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13 準備 ①

朝食を終えてテレビで二つのダンジョンの映像を見ながらレクチャーを終えると余った時間でダンジョンへと向かって行った。

その途中でツキミヤさんには連絡を入れて、しばらくは強化に専念する事も伝えてある。


その後、到着するとそこには何台ものトラックや重機が並び工事を行う光景が広がっていた。

どうやら昨日の提案を聞き入れて予想よりも早く動き出してくれたみたいだ。


そして俺達が傍に向かうと周りから視線が集まってくるのが分かる。

ここが危険な場所であるのも当然だけど俺達の装備も原因だろう。

普通はこんな住宅街で剣や槍を持って歩いている人間が居たら不審人物でしかない。

平時なら確実に通報対象にされ、警察に追われる事になるだろう。

それに足元には犬のリリーまで居るのでかなりカオスな印象を与えているかもしれない。

するとその中でも一番貫禄のある作業員がこちらに近付き声を掛けてきた。


「もしかしてアンタらが魔物を間引いてくれるてる人達かい?」

「はい。ここを離れる可能性を考慮して安全の為に毎日来ようと思います。その方が工事も安全に出来るでしょうから。」


すると周りの作業員から安堵の息が零れているので、やっぱりあのテレビの映像を見れば魔物の脅威はしっかりと理解してくれているようだ。

周りの家も取り壊しているので既にならかの保証か手続きが終わっているのだろう。

それに普通なら危険なダンジョンの真横なんて一等地になんて住みたくないのが自然な考えだ。

命が幾つあっても足りないだろうし、俺でも喜んで引っ越すだろう。

そして、話しかけてきた作業員の人も笑みを浮かべて手を打つと、周囲に聞こえるような声で賛成の意を示してくれる。


「そりゃ助かる。魔物は俺達にゃ倒せないと伝達があってな。出て来たのを見かけたら何も持たずにとにかく逃げろと言われてるんだ。」

「なら、まずは一階の魔物を全て倒しておきますよ。ただ、それでも油断はしないでください。ここの魔物は時間経過で発生するみたいですから。」

「その事は俺から周りに伝えておくぜ。それじゃあそっちの方はよろしく頼んだからな。」


そして俺達は作業の人達の間を通ってダンジョンの前までやってきた。

どういった構造の防壁を作るのか知らないけど工事の範囲を見るとかなり強固な壁が出来そうだ。

そして、ダンジョンに入ると俺達は彼らに伝えた通り1階層の魔物を虱潰しに倒していく。

安全を考えれば母親2人は前衛なのでその後ろに魔法使いを1人付けたい。


なので母さんの後ろにはこの中で魔法が一番得意で早いリリーを付ける事になった。

その理由として母さんは戦うのが先日が初めてで、以前までは運動があまり得意ではなかったからだ。

ナギさんは大学時代にフェンシング部だったらしく実戦は別にしても戦いの素人ではない。

だからアケミかユウナのどちらかに任せると伝えたのだけど火花を散らして激しいジャンケン大会が始まってしまった。

平和的で良いんだけど表情はボクシングの試合で互いに向き合っているようで緊張感がビリビリと伝わってくる。

そして白熱した勝負の結果、20回以上の相子の末に勝負を制したのはアケミだった。

その顔は凄いホクホク顔で反対にユウナは地面に手をついて完全に敗者のポーズになっている。


「ううう・・・。負けてしまいました。勝負とは無情です。」

「フフフ。私達の仲は誰にも引き裂けないのよ。」


何はともあれ俺達は3組に分かれてダンジョンを進み始めた。

とは言っても俺が次の階層までは完全にマッピングを終えている。

別行動も分岐を少し別れて戻って来る間なので半分以上は一緒に行動するような感じだ。

そして1階層を周った結果20匹ほどのノーマルを発見できたので昨日と合わせれば1日で10匹くらい発生している計算になる。

一定かどうかは今後の検証次第だけど今日の所はこの階層は終了だ。


その後は次の階層でも同じように満遍なく周って魔物を倒し3階層に移動した。

この階層ではこの広い一部屋しか確認していない。

ただ遠くに通路が見えるのでここが終了地点ではないだろう。

俺達は村に発生していたゴブリンを倒すと奥へと向かって進み始めた。

ただここからは未知の領域になるので3パーティを止めて一つに纏まり俺を先頭にして進んでいく。

配置としては俺を先頭にして少し後ろをナギさん。

その後ろに母さんが居てその後ろにアケミとユウナが並び、リリーが最後尾を護っている。


何故かリリーに関しては「ワン」の一声で魔法が発動してしまうのでこの陣形となった。

それに犬であるので聴覚が鋭く俺の索敵以上の能力を持っている。

リリーが後ろを護っていればバックアタックによる不意打ちは心配しなくても良くなる。


