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102 神様の御告げ

次の日、俺達は再びグラウンドへと集まっていた。

そして見回せば昨日までは他人同士だった関係に大きな変化が生まれているようだ。

簡単に言えば12組のカップルが誕生し、とても楽しそうに会話をしている。

しかし、その横では選ばれなかった6人が揃って空を見上げて鱗雲の数を数えているという哀れな光景も見える。

まさに天国と地獄が地上に顕現したような光景にさすがの俺でも慰めの言葉を掛けてやりたいほどだ。

すると校舎の方からツクモ老が現れてその光景に笑いを噛み殺した。


「クックック!色々と下調べをした成果があった様じゃな。」

「もしかしてこうなる様に人選したんですか?」


てっきりアイドルグループでも作るのかと思ってたけどどうやら違うみたいだ。

考えてみれば彼氏、彼女持ちだとなかなかファンが付きそうにないし、この学園は迷惑さえかけない形なら恋愛を推奨しているので少し考えれば分かる事だった。

きっと先日問題になった覚醒者同士の将来についても考えていたのだろう・・・たぶん。


「これで装備の強化も完璧じゃな。アカツキの所には話は通しておるから彼らには後で装備を整えてやらんといかん。」

「そうですね。でも彼らはどうしますか。」


その横に居る6人はまるで賢者モードとなっているかの様に無心で空を見上げ地上の様子を見ようとはしない。

きっと、よほど空が好きか、その先にある宇宙に恋焦がれているのだろう。

しかし、あんな状態で使い物になるのか心配の種が尽きない。


「それについては既に考えてあるんじゃがな。」


そう言ってツクモ老は彼らへと歩み寄ると小声でボソボソト話しかけ始めた。

それでも俺には聞こえるので後の事も考え、内容を確認するために聞き耳を立ててみる。


「お主らに良い事を教えておいてやろう。」

「何でしょうか?」

「実はな、儂の知り合いに覚醒者を婿にしたい者がたくさんおってな。これが儂の所に送られて来たお嬢さん方の画像なんじゃが・・・。」


そう言ってツクモ老はスマホを取り出すと何枚もの画像を見せ始めた。

すると彼らの表情が急激に変わり歓喜と喜びの声を上げ始める。

しかし、そこで素直に紹介してやらないのがツクモ老らしい所で当然そこで一つの条件が言い渡された。


「しかし雑魚の覚醒者には紹介できんからこれからも励むようにの。この娘らが求めるのは強い男じゃ。」

「「「「「「お任せください!」」」」」」


すると彼らは賢者モードから脱し、背筋を伸ばして敬礼しながら元気に答えた。

何とも変わり身の早い奴らだけど本当に大丈夫だろうか。

するとツクモ老はこちらに戻って来ながら顔が死角に入ると同時にニヤリと笑みを浮かべる。


「もしかして最初から彼らをそういった方向で使う予定だったんですか?」

「フッフッフ!これ程の学園を運営するには色々あっての。まあ、相手のお嬢さんの人格は保証されとるから大丈夫じゃよ。儂相手に馬鹿な事をしてくる奴も最近では居なくなっておるしの。」


