110 フルメルト国へ ①
俺は輸送機から降りて来た男達に最後の情けとして死ぬ順番だけは選ばせてやろうと考えた。
すでに生かして一緒に乗り込むという選択肢は存在しないので死んでもらうのが最低ラインだ。
「死にたい奴から前に出ろ。」
「ケケケ。ガキが何か言ってるぜ!テメーの大事なモンの命は俺達の手の内にあるのを忘れてるんじゃねえだろうな。」
どうやらコイツ等には俺が人質を取られてここに居ると思い込んでいるようだ。
ここまで言い切るという事はアンドウさんが既に偽の情報を流して相手を油断させているのかもしれない。
すると彼らの中から最も体つきが大きく、まるで類人猿の様に毛深い男が前に出て来た。
もしかすると既に魔物化が始まり見た目が変わり始めているようだ。
男はニヤついた顔で俺達を見回した後に銃で肩を叩きながら口を開いた。
「用があるのはデトル様と覚醒者だけだ。他は処分しろと言われているがどうするか。」
(あれれ?)
エリスは俺が貰う事になってるはずなのにこの時点で用済みなのか。
貰うつもりは無いとは言っても流石に早過ぎるだろ。
でも俺が知らされた彼女の役割を考えれば当然かもしれないけどな。
しかし指示を守らずに悩んでいるという事は自制心が弱まって欲望が強くなっているみたいだ。
それを示す様に男達はエリスの体を値踏みする様に観察している。
こうなってしまうと人間だとしてもゴブリンやオーガと大して変わらないように見える。
そして男が悩んだ末に出した答えは俺の予想の範囲に収まるゲスなものだった。
「男の方は奴隷となるなら生かしておいてやろう。そろそろ人間狩りをするのも面倒になっていたからな。」
「人間狩りだと!?」
俺は相手の言葉に驚いたフリをしながら話を促してみる。
どうやら思考が鈍っているようでベラベラと勝手に喋ってくれそうだ。
「そうだ。そう言えばこちらで適当な数を攫って来いとも言っていたな。」
「なんて酷い事を考えてるんだ!」
「オイ!そこの覚醒者。闇に紛れてその辺の奴らを攫って来い。こんな平和ボケした国の奴らならすぐに連れて来れるだろ。その間に俺達はそこの女を使って楽しませてもらう事にする。」
ゴリラ男は勝手に1人完結するとニヤついた顔で無防備にこちらへと近づいてくる。
しかし、こちらに動揺する者は居らず、俺は腰の刀を抜くと同時に迫ってくる男達を容赦なく斬り裂いた。
最初の男は一刀目で腰から肩に掛けてを切断すると切り離された上半身が体から滑り落ちて行く。
そして次の男は反応される前に頭頂部から股に向かって両断し、3人目は銃を向けようとしていたので一瞬で間合いへと入った。
更にそのまま銃身を切断し、同時に腕と首を斬り飛ばし、4人目は腰のハンドガンを抜いて発砲してきたので流れ弾を避けるために素手で銃弾を受け止める。
そして相手の腕を切断して銃を奪うと胸元を掴んでアッパーを顎に喰らわせ頭ごと粉砕してやった。
そして残りの2人を始末するために振る向くと、この混乱に乗じて回り込んだハバルとラウドが背後から首をナイフで掻き切り既に始末を終えてしまっている。
その手際の良さから言って戦士としても十分に役に立つレベルのようなので覚醒者となれば良い戦力になってくれるだろう。
そして倒した敵をそのまま足元の放り投げると2人は同時に俺を見てニヤリと笑みを零した。
「「ウオーーー!」」
すると2人は同時に咆哮を上げると突然その場で膝を付き、しばらくするとフラリと立ち上がり澄んだ瞳を向けて来る。
その変化に俺は今までに何度か見た光景を思い出した。
「もしかして力を得たのか?」
「そのようだな。これで少しは姫様の為に戦えそうだ。」
「今ならお前が如何に強いかが伝わってくる。この国にも本物の戦士が居た様だ。」
ここに来てラウドに続くようにハバルが初めて口を開いた。
どうやら今まで喋らなかったのは俺を見極める為に観察に徹していたからのようだ。
しかし話では最初の日に覚醒した者以外に力を得た者は居ないと言っていた。
ならどうしてこの2人は覚醒者を成れたのだろうか?
