12 ダンジョンの仕組み
下の階に降りて少し進むとそこにはミドルゴブリンが待ち構えていた。
しかしこれはあり得ない話で俺はあの時にこの階層の魔物を全滅させている。
そうなるとこのダンジョンがどういった仕組みなっているのかが分かって来た。
「自然発生、ポップタイプかもしれないな。」
「もしかして時間が経過すると魔物が勝手に生まれるんですか?」
俺は一旦皆を下がらせながらユウナの言葉に頷いた。
「その通りだ。メッセージにもあったけどダンジョンは邪神の力が漏れ出している事が原因で発生している。きっと魔物も同じ理屈だろうから元を絶たない限り魔物は補充され続けるだろうな。」
「それじゃあ、いつまで経っても平和にならないんじゃないですか。」「いや、そうとも言えない。邪神の力と封印が拮抗してるから今のような事になってるなら邪神の力を削る事が出来れば完全な封印が可能になってはずだ。」
この世界の神の目的もそれかもしれないが、それなら俺達は神と邪神の代理戦争に巻き込まれたと言える。
どれくらいの力を神が秘めているのかは分からないけど簡単な話じゃ無い筈だ。
もしかすると俺達の世代では終わらないかもしれないが、その場合は次世代に託すとしてそれまで頑張り続ければ良い。
「分かりました。そういうことなら私もお兄さんと一緒に頑張ります。」
「頼りにしてるぞ。」
「はい!どんな期待にも応えて見せます!」
そしてミドルゴブリンの説明をしてからもう一度ダンジョンを進み始めた。
すると俺達に気が付いたゴブリンが棍棒を手にこちらに向かって来る。
『業火よ眼前の敵を焼き尽くせ。』
ユウナが呪文を唱えるとその手に炎の球が発生し、彼女はそれを解き放つとゴブリンは炎に全身を焼かれてその場に倒れた。
まだ消えていないので生きては居るんだろうけど満身創痍なので放って置いても勝手に消えてしまいそうだ。
しかし、魔石を回収したいのでリクさんが慎重に近づくと頭に一撃を入れて止めを刺した。
「あれで生きてるとはかなり強さが増してるな。」
「そうね。私達も気を付けないと。」
確かにノーマルと比べるとかなり強さが増しているので俺の時は小細工をしなければ勝つのにかなり苦労をしただろう。
それを一瞬で埋めてしまう魔法の威力とは思っていた以上に高いようだ。
その後も俺の案内に従って先を進んでいき、初めてホブと遭遇した地点に到着した。
しかし、そこにホブの姿はなく俺達はそのままそこを通過していった。
「ホブはまだいないか。もっと時間が必要なのか一度しか出ないのか?」
「ホブってなんですか?」
俺の独り言に傍に居たユウナが問いかけて来る。
このまま村までは確認に向かう予定なのでついでに説明をしておく事にした。
「ホブは相撲取りみたいなガッチリとした体格のゴブリンだ。もし戦うなら俺とユウナの2人で戦う事にする。なのでリクさんとナギさんは武器が悪いので見学です。」
「分かった。次回までには武器を準備しておこう。」
「経験値だけ貰って悪いわね。」
「いえ、もしかするともうじき他の二つのダンジョンから救援要請があるかもしれません。その時は3人にここを任せる事になる可能性もあります。それに最悪な時は・・・。」
「ここを何とか封鎖して全員で二つのダンジョンを同時対応。最悪は二手に分けられると言う事だね。」
「そうなります。ですから皆さんもテレビでなるべく情報を集めてください。母さんがそういう事は得意なので家に来てもらって一緒に話をするのも良いと思います。」
テレビで見た感じだとホブクラスも目に付いたので、二手に分かれるならユウナたちは俺と行動する事になるだろう。
俺の家族は前回の戦いと魔石でホブとでも戦えそうなので自衛隊の援護があればなんとかなるはずだ。
それにリリーが居れば必ず皆を護ってくれると思えるので安心して任せられる。
「確かにそうさせてもらった方が自分達だけよりも良さそうだ。私は昼間は仕事だから二人は彼の両親に確認を取ってからお邪魔させてもらいなさい。」
「分かったわ。」
「分かりました。」
今日はついでにダンジョンで間引きも行った方が良いだろう。
出来れば先の階層に進んで更にレベルも上げたいので、今は自分達の検証を進めるよりも自身を強化した方が良さそうだ。
そして俺達は無事に3階層にあるゴブリン村へと到着した。
するとそこには既に10を超えるゴブリンが集まって集団を築いている。
ただし、ここにもホブは見当たらないので俺の中に一つの仮説が浮かんできた。
それは、もしかするとホブはミドルが進化した存在ではないだろうかという考えだ。
メッセージを受け取って俺が起きるのに1時間。
その間にゴブリンが十数匹で家に侵入し、150人も殺せるだろうか。
もしかすると最初は沢山いて目的を果たしたゴブリンは巣に帰り、その時に女性たちを攫ってここに連れてきた可能性がある。
そして俺の家が最後の一軒だったおかげで目を覚ますのが間に合ったのではないか。
