第6話 -帝国第五皇女-
「師匠」
「どうした?」
「いまさらですが、私たちの馬車を置いてきて大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ちょっと探知式の術式を付与した紙をそこらに撒いといたからなんかあれば爆発するだろう」
「爆発って・・・馬車は大丈夫ですかね」
「あ、大丈夫であることを祈ろう」
「そんな御無体な」
「さあ、近づいてきたぞ」
「探知できる限り12人か・・・」
「馬車は・・・?」
「ん? いろいろと不可解だが、視認できたぞ」
「っげ?!」
「どうかされましたか?」
視認した12人の影は微細な空間振動を魔力により起こして帰ってきた振動を身体強化した聴覚で聞き分けて探知する物理的探知の魔法だ。
この方法は実際に魔力で探知する方法より魔力の痕跡が残らないためばれにくく使う力も身体能力強化や微細な振動を作り出すだけで良いためとてもエネルギー効率が良い。
一つ難点があるとするなら聴覚を強化するため個人の裁量次第では探知性能の出来不出来が決まってくるという点だ。
その探知魔法を使用して確認した結果、12人の盗賊?に目をつけられているようなのだが、馬車が普通より大きいのだ。
大きな荷台を引いているのではなく、4頭の大きな馬が豪華な客席を引いており中には3人と御者が2名いるのが確認できた。
二人は甲冑を着ているな。
そして、近づいてきて馬車の全貌が明らかとなったのだ。
「あれは皇族の馬車だぞ?!」
「なぜ護衛もなくこんな山道を走っているんだ」
「皇族?!」
「なんでまた」
「考えるより動く! カール、急ぐぞ!!」
「はい!!」
───「へっへっへ、こんな山道を護衛もなく御大層な馬車でとおるもんじゃねぇなあ?」
外の男は偃月上の剣を取り出し、青い炎を宿らせ舌なめずりをしながらこちらを見てくる。
ガラス越しから伝わる不快な感覚だ。これがお兄様から教えられた宮廷や修道院、寺院では知ることのない汚れた人たちなのでしょうか。
「いやぁ、出ってきってっださいよ~?」
「命以外の持ってるもの全部くれたら痛いことしないからさぁ」
「馬車も高級そうだしあんまり傷つけたくないんだわ」
「あとあれだ!」
「男はいらんがガラス越しに見えるそこの女二人はしっかりここに置いてけよ?」
「白い髪がそそるねぇ」
「それにエルフェンリートか?! エルフェンリートは高く売れるぜ」
馬車の中まで聞こえるその薄汚い言葉は、二人の御者を震え上がらせる。
「アリス様、聞いてはなりませぬ」
「あのような下卑た者どもは今すぐ私が切り刻みます」
「目を瞑ってお待ちください」
私の目を塞ぎ帝国由来の甲冑で身を包みエルフェンリート族特有の長い耳ときれいな金髪、淡い緑色の瞳が特徴の従者であるエリザ・フルーデント。
「待てエリザ!!」
「敵の位置をまだ捕捉しきれてない」
「闇雲に行ってはアリス様を危険に晒すことになるぞ」
帝国甲冑によってますますと体格を良くしたように見えるこの大男はドヴェルフ族のヴェルゲン・ブリッツ。
「私は、大丈夫」
「ですが・・・」
「どうかお二人とも傷つかないよう注意してくださいね」
「アリス様の心遣い、誠に感謝申し上げます」
「帝国の姫君と騎士に刃を向けた報いを奴らの胸に刻み込んでご覧にいれましょうぞ!」
高ぶった騎士の心を刺激したのか二人は跪いて量の腕を水平に胸の前へと置きお辞儀する。
修道院では神々への祈りをささげるときと違うお辞儀に少し戸惑ってしまいそうになるけれど私も帝国の第五皇女として威厳を保たねばならない。
「ずっとアリス様をお守りしてきたんです! 御心配はおかけいたしませんぞ!!」
「お願いしますね」
二人は外へ出る。座席の横に備え置かれていた大斧を手荷物ヴェルゲン、腰にさした長剣を構えるエリザ。
