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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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86.決戦②~驚異の回復呪文~

 建物内へ突入したユウヤは、瀕死状態のキッドとヘザーを見つけるのだった。




 ピロリンッ!


『魔法、『ヒール』を獲得しました』


『魔法、『ハイ・ヒール』を獲得しました』


『魔法、『オール・ヒール』を獲得しました』



 魔法獲得の知らせに続き、回復魔法が俺の頭の中に流れ込んでくる。


(イシリス様、本当にありがとうございます!)


 女神様の慈悲に深く感謝をしつつ、俺は回復呪文を唱えるのだった。



「大いなるマナを集約し、我は女神の奇跡を懇願する! 願わくはこの者に今一度生きる機会を与え給え……、オール・ヒール!」


 ありったけの魔力を込めてじゅもんを唱える。

 俺の手のひらから光の波動がほとばしり、仄暗い室内が爆発的に明るくなる。


「うわぁっ! 目が見えないよ!」


 まともに光を見てしまったジェシカちゃんが目を押さえながら転げ回る。

 一刻を争うヘザーさんの容態のために、ジェシカちゃんに眼をつぶるようにと言い忘れてしまった。


「ううっ……、あたしは生きているのか……?」


 光が収まり暗がりが戻ると、ヘザーさんが上半身を起こして周囲を見渡していた。

 回復呪文の頂点である『オール・ヒール』の効果は絶大だった。

 瞬時に傷が治り、体力まで回復してしまう。

 俺はヘザーさんの回復を見届けてから静かにベッドを離れた。

 そしていまだに床に寝そべり、顔色が非常に悪いキッドさんに近づいていく。


「今から回復させますからね」


 俺の声かけにキッドさんは小さくうなずいただけだった。

 その横ではクリスティーナさんが驚きで目を大きく開いて俺のことを見つめていた。

 今は説明は不要だ。

 キッドさんの取れかけた左腕の傷口同士を手で押さえつける。


「クリスティーナさん、目を閉じていてください。いきます!」


 ジェシカちゃんとヘザーさんが目を手で押さえている姿が見えた。


「大いなるマナを集約し、我は女神の奇跡を懇願する! 願わくはこの者に今一度生きる機会を与え給え……、オール・ヒール!」


 先ほどと同じ爆発的な光が部屋の中を照らし出す。

 光が収まり暗がりが戻ってきた。


「奇跡が起こったのか……」


 キッドさんが左腕を持ち上げて手をかざしながらつぶやいた。

 すでに体力は全快しているのだろう。

 顔色も良さそうでやっと一息できそうだ。

 と、思ったが室内に大量の煙が流れ込んできた。



「火が回り始めましたよ、早く逃げましょう!」


 驚き呆けているキッドさんたちに脱出をうながす。


「……そうだな、ジェシカ、ヘザー! クリスティーナを保護しつつ撤退するぞ! 正面からでは盗賊たちと戦闘になるから裏口に回れ!」


 キッドさんが指示をテキパキと出し、それに答えてヘザーさんがベッドから飛び起きた。

 ジェシカちゃんはすでに扉の前まで進んでいて廊下の様子をうかがっている。

 万全の態勢になればキッドさんたちは凄腕の冒険者なのだということを改めて実感した。




 煙が盛大に立ち昇る階段を一気に駆け下りる。

 煙は相当熱を持っているはずだが、キッドさんたちは躊躇ちゅうちょしないで飛び込んでいった。

 俺も息を止めてあとに続く。

 一階に降り、食堂へ続く扉を全力で駆け抜けた。

 食堂を抜け更に厨房へ駆け込む。

 そこはまだ煙が回っていないようで、裏口の扉がしっかりと確認できた。


「俺が先に外に出ます。盗賊たちが待ち伏せしていますから排除します! 俺の合図があるまで出て来ないでください!」


 俺の指示にキッドさんが素直に従う、その様子を見てジェシカちゃんやヘザーさんも無言でうなずいた。




 裏口の扉を勢いよく蹴破り、一気に外へ飛び出した。

 盗賊たちの俺に対する殺意はとうの昔に確認してある。

 俺は『予測回避』で全ての攻撃の軌道を把握していた。


