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第5話 -晩餐会の招待状-

───魔力、総合してそう呼称される力の根源は、今まで大気のエネルギーや自然の力によるものと考えられていた。


だが、我々の体を構成する物が2つ、若しくはそれ以上の数の球体がなんらかの引力を持って集合体を形成することにより形作られ、それらが引かれたり反発し合ったりしてお互いに干渉しながら物の形や生き物の形が創られているというのを物質最小単位理論というのだが、それよりも遥かに小さな世界に焦点を当てた科学者がいた。


それら核となる球体は、球体と小さな球体で構成されその隙間にはなにもないという学者もいれば何かがあるという学者もいる。


その狭間にあるものはしかと存在するのか、それとも虚無かの論争は、長く決着のつかぬまま現代にまで持ち越され研究は滞ったかのように見えた。


だが、その間には紛れもなく魔力の源になるエネルギーがたしかに存在したのだ。


それらエネルギーを光子と呼び、一度発生させれば連鎖的に次々と同様力が湧き上がる仕組みを発見したのだ。


これを光子学と呼び、魔力を世界最小単位で見て魔法を構築する新たな学問を確立した。


私は、光子を発見した第一人者、ミハル・スーン・ゲラード。友人は私をミハルと呼んでいる。

若干20歳の魔法学者で元帝国隊の騎士であった。

普段は、魔法を新たに作ってその方法を売り生計を立てている魔法学者だ。


淹れたてのお茶をゆっくりと飲みながらぼろぼろになった節々の痛む体を癒やす。


「ああ、一日中魔法の研究だけして生きていたい」


魔法の本を開きながらお茶をゆっくりと飲み、窓から入ってくる陽の光がまた心地よさを出し集中力を上げる。


「またそんな自堕落なことを言ってらっしゃるのですか?」

「そんなことですからせっかくのお仕事もまた棒に振るのですよ!」


自由きままにつぶやいたことですら耳の痛い言葉で返してくる人物は、俺の家の使用人兼秘書兼弟子のカールという名前の中年男性だ。


「あれは振ったのではなく・・・」

「あっちから逃げていったのだ」


「せっかくの魔法講師の仕事を興味本位で新しい学問だとか言って生徒に教えて爆発騒ぎを起こすなんて学院側からみたらたまったものじゃないですよ」

「私も帝国隊の件は残念だと思いますが・・・ 旦那様がかえってきただけでもありがたい話です」

「ですが我が家の財政状況は傾く一方なのです!! お父様がご健在であられたならいかに嘆き悲しむか!」


嘆き悲しむというのはどうもオーバーな気がするが、あのSS作戦が失敗に終わりグレゴリー隊長を失った代償は大きく帝国隊は、解体されあの現場にいた人間は左遷と除隊、特権階級としての地位の降格を余儀なくされた。


特権階級と言っても最上位である皇族の下につく貴族の護衛人に近いようなものなので降格となっても一般的な平民になったにすぎず普段の生活とあまり変わりはない。


あのあと命からがらヴィールの追撃にあいながらも生きて帰ってこれたが、たまたまアイジスの閉じる時に滑り込みでは入れたのは運がよかった。


一時的に開けていた絶対防御の魔法を再び開けて戻すという作業は並大抵の作業ではないため、外に取り残され再び開けてほしい!なんて言おうものならヴィールのおもちゃになっていたのは想像に難くない。


「あんな化け物をどう倒せというのか・・・」


ふと出た言葉はため息交じりにお茶の湯気とともに消えていった。


「そうでした」

「先程旦那様宛にお手紙が届いてましたよ」


「手紙?」

「?!」

「おいおい、皇印がおしてあるじゃないか」

「どうしてだ・・・」


「そうなのです旦那様・・・」

「何かをしでかしたのなら懺悔なさってください」

「一番弟子であるこの私が介錯をいたします・・・」


「縁起の悪いことを言うなぁ」

「清廉潔白、純真無垢な晴天の如き心の持ち主である私がそんな罪深いことをすると思うか?」


「大変無礼と存じ申し上げさせていただきますが、どちらと似つかない真逆の性格をお持ちである気はいたします」


「薄情者め!」


師であり、この家の主を裏切るとはなんという弟子兼使用人だ。そんなやりとりはさておき、皇印が押されているということは皇族直々のお達しだ。しかい、呼びつけて厄介だからとか責任がどうたらこうたら濡れ衣着せられてブタ箱に閉じ込めるようなイメージがとても強い一品。