「お前達はどうして覚醒できたと思う?」
「恐らくはお前が言っていた邪神から受けている影響のせいだろうな。」
「影響を受けている俺達だから分かるがアレは今の状況とは明らかに違う。魔物が魔物を倒しても魔物である事実は変わらない。覚醒できるのは邪神の影響を受けていない者に限られると言う事だろう。」
「そうだな。話では、その時に試された兵士は王に近い者ばかりだったそうだ。もしかすると王の周りはそういった者達で固められているのかもしれない。」
そうなると本当に軍隊と戦う事になるかもしれないので少し面倒そうだ。
ツクモ老ほどでは無いにしても訓練された兵士が魔物化して襲って来れば厄介な事になる。
特に以前の第三ダンジョンで遭遇した奴らの様に邪神に強化されてでもすれば脅威度は跳ね上がる。
それにさっきの奴らも人間狩りがどうとか言っていたので既に裏では何かが行われている可能性が高いので急いだ方が良さそうだ。
「理由は何となく分かった。さっそくお前らの国に向かうとするか。」
「お願いします。私が思っていたよりも国の状況は深刻なようです。2人も家族が心配でしょうがよろしくお願いします。」
「「お任せください!」」
そう言って2人ともエリスの前で膝を付き首を垂れる。
なのでコイツ等にならエリスを任せても大丈夫だろう。
そして俺達は輸送機に乗り込むと夜闇に紛れて空港を飛び立って行った。
その後ラウドとハバルは操縦の為にコックピットに籠り、俺はエリスと2人で貨物室で今後の準備を行っている。
まずは依頼の一つを達成するための準備を行わなければならない。
「まずはこの服に着替えてくれ。」
「あ、あの、ハルヤ!その・・・この服はいったい!?」
ちなみに俺が取り出したのは蜘蛛糸で編まれた特殊スーツ。
その名もビキニアーマー踊り子タイプだ。
何故こんな物を持っているのかと言えばツバサさんが以前に渡した蜘蛛糸を布に加工してこんな形にしてしまったからだ。
ちなみにビキニの部分はちゃんとした布で作っているので透けてはいないと明言しておこう。
見えて感じるものは無いけど本人も流石に恥ずかしいだろう。
永遠に死蔵する気でいたけど、この際だから防御力は優秀なので使わせてもらう。
ただし、覚醒しなければ唯の脆弱なコスプレ衣装なのでまずは覚醒者になってもらわないといけない。
それがアマテラスから俺が受けた依頼の一つだ。
「あの・・・流石に恥ずかしいのですが。」
「いや、きっと似合うから大丈夫だ。自分の可愛さに自信を持て。」
「か、可愛い!・・・もしかしてそれはその・・・。そういう意味でしょうか?」
どんな意味かは分からないけどここは頷いておこう。
きっと大した意味ではないだろう。
「そう言う事だ。それに今はそんな感じだけどレベルが上がれば装備も増える。恥ずかしいのは最初だけだ。」
この後には手甲に脚甲などの他にもブレストアーマーや兜などを装備してもらう。
今でこそビキニアーマー踊り子タイプだけど、プラモと同じ様に装備を追加して最後にはバルキリータイプへと換装する。
何とも遊び心を丸出しにして作られた装備に、ハッキリ言って良くこれで予算が下りたなと感心するほどだ。
「分かりました!それなら私も頑張ります!」
「良く言った。期待してるからな。」
「はい!」
そしてエリスは荷物の物陰に入ると服を脱いで着替え始めた。
俺はそれを傍にあるカバーの掛かった荷物に腰を下ろして待つ事にする。
「これで装備の処分も出来たな。」
しかし俺が腰を下ろすと荷物と思っていた物から悲鳴が上がった。
「きゃあ!ここは何処なの!?ハルヤ?ハルヤは何処!?」
「は!もしかしてアズサか!?」
「ハルヤ!近くに居るの!?」
機内には薄明かりしかなく、カバーの中は恐らくは真っ暗だろう。
一度ダンジョンに攫われた経験もあるので混乱と恐怖は俺が思う以上に大きいはずだ。
ここに何故アズサが居るのかは後回しにして俺はカバーを力任せに引き裂き切れ目から中を覗き込んだ。
「大丈夫か!?」
「ハルヤ!」
アズサは俺の顔を見るなり泣きそうな顔で抱き着いてくる。