そうなるとこの町で限定すれば魔物を押し返す事が出来る存在は俺しか残っていなかった事になる。
だから神は俺の叫びを聞き届けて無茶な願いを叶えてくれたのかもしれない。
まあ、それに関しては本当に俺の思い付きなので直接話す機会でもなければ分からないだろう。
そして、俺達は村へと襲撃を仕掛けてゴブリンを全滅させた。
そのおかげでユウナ達のレベルも5まで上げる事が出来たので、これなら明日から急に呼ばれたとしても対応できる。
そして目的を達成したので今日の所はダンジョンから出て明日に備えることになった。
それにリクさんは社会人として父さんと同様に仕事をしているため早く帰って寝なければならない。
ただ、今回で回復薬と蘇生薬は手に入っているのでそれらは全て彼らに渡す事にしている。
明日の朝にでも飲めばファイト1発で元気に出社できるだろう。
そして俺達は外に出ると最初に声を掛けた警官の許に向かって行った。
「調査が終わりました。」
「お帰り。それでどうだった?」
「どうやら時間の経過で新しい魔物が発生するみたいです。それ程多くはないですが壁か何かで囲って櫓から監視した方が良さそうです。」
「分かった。なるべく早く対応してもらうよ。」
「お願いします。」
流石に2つのダンジョンがあんな状態なので対応は早いだろう。
手遅れになれば俺達以外に対応が出来ないと分かっているなら反対意見も出難いはずだ。
出来れば予算がどうとか言い出さなければいいけど、あれだけ激しい戦闘を包み隠さずに放送していれば税金がどうとか言い出す奴は居ないと信じたい。
そしてこの日は家に帰ってお風呂に入り、そのまま眠り居付いた。
次の日の朝。
目を覚ました俺はパジャマのまま一階へと降りて来た。
学校に行かないならもう少しこのままでも良いのだけど先程から料理の良い匂いが漂っている。
気になったのでキッチンのあるリビングに向かうと欠伸混じりに扉を開けた。
「おはよう。」
「あ、おはようございます。」
しかし、その声を聞いて俺はドキリと心臓が跳ねさせると体を硬直させた。
そして声の聞こえた方向に視線だけを向けると優しく微笑むユウナが母さんと一緒に朝食の準備を行っている。
俺は上半身の動きを止めたままムーンウォークの様に後ろに下がって180度回転すると、そのまま部屋へと逃げる様に戻って行った。
「お兄さんはどうしたんですか?」
「あの子もお年頃だからパジャマ姿をユウナちゃん見られて恥ずかしかったのよ。」
そんな会話が俺の耳の聞こえて来たけど、俺は服をベッドに脱ぎ捨てると普段着に着替えて身嗜みを整える。
以前には気にもならなかったのにやっぱり俺自身の反応がおかしく、昨日も感じた様にユウナにも感情が過剰に働くようになっている。
しかし、これは気を付けた方が良さそうだという思考とは裏腹に、これから頻繁に会う事が出来るかもと心は逸り心臓の鼓動は早くなって行く。
俺は深呼吸で心と体を落ち着かせると再び1階へと降りていった。
するとそこには可愛いピンクのエプロンに包まれたユウナがテーブルに朝食を並べており、俺を見て頬を染めてからニッコリと笑い掛けてきた。
「もう少しで準備が出来ますね。」
「あ、ああ。そのエプロン似合ってるね。」
「こら。そうじゃないでしょ。」
そう言って母さんは俺の頭を軽く小突きたので遠回しに褒めたのがお気に召さなかったみたいだ。
しかし、先程はエプロンなんて身に着けていなかったのでこれは明らかに母さんの入れ知恵だろう。
似合ってはいる・・・とても似合ってはいるけど、心臓に悪いので揶揄うのは程々にしてもらいたい。
そして仕方なく少し悩んで言葉を探すと改めて言い直す事にした。
「今日も可愛いね。」
「ひゃ、あひがとうございます!」
そう言って彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまったが、その仕草も今の俺には凄く可愛く感じる。
すると母さんは今ので満足したのか笑いながらキッチンに戻って行ったのだが、いったいあそこからいつの間に移動したのか。
まったく気付けなかった事に俺は首を傾げるとご飯の準備が終わるまで席で大人しく待つ事にした。
すると今度は俺の背中から誰かが抱き着いて来るけど、ウチでこんな事をするのは1人しかいない。
俺は笑顔を浮かべて後ろに顔を向けると大事な妹に声を掛けた。
「おはようアケミ。」
「おはよう、お兄ちゃん。」
俺は素早く動いてアケミをお姫様抱っこすると、そのまま椅子へと運んで静かに座らせた。
俺達にとってはいつものジャレ合いだが、残念だけどそろそろ年頃なので止めさせないといけないだろう。
こんな所を他人に見られては大きな誤解を生んでしまう。
俺は自分の事は棚に上げつつ、そんな事を考えながらすぐ横の席へと腰を下ろした。
「アケミも大きくなったんだからそろそろこういうのは卒業しないとな。」
「え~お兄ちゃんにしかしないから良いの~。」
(だからそれだと俺が困るんだよ。理性を保つという面で!)
