虎穴に入らずんば虎児を得ず
あれから半年くらい掛けて地上に出ることが出来た。
帰りは行きがけよりも圧倒的に魔物の数が少なかったので、スムーズに進めたがそれでも半年掛かるというところが、この奈落の大穴と言うダンジョンの大きさが測り知れるだろう。
地上に出た早々に思わぬ者たちが待ち構えていた。
王国軍と戦線離脱した勇者達の面々である。
勇者達の名前は忘れちゃったな、あれ?剣豪と賢者は来ていないのか…
王国軍は1000人程度いそうだが、これは何の集まりなんだろうか?出迎えてくれたのか?それにしては歓迎されている感じがあまりしないが…
軍勢の中から勇者が一人で馬に乗って近づいてきた。
「やぁモブ先輩久しぶりだね~元気にしてた~?」
元気なわけねーだろうが、こちらはバカでかいダンジョンからやっと出てこれて疲労困憊なんだよ!
「ん?あぁちょっと疲れてるけど、怪我とかは無いな」
「そっちの子はモブ先輩の彼女?ってかメッチャ可愛いな!!」
「彼女じゃない、頼りになる相棒みたいな感じだ、名前はウネちゃんだ」
「初めまして、ウネです」
「へぇ~何だかサ○エさんに出てきそうな素敵な名前だね、彼女じゃないの?じゃあ俺と付き合わない?俺の事は知ってると思うんだけど、勇者で今は王国軍の将軍も任されてるんだ、でもうすぐ国王になる予定、ニカッ」
お前絶対俺がつけたウネちゃんの名前馬鹿にしてるだろ、っていうかお前王女と出来ちゃった結婚したんじゃないのかよ、ホントにコイツ何しに来たんだよ。
「俺の相棒をナンパするなよ、ってかあそこにいるのは拳聖と聖女だろ、他の賢者と剣豪はどうしたんだ」
「ん~アイツ等は星になったのさ」
「はぁ?」
「え~分かんないかな~それぐらい察しろよな~剣豪は色々と便利グッズを開発したり農地改革っていうの?それをやろうって張り切ってたけど、色々やり過ぎて失敗してBANされちゃった、ウケるだろ~賢者は魔法学校の先生してたんだけど、貴族の子供を食べ漁ってさ猫にされちゃったんだよね~こっちは引くだろ~」
どっちも引くわ!
「ニャー」
いつの間にか足元に一匹の猫がすり寄って来ていた。
「何この猫?」
「え、だから賢者だけど」
マジもんの猫ですやん…もう余り触れないでおこう…
「流石マスターの同郷ですね、倫理観と言うものが欠如していますね」
「えっモブ先輩この子にマスターって呼ばせてんの?何この子奴隷なの?何だよ~早く言ってよ~下手に口説いちゃったじゃん、おいお前後で俺のテントに来い、奉仕させてやるよ」
「流石マスターの同郷です、知性の欠片も感じられないですね、そんなお前はオークに掘られとけばいいんです。何ならウネが拡張してあげましょう」
なぜ俺もディスられているのか…
「え?何?俺は勇者だよ、勇者で将軍でそのうち国王だよ、そんな口聞いていいの?」
「はいはいバカでゴミでウジ虫なのですね言わずとも分かります、それでそんなウジ虫が一体ここに何しに来たのですか?」
「ななななんだとぉぉ!!貴様もう一回いってみろ!!」
「ウジ虫ならウジ虫らしく○○○に○○○○しとけばいんです」
「黙れぇぇ!おい!モブ!その女をこっちへ寄越せ!罰を与える」
「落ち着け勇者、そして取り敢えず謝っとけ、ウネちゃん怒らすとマジ殺されっから」
「モブの癖にお前までも口答えするのかぁ!お前には見えないのか?俺は五千もの王国軍を連れてきてるんだぞ」
五千?どうみても千人くらいしかいない、盛ってるのか、何処かに隠れてるのか、それとも後続があるのか…
「いや、見えてるし、それでお前等は何しに来たんだよ」
「モブの癖にモブの癖にモブの癖にィィィ」
なんだコイツは?コイツこんなに危ない奴だったっけ、それともヤバい薬でもやってるのか。
「何をしているのですか勇者高木、ちょっと落ち着きなさい!!私達はあなた方を迎えに来たのですよ、そうでしょ高木君。大事な目的をを忘れちゃダメでしょ」
そうだ高木だ!そういやそんな名前だったな、この元男子高校生の勇者で将軍で自称次期国王は。
俺達のやり取りを見かねたのか、聖女が近づいてきた。
因みにこの女の名前も忘れた。
「くっいい気になるなよ!!」
勇者高木がそんな捨て台詞を吐きながら王国軍の元へ戻っていった。
何がしたかったんだアイツは?
「ごめんなさいね、彼今立場的に色々あって情緒不安定なのよ」
「別に構わないけど…何で迎えになんかきてんの?お前等はもう帰るのを諦めたのかと思ってたけど」
「今さら帰りたい訳じゃないけど、モブ君奈落の大穴を制覇したんだよね、それって王国始まって以来の快挙らしいから、同郷の私達と国軍が出迎えに来たって訳、後アリシア第2王女様も来ているわよ」
ん?アリシア王女って勇者高木とデキ婚した人でしょ、確か勇者離脱時に第3王女って言ってたような…
「さぁ向こうに拠点が有るから、そこで細やかな宴が用意されてあるからそっちへ移動しましょ、お風呂もあるわよ」
お風呂!!マジか!!召喚されてから一度も入ることのできなかったお風呂!!城中では皆は入っているのに、俺だけ桶に水で体を拭くだけだったお風呂!貧乏旅で風呂付きなんて宿には泊まれなかったし、奈落の大穴に入ってからはたまにある水辺で拭くだけだったお風呂!
「お風呂ってあれか?湯船にお湯が張ってあるやつか?」
「それ以外に何があるのよ」
「よ、よし!なんかよく分からないが、せっかくもてなしてくれるって言うんだから行こうウネちゃん!」
「はいマスター」
『マスターお気をつけください、さっきから聖女の小鼻が頻りにヒクヒクしています。』
「!?」
頭の中からウネちゃんの声がして驚いたが、どうやら俺の体がエリクサーによって元に戻ったときに、それまで俺の欠損した体等を構成していたウネちゃんの一部が、ウネちゃん本体に戻りきらずに俺の体内に取り込まれたままになってるのだが、その取り込んだウネちゃんの一部お陰でウネちゃん本体と声を出さずに会話が出来るようになったらしい。
相変わらずウネちゃんの万能さには頭が下がります。
『あったホントだ、かなり鼻がヒクヒクしてるな』
『何処かに鼻信号で合図を送っているのやもしれません』
流石にこの距離で辛うじて気付くレベルの動きなので、何処かに合図として送っていることはないと思うが、悪態をついて向こうへ行った勇者高木を含めて、向こうで待機している王国軍も歓迎しているような雰囲気は無い。
『虎穴に入らずんば何ちゃらとも言うし、ここは敢えて虎穴に入ってみよう』
『…前から変態ではあると知っていましたが、自ら不浄の穴に入りたいとは…流石にウネは随伴しかねます、一人で行ってください』
『虎穴!オケツじゃなくてコケツ!』
気が向いたらブクマ等お願いします