今まで意識が無かったのならアズサの記憶の最後は家のリビングになるはずだ。
それがいきなりこんな所で目覚めれば今の状態になってもおかしくは無いだろう。
人によってはショックで過呼吸を起こしたり息が出来なくなる事もあると聞いた事がある。
そうなると俺は助ける方法を知らないので無事で良かった。
俺は抱き着いて来たアズサを抱きしめ返して優しく頭を撫でながら落ち着くのを待ち続ける。
そして数分で落ち着いた様で体の震えは止まり互いの体が離れて行った。
「落ち着いたか?」
「うん・・・。でもここは何処なの?暗くて大きな音がしてるけど。」
「ここは飛行機の中だ。俺達は今フルメルトという国に向かってる。」
俺はアズサの秘密については避けながら、その後に起きた事を大まかに説明した。
そして気を失っていたのは神がアズサたちを避難させる時に急いでいてショックを与えた事にしておく。
あれでアマテラスは偉い神様で邪神の封印で忙しいそうなので滅多に現れる事は無いだろう。
こういった面倒な責任は全てアイツに被ってもらうことにする。
それに今回の事については大まかながら間違ってはいないはずで、こんな事をしそうで出来そうな奴と言えばアイツしか思いつかない。
十中八九アマテラスの仕業で間違いはないだろうけど、問題はこの状況をどうするかだ。
既に飛び立ってからそれなりの時間が経過しているし、ここで降ろして1人で家に帰すのも危険だ。
だからと言ってこれから向かう先には確実に危険な敵が待ち構えている。
しかもダンジョンの魔物と違って今回は人間の知恵を持っている敵が相手だ。
ハッキリ言って絶対に連れて行きたくない。
(でも降ろす事も出来ないし・・・。)
俺は思考がループして出口の無い迷宮へと迷い込んだような苛立ちが湧いてくる。
どうしてあの神はこんな状況を作り出しているんだ!
しかし、そんな思考は目の前にある不安そうなアズサの顔を見て一瞬で消し飛んでしまう。
どうやら、アズサが巻き込まれた事で冷静な判断を失っていたようだ。
俺は今ある全ての状況をいったん思考から追い出すと出来る事だけを拾い集めた。
「アズサは俺が護るから大丈夫だ。だから、俺の傍からは離れるなよ。」
「うん。ゴメンねハルヤ。」
「そう言えば何か預かって来てないか?手紙とか御告げとか。」
「う~ん、御告げは無いけどさっきポケットに紙が入ってた。」
するとアズサは和紙で包まれた手紙を取り出しそれを俺に差し出して来た。
こうして勝手に送り付けて来たので何か手掛かりになる物を持っているんじゃないかと思ってたけど正解だったみたいだ。
俺はそれを受け取って広げると何が書いてあるのかを確認した。
『春爛漫の季節を迎え、毎日ご活躍の事と存じます。・・・』
と言った感じでうんたらかんたらと遠回しな挨拶から始めり読めるけど言い方が遠回しで要領を得ない。
もしかしてアイツの頭は縄文事態とは言わないでも、幕末か明治の辺りで止まってるんじゃないかと不安を感じる。
それにこうして考えると恵比寿様の方が現代に適応した凄い神様に思えてくるのは俺だけではないはずだ。
仕方なく手紙をアズサに渡すと難解な部分を解読してもらう事にした。
「ちょっと待ってね。分かり易い様に訳してみるから。う~ん、でも何でなのか知らないけど無駄なくらいに挨拶が長いよね。この辺は飛ばしてっと・・・。」
もしかしてこの手紙は馬鹿な俺に対する当てつけか?
こんな状況で人を揶揄う様な事はしないで貰いたいんだけどな。
そして1メートルを超える長い手紙はアズサによってなんとか解読されたみたいだ。
右の端から始まり、少しずつ左に読み進めてようやく端へと辿り着いた。
ちなみに、この手紙の文字はテレビ番組に出て来る古い手紙みたいにミミズがのたくった様な字で書かれている。
それを素で読めるとはアズサってやっぱり凄いなと感じるけど、そんな知識をいったい何処で習ったのだろうか?
部活にも入っていないし俺も真面目に授業を受けていたけどそんなの習った記憶が無い。
それとも余りの難解さに俺自身が記憶を丸ごと消してしまっているだけか?