かつて褒め称えられ皇印を持って皇帝の城へと伺い晩餐会に招待されたというグレゴリー隊長のようなポジティブなものではない。


目の前でむざむざとグレゴリー隊長が死んでいく様をただただ見ていただけなんてことが知れてしまったのだろうか。

他にSS計画が失敗して階級降格の罰を受けた上でまだあるというのだろうか。


手紙を開けて内容を読む。


ミハル・ゲラード・スーン 殿


暖かき日々が続く晴天に神の恵みが実らん時々。

貴殿の働きを鑑みて、我との晩餐会の招待状を送らせてもらった。期日は4半の月に至る夕の刻に謁見にきたれり。

要件は、その時に話す。


レクサス・ネル・ガーランド 皇太子


うむ。話があるということはわかった。


「話の内容は書かれていませんね」


「一言で済む手紙だな」

「明後日の夜うちへ夕飯を食べに来い! 話がある!!ってな」


「旦那様は儀礼のようなものと常識的なものは嫌いですからね」


「よくわかってるじゃないか!」


「もうかれこれ4年も弟子でいますからね」

「そして今どうすっぽかそうかと考えているということも知っていますよ」


「話が早くて助かる」

「意見を聞かせてくれ!」


「すっぽかす気満々でしたか!!」


「やっぱりだめか?」


「だめに決まってますよ!」

「どこの世界に皇太子直々の呼び出しを無視して趣味に明け暮れる平民がいますか!」


「ここにいる」


「ですからいろいろとお叱りを受けているんですよ・・・」

「そもそもいろいろすっぽかしてお叱りで済んでる時点でおかしいのですよ?」


「まったく・・・世の中不条理だな」

「魔人ヴィールといい皇帝といい、皇太子といい」


「世の中そんなものですので明後日はしっかり帝都へと行ってくださいね!」


「えええ」


「えええ、じゃありません!! 私はしっかり早朝に叩き起こしますからね」

「速くてもても到着に1日はかかるのですから」


「くう、獄炎の術式構築を考えたかったのに・・・」

「旅の身支度を済ませなくてはならないではないか!」


「そんなこと言ってないで支度をさっさと済ませますよ」

「馬車などだいたいの必需品は準備いたしますので身支度だけ済ませてください」


「・・・」


「そんな目で見てもだめです」


「くそう!!」


うるっとしたアヒル感溢れる可愛らしい顔へと擬態する魔法を顔にかけ相手の決断を揺るがすという素晴らしい幻惑魔法をもってしもこの交渉に打ち勝つことは出来なかった。



───そして出発当日の早朝。


夜明けの光がが差し込む部屋の中でランプを灯す光が書物を照らす。

獄炎魔法は、炎の素を光子で変換させてから増幅し体の半分で風の魔法を起こすことで火力を増幅させ威力を増大させる。


そして素粒子同士が変換するエネルギーを使って爆発的に熱エネルギーを起こし一連のながれをルーティン化してだれでも扱える魔法の基盤を───


「・・・ます」

「・・・ようございます!」

「おはようございます!!!」


「うわお!!」

「びっくりしたカールか!どうした?」


「どうしたじゃありません!!」

「出発の時間です!!」


「何を言っているんだまだ夜の・・・」

「ああ、良い夜明けだ」


「なにが良い夜明けだ・・・ですか!!」

「徹夜してまた魔法の研究をなさってたのですか?」


「獄炎魔法を新しくエネルギー効率の良いものに変えて誰でも扱えるようにと商品化を込みで考えていたのだがそれより強力な魔法ができそうでついな」


「そんな魔法撃つ機会あります?」


「エネルギー使いすぎだし、人1人じゃきびしいし、なんならここら一帯の街が吹き飛ぶ可能性があるから無理だな・・・」


「絶対ここで撃たないでくださいよ??」


「大丈夫だ!実験する時は誰もいなそうな山でやる!」


とは言ったものの山を一個消し飛ばした経歴があるため由緒正しき山は入山制限をかけられている。


よくわからない犯罪組織の根城ごとすべて無に返したため罪は総裁されたが、マッド魔法学者として悪名を轟かせることとなったのは間違いないだろう。


「今度は謹慎処分が下りそうですね・・・」


「その時は家で・・・」


ギロリと睨むカールが怖いためこれ以上は言わないでおこう。


「はぁ・・・朝食を用意してありますので食べてから出発をしますよ」


「ねむい・・・」


ふと出た本音にギロリと鋭い視線が俺の目を射抜く。

速く行きましょうとでも言うようにすたすたと部屋から出て階段を降りるカールだった。


朝食、食糧事情が潤っているこの町ではフルンと呼ばれる小麦を水と少量の油で練って発酵させて焼いた小さなパンが主食として食べられる。そして肉や野菜のシチューなどがメインで摂られているのが一般的な家の食卓に並ぶものである。しかし、今日の朝食は、珍しく厚切りのお肉に大きく作られたフルンとシャキシャキのラクタシスと呼ばれる球状の葉物野菜の葉をちぎって挟んでソースとともに食べる豪華なものだった。


