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11 実験 ②

時間は遅いけど俺はすぐにツキミヤさんに連絡を取る事にした。

学生の俺では調べられる事に限界があるからだ。


『なんだ。ユウキ君。』

「ハルヤで良い。それよりも急いで協力を頼みたい。」

『勘弁してくれよ。徹夜で眠いんだ。』

「それなら誰か役立つ奴を紹介してくれ。」

『は~分かった。それで何をすれば良いんだ?』


よほど疲れているのか大きな溜息と共に暗い声がスマホから聞こえてくる。

ただ、今日調べる事に関しては大した内容じゃないので、すぐに終わらせられるだろう。


俺は待ち合わせをして合流すると今から調べたい2つの事を話した。


「今日調べるのは武器の強度と俺自身の強度だ。」

「それに何の意味があるんだ?」

「さっき俺が使っている武器を確認したら驚くほど消耗が少ない。だからその確認が必要なんだ。」


ナイフなら何本か確保してあるからそれを実験に使用する。

母さんの使っている槍も消耗していなかったので俺のショートソードが特別という訳ではないはずだ。


「それなら知り合いにレスキューが居るからそいつの所で道具を借りるか。」


そして連絡をした後に到着するとそこには事故車から人を救出する際に車の金属部を切断する大きな工具が準備されていた。

直に見るのは初めてだけどかなりの迫力がある。

それを人が持つとまるでロボットアニメに出てくるヒーローみたいだ。


「俺は柴田シバタていうんだ、よろしくな。それじゃあ早く終わらせようぜ。内々に許可は取ってるがバレたら始末書もんだからな。」

「お願いします。このナイフに傷を付けてくれるだけで構いません。」


俺はそう言って抜き身のナイフを取り出してそれを手渡した。

切断まで考えてる訳ではないので簡単なはずだ。


「分かった。少し待ってな。」


そう言って柴田さんはナイフを万力で挟むと軽く工具を当てて確認する。

瞬間的に火花が散っていたのでどちらかが削れているのは確かだ。

そしてナイフを確認して万力から外すと俺の所へと持って来た。


「普通のナイフだな。これなら一瞬で切断できる。」


俺も見てみたけどそこにはハッキリとした傷が出来ており側面が抉れている。

確かにこれなら切断は簡単だろう。


「それなら工具を回したまま待機してください。」

「分かった。何をするんだ?」

「俺が手に持って切断部分に当ててみます。」

「それなら危なかったらすぐに手を放せよ。巻き込まれたら危ないからな。」


断られるかと思ってたけど許可が出たので俺はナイフをゆっくりと近づけていく。

そして音をたてながら高速で回転するブレードにナイフが触れると今度は火花は出ていない。

更に強く押し込んでも同様だ。

ついでなので軽く指先で触れても怪我どころか痛みすらなかった。

俺は距離を取ると工具の回転が終わりシバタさんが俺の前までやって来る。


「どんな感じだ?」

「無傷ですね。」


俺はそう言ってナイフを見せる。

あちらにも俺がナイフを押し込んだ事で抵抗は感じたはずなので、それでも傷が無い事に驚きの表情を浮かべている。


「ついでなのでもう一つ実験をしたいのですけど良いですか?」

「何をするんだ?」

「まあ、ちょっと。あの高台に昇りますね。」


俺が指さした先には高さ30メートル程の高台がある。

恐らくはロープによる上り下りの訓練に使用するのだろう。


「ツキミヤさんにはこれを渡しとくから失敗したら使ってくれ。」


俺はツキミヤさんには蘇生薬を渡すと素早く高台へと登って行く。

そしてそのまま一気に頭から地面へとダイブして砂埃をあげながら地面へと倒れた。


「お、おい!」

「マジかあの坊主!」


そう言って2人は慌てた表情で地面に落ちた俺に駆け寄って来るが、それを見ながらまるで平地でこけた様に平然と起き上がって体を叩いた。

その際に体を確認するけど何のダメージも無く汚れも付いていない。

良くても脳震盪か骨折はするだろうと覚悟していたのになんだか不思議な気分だ。

素直に言えばこれは予想された結果の一つだけどあまり良い結果とはいえない。