なんだかこの学園の闇を垣間見た気がするけど、これは聞かなかった事にしよう。

しかし、あの6人の今の状況は最初から仕組まれていたみたいだ。

でも頑張って結果を出せば有力者の娘さんとの出会いが確約されているので、ある意味ではこちらの方が幸せかもしれない。

やはり大事に思える人とダンジョンに入るのは常に不安が付きまとうことになるからだ。


「奴らの事は儂に任せておけ。悪い様にはせんからな。」

「まあ、やる気さえ出してくれるなら構いませんよ。」


ただ、そのセリフはさっきの黒い笑み出さずに言って欲しかった。

そうすれば唯の良い話で済んでいたのに・・・。


そして今日の彼らがする事も既に決まっている。

まずはダンジョンに行って魔物を再び倒し、スキルを獲得してもらわないといけない。

ただし今回は希望者の生徒で後方支援組を作る事になっている。

その者らは装備などを作るメンバーで、スキルを使って製作をして貰う予定だ。

今までは余裕が無くて放置していた分野で不明な事だらけで既に数名の女性メンバーが手を上げてくれている。

これは別に昨日の戦いでビビったとかではなく元からそちらの方面に興味がある人材が生徒の中に含まれていただけだ。

状況によってはある程度のレベルまで上げる必要も出て来るのでしばらくは皆でダンジョン通いになるだろう。

そして今日もダンジョンの前で手続きを済ませ、皆に装備を配って行く。


「今日からはこれで戦ってもらう。」


そう言って俺は剣と槍を取り出して好きな方を選ばせた。

すると男性陣は剣を取り、女性陣は槍を手にしていく。

更に盾も試させたけどこれに関してはまだ重た過ぎる様で誰も扱えなかった。


「なんだか昨日よりもずっと真面になりましたね。」

「槍なら離れて攻撃出来るから安全ね。」

「チームはどう分ける?」

「昨日ので良いんじゃないか?」


俺が言わなくても数人の生徒が率先して意見を出し合い、パーティを組んで行く。

するとその中からあの6人が抜け出し一カ所に固まるとチームを結成した。


「俺達はこのメンバーで動く事にする。先生も良いですか?」

「それは構わないぞ。でも行って良いのは2階層までだ。それと渡した資料にあるホブに遭遇したら逃げるのを優先しろ。」

「分かりました。」


彼らに渡したのは13階層で鹵獲した槍と9階層で鹵獲したサーベルだ。

それなりに攻撃力があるのでホブでも倒せない事は無いだろうけど高い確率で犠牲者が出る。

死ぬのも経験と言えば終わりだけど、その後の対応が出来ないかもしれない。

そのため今はなるべく死なずに訓練を続けたいところだけど、死人が出たら皆の前で蘇生を実践すれば良いだろう。


「準備が出来たら行って来い・・・。と、その前に。お前らにボディーガードを手配してある。もしもの時は上手く交渉して助けてもらう様に。」


俺がそう言うと周囲にある家の影から数匹の犬が姿を現した。

彼らはこの近辺に住む飼い犬たちでリリーの部下で、コイツ等を借りるためにアイツにはA5ランクの極厚サーロインを渡す事になってしまった。

精肉店のおばさんが注文した時は驚いた後にニコニコしながら切り分けていたので、きっとパーティーにでも使う物と思ったに違いない。

ちなみにここには5頭の犬達が居て彼らにも前払いで既に支払いは済ませてある。

こちらはリリーに言われてモモ肉の塊を渡したのだけど、やはりリーダーの方が良い物を食べるのが彼らの常識なのだろう。

ただ、リリーに向かっては何もしないのに、俺に向かって抗議するように吠えるのは止めてもらいたかった。

なんだか俺の方がリリーやコイツ等よりも下に思われるじゃないかと不安になる。


何はともあれ後にもう一度精肉店へと向かいそれぞれにリリーと同じ肉を10分の1程度の量でも渡す事でなんとか快く協力してくれる事になった。

彼らは凛々しくも背筋を伸ばし大地に力強く足を付けて俺の前に整列する。


「テレビに出ていたのとは違いますけど、もしかして犬の覚醒者ですか?」

「その通りだ。犬だけど知能は人間並みに高いからこの機会に親交を深めておくと良い。」


さっきの話に出た犬は自衛隊と第二ダンジョンの鎮圧を行った時に放送されたリリーの事を言っているのだろう。

俺達の顔は映されていないけどリリーだけはおめかしをしてバッチリ全国放送されているから知っている人は多い。

犬が魔法を使って魔物を薙ぎ払う姿は今でも覚えている程にインパクトがあったのだろう。


「あの、交渉って何をすれば?」

「そうだな・・・。お前らは何が欲しいんだ?」


するとそれぞれにアイテムボックスからボードを取り出すとそれに向かって字を書き始める。

そして完成すると一斉に吠えてボードを前足で指し示した。


「肉肉肉肉肉か。・・・だそうだ。次の機会にでも肉を持って来てやれ。ちなみに安物は受け付けないから覚悟しておけよ。コイツ等もその辺の会社員よりも稼いでるからな。」


口座は無くてもアイテムボックスがあればお金の保管は出来る。

ダンジョンに関係して働いている人達は犬だからと言って無碍に扱わないのでコイツ等はそれなりにお金を持っているらしい。

それに普通の精肉店で買えなくても、あの焼き肉屋の店長からなら幾らでも買える。

なのでコイツ等の舌は確実に肥えている事だろう。


「まあ、安全には変えられないな。」

「そうね。早く強くなって取り返しましょ。」


彼らは互いのパートナーと視線を交わして話し合い、安全を優先させたみたいだ。

それに自分達の実力を考慮した良い判断だと思うので今のところは大丈夫だろう。

それに金銭面での負荷を掛ける事で良い感じにハングリー精神も刺激できて女性陣も強くなる事に前向きな姿勢を見せ始めている。


「それなら準備が出来たパーティから好きなタイミングで入っても良いぞ。今日のノルマも1人最低1匹の魔物を倒す事だ。1階層には昨日の残りと合わせて30匹のゴブリンが居るから喧嘩しない様にな。」

