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第3話 -魔人ヴィール-

 騎士団のように扱う武器が皆同一で戦略的に整っているわけではない。


それぞれが自身の最も扱いに秀でている武器で挑むのだ。

剣、槍、銃、大剣、大斧、弓と見える限りでは多種多様なものを持っている。


俺は、刀と呼ばれるマイナーな武器を扱う。

なにせ武器の神様とやらがこの世に残した12の武器のひとつらしい。


すごい代物ではないかと酒場で聞いて酔った勢いで買った。だが、その武器はそれら12の武器のうちの一番使えないものだったようで値段は張ったのだがとんでもないものを掴まされてしまった。


なぜなら魔物を斬るには刃は短い。切れ味は良く何度切っても切れ味が落ちないという素晴らしい特性もあるが魔物相手では致命傷に至るまでの力は出せない。


それにしっかりと扱うには相当な技量がいる。

そこにプラスして武器自体がとても軽く重さを載せての攻撃でまったく威力が出せない。


武器の神様はとんでもない鈍らを作り出したともっぱらの噂だったらしい。


大剣に炎魔法を纏わせ勢いでぶつ切りにしたり、矢を操り分散させ爆発を起こしたりなんて芸当ができるのが一般的で武器の性能を魔法により爆発的に能力を底上げしたりすることができる。


だが、この刀は魔法を付与することができないという致命的な欠点を持っているいわくつきの物件だ。

刀という種類の武器は今まで聞いたことも見たこともなかったが、対人戦での殺傷能力の高さであれば治癒魔法がない条件下においてこれほど殺傷能力に優れた武器はないことだろう。