そして進んで行くと壁に通路があり、そこには下に降りる階段が待ち構えていた。

ただし今までの状況では一つ降りると敵のランクが1つ上がる。

ここなら下の階にはホブが徘徊するエリアかもしれないのでその事を周りにも伝えて慎重に進んでいく。


すると予想通り俺達の目の前にホブが現れたが右手には刃渡り120センチくらいの剣を持ち、反対の手には盾を装備している。

今まで剣を装備していたのは地上で最初に倒したミドルだけで、それ以外で金属の武器はナイフばかりだったので久しぶりに見た。


しかも防具を装備しているのは初めてなので、この階層からは装備も強化されているようだ。

ただしそうなると俺にとってはとても嬉しいことで、そろそろショートソードではリーチが足りないと思っていたところだ。

しかも同じゴブリンなら称号の効果で俺の攻撃力は2倍まで上がり、皆のレベルアップも早くなる。

ここは容赦する必要はないので有難く糧になってもらおうと思う。

俺はアケミとユウナに声を掛けてまずは試しに魔法を放ってもらう事にした。


「2人とも頼む。」

「任せてお兄ちゃん。」

「任せてください。」


そう言ってまずはユウナが詠唱に入った。

これは他のダンジョンに行った時に2人の魔法が通用するかの確認なので、ここで通用しないのなら早急にレベルを上げて魔石でも強化する必要がある。


『風よ、眼前の敵を斬り裂いて。』

『風よ。』


そしてアケミはユウナにタイミングを合わせると一言で詠唱を完了させて魔法を放っている。

そういえばユウナもレベルが5に上がっただろうから詠唱省略のスキルを取れる事に気が付いた。

ここからは危険も増すのでこの戦闘後にでも相談して可能ならスキルを取ってもらおうと思う。


そして風の刃はホブへと直撃すると体に剣で斬った様な傷が生まれた。

しかし、盾と分厚い肉の壁に阻まれて大きなダメージにはなっていないようだ。

ただしこれで試したい事は終わったので俺の方で早々に始末することにした。

すると突撃と同時に背後から鋭い石槍が飛んで行きホブの両肩を貫いたのでこの威力ならリリーの魔法だろう。

そしてホブは痛みに叫び声をあげると俺が間合いに入る頃には剣と盾が下がり正面がガラ空きになる。

その隙を見過ごさず、瞬動で間合いに捉えると切り上げを放って腹から頭部までを一気に斬り裂いた。


それによりホブは消え去ると剣と盾に加えて魔石と中級蘇生薬が残された。

俺はショートソードを腰の鞘に戻すと足元に落ちている剣を拾い上げる。

ステータスのおかげか思ったほどには重くはなく、盾はホブが持っていた時は小盾に見えたけど俺が持つと普通のサイズで丁度良い。

でも今の俺だと盾までは使いこなせないので剣の扱いに慣れる方を優先させることにした。


そう思って盾を持ち運んでいると邪魔になるので通路の端に置いておく事にした。


「あれ、盾は置いておくの?」

「まずは剣に慣れようと思って。今の俺に剣を装備した状態で盾を使うだけの能力がないんだ。父さん達なら使えそうだけどね。帰る時に残ってたら回収して帰るよ。」


それに今回手に入れた剣は俺には少し大き過ぎるようで西洋風の形なため刀身も肉厚で重心が悪い。

なので俺が使うなら何処かで100センチくらいに調整してもらった方が良さそうだ。


そして、その後ろでリリーは母さんからお褒めの言葉とご褒美を貰ってるのでこの殺伐とした場所でなんとも微笑ましい事だ。

ただ、家族を取り戻してからは魔物を殺す事にもあまり心が動かないので自然とあちらのほのぼのした雰囲気に流されてしまう。

他の皆も同じように適度にリラックスできている様なので少し休憩を挟んで先に進む事にした。


そして奥へと歩いて行くと同じように装備を持ったホブが待ち構えていたのでコイツからは他の皆にも戦ってもらうことにする。

まずは前回と同様にアケミとユウナには魔法を放ってもらうが今回は攻撃力の高い炎系をお願いしてある。

既にスキルで詠唱省略も覚えているので魔法発動も一言で終了した。


『『業火よ。』』


すると二人の炎は槍の形へと変わりそのまま高速でホブの胸を貫いた。


「グオアーー。」


その隙をついてナギさんは俺の渡した剣を手に間合いを詰め、母さんもそれに続く。

そしてナギさんは胸に深く剣を突き刺すと母さんはその後ろから頭部を狙って突きを放った。

それによってホブは呆気なく消え去り再び装備と魔石と小瓶を落とした。

どうやら今回はポーションだったみたいだが、そろそろ使用の利便性を上げるためにポーチを買った方が良さそうだ

それに防具も無いからどうにかしないといけないのだけど防弾ベストでもあれば気分的に安心感がある。

今なら鎖帷子も装備できそうなので何処かに売ってないだろうか。

先日の戦闘では地味に怪我をしので、次の激戦でも乱戦を想定して防具を固めておきたいところだ。


そして、俺達は順調に進んで行き全員がレベル10を越えた所で帰宅する事にした。