私も強かったら国の人々や皆を守れるのでしょうか。
守られるたびに心に響くやるせない気持ちを感じるたびに悔しさを募らせる。
ヴェルゲンが馬車の周りを防御魔法で覆い、エリザと武器を構え馬車の外の連中と一戦交えようとしたその時だった。
爆音と供に石や砂を空へと巻き上げる。
二人の騎士は何が起きたのか理解できずにこちらを見ているようだが、判断が遅い。
だが、「良い防御魔法だ!!」
「劫火術式改・メトラム」
高く巻き上げた石や砂に炎をまとわせ広範囲に勢いよく落とす術式だ。
重力変化と爆発、炎をミックスした夢のコラボレーションが大地に降り注ぐ。
メトラムは小規模に改良した魔法であるためさながら流星群とまではいかないが静かに舞い落ちる様は晴天に振る雨を連想させる。
炎の雨が降り注いだらへんにいた盗賊連中は劫火に身を包むか石や砂に体をえぐられ絶命する者で地獄絵図だった。
「旦那様?!」
「あ、やべぇ」
「あ、やべぇ、じゃないですよ!! 危うく騎士二人殺すところでしたよ?!」
「カールが二人の上に簡易防御魔法張ってくれたおかげで助かった! 儲け」
「旦那様の火力は小規模といえどえげつないのでこれでも二重三重に張り巡らせましたよ」
「もう体内の魔力かっつかつです!!」
「いやぁ、すまんって」
「皇族の馬車だとわかっているならなおさら慎重になってください!」
「大変なことになってたら首だけになってるところですよ?!」
「つい花火が見たくなってしまってな」
「旦那様!!」
目をそらすミハル、目くじらを立てるカール二人のやり取りに割って入るように騎士二人がこちらへとくる。
「賊の排除感謝する!」
「私はパトリア帝国第五皇女守護隊のヴェルゲンだ」
「こちらは守護隊のエリザという」
「この度の活躍、感謝します」
「おかげで姫様もお怪我をされることなく切り抜けられました!」
とてつもない違和感を感じる。
帝国のしかも皇女を守護する騎士と言えば、「誰が魔法を行使して良いと許可をだしたか!!」だの「我々だけで事をおさめられたのだしゃしゃりおって!!」だのを言う連中ばっかりだったのでいきなり感謝します!っと素直に言われてしまっては拍子抜けもいいところだ。
「ああ、いえいえ見てみぬふりっふ!!」
カールの肘がわき腹をクリーンヒットする感触、何かまずいことでも言おうとしただろうか。
「私の主がいきなりむせてご無礼をいたしました」
「主人は喋れそうにありませんので代わりに執事の私カール・カトラスが騎士様方への発言をお許しください」
「い、いいでしょう」
騎士のお姉さん少しひいてるぞカール。
「我々はこれより帝都へと伺う道中第五皇女アリス・ネル・ガーランド様のお乗りになられる馬車が攻撃されていたのを見かけ皇女様のため、帝国のため立ち上がった次第でございます」
「うわぁ」
「ぐっふぉ?!」
二度目の肘は応える。
「あ、ああ、我々にそのような形式的な儀礼をとらなくてもよい」
「アリス様にお怪我がなくことを切り抜けることができた」
「本当に感謝する」
エリザというエルフェンリートの騎士が答えた。
とても不思議な二人の騎士だ。
「帝都へと向かう途中であるのならばすまないが道中護衛を頼んでもいいだろうか?」
ドヴェルフ族の特徴的なもじゃもじゃのひげをさすりながらこちらをうかがっている。
「え?」
「ああ、いいですけど」
カールの視線がこわい。
前に帝国騎士が酒場で女性店員にあたりちらしているのを止めて喧嘩を売られたことがあった。気に食わなかったので手が滑ったふりを装って酒をぶっかけてやり、店の外にぶっ飛ばしたら決闘やらお家騒動やら、関所に呼び出されるわで大変だった。
らしい。
私はすべて無視を決め込んだためあまり知らないがカールがしりぬぐいをしてくれていたようだ。
以来帝国関連は慎重に動くようになったカールだった。
「そうか!」