「了解です。」


そして、彼らは昨日と違って怯えた様子も無くダンジョンへと入って行った。

どうやら精神面での変化も丁度良さそうで俺に比べれば人間らしさが残っているけど、魔物を殺す事への忌避感が消えていれば昨日の様な状況にはならないだろう。


そして俺はもしもに備えてダンジョンの前で待機しているとそれを見計らったかのようにスマホが着信を知らせて来る。

しかし手に取って画面に視線を向けると、そこには知らない番号が表示されている。

ただ、知らないと言うかこんな表示は今までに見た事が無い。


「何だこれ?」


そこには『#?¥!=$&#!*+・~』とか訳の分からない番号が出ている。

明らかにバグか何者かによるサイバー攻撃を疑うところだ。


「こんな番号に出るはずないだろ。」


そして俺は即座に回線を切断するために終了ボタンをタップした。

しかし、その操作は無効の様でスマホからは今も呼び出し音を鳴り続けている。


「予想はしてたけどやっぱり無理か。」


仕方なく電源を落とす操作をしてみてもやっぱり無効だった。

その為、残された2つの手段の内の片方を行ってみる。


「確かSIMカードを抜くとスマホは使用できなくなるんだったな。」


俺はスマホにある蓋を開けると側面にある小さな穴へと細い棒を差し込みSIMカードを抜き取る。

これでこのスマホの認識が出来なくなりネットも含めた回線が遮断されるはずだ。


「・・・まだ鳴ってるな。」


しかし何故か音は鳴り止まず、心なしか次第にボリュームも上がって来ている気がするけど元から最大にしてあったのに不思議なものだ。

仕方なく最後の手段を取るためにスマホを地面へと置て片足を上げた。


「買い替えるのが面倒なんだよな。」


この中には色々なデータが入っている。

先日の卒業旅行の写真や、ここ数か月の皆との思い出も含めれば写真だけでも500枚を超えている。

連絡先に関しては聞き直す人数もたかが知れているので問題がないとはいえ、それなりに面倒臭そうだ。

しかし、こうなったスマホを誰が使いたがるだろうか。

もはや手遅れかもしれないけどデータの流出の件も考えて即座に破壊しなければならない。

後でアンドウさんに頼んでこんなふざけた事を仕出かした奴を突き止めてもらおう。


「さらば我がスマホ。短い付き合いだったな。」


去年の10月に買い替えたばかりなのに今までで最短の付き合いだったけど、この期に最新のスマホに買い替える事にしよう。

そして地面が陥没する程の勢いで足をスマホへと叩き付けた。

しかし俺の足が触れた瞬間に「ピッ」と電子音が鳴り回線が繋がるのを知らせて来る。

どうやら踏み付けた時に通話が繋がったみたいだ。

しかし靴の裏などではスマホは反応しないはずなのに何で通話になったんだ。


「手加減してないはずなのにスマホには傷一つなしか・・・。」


それどころかスマホの下の地面まで影響がなく、まるで不思議な力にでも遮られているようだ。

しかし、俺が踏み付けてもビクともしないと言う事は途轍もなく強固な力に守られていると言う事になる。

もしこれを無理やりにでも例えるなら、ダンジョンの100階層付近に居る魔物の防御力に匹敵するかもしれない。

なのでそんな事が出来そうな存在と言えば邪神くらいだ。

でも奴と連絡先を交換した記憶もないし連絡を取り合う様な仲でもないと断言できる。

どちらかと言えば犬猿の仲で敵同士と言った所だけど、そんな事を考えているとスマホから声が聞こえて来た。

通話状態なので当然だけど、ただ相手の声は聞いた事のない爽やかな声だ。


「聞こえるかな?出来ればスマホを手に取って画面を見て欲しいのだけど。」


以前に邪神と少し話した時とは違い丁寧な口調で、どうやらアイツとは別の存在がスマホに連絡をして来たらしい。

ただ、明らかに尋常の存在からではないだろうから警戒をするに越した事は無い。

出来れば直接触らずに焼き肉などで使うトングで挟んで持ち上げたいけど、そこまでは準備していないので素手で行くしかなさそうだ。