 扉付近に一人の盗賊、そして正面に三人。

 更に森の中には大勢の盗賊や囚人が隠れているようだ。

 待ち構えていた盗賊の不意打ちを余裕でかいくぐり、反撃に転じた。


 俺が外に出たタイミングで扉の影から攻撃してきた盗賊の頭を、長剣の切っ先で軽く切り落とした。

 俺の目には驚いた顔で地面に落ちていく盗賊の表情までしっかりと見えている。

 首のない盗賊の死体を思い切り蹴飛ばして一歩前に出る。

『連続突き』を発動して素早く九回剣を突き出す。

 正面で待ち構えていた盗賊たちの頭、喉、心臓を突き刺して絶命させた。


 更に攻撃の手を休めることはない。

『無限収納』からダガーを大量に取り出しながら素早く森の中に投擲とうてきしていく。

『連続投擲』が決まり、放射状に広がったダガーは、的確に盗賊たちの喉元を射抜いた。

 何もできないままに大量の盗賊たちが息の根を止められて、ガサ藪の中に倒れていった。

 ここまでおこなって数秒しか経っていない。

 圧倒的な力の差で盗賊どもを蹂躙じゅうりんした俺は、後ろを振り返ってキッドさん達に声を掛けた。


「もういいですよ、出てきてください」


 厨房で待機しているキッドさんたちが、慎重に辺りを警戒しながら外へ出てきた。


「なんと……、こんな短時間にこれだけの敵を倒したのか……」


 キッドさんが絶句している。

 ヘザーさんやジェシカちゃん、クリスティーナさんは驚くばかりで言葉を失っているようだ。

 扉の周りには盗賊や囚人たちの屍が大量に散乱していた。


「さあ、今ならまだ森の中を抜けられます。真っすぐ進んで避難してください、俺は残って盗賊たちを始末します。さあ、行ってください」


 まだ火が回っていない森を抜けて逃げるように進言する。


「ユウヤ、今のお前の実力はよくわかったよ。俺も一緒に戦いたいが足手まといになりそうだな……。俺はクリスティーナたちを護衛して王都へ向かうことにする。絶対に生きて戻ってこい!」


 キッドさんが手を差し出す。


「わかりました、後は任せてください!」


 ガッチリとキッドさんの手を握り返して返事をする。


「ユウヤさん……ありがとうございました」


「ユウヤさん! 王都で待ってるからね!」


「ユウヤ、この恩は一生忘れないよ!」


 クリスティーナさん、ジェシカちゃん、そしてヘザーさん。

 三人とも目に薄っすらと涙をためている。


「大丈夫、盗賊たちを倒したらすぐに後を追うから心配しないでください! さあ、行ってください!」


 努めて明るい顔をして三人に別れを告げた。




 森の中へ消えていく四人の姿を見送る。

 キッドさんたちにとっては暗い森の中の逃避行になるが、庭のような森の中で盗賊たちに後れを取るとは思えない、必ず王都へたどり着くことが出来ると俺は確信していた。



「さて、問題はザッパーをどうやって倒すかだよな……」


 弟であるサギー・ザッパーの実力は本物だった。

 その兄である『ケルベロス』の首領、ダミアン・ザッパーは更に強いはずだ。

 奴が犯罪奴隷だった頃の今にも死にそうな面影はどこにもないのだ。

 なにか秘密があるに違いない。

 その秘密を確かめるために事務所を迂回して正面の広場へ移動することにした。



 ー・ー・ー・ー・ー



「おう、やっとお出ましのようだな」


 広場に移動すると切り株に腰を下ろしてくつろいでいるザッパーの姿があった。

 奴は巨大な戦斧を片手でもてあそんでいる。

 ザッパーが戦斧を振り回すたびに、不気味なほど大きな風切り音が聞こえていた。


「キッドの野郎と逃げなかったことだけは褒めてやろうじゃねえか。しかし、俺を倒せると思っているお前は気に食わねえな」


 余裕の笑みでこちらを見ているザッパーは、先ほどより筋骨隆々の体をしていて明らかに強くなっていた。

 ザッパーの傍らにいる盗賊共は眼中にない。

 ザッパー一人を倒すことが出来れば俺の勝ちだろう。





 不敵に笑っているザッパーを『心理の魔眼』で覗き見た。

 そこには化け物のようなスキルが並んでいた。

 これから戦う強敵をにらみながら、どうやって倒すかを俺は考え始めるのだった。

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