さっきも背中には胸が押し当てられてかなりヤバかった。
お姫様抱っこにしたのも高鳴った鼓動を聞かれないようにするためでコイツの愛情表現には昔以上に悩まされる。
そしてじゃれ合っていると瞬く間に朝食の準備が終了し、俺達は他のダンジョンで発生している戦闘のライブ映像を見ながらのんびりと食事を始めた。
「ん?母さん。味噌汁変えたの?これはこれで美味しいけど。」
「それはユウナちゃんが作ったのよ。良かったわねユウナちゃん。ハルヤが美味しいって言ってるわよ。」
「は、はい!」
そう言って母さんがユウナに微笑みかけたのでそちらを見ると顔を赤くしており慌てたように味噌汁を両手に持って口へと運んでいる。
そして、なんだか慎ましくて良い感じだなと思っていると反対側に座るアケミから声が上がった。
「お母さん!私も明日からご飯の準備手伝うからね!」
「あら明日からで良いの?」
そう言って笑った母さんはチラリとユウナに視線を向けた。
すると先程までとは違い強気な表情を浮かべると言葉を引き継いで更なる事実が白日の下にさらされる事になる。
「私は今日から朝と夜のご飯を一緒に作る事になってるんだよ。」
「なんですとーーー!」
するとユウナは俺に初めて見せる挑発的な表情を浮かべるとアケミも対抗するように言葉を続けた。
どうやら母さんに乗せられている事に気付いていないようで、影の策略家は密かに笑みを浮かべている。
「じゃあ私も今日から作るんだから!」
「あらあら、それは楽しみね~。これなら私も少しは楽が出来そうね。」
ちなみにアケミも時々手伝っていたけど料理も上手なので変な物が出てくる心配はない。
たとえ毒物でも今なら食べてると耐性が獲得できるかもしれないのでドンと来いだ。
それと俺に妹の手料理を拒否するという選択肢は存在しないので如何なる物でも食い尽くす所存である。
「それなら頑張れよ。楽しみにしてるからな。」
俺はそう言ってアケミの頭を撫でてやると、とても嬉しそうなので俺も釣られて嬉しくなる。
すると反対側から袖を引かれる感触を感じたのでそちらへ視線を向けると何故か頬を膨らませたユウナが俺に頭を向けていた。
どうやらこちらも頭を撫でろと言う事らしいけど、他人のお嬢様の頭を撫でても宜しいものなのだろうか。
しかし同じ事をしてくれるのにアケミを褒めてユウナを褒めないのは良くないだろう。
だから俺は自分に言い訳をしながら初めて触るユウナのサラサラな髪に手を乗せると優しく撫でて褒めてやった。
(でも、同じ女の子の髪でもこんなに触り心地が違うんだな。)
そして撫でるとすぐにユウナの頬は萎み笑顔へと変わってくれる。
俺は両手で左右に居る女の子を撫でながら母さんからは微笑みを向けられてしまい微妙な気持ちで朝食を味わった。
ただ、今日の朝食は今までで一番に美味しい気がしたのは俺の気のせいだろうか。
その後はナギさんもウチに来て朝食に加わり楽しい時間を過ごした。




