第2話 -魔導帝国騎士-
アレオ城塞防衛戦前に行われた将軍の長い演説も終わり我ら帝国隊は、敵側が進行するであろうアレオ平野を進み中継拠点を建てる任務をもらった。
人が初めて攻勢に出るといっても過言ではない大きな任務だ。
そんな任務を任された帝国隊、正式名称は、魔導帝国騎士大隊。
残された人類の最後の国である、パトリア帝国最強の部隊だ。
その魔導帝国騎士大隊に所属する小隊達は黒く赤黒い空が照らす不気味な空気を感じながらも馬を走らせる。
「おいおい ここまで出てきたのに奴さんの姿がまったくなしだぜ?」
「敵勢力圏内に侵入」
「おかしい・・・ いつもなら魔物での挟撃だったり黒の魔物が現れてもいい頃合いなのに」
「やつらは この状況を黙認しているとでも言うのか」
「油断するな! いつでも光剣を抜けるようにしておけ」
「奴らは残忍で狡猾な存在だ」
「このまま進軍し敵勢力の掃討と新たな中継拠点を設立する任務を遂行する!!」
「今回も貧乏くじかよ・・・ やれやれだぜ」
「ヘルナルよ 軽口はそのへんにしておけ」
ヘルナルと呼ばれた人物は、無精髭をはやし金色に染まった髪は戦場を駆け抜けるにしてはとても美しい出で立ちをしている。
そして背負ってある三叉槍を取り出し構える。
「隊長さんよ! たとえ敵が現れたとしても俺の魔法の前に立ってられるなんてありえねぇぜ?」
「いまならギガント級でさせ倒せる気がするぜ!!」
「ヘルナル!! ギガントが出てきたのなら三人一組で対処せよ!!」
「やつ一匹で小国がなくなったのを忘れたか!」
「忘れちゃいねぇが 今日まで鍛えた技を試したくてしょうがねぇ」
「まったく・・・」
呆れる隊長をよそに丸メガネをかけ痩せ気味のように見えるが、その実、体に蓄えられた筋肉が強さを物語るかのような出で立ちをしている男が口をはさむ。
「敵光子反応ありませんし今は休息タイムと言ったところでしょうかね」
「周囲は警戒しているので大丈夫ですよ」
「アレンよ・・・私は心構えをだな」
腕にくくられた細長い銀色の腕輪を輝かせ何かを確認するアレンという人物は、少し退屈そうに話した。
「隊長は硬いんだよなぁ」
「心がゆるめば敵が付け入るすきも生まれるというものだ」
「命を落としたくなければ引き締めていけ?」
「それと言っておくが俺は柔軟だ!」
「お・・・おう?」
戦場へ出てよく見るいつもの茶番劇だ。
隊長のグレゴリーを筆頭に先陣を切る俺たちの部隊が最強と言われる所以は、反逆の神が作りし不浄の生物である魔物どもを難なく屠ってきた歴戦の英雄さながら、この国でも指折りの戦士達がつどっているからだ。
軽口を叩いている者の名は、ヘルナル・ロンヴィヌス。かつて6種族が治める大国の一つであるリグナム王国が健在だったころ王国防衛戦にて敵主力兵器であるラセルタという大きな竜を討伐し、二度に渡り敵の攻撃から王国を守る大業を成し遂げた戦士だ。
そして、その軽口を注意し会話の相手となっているのが、この大隊を率いる隊長のグレゴリー・ブルー。
帝国随一とされる大剣の使い手で絶対防御の盾と片手で繰り出す大剣のリーチと圧倒的威力で幾多の魔物を塵に変えた。
中でも大きな逸話として語られるのが大陸中央に存在する大山の城塞、天道にてそこへと侵入するための一本道に一人で立ち数千、数万とされる量の敵を一人で止め殺戮したなどというものが残っている程に屈強な戦士だ。
我ら人の種族の中でも最強と呼ばれている人物である。
アレンという男は、特にそんな噂話を聞いたことなど無いが、探知能力と魔力弓の扱いに秀でており少数の敵が相手ならば常人が目視する前に射抜く程の腕前をもっているとかないとか。
そんな人間をごろごろと集めたのが帝国隊だ。それらの逸話を残したり強力な魔物と戦えるだけの力を示したとしても反逆の神が作り出した強力な魔物である起源の魔物と呼ばれる存在に勝つことは難しいだろう。
世界を手中に収め栄耀栄華を極め互いの力を牽制しあっていた6種族が束になったとしても勝てなかったのだから、その実力は遥か雲の上の存在と言って良いのかもしれない。
「そろそろ予定の中継地点に到達する」
「俺たち前線部隊はそのまま進行し1km離れた先で敵を迎え撃つ! 後方の資材班と防衛班に合図を出せ」