「やっぱり凄いなアズサは。俺だけだったら読めても絶対に理解できなかったぞ。」
「・・・。」
「どうしたんだアズサ?」
何故かアズサからの反応が返って来ない。
何時もなら無視などせずに反応を返してくれるのに。
そして手紙を読み始めた時と違い読み終えた今ではその顔が驚きに染まっている。
もしかして手紙にアズサの秘密でも書かれていたのだろうか。
しかし、その可能性はあの時のアマテラスの反応から考えてもあり得ないので別の何かが書かれているはずだ。
「大丈夫か?」
「・・・うん、大丈夫。ちょっと驚いただけだから。あのねハルヤ。ここを見てくれる。」
そう言って手紙を俺にも見える様に向けると最後の一文を指差した。
するとそこだけ現代文字でこう書かれている。
『これには特定の人物を覚醒者とする呪が織り込まれた特殊な物です。これを先の報酬とします。』
そう言えばアマテラスがアズサに打って付けな御褒美をくれると言っていたけど、それがこの呪いの手紙ということらしい。
しかし秘密を知る前なら勝手に覚醒させやがってと思っていただろうけど、話を聞いた今なら違う。
アズサは既に半分覚醒者と変わらない存在で、力は受けていてもそれが身体的な強化に繋がるものでは無かった。
それがちゃんと強化に繋がる様になった事は大きな収穫だ。
それにアズサは明確に邪神から狙われているので、もしもの時を考えるなら魔物にも対応出来る様になってもらった方が安心できる。
しかし、まずはアズサの確認を最優先にさせてもらう。
あまり変化は見られないようだけど痛みとかは大丈夫だろうか?
「痛みとか感情面は大丈夫か?」
「体は大丈夫・・・。でも感情面はちょっと大変かも。」
「ん?どんな感じなんだ?」
もしかして俺の事を好きでなくなったとかだったら俺は今からこの飛行機を墜落させてでも家に戻らないといけなくなる。
どんな手段を使おうともアマテラスの首を斬り飛ばさなくては絶望が収まらないだろう。
するとアズサは震えながら俺に歩み寄ると手紙を手放して急に抱き着いて来た。
しかもその顔は今までに見た事が無いほどに真っ赤に染まっているので、何かの副作用とか変なスキルが発現したんじゃあ・・・。
すると、なんとか口を開くといつもと違う落ち着きのない声を上げた。
「あのね!ハルヤが好きって気持ちが止まらないの!どうしたら良いのかな!ハルヤは何時もどうしてるの!?抱き着いても止まらないし、キスしたら良いのかな!?」
それを聞いて俺の中に渦巻いていた全ての不安が一瞬で吹き飛び、掌を返してアマテラス様に感謝の念を送り付けた。
きっと俺の心の声を聞いた奴が居れば単純な奴めと笑うかもしれないけど俺にとっては最大のご褒美だ。
今なら跪いてアイツの足だって舐められる自信がある。
まあ、それは置いておくとして俺だけが喜んでいてもアズサが不安がるだけだ。
まずは聞かれた事に答えないといけない。
「まずは対処法だけど・・・。」
「うん!」
「そんなのは無い。だからそれに慣れるしかないんだ。」
俺も寝ている時以外の殆どを好きな相手の事が頭から離れない。
傍に居なければ心配だし、傍に居ればそれだけで嬉しくて心に羽が生えたみたいに軽くなる。
もはや、これは汚染と言っても言い過ぎではない程で落ち着くなんて出来る筈もない。
だから他の事に興味が無かったり感情が動かなくなる。
ようは常に決まった感情の波が起きて他の事に気を回す余裕が無いのだ。
しかし、それを聞いたアズサは少しの間だけ呆然と俺を見詰めると素早く何かを思いついたようだ。
さすが頭が良いと考えるのも早いみたいだけど、いったいどんな解決策を考え付いたのだろうか?
「良し決めた。ハルヤ、私とキスして!」
「それは良いけど解決になるのか?」
「前例がないならトライ&エラーだよ。その次は胸を触った貰って、その次は・・・Hしてみましょ。」
「・・・。」
どうやら感情が高まり過ぎてアズサが馬鹿な子になってしまったみたいだ。
なんだかアケミとユウナを見ている様で今後が心配になってくる。
「アズサはまず落ち着こうな。今はキスだけにして帰ってから試そうな。」
ここはホテルでもなければ自分達の家でもない。
こんな所で互いの初めてを終わらせるなんて後々になって後悔になってしまうのは明らかだ。
それにしても、まさか俺がアズサを宥める日が来るとは思わなかった。
しかし、こんなピンク色の状態も彼女の登場で急変してしまう事となる。




