ。だから任せて。」
2人とも少し見ない間に大人になって(まだまだ幼いけど)・・・。
それにしても神の力を得た影響か、家に居た時はあまり喋れなかった2人がしっかりとした口調で話が出来ている。
あの時は会話をする相手が両親しか居らず、それも怒鳴るばかりだったので言葉をあまり覚えていなかった。
でもこれなら町の人とのコミュニケーションに支障は無さそうだけど、問題は可愛い2人を誘拐しようとする人攫いが目を付けないかだ。
まあ、そんな奴が居たとしても今の2人なら余裕で勝てるけど、何かあれが俺が全力で助ければ良いだけだ。
その結果、町が半壊しようと知った事じゃない。
「それならお願いしようかな。包丁とかで俎板を斬らない様に気を付けるんだぞ。」
「「ん?」」
俺は材料を出して置くと後は任せてその場から離れようとしたのだけど、それはアケが立てた音によって止められる事になった。
『ドンッ!』
「あれ?」
その音を聞いて後ろに振り向くと包丁で白ネギを切った姿が目に入る。
しかし問題はそこではなく、手にした包丁が俎板へと深く食い込んでいる事だ。
手に怪我は無さそうだけどやっぱり力の加減を間違えたらしく、可愛らしく首を傾げている。
前に母さんも似たような事で俎板を駄目にしていたのでやるんじゃないかと思っていた。
「大丈夫かアケ?」
「う~俎板壊しちゃった・・・。」
アケは失敗をするといつも母さんに叱られて殴られていた。
その記憶から酷く叱られるんじゃないかと不安そうな顔をしている。
俺は明けの許に向かって包丁からそっと手を離させてから、その手を優しく握り締めると震えている体を抱きしめて囁くように声を掛けた。
「アケのせいじゃないから大丈夫だ。きっとこの俎板が脆すぎるんだ。だからもう一回挑戦してみよう。」
「うん・・・。」
そして今度は俺が後ろから手を添えてアケと一緒に包丁を握ると俎板から抜いて構える。
ここでのコツは包丁だけでなく俎板も装備品として意識する事で、そうすれば包丁が俎板を斬り裂く事は無い。
「良し行くぞ。」
「うん。」
『スパッ!』
「「あれ?」」
どうやら失敗してしまったようで俺の攻撃力も加算されてしまい俎板を切断しただけでなく、今度はその下のテーブルまで綺麗に斬り裂いてしまった。
まあ、これでアケの失敗は誰にも分からなくなったので結果オーライと言ったところだ。
「よし、気を取り直してもう一度・・・。」
「何がもう一度じゃ!支部の台所を破壊するでないわ!」
するとさっきの音を聞きつけて感動の再会をしていた5人がやって来た。
そして俺の手から素早く包丁を取り上げるとアケとユウを横へと避難させる。
「お前達は良い子じゃからあちらに行っておきなさい。すぐに飯にするからな。」
「「うん。」」
そして2人は台所から出ると表の方へと向かって行った。
すると残されたのは俺だけとなり爺さんの顔に鬼が宿る。
「お前は何を考えておるんじゃ!あの子たちの体の性能を考えい!せっかく儂がお茶汲みからゆっくり慣らしておった所なんじゃぞ!」
「それで2人にお茶を淹れさせてたのか。」
まさかそんな意味があるとは思わなかった。
そう言えばアニメとかで体のスペックが急激に上がったりすると私生活で単純な事からさせて慣らさせてたのを思い出す。
「じゃからしばらくあの2人の面倒は儂が見る。お前はその間に魔物の相手でもして自分達の生活費でも稼いでおれ!」
「・・・はい。あ、あと勉強も見てもらえると・・・。」
「それについても既に本人達には伝えておるわ!心配せんでもお前はお前の仕事をしとれば良いんじゃ。分かったか!」
「はい・・・。」
まさか、そこまで既に考えてくれているとは知らなかった。
ただ、俺が見るよりも爺さんたちの方が子育ての経験もあって上手く教えてくれそうだ。
それにしばらくは動き回る事になりそうなので丁度良いと言えば丁度良い。
それなら明日からさっそく行動に移すとしよう。
「なら、しばらく2人の事はお任せます。」
「任せておけ。」
「あらあら、いきなり孫が出来たみたいで嬉しいわ。孫が出来たみたいで。」
すると爺さんの後ろに居た婆さんが朗らかに笑いながら顔を覗かせる。
どうやらこの人は子供好きみたいだけど、孫と強調しているのでハナがヒルコの視線があからさまに逸れている。
でもまだ孫が居ないからってアケとユウをを養子にとか考えてないよね。
・・・でも親の愛情を知らない2人にはそれでも良いかもしれない。
ただ、もう少しあの家から離れた所の方が良いんだけど、歩いて2日の距離はかなり近すぎる気がする。
「でも俺達は親の家から飛び出して来た身なので、その辺は理解してお願いします。」
「そうなの!あんな可愛い子達なのに!。そういう事なら私達に任せなさい!」
「任せておけ!」
「お願いします。」
俺には元の時代に居る家族の記憶があるけど2人にはそれが無い。
情操教育の面から言っても俺では不可能な所が必ずあり、何処かで必ず躓く気がする。
ここは彼らに任せようと思うけど、爺さんまでやる気なのが少しだけ心配だ。
まさか俺が居ない間に村に行って両親を亡き者にしないだろうか。
拷問くらいなら別に良いのだけど、下手に殺して対応を迫られるのは少し困る。
そして、この日は野菜と猪を使った鍋となり、アケとユウは初めて皆で鍋を突きながら食事をした。
最初は戸惑っていたけど次第に打ち解けて楽しく食事をする様になり、お婆さんと爺さんは箸の使い方を丁寧に教え、とても楽しそうに食事をしている。
まるで本当の孫と接しているようなので、これなら明日からも心配ないだろう。
そして俺は先程得た情報を頭に思い浮かべ明日からの予定を決めて行った。




