第1話 -開戦-
人類が後世に残せる最古の物質は何か、最新の技術を駆使した電子媒体か、それともCDやDVD、あるいはブルーレイディスクなんかの光ディスクか、古典的なもので言うならば本や巻物なのか。
しかし、後世の果てへと受け継ぐまでにそれらは存在できずせっかくの栄光も時間の流れの前では無力で、それら全てのデータや軌跡は千年と立たないうちに消え去ってしまうとされている。
そして今の人類が直ちに滅びたとして残るのならばピラミッドやストーンヘンジなどの石で語られる文化なのだと。
だとしたら、数千年も前に別の人類がいたとしてもおかしくはないだろうか?
この話は、現人類へと未来と言うバントンを渡すべく奮闘し勝利を掴み取ろうとした最古の人類の物語である。
果たして、それは勝利と呼べるのか、何を持って勝利とするのか。
それは終わってからの楽しみとしておこう。
「世界は、汚い。」
国が存続できるかどうかの瀬戸際を強要されても尚、足の引っ張り合いを続ける者たちが後をたたず醜い争いが今もなお続いている現状が。
「世界は、理不尽だ。」
どれだけ足掻こうと、どれだけ努力しようと届かない高みを前に這いつくばざる負えない私達の存在が。
「世界は・・・」
どんなに嘆こうと、どれだけ叫ぼうと現実は変わらず、いつもそこにあるのがそれら理不尽な現実を変えられない自身の存在だけだった。
だから人は夢を見るのだろう。
そして、それらの夢を見た誰かが、独自に作り上げた世界を実現する。
そんな世界でさえ星の数には届かないとしても多くの意思が介在する中で、多様な視点から見れば歪んでいる意思や思想に過ぎないものなのかもしれない。
その中で理想を掲げるのであれば、少しでも世界が美しく楽しいものであってほしい。
俺は、そう小さい頃に願った。
だが、俺が最期に導いた結論は、以外にも世界は幸せで溢れていたのではないかという仮設だった。
これも、多様な視点から見れば歪んだ思想の一つに惑わされたに過ぎない結論なのであろう。
そして、生きてこれてよかった。
今まで努力してこれてよかった。
時には好きなものを食べれた。
人生で二人っきりの良い両親に出会えた。
良い友人が出来た。
最愛の彼女に出会うことができた。
それらは、存在する全ての者に等しく流れる時の中で些細なもののように流れ去っていってしまう感情や思い出だ。
一方で一時の幸せを噛みしめることも出来ずに終わってしまう人もいるのかもしれない。
だが、それらを噛みしめることの出来た俺が最期に幸せを感じることが出来た物語を親愛なる者と一緒に過ごした記憶とともに終焉を迎えることとしよう。
最期に願いが叶うのなら、私のいない世界が少しでも美しく幸せであることを祈る。
───紀元前、数億年前。
現代に存在する人類が誕生するよりも前にもう一つの文明があった時代。
人々は、神々の加護を受け、その加護を受けて共存する6つの種族と一つの大陸で平和に暮らしていた。
ある日を堺に世界を管理する一柱の神が自身の理想を掲げ、他の神々に反旗を翻した。
長く続いた平穏は、その1柱の神が世界を支配しようと目論むことによって幕を閉じる。
反逆の神と名付けられたその神は、幾多の奇々怪々な生物を生み出し、7つの種族が統治していた世界を侵略し始め、ついには領地も三分の一だけを残し7種族の国が3種族の国へと減るまでに追い詰められてた。
残った三種族の国は互いに共闘し防衛戦をすることで相互に守り合い反逆の神との戦いにおされないまでも均衡を保てるまでに国を守りぬいた。
そして戦争の時間は長引き人々は今日までの命かもしれない中で平穏な暮らしが戻ることを祈っていた。
暗く夜明けが訪れる前の平野に多数の馬が走る音だけが大きく響き渡る。
世界は一つの大陸で構成されており人の治める領地は最西に位置している。
その国の名をパトリアという。
パトリア国の北方にあるテア・デオルムという名前の地方のより北に位置する要塞、アレオ。
ここは、反逆の神の軍隊と戦う最前線だ。
鉄壁の守りを誇り四方数千キロに渡る結界を維持するために必要な要となる要塞だ。
万が一、ここが落とされることがあれば領地での戦いを強いられることとなる。
重要な局面だ。
───「かつて我らとともにあった3種族は早くも敗れ去り世界の7割が反逆の神の手中にある絶望的な状況だ」
「今や我ら人類が統治する国が要となっている」
「そんな我ら人類が他の種族に臆することなく今日まで生き残ってこれたのは頑張ってくれた、ここにいる皆の奮闘によるものだと確信している」
「さらなる奮闘と活躍をここに祈り 死したとしても我らの魂は唯一神の身元に帰るだろう」
「健闘を! 祈る!」
アレオ城塞防衛戦前に行われた将軍の長い演説も終わり我ら帝国隊は、敵側が進行するであろうアレオ平野を進み中継拠点を建てる任務をもらった。
人が初めて攻勢に出るといっても過言ではない大きな任務だ。
今ここに7種族と反逆の神との戦争において世界で初めての反撃とされる作戦が実行されようとしていた。