「分かった。」


俺はスマホを拾い上げて立ち上がると画面へと視線を向けた。

するとそこにはとても爽やか系で中性的な顔をした人物が映し出されている。

やはり知らない顔だと思いながらもテレビ電話となっている様なのでそのまま画面に向かって話しかけた。


「どちら様だ?」

『ん~、警戒はしなくても良いよ。私は天津神の1人で天照アマテラスと言うんだ。簡単に言えば邪神を封印している神の1人だね。』


アマテラス様と言えば日本神話でも有名な神様の1人だ。

太陽神として知られていて月の女神である月読ツクヨミ様と八岐大蛇で有名な素戔嗚スサノオ様とは兄弟だったかな。

ただ、顔なんて実際に見た事が無いのでこの人が本人かは分からない。

あとでユカリに特徴を聞いて確認してみようと思う。


「それで、その方が何か俺に御用ですか?」

『実はそうなのだよ。ちょっと困った事になってしまってね。』


しかし全く困っていない顔で言われても説得力がない。

先程から薄い笑みを浮かべたままのポーカーフェイスなので如何なる感情も読み取る事は

不可能そうだ。

なので、ちょっとフラグっぽくて嫌だけど、その困った事を直接聞いてみる事にした。


「それで、何に困っているのですか?」

『まずは確認だけど君は魔物が邪神から生まれているのは知っているね。』

「ええ、まあ。」

『そして、この星の一部の地域で魔物が今も猛威を振るっているのも知っているね。』

「テレビで少しは。」

『その魔物の一部をここで請け負わないとイケなくなった。』

「・・・は?」

『だから後1時間くらいでこのダンジョンに大量の魔物が発生するから気を付けるんだよ。』


俺は一瞬だけ思考が止まり、復帰後にはスマホを地面に叩き付けたい気分で一杯になった。

しかし、そんな事をしても無駄だろうから即座に意識を情報収集に切り替える。


「規模と敵の種類は!?」

『数は5000くらいかな。魔物は一度邪気に変換して送られてくるから君たちの良く知る魔物だけかな。でもかなり深い階層の魔物も生まれるから気を付けてね。』

「クソッ!毎度のことながら勝手を言いやがる。どうしてもう少し余裕を見て言ってこないんだ!?これだからあの夜も大変な事になったんだぞ!」

『それについては弁明のしようがない。ただ、もし無事に鎮圧できればこれまでの君の努力に報いるためにご褒美をあげよう。』

「ご褒美・・・それは役に立つのか?」

『もちろんだよ。なんたって君の愛するあの不運な娘に打って付けの物だからね。きっと気に入ると思うからあのユカリと名乗っている土地神に言っておくよ。後で受け取ると良い。』


既に失敗は視野に入れていないと言う事か。

でも5000という数にも問題があるのに、更に強い魔物もここに含まれているのでちょっと厄介かもしれない。

もし迎え撃つなら1~2階層までは生徒たちに任せて後はこちらで面倒を見るしかなさそうだ。


「納得はしないが拒否権が無いのも分かった。それと日本だとこのダンジョンだけなんだな。」

『そうだね。他の所だと全滅してしまうだろうからここに集中させておいたよ。』


要らない世話だけどその意見には納得できる。

未だに人員の少ない第二と、アメリカから来たばかりで実力もついていない第三では突然の魔物の発生に対応できないだろう。

なのでここは俺達でどうにかするのが妥当な所だ。


「それなら俺は対応があるからスマホを返してくれ。」

『期待してるよ。なにせ他の地域の10倍も押し付けられたからね。しっかり頑張るんだよ。』


そう言ってアマテラス様は最後に言わなくても良い事を言い残して消えて行った。

どうやら他の地域でも同じように魔物の大発生が起きるみたいだ。

ただし日本の10分の1以下の小規模な状態で・・・。

俺はスマホを睨んで溜息を付きながらも、元通りに使えるようにしてダンジョンの横にある事務所へと向かって行った。

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