「今日は一段とボリュームがあるな」


「帝都へといくのですからスタミナを付けなくてはとご用意しました」

「朝早くに起きて仕込みましたのでしっかりと食べてくださいよ?」


私の徹夜は事故みたいなものだが、朝食の仕込みのために朝早くから起きて手間のかかる料理にとりかかるというのはなかなか頭が上がらない。


「ああ、ありがたくいただくよ」

「それでは、いただきます」



 朝食を食べ終え、まとめた荷物を持ち運び屋敷の前に止まっている二頭引きの馬車へと御者のおじさんに軽く挨拶を済ませて乗り込む。

「礼服はしっかり持ちましたか?」


「皇族に会いに行くのだから持っているに決まっているだろう」


「帝国隊に任命された日は、忘れて行って現地であわただしく買いそろえたの忘れてませんからね」


「過去のことは水に流そう、昔の過ちを逐一覚えていては頭の記憶容量が圧迫されるばかりか女性にすらもてないぞ?」


「一度も女性と懇意になったことのない旦那様に言われても私は傷つきませんからね」


「おうふ・・・」


まるで投げたナイフが返ってきたかのような気分だ。

魔法という学問を前に探求する喜びを知ってしまえば生物としての営みなど取るに足らないため懇意になったところで誰かの言う夢中になるということはないのだ。故に懇意になる必要がないため引きこもり生活が板につく。


「だが、一人とは素晴らしい」


「旦那様の代で確実にこの家は滅びますね・・・」


「だろうな!」


「だろうな! じゃないですよ! 少しは危機感を持ってください!!」


「危機感ねぇ・・・」


この先のことなんて知る由もない。少し領有権があって貴族になり損ねた市民の家系など別に私の代で潰えようが構わないような気もするが、カールはどうやら納得のいかない様子だ。


「まぁ、道中は長いゆっくり魔導書籍を読み漁って過ごそうじゃないか」

「このまえ教えた治療魔法の基礎はできるようになったか?」


「あ、はい!」

「魔力の引き起こす引力と斥力を使って傷口を縫合する部分はできるようになりました」

「ただ、再生促進はうまくいかないのですよね・・・」


「再生促進はイメージというより体感に近いから慣れるまで難しいだろうな」

「今度は生きた例の黒い虫を捕まえて切っては縫合なしで回復しての練習をするのがいいだろう」

「縫合なしだと傷口はもろいが時間がたてば元に戻る」

「ついでに催眠魔法も扱う練習もできるぞ」


「精神系統は苦手ですね・・・」


「まあ、個々の心の持ちようがかかわるからな」

「世間だと適正だのなんだの言って適性がないから、その魔法が撃てないと勘違いしている輩ばかりだがしっかりと基礎を練習して魔力の構築を繰り返せばやってのけないこともない」

「習得時間はかかるけどな・・・」


「基礎はやっておいて損はない」

「師匠のお言葉は剣術でも身に染みてますし魔法の分野でも攻撃魔法の精度が上がったので充分やる価値はあります」


「しっかりと教えを生かしているようでなによりだ」

「教えはするがあとは自分のがんばり次第だ」

「応援はするから励めよ」


「はい!!」


「っということで俺は寝る」


「あはは、徹夜ですからね」

「馬車の中ですがゆっくりとお休みください」


「ああ、おやすみ」


馬車が揺れる感触と音のリズムが程よく眠気を誘い、瞼を閉じた。


「旦那様!」

「旦那様!!」


「ん・・・」

「ふああ・・・」

「どうした、もうついたか?」


「いえ、違います」


「ん? なにかあったのか?」


「はい」

「帝都へと行くためのデーナ峠を越えている最中なのですが、近くの馬車が襲われているみたいなのです」


「近くの?」

「見て見ぬふりは」


「できますか?」


「・・・」


「それに面倒ですが、その道を通らないといけないのでどのみち襲撃犯と一戦交えることとなるかと思います」


「はぁ・・・」

「カール、やるぞ」


「はい!!」


二人は武器を持ち馬車を降りる。

ミハルは白い刀を、カールは可憐な装飾を施されたレイピアを腰にさし馬車を降りて襲撃犯のところへと向かった。


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