何故なら魔物と同じ様に通常の方法ではダメージを受けないと言う事だからだ。

これは明日から早急に対応を考えないといけないが、その前にお叱りタイムがやって来たようだ。


「この馬鹿野郎が。驚かすんじゃねえ。」

「ものには限度ってもんがあるんだ。若い奴が無理すんじゃねえ。」


死んでも生き返るので無理はしてないんだけど時間を無駄にしたくないので黙って聞き流しておく。


「でもこれで色々分かりました。俺の武器が消耗しない理由と体の異常について。」

「そうか。それは良かったなこれは返しとくからあまり無理すんなよ。」

「あの、次は高高度からのノンパラシュートダイブを試したいんだけど。」

「俺の言葉が聞こえなかったのか?」


2人とも額に青筋が立っているが、そんなに危険な事をしている気は無いのでこれは聞き入れられない。


「・・・仕方ないか。」


すると二人から同時に大きなため息が漏れ聞こえた。

この後にも先程の工具で手を切断出来るか試したかったけど、これも口にしない方が良さそうだ。


そしてこの事で分かったのは俺達の体には何らかの不思議な力が働いていて通常の攻撃が通用しないらしい。

その延長で武器も何らかの力で守られているから摩耗しなかったのだろう。

そして力がある者がダメージを与えるとその部分の膜を斬り裂いて普通の人でも魔物を倒す事が出来るようになる。

でもその場合、倒した相手が力を得てしまうから少し問題がありそうだ。


そして木刀でゴブリンを殴った時は頭部が潰れていたので攻撃力は武器に依存する傾向があるのだろう。

もしかするとカミソリの様に細くても折れないかもしれないけど遥かに強い相手にぶつかると折れてしまうかもしれない。

試す機会も試そうとも思わないので武器に関しては常識の物を使用しようと思う。


問題は一般人に対する俺の無敵性をどうやったら克服できるかだ。

今のままだと偶然でも悪意ある者が力を得た場合に手の付けようがないので明日からもツキミヤさんには協力してもらう必要がある。


「それじゃあ、今日の実験はこれで終わりだな。」

「ハルヤよ。今日はって事は明日もするのか?」

「そのつもりだけど。」


するとツキミヤさんの後ろからシバタさんが肩を叩いたけど、その顔は何故か可哀相な人を見る様な表情を浮かべている。

ツキミヤさんは嫌そうな顔をしているが、相談を聞いてくれると言った以上は断り難いだろう。


「今日は奢ってやるから頑張れ。」

「悪い、仕事が多くて今日も残業なんだ。」

「社会人は大変だな。」

「お前の件が殆どだよ!」


そして俺達はその場で別れると互いの居るべき場所へと移動していった。

シバタさんは工具の点検に向かい、ツキミヤさんは事件本部のある警察署に戻る。

そして、俺はそのまま家に帰って行った。


「ただいま~。」

「あ、お帰りお兄ちゃん。」

「お、お邪魔してます。」


するとどうやら家にユウナが来ていたらしく、その更に後ろからユウナの両親も姿を現した。

話すのは初めてだが生き返らせた時に顔は確認している誰かは分かる。


「やあ、君がハルヤ君だね。」

「始めまして、ってのはおかしいかしら。フフッ、死んでる時に顔を合わせてるものね。」


俺達の会話はほのぼのしているのに内容はそれを全力で否定している。

もしかするとこの2人も・・・。


「2人共どちらを選んだんですか?」

「父親として娘だけに苦労はさせられないからな。」

「それにテレビを見て選択は正しかったと思ってるわ。」


2人ともあの選択肢にYesと答えたようなので、もしかすると生き返った人たちの中にもそういった人がいるかもしれない。

これに関しては条件が分からない事に一番の問題がある。

特にユウナにメッセージが届いたのは俺が助けた後なので、どんな条件があるのかが絞り切れない

もしかして俺が原因って事はないと思うが、バカバカしいと感じてその思考を切り捨てた。


「それで2人はここに何をしに?」

「お礼を言おうと思ってね。私は父のリクだ。」

(未来の息子かもしれんしな。)

「そうね。子供同士は仲が良かったけど家族同士の付き合いはしてなかったから。これを機に御近づきになろうと思って。私が母のナギよ」

(親戚になるかもしれないから仲良くしておかないと。)

