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130 ヒルコの理由

俺達が掃除を終えて支部に入るとそこには一人の老人が番台に座っていた。

顔は皺だらけで長く髭を伸ばし、まさに長年を生きた老亀のようだ。

老人は目を瞑ったままこちらへと顔を向けると木札を差し出して来る。


「既に聞いておるよ。これをお前たちに渡そう。この支部で出せる最高の札じゃ。」

「根回しが良いな。他に何か聞いているか?」

「試験は成功とだけ聞いておる。」


そう言えばツクモ老から聞いた事があり昔は神からの神託を受けて魔物を狩っていたそうだ。

もしかするとこの老人が神と人間の架け橋をしている存在なのかもしれない。


「それで、この木札はどの程度の効果があるんだ?」

「一部の武将を除けば見せるだけですぐに取り立ててもらえるぞ。その程度には信用されておる。一番上の方々に会うなら京の都にある本部で木札の位を上げてもらえ。既に話しは行っておるはずじゃ。」

「最高位に成るにはどうすれば良い?」

「それに関しては京に住まうあの方に認められる必要がある。その方からのみ最高位を賜る事ができるのだ。ただし今現在で活動しておる者の中で賜っているのは誰もいないそうじゃがな。」


それはまたゲーマーの血を湧き立てさせる状況なので、ちょっとだけ楽しみが出来たかもしれない。


「それとこの町と周辺の状況と、ここが何処なのか教えてくれ。」

「それならここに大まかな地図があるから見てみなさい。」


そう言って番台の下から地図を出すとそれを広げて見せてくれる。

どうやらここは九州の端っこで鹿児島の辺りになるらしく、地理に詳しくない俺でも京都から凄く遠いという事だけは分かる。

俺だけならともかく、このメンバーで行くとなると陸路が一番だろう。

しかし足は母熊が居るのでそちらに関しては問題はないだろうけど、戦に巻き込まれないかが心配だ。

もし攻撃をされてしまうとその勢力ごと滅ぼしてしまうかもしれない。

そうなれば歴史が大きく変わる可能性があるので、なるべく人同士の争いには関わらないようにするべきだ。


「それと魔石についてだけどこれに関してはどうすれば良いんだ?」

「魔石?おお、魔晶石の事か。それなら討伐証明が終われば好きにして良いぞ。どうせ使い道のない物じゃからな。中央に送り高名な僧が数日かけて焚き上げれば普通の石になるそうじゃから引き取りもしておるよ。それと一部の者達が武器や防具を作るのに使う位じゃな。それも最近は魔物が多くて余っておるそうじゃ。」


なんて勿体ない事をしているんだ・・・と言っても仕方がないな。

ステータスが無ければ吸収も出来ないし、綺麗だからと言って宝石のように加工して売り出したら邪神の影響を受けそうだ。

それならもしかすると不良在庫として言えば貰えるかもしれない。


「それなら魔石を手軽に処理する手段を持ってるんだけど可能なら譲ってくれないか?」

「うむ、それは構わんよ。中央に送るにしてもタダではないからな。そこの棚に入れてあるから好きにするとええ。ただ、作業はここでしてくれんかの。他で換金されては管理問題になってしまうのでな。」

「それなら問題ない。それならこっちを先に換金してくれ。」


そう言って俺は昨夜倒した魔物の魔石を老人の前に置いた。

ざっと数にすれば30個くらいで1つを除けばそれなりのサイズがある。


「うむ、それでは見てみるかの。・・・な、何じゃこの魔晶石は!?」

「山の中でちょっとな。それで、これに関して換金できるのか?」

「うむ。しかし、これほどの魔晶石を持つ魔物なら下手をすれば城すら落とすぞ。」

(そんな大物だったのか?俺にとっては雑魚でしかない魔物なんだけど本当に大丈夫なのかこの時代。)