「了解です」
するとアレンが腕輪を空へとかざし少しだけ光らせた。
「光子電鈴 送信完了です」
「よし! 手短に終わらせるぞ」
「皆の者!!」
「知っての通りこれは敗け続けた6種族史上初となる敵への攻勢作戦だ」
「我々はその先陣を切る一つの種族である」
「決して失敗は許されない」
「・・・・・・」
「だが・・・」
「敵と戦い敗けそうになったとしても生きることを諦めないでほしい」
「もしも・・・」
「そんな絶望的な状況であったとしても必ず光はある!」
「健闘を祈る!!」
「うおおおおおおおお!」
一斉に叫びだした掛け声は馬をも唸らせ走り続ける。
皆一様にやってやろうじゃないかと、故郷を取り戻すんだと、活気に満ち溢れた。
その前までは国が俺たちを生贄にしただの見捨てたと愚痴をこぼしていた人間などそこにはいない。
いよいよ今回立てられた作戦が始まるのだが概要はこうだ。
まず強力な魔物たちを前に我々の領土を守っているのがエルフェンリートという種族が編み出した鉄壁の盾魔法であるアイジスだ。
アイジスは国境ごとの拠点に設置され大きな光核と呼ばれるエネルギー体によって維持されている。今日まで敵の侵入をほぼほぼ防ぐことが出来ているのはアイジスのおかげにほかならない。
そして、そのアイジスを国境より先に延長させるため我々の帝国部隊が領地の外側へと進軍し中継拠点を設置した後、アイジスを起動させ領土を絶体防御の盾により押し上げる作戦だ。
中継拠点を設置完了したら青い花火を上げ撤退、失敗若しくは敗走の必要ありとなればこちらから赤い花火を揚げる手はずとなっている。
隊長はSHIELD SHOT作戦、名付けてSS作戦と呼んでいた。
この作戦を遂行するために用意された帝国隊は、隊長率いる一番隊、副隊長率いる二番隊、残りはそれぞれ7人の小隊長を筆頭に7つの部隊で構成されている。
そこで前衛を駆け抜ける部隊は、1番隊とその他3つの部隊が同行している国の精鋭が集結した部隊だ。
俺も不運なことに光子学と魔導学の魔法を扱うことをしていたら悪目立ちして1番分隊に配属されてしまった不運な人間だ。
こんな上位階級の人間や特別な血筋の人達が集う場所にいるのは肌が合わない。
できれば一日中ずっと魔学と光子学の探求に時間を使っていたい・・・
それに、ここでとてつもない煮え湯を飲まされそうな予感がしてならないからできるならば早く帰りたい。
煮え湯と濁した言い方にはなったが1番隊と残り3部隊と先行し近づく魔物を一掃する役割を担わなくちゃいけないのが煮え湯の正体だ。
相手にするのがただの魔物・・・
それならまだいい。
だが、敵は魔物だけじゃない。やつらは知性を持ち神より生み出された絶体的なちからをつかって全てを薙ぎ払う。
1体1国を滅ぼすとまで言われ、今日まで残りの種族がアイジスに守られ攻勢に出られないでいる理由を作ったやつらだ。
今ある情報は、奴らが7体いて魔人と呼ばれているということぐらいだ。
しばらく馬を走らせ光子電鈴が鳴り響く。
グレゴリー隊長の合図だ。
前進許容区域に到達したのだ。
未だ魔物は現れず嵐の前の静けさのような不気味な空間をつくりだしている。
「不気味だ」
グレゴリー隊長が見回してつぶやいた。
「そうですね・・・」
「デプレで観測していたはずの大量の魔物がまったくいなくなっています」
アレンも不可解な表情をして答えた。
デプレは、探知魔法の現在編み出された最高域を探知できる魔法だ。自身の敵や向けられた敵意を広げた魔法で絡め取り発動者に送り込む高度な魔法で一人で行うには情報量が多くなりすぎて廃人になってしまうほどに強烈なため10人単位で連携し情報処理を行う。
「話で、500万弱は少なくともいたと聞いたがどうなっているんだ・・・」
隊長が訝しげにひげをなでて考え込んだ。
「いいじゃないっすか?」
「このまま何事もなく領土を押し上げることができたらこんな楽な仕事はないっすよ」
相変わらずのヘルナル。
「そうだといいのだがな」
「我々の動きは相手も知っているはずだ」
「見過ごすはずがない・・・」
「各自警戒を怠るなよ!」
静けさに包まれ緊張感が生まれる。
個々が武器を構え臨戦態勢に移るのだった。