一応、最上階である1階層だけ回ってみたけどゴブリンは居ないようだ。

こうなると決まった時間に纏めて現れるのかもしれないので後で確認の必要がある。

今夜にでもリクさんのレベル上げの後に確認してみるのが良いだろう。


そして夜は宣言通りアケミも参加しての料理が開始され、俺としても心を動かされる2人の手料理は楽しみでソワソワする。

テレビを見るふりをして可愛いエプロン姿に視線が向いてしまうのも男の悲しい習性というものだろう。

そんな俺に気付いているのか時々視線が交差してしまい何度も笑われてしまった。


そして今日の夕食のオカズは肉じゃがと鮭の塩焼きだったけど、有難い事にどっちが美味しいかと困った事は聞かれなかった。

敢えて言えばどちらも最高に美味しいとしか答えようがなく、もしもに備えて考えても他に言葉が浮かんでこない。

頭が悪い自覚はあったけど、褒め言葉くらいは頑張って勉強しないと2人を悲しませることになりそうだ


そして無事に夕食が終わった頃に父親ズが帰宅してきたので、こうなると雰囲気はちょっと変わった2世帯住宅だ。

かなり昔にそんな少女漫画があった気がするが自分が直に体験するようになるとは思っても居なかった。

そして食事を終えると二人と一緒にダンジョンへと向かう為の準備に取り掛かるのだが、まずは昼間に2人が居なかった時の成果を披露する。


「ジャジャ~ン。これが今日の鹵獲品で~す。」

「おお、盾じゃないか。しかも木ではなく鉄の。」

「こっちには剣もあるな。これは探す手間が省けたぞ。」


俺も少しネットで探したけど実用が出来そうな剣なんて日本には売っていなかった。

簡単に買えるのは日本刀だけでそれも許可が必要だったり子供が手を出せる金額じゃない。

それに俺なんて小説1冊買う金にも困る一般高校生なので、買えたとしても100円ショップの包丁が良い所だ。


そして父さんは盾を装備に追加し、リクさんは盾と剣を装備した。

見た目は軽々と扱っているように見えるけど、やはり体格が良くて筋肉質だとこういった装備がよく似合う。


「重くない?」

「俺は大丈夫だ。」

「俺は少し力が足りないな。」


父さんの装備している刀は剣よりも軽い事とレベルがリクさんよりも高いので盾を持っても気にならないみたいだ。

陸さんの方も今からレベルを上げれば気にならなくなるだろうけど、何かあっては大変なので幾つか魔石を渡して力を強化してもらった。


「これくらいで問題なさそうだ。」

「ならあとは現地で対応しましょう」


盾と剣を持っていると疲労は溜まるのでそれは戦いの合間にポーションを飲んで対応すれば良いだろう。

今の段階でポーションは腐るほど余っており、俺の称号にある救命者のおかげで回復系のドロップ率が高まっている。

ホブなら以前にはなかったポーションと蘇生薬を同時に落とす事もあるので効率の良い戦闘の為に今はアイテムを消費してでも自分達が強くなる事を優先する事にしている。


そしてダンジョンに到着するとそこには昨日の警官が居たので受付の為に声を掛けた。


「こんばんは。」

「こんばんは。昼間に来てくれたんだってね。作業員達も喜んでいたよ。」

「それなら良かったです。俺もまさかこんなに早く作業が始まるとは思わなかったので驚きました。」


早くても来年からだと思ってたのに次の日からとは予想を遥かに超えていた。

それだけダンジョンを危険視しているという事かもしれないが、完成すればこの町も少しは落ち着けるだろう。


「あれからすぐに連絡したら上が動いてくれてね。やっぱりテレビの中継が利いてるんじゃないかと思うよ。自衛隊はあちらの二つで手いっぱいだから、こちらにまで人手が割けないんじゃないかな。」

「そうですか。それと狙撃手の人にも力を手に入れた人がいると思うので可能なら早く俺達に合流するように伝えてください。」


恐らく戦闘訓練を受けているからレベル1でもノーマルゴブリンに負ける事はないだろう。

でもミドルまではいけてもホブは無理だと思うので出来るだけ早く合流してもらって4階層までは対応可能になってもらいたい。

魔物がダンジョンから出てくる条件もまだ分かってないので常に警戒の必要もある。


「分かった。この後にでもすぐに伝えておくよ。」

「お願いします。」


その後、俺達は揃ってダンジョンへと向かって行った。

周囲の家は既に取り壊されて残骸へと変わり、無造作に端へと押しやられている。

あれなら即席のバリケードくらいにはなりそうだが、この後に本格的な工事が始まるのだろう。

俺達のお呼びが掛る前にどれだけ進められるかだが、状況的に期待は出来そうにない。

そしてダンジョンの入り口に到着した俺達は自身を鍛えるために中へと入っていった。

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