そして、老人は奥に行って箱を持ってくるとその中から小判を取り出し、俺達の前に並べていった。


「今回はこれくらいじゃな。」


そして小判が50枚ほど積まれたので、これが今回の報酬のようだ。


「被害が出ておったり依頼があればもっと出せるんじゃがな。今回の報酬はお前が持ち込んだこの小さいのが小判10枚、それ以外を合わせて40枚といった所じゃ。」

「突発的な持ち込みなら仕方ないさ。それじゃあこれは貰って行くぞ。」


そう言って俺は40枚を収納し10枚をヒルコへと渡す。


「俺は戦ってないぞ?」

「ここまでの案内料だ。受け取っておけ。」

「しかしだな。」

「なら、これからも俺達を案内してくれ。それはその前金だ。」

「それで本当に良いのか?」

「子供には保護者も必要だろ。俺達だけだとまた舐められるからな。」


俺は在り来たりな理由を付けて今回の報酬を押し付けるとヒルコは渋々ながらそれを受け取った。

すると何かを思いついたのか予想外の事をヒルコが提案してくる。


「それならお前ら家に泊まって行かないか。それに熊を連れたままだと宿にも泊まれないぞ。」

「ここの支部に宿は無いのか?」

「ここは支部であって宿屋ではない。それにここでお前たちの様な者を泊めてくれる宿は無いぞ。」


言われれば俺でも熊を連れた子供を泊めたいかと聞かれたら脊髄反射で断るだろう。

だから泊めてもらえないからと言ってサービスが悪い等と言い掛りは付けられない。

それにしても武将へ仕官が出来るのに宿には泊めてもらえないとは何とも微妙な木札を貰ってしまったものだ。

しかし、やっぱりアケとユウには屋根のある場所で過ごしてもらいたいのでこの申し出を断る理由は無い。


「それなら少しだけ世話になるか。」

「よっし!そうなれば俺は家に行って準備をしてくるぜ。少しここで待っててくれ。」


そう言ってヒルコは勝手に走って行ってしまった。

ただ、これから魔晶石の吸収もしないといけないのでこの時間を使って終わらせてしまおうと思う。


「それじゃあ皆はステータスを開いてくれ。」


するとアケとユウはすぐにステータスを表示し、母熊もそれに僅かに遅れて表示させる。

ただ子熊の2匹は言葉が足りなかったのか首を傾げて両手で目元を隠してしまった。

それを見てアケとユウが笑顔で近寄ると2匹をそれぞれ抱き上げて母熊のお腹へともたれ掛かる様に腰を下ろす。

そして丁寧に時間をかけて教えて行き、ようやくステータスを表示させる事が出来た。

すると2人は子熊を存分に撫でまわしてまるで自分の事の様に大喜びする。

母熊もそれに合わせて子熊を舐め回しているのでとても嬉しそうだ。

どうやら、あの2人と1匹は子熊を褒めて伸ばす方針のようなので、これからどんな感じに成長していくかが楽しみに思う。

もしこれが現代なら『熊でも分かるステータス講座』とか言ってお金が取れること間違いなしだ。


そして全員が表示できたので、まずは母熊に魔晶石を吸収させてみる。

すると、ちゃんと魔石ポイントが加算されたので問題は無さそうだ。

そしてポイントを見ながら適当に吸収させ、なるべく違いが出ない様に調整する。

その結果、それぞれに50ポイントを獲得し、それをステータスへと振り分けて行く。

ただ、最初という事もあって加算するのは防御に重点を置いてもらう。

母熊だけは既に肉体的には完成されているので力と防御が揃う様に上げて貰った。

レベルも15まで上がっているので熊たちには鉄壁、身体強化、剛力。