「そうですか。それなら丁度良かったので今まででに分かっている事で情報を共有しましょう。」


知っていて損をする事はない。

それにスキルについてもまずはレベルを上げてから選んだ方が効率的な選択が出来る。

特に前衛と後衛である魔法使いを間違えると大変だ。


「3人ともスキルは選びましたか?」

「それがよく分からなくてね。」

「あの、それでお兄さんに教えて欲しくて今日は来たんです。」

「それなら後でダンジョンに行きましょうか。魔物を倒す事に何か忌避感はありますか?」


すると3人からは大丈夫という答えが返されたので、それなら後は情報を共有してダンジョンに向かうだけで良さそうだ。

それに今日はあちらも食べていく予定だったようで人数分の料理が用意されている。


俺は左にアケミ、右にユウナと挟まれた状態で夕食を口に運ぶけど、なんだか二人が火花を散らしている様に見えるのは気のせいだろう。

それにしてもユウナはこんなに可愛かったのかと感じると俺は何故か彼女にも心が反応する事に気が付いた。

すると驚きが緊張に代わり次第に舌を痺れさせて味が分から無くなってしまう。

その結果、美味しい筈の夕飯を必死に胃へと送り込む事になってしまった


その後、俺は3人を連れてダンジョンへと向かった。

倒壊した家の前には何人も警官が並んでいたけど俺が声を掛けるとすぐに対応してくれる。


「こんばんわ。今日はどうしたんだい?」

「ダンジョンの調査とこの3人も力があるのでその確認に。」

「分かったよ。でも入るなら此方にお名前をお願いします。」


きっとこれで入った人を管理する事にしたのだろう。

それに名簿があれば後で非常事態となった時に頼る事が出来るし、今の日本で魔物を倒せるのは7人と1匹だけだ。

彼らも自分の命が掛かっているだろうから手は抜かないと思うがここも何時、他のダンジョンの様な状態になるか分からないからな。


そして俺達は中に入るとそのまま進み始め、少し行った所でノーマルゴブリンを発見する事が出来た。

この階層の魔物は全滅させたと思っていたけどまだ残っていたのだろうか?


「丁度良いのであれを倒して経験値を得ましょう。強くは無いので3人で十分に倒せると思います。」

「分かった任せておけ。」


ちなみに3人には少しズルをして魔石で力を上昇させてある。

それにユウナは最初から魔力が一番高かったので魔法使いとなってもらうために魔力を強化してある。


それとアケミがステータスボードを調べまくってパーティ編成を見つけてくれた。

細かな仕様は不明だけど経験値は分配される様で昨日のゴブリンを討伐する時は3人でパーティ機能を使っていたそうだ。

流石ゲーム好きな母さんが居ただけあってしっかりしている。


そして強化の甲斐もあって3人は簡単にゴブリンを倒してしまった。

やっぱり最初から強化してあって1人でなければ俺の時とは大きく違う。

そして3人ともスキルを手に入れるとそれを試すために魔物を探し始めた。


すると再びゴブリンを発見し3人は前に出るとまずはユウナが魔法を放つ体勢に入る。


『風よ眼前の敵を切り裂く刃となれ。』


すると目に見えない刃が発生してゴブリンへと放たれ、それにより深い傷が刻まれたゴブリンは魔石を残して消えていった。

どうやら、最初から強化しすぎたみたいで他の2人の出番が無くなってしまった。


「あ、あの。終わってしまいました。」

「次に行くぞ。」

「は、はい。」


予想外の威力に全員が驚いているけど強いのは悪い事じゃない。

それに、その分ユウナの安全が高まるならそれに越したことはないだろう。

そして、しばらく歩くと再びゴブリンが現れたので今度はリクさんが前に出る。


「今度は俺に任せろ。」


そう言って手に持った木刀でゴブリンに襲い掛かった。

この人も体格が良いので攻撃を受けたゴブリンは棍棒ごと体を強打され呆気なく消えていく。

こちらも完全なオーバーキルになってしまい、余裕で倒してしまっている。

そして再び進むとまたもやゴブリンが現れたが、まだ30分も歩いてないのにこれで3匹目だ。

ここを狩り尽くしたと思った時にはほとんどいなかったのに・・・。


すると今度は母親であるナギさんが木刀を構えた。

そして容赦ない2段突きを両目に放ってゴブリンを始末してしまったが何とも優雅な佇まいなので昔はフェンシングでもしていたのだろうか。


しかし、そんな事よりも気になるのはゴブリンが居た事なので俺は嫌な予感が頭を過り先を急ぐことに決めた。

ここから階段までは真直ぐ向かえば1時間くらいで到着するが2階層へ下りれば確実に結果が分かるだろう。


「すみませんが少し急ぎます。ユウナ、すこし負担かもしれないけどこの階層で見かけたゴブリンはすぐに始末してくれ。」

「任せてください。」


俺の指示にユウナは頬を赤くさせながら嬉しそうな返事を返してくれるので、どうやら初めての戦闘が成功して気分が高揚しているみたいだ。

その後、5匹のゴブリンを倒すと下の階層へと移動していった。

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