82.盗賊砦を壊滅せよ④~女神の裁定~
ピロリンッ!
『スキル、『神の裁き』を獲得しました』
俺の脳裏にイシリスさんの声でスキル獲得のお知らせが響き