「相変わらずミハルの武器は変な武器だな」

「今更だけど本当にそんな武器で戦うのか?」


ヘルナルがこちらを目を細めながら見て言う。


「大丈夫だ」

「この武器は強い」

「そもそも俺みたいな学者を戦場に引っ張る時点でどうかしてると思わないか?」


「まあそれは気の毒だが戦闘経験は殆どないんだよな?」


「ああ」

「お国の有資格者による入隊試験で能力を隠したことによる罪にも問われずにちょっといい感じの魔法を撃ったら合格という有様だ」


この入隊試験は、希望するしないは別として力がある者を選別し今回の作戦に割り当てるために行われたものだ。


それに自身のステータスのような内在的魔力というのが測定できるため、その者がどの程度の実力と力を有しているのかはおおよそ見当がつく。


よってその試験の場で適当に誤魔化せば即刻牢獄行きだ。


「実際その力がしっかり扱えるかどうかなんて未知数だというのに納得いかない!」


「それでよくこの帝国隊に入隊できたのが奇跡だと思うよ・・・」


不憫な目をしながらこちらを見始めるヘルナル。


「昔からすごい魔法使えるのに戦いに出ないで毎日引きこもっているから心配だったが今ここにいる時点で心配がより膨らんだぜ・・・」


暇になったのかこちらにそんな話をしにきたヘルナル。

だが、突然ポツンと小さな影が前に出現した。


「敵反応ありました!!!」

「ま、魔人かと思われます・・・」


アレンの声が響く。


「前衛部隊をここに集結させろ集結の電鈴を送れ!!」


ゆっくりと歩いてくる。

遠近感が平原によりつかめないが歩いてくるように見えてその一歩一歩が速いことにだれも気づけない。


そしてその魔人の姿がはっきりと見えた距離感のところで止まった。

その魔人の姿はとても異様だ。淡いピンク色の髪の女性が黒いドレスのような衣装を身にまとい大きな袖口からは黒い羽・・・手だ。黒い腕が多数出ているのが見えた。


「---------」


何かを話しているようだ。だが、何を言っているのか他の言語で語られたそれは理解ができない。


そしてやがて言葉に意味が込められるようになった。


「ああ! そろそろ理解できたようだね」

「君たちの程度の低さにはやはり呆れるよ」


「喋った・・・」


「君、そんな小さな声であればこの距離でも聞こえないと思うかい?」

「そりゃ喋るに決まっている」

「下級の生き物に話せるものが我々に話せないなんてそんな馬鹿げた話があるわけないではないか」

「そう思わないかな?」


魔人はとてつもない魔力を持っているのが肌で感じとれる。

聞こえてくる声は女性の優しげな声であるが、そんなものとは裏腹に威圧と恐怖で満たされた言葉が体中を駆け巡る。


この場にいる誰もが唾を飲み動けないでいる。


手は震え、構えていた武器がこぼれ落ちないのを必死に堪えるので精一杯だった。


「さあ!! 君たちの文化でいうところの自己紹介だ」

「ごきげんよう 私の名前はヴィール」

「君等が魔人と呼び恐れる存在だ」

「以後お見知りおきを!!!」

「完璧な自己紹介だろう? 君たちの文化は素晴らしい!!」

「私はね・・・君たちを愛し 君たちを敬い 君たちが!!!」

「大好きな魔人だよ」


「何を言って・・・」


「だから遊んでおくれ! ヒト種に会うのは久しぶりなんだ!!」

「だからここらへんにいた知性の欠片もないくずどもを片付けたんだ」


「せっかくの幸せの時間! 邪魔されちゃかなわないからね・・・」


身振り手振りをまじえて演技気味に振る舞い、そして優雅に舞う腕の数々はそれぞれが殺気で満ちていた。


「だからおいで!」

「さあ!!」


静寂がその場にいる誰もを包み込む。

そしてしびれを切らしたかのようにヴィールが叫んだ。


「ああ! もう!! 来ないなら来て!」

そういったヴィールは黒い魔法陣を出現させ腕を一本だけそこに入れた。すると大気が震え風が巻き上がる。


「皆ほおけるな!! 戦闘だ!」

「来るぞおお!!!」


そんな言葉も虚しく上から巨大な黒い腕が降ってきた。まるで虫を潰すように大気を揺るがす轟音を響かせながら何かが割れる音と供に到着した部隊を一瞬にして潰した。


「おい・・・」

「今防御の魔法張ってたよな?」


「広域防御魔法を張っていたようにみえたぞ・・・」


「あれって大ドラゴンの突進にも耐えたやつだろ?」


動揺が広がる。

あんなのにどう戦って勝てばばいいのかと・・・


潰れたところは血でいっぱいになり血飛沫と肉片がここまで飛んでくる始末だ。


「こうもあっさりと・・・」


「うろたえるな! 散回してやつに攻撃を仕掛けるぞ」

「いけ!」


馬を走らせ矢や銃を打ち込み、色とりどりの魔法の乗った攻撃が放たれた。

しかし、多数の黒い魔法陣により出された数々の黒い腕によって遮られ攻撃が届かない。


そして黒い腕は馬にのる隊員達を容赦なく潰したり引きちぎって周り成すすべなく肉塊となっていった。


「アレン!」


「はい?!」


「ここで私が出て1対1で戦いに行った場合どの程度勝算があると思うか?」


「・・・」

「敵の実力も未知数、ただ言えることはこれだけ多くの上位系統の魔法を撃ち込んでも無傷だったやつに対抗しうるものは現状ないです・・・」

「勝率・・・ 1%あれば高いです」


「ははは!」

「未来をも見通すと恐れ多い魔動演算予測理論学の最高峰が言うんだ」

「確かな数字だろう」


「グレゴリー隊長!」

「今考えているだろうことは考え直してください!!」


中距離戦では手も足も出ないと悟ったグレゴリーは作戦を変更するべく叫んだ。


「俺が先陣をきる! 前衛は前へ!!」


隊長のグレゴリーが先陣をきり馬を走らせヴィールのところへと向かう。


「隊長!!」


叫んだアレスの声は虚しく響きグレゴリーの元へは届かずにかき消えた。


「ああ! 来てくれるんだね?!」

「ありがとう!! うれしいよ!!!」


ヴィールも走り出しぶつかりあう瞬間にとてつもない衝撃が生まれ隊長の乗っていた馬は吹き飛び近づけない状況となった。


繰り出される黒い腕の攻撃は手刀、殴打と至ってシンプルだがひとつひとつの攻撃を盾で受け止めるグレゴリー。


受け止めた時の衝撃波が空を伝わり風を巻き上げる。


「ぬおおお!!!」


隊長が振りかぶり右手に持つ大剣がヴィールへと届いた時、ヴィールの黒い腕が大剣を捉えた。


押しても引いてもびくともしない大剣にあっけにとられるグレゴリー。

大剣の刃を握られたと気づいたとき甘い声で問いかける。


「君!! 強いねぇ?」


ヴィールの不敵な笑みが幸せそうに溢れる。


「くそ!! っ離せ!」


グレゴリーの抵抗する声が虚しく響く。


「今まで私の攻撃を受けて耐えていったヒト種はほぼいなかった」

「触れれば肉片 スキンシップで裂ける肉体」

「そんな軟な存在であるのに君は耐えている!」


「何が言いたい?」


「私は今ね!! 感動しているんだ!!!」

「どこまで耐えるかやってみよう!!」


グレゴリーの大剣を左の黒い腕で握ったまま右腕に黒い魔法陣を作り出す。


「隊長!!」

「今助けます!!!」


隊員達は、馬を走らせる。一刻も早くグレゴリーに加担するべく。


「邪魔だ!!!」


ヴィールは、残りの黒い右腕で魔法陣を作り出し馬の足元に腕を出現させ馬の脚を握りつぶして進行を阻ませる。


そしてグレゴリーへと何度も黒い拳が振り下ろされるのだった。


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