2人はレベルが17まで上がっているけど、こちらは攻撃魔法、鉄壁、詠唱省略をすでに取得して貰っている。

今後は早い段階で魔物を倒してもらい初回撃破ボーナスとしてのスキルを2つ獲得する権利を早く取らせてやりたい。

そうすれば2人も身体強化と剛力で少しは安全になるだろう。

まだまだ幼いので野生の熊には遠く及ばないけどさっきの奴ら位ならどうにかなりそうだ。


そして終わって少しするとヒルコが暖簾を潜って飛び込んで来た。


「準備が出来たから案内するぞ。」

「分かった。みんな移動して今日はそこで休もう。」

「「は~い。」」

「ゴフ。」

「「キュウ。」」


そして俺達はヒルコの案内で彼の住むと言う家へと向かって行った。

しかし魔物ハンターが暮らす家とはどの程度の物なのか。

勝手な想像で悪いけど長屋でボロボロな家屋が浮かんでくる。

しかし、てっきり小説に出て来る冒険者みたいに旅をしながら魔物を狩っているのかと思えばそうとは限らないみたいだ。

もしかして、この町で家族とでも暮らしているのだろうか。


「そう言えば魔物狩りをどれくらいしてるんだ?」


あの時の森を進む速度からすれば素人ではなさそうだけど、ヒルコには殺気があまり感じられない。

それなのに覚悟だけは一流なので出会ってから気になっていた。

これは勘だけど魔物を狩る事よりも、もっと別の目的がある様な気がする。

そう、あの夜に俺が町を走り回って魔物を狩っていた時の様な絶対に成し遂げないといけない何かを感じる。

そして、ヒルコは歩きながら自嘲気味に笑みを浮かべるとポツリポツリと話し始めた。


「実は俺が魔物を狩り始めたのには理由があるんだ。」

「誰か殺されたからか?」


魔物なんて狩ろうとするなら必ず大きな理由がある。

それに魔物が倒せるとしても世間でどれだけ恐れられているかは、ここに来るまでに見て来た人間の言動からも分かる。

更に敵は魔物だけではなく自分の中の恐怖や憎しみと言った負の感情とも戦わないといけない。

もしかすると、だからこそこの時代では堕ちてしまう魔物ハンターが多いのかもしれない。


「いや・・・でも似たようなものか。去年の春の事だ。俺はあそこにある桜の下で同じ商家として付き合いがあった幼馴染の女性に告白をしたんだ。互いの家では良縁だと言われていて結婚を祝福してくれた。でもその夜に相手の家に魔物が現れ彼女に深い傷を負わせてしまった。何とか命は取り留めたけど、その家での生き残りは彼女だけだ。彼女の両親も殺され、意識を取り戻した時には店の権利は別の男のモノになっていた。」


ヒルコの表情は先程までの朗らかな様子が崩れ怒りに目元が吊り上がっている。

恐らくはまだ話してない事が沢山あるのだろう。

そして、その中にはこのお人好しをここまで激怒させるだけの理由があるはずだ。


「それでその魔物は討伐されたのか?」

「それがおかしい事にその時から目撃情報が無い。調査したのが青龍の奴らだけど、俺の事は知ってるから情報を得ようにも門前払いだ。それで仕方なく唯一入る事の出来た玄武で仕事をしながら情報を集めているという訳だよ。」

「お前は青龍の奴らが何かを仕出かしたと思ってるのか?」

「もしかすると朱雀と白虎も絡んでいるかもしれない。それに、奪われた商家からその3つに金が流れているのも突き止める事が出来た。後は大金を稼いで魔物が稀に持っているという特別な薬を手に入れれば彼女の傷も癒せるはずだ。」