「頼まれてくれるか、おぬしらなら心強い!」
「では早速報酬の話だが」
彼らの後ろが騒がしい。
「アリス様なりませぬ」
「馬車へお戻りください」
御者が制止させようと触れないように止めるそぶりをするが止まらずヴェルゲンとエリザの後ろへゆっくりと歩いてくる。
長く綺麗な真っ白の髪に白く透き通った肌は宝石のように赤く輝く瞳を際立たせ青白い法衣を身にまとった人物。
帝国第五皇女、アリス・ネル・ガーランドだ。
宮廷で身に着けただろう作法を崩さず、歩きなれないだろう舗装されていない道を儀式かなにかのために用意されただろう靴で歩くには少し難しいのかぎこちない。
言いえぬ、緊張が走る。
カールは、皇女という位の人物が目の前にいるという緊張で押しつぶされそうなのだろうが、このアリスという皇女はかなりおかしい。
先ほどから肌に伝わる魔力、魔素とでもいうのかピリピリした感触がとてつもない力を持っていることを暗示させてくる。
魔人ヴィール以上のヤバイ何かを感じる。
皇女が口を開くその瞬間、寒気が走り少し身構えてしまった。
「わたくしは、パトリア帝国第五皇女 アリス・ネル・ガーランド」
「賊から守っていただきありがとうございました。」
「こちらこそ皇女様のため戦うことができ光栄にございます」
ひれ伏し敬礼の姿勢をとる。
カールが目を丸く見開いているのがちらりと見えるが、7体の魔人に匹敵するかそれ以上の魔力を感じてしまえばいくら俺でも委縮をしてしまう。
「顔をお上げください」
「とても恥ずかしい話ではありますが、わたくしのできることは数少ないのです」
「お礼といっても些細なものしかお渡しすることができませんが護衛の件、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「アリス様! その件は私たちが」
「助けていただいた方にお願いをするのです」
「わたくしからお願いするのが礼儀であり、相応の報酬をお約束するのは当然のことです」
「エリザ、私を恥知らずの皇女にするおつもりですか?」
「申し訳ございません」
この皇女はいったいなんだ。俺の知っている第四皇子、第三皇女、第二王子とは大違いだ。
下水で作り出した食事を毎日食べない限りああも心は汚くならないだろうかと思ったほどめちゃくちゃだったのを知っていたため第五皇女が透明度100%の超精製水みたいな人間をどうやれば形成できるのか不思議でならない。
誰かに創られた人間ではないかとおもうくらいの見た目の美しさに加え汚れを知らない性格ときた。
騎士二人の雰囲気からして違うのも納得がいく。
皇女と騎士のやり取りをよそに、ごそごそと皇女の後ろでうごめく何かが立ち上がるのを視認した。
「くっそう!!」
「死にさらせぇあああ!」
青白い炎をまとった剣を振り上げ皇女へと近づく。
騎士二人もとっさに反応するが間に合わない。
ならば。
「跳躍歩法」
足を滑らすように目的地へと数歩へと移動する。
刀を構える。刀の扱いはいまいちよくわからなかった。だが、魔法を考えていくうちに武器の有用性についても考えるようになっていった。
刀の形状上、より早く、より強く、勢いを乗せるためには刀を手に持った状態より収めた状態からのほうが速くなることが理解できた。
ならばその姿勢をとり、体内に内在する魔力を刀へと集める。
周囲が帯電した魔力が浮かび上がり白い蛍のような光を放つ。
雷撃系の魔法だ。
名づけるなら「天雷一閃」。
雷鳴のような爆音と供に刀を抜き、盗賊を斬る。
爆音に驚いた盗賊。
「な、なんだいまの?」
「へ、っへへへへ!! なんにもおこらねえじゃねぇか!!」
「脅しのつもりでその獲物を抜いたのなら今度はこっちか・・・」
「どう・・いう・・・・こ」
二つになった盗賊はおびただしい血を地面に散らしながらゆっくりと息を止めた。