「そうか。上手くいくと良いな。」

「絶対に上手く行かせて見せるさ。そして彼女の為に店も取り戻してみせる。」


そして話をしていると目の前に大きな屋敷が見えて来た。

商家の家がどれ程の物か分からなかったけど予想以上にお金持ちらしく、金の受け取りを拒んだことにも納得できる。

しかし10両と言えばこの時代では大金のはずなのに、それを欲しくないと思える程にその薬は高額なのだろうか。

なんだか俺のアイテムボックスには大量に入っている気がするんだけどこの件はもう少し考えてから行動した方が良さそうだ。


そして門の前に到着すると1人の女性が俺達を出迎えてくれた。

しかし、顔色は良くなさそうでまるで貧血を起こしているみたいに青褪めている。

そんな彼女は蛭子を真直ぐに見詰め、強い感じに言い放った。


「ここにはもうアナタの帰る場所ではありません!今すぐ実家にお帰り下さい!」


するとヒルコは目を大きく開くと女性へと詰め寄った。

しかし女性は片手を前に突き出すとヒルコを拒絶する様に睨みつける。


「どうしたんだハナ。どうして突然・・・。」

「突然ではありません!私はこの1年と半年の間ずっとアナタに期待をしていました。しかし、何も達成できず、愛を囁くばかりで私はもううんざりなのです。ですから私は自分の意思で進むべき道を選びました。ですから私はあの方の許へと向かいます。この家も今日からはあの方の物です。・・・さようなら。」


そう言ってハナと言う女性は背中を見せると家の中へと消えて行った。

それをヒルコは呆然と見送るとその場で腰から崩れ落ちる。

そして、その喉からは噛み殺して掠れた様な泣き声が洩れ、頬には涙の筋が流れて地面を濡らしていく。

これは一度支部に戻った方が良さそうだな。


俺はヒルコに近寄ると格闘のスキルの力を借りてその意識を刈り取り、来た道を戻って行く。

そして到着してからヒルコを奥の部屋に寝かせると老人へと事情を説明した。


「そうか。・・・ところで、お前は依頼を受ける気はあるか?」

「ここで出て来るという事はヒルコに関係のある依頼だな。」

「そうじゃ。アイツは詰めが甘くての。両親にもよく叱られておったよ。」


そう言って老人は初めて目を開き俺に視線を向けて来る。

てっきり耄碌して目が見えないのかと思っていたけど理由はその逆だった。

普通の奴なら一目で失神させてしまいそうな程の強い眼力を秘めている。


「ちょっと悪いんじゃがハナをここに連れて来てくれんか。駄賃は儂が払ってやろう。」


老人は懐から5枚の小判を出すと手首のスナップを効かせ高速回転させながら飛ばして来る。

きっとこれが素人なら受け止める事も出来ずに体を貫通されてしまうだろう。

俺だから良いけど、なかなかにバイオレンスな事をする爺さんだ。

とは言っても、こちらも片手で軽く受け止めてアイテムボックスへ収納してるけど。


「予想以上にやる様じゃな。しかし、お前には儂の流派に似た気の運用が感じられる。その若さで何処で習った?」

「ちょっと近所にアンタみたいな変わった爺さんが居てね。骨を折られる代わりに体得しただけさ。」

「そうか。余程良い師に巡り合えたと見える。それで受け取ったと言う事は仕事はしてくれるんじゃろうな。」


もしも受け取らなければ後ろに居るアケとユウに向かっていたのでそれ以外に選択肢がなかった。

しかし簡単な仕事なのでここは気軽に受けておこうと思う。


「分かったよ。子供のお使いにしては小遣いが多いから、後で別の物に変えて返礼するよ。」


結婚式や葬式でも出したお金に対して半分は何か別の物で返したりするので適当な物でもプレゼントしておこう。

俺は立ち上がってアケとユウの所へと向かうとその頭を撫でながら笑顔を浮かべた。


「2人はここで少し遊んでいてくれ。悪い奴が来たら容赦しちゃだめだぞ。」

「「うん。」」

「お前も頼むぞ。奴らに2度目が無い事を教えてやれ。」

「ゴフ!」

「「キューキュー!」」


すると俺の言葉に子熊も前足で敵を斬り裂く様な動きをしながら元気に返事をして来る。

ただ今のコイツ等ならその一撃で人間の頭くらいは粉砕できる。

後で下手に相手へ攻撃しないように母熊から説明してもらう必要がありそうだ。


「行って来るから良い子に待ってるんだぞ。」

「「いってらっしゃ~い。」」


そして俺は支部から出ると、さっき歩いた道をたどり目的の屋敷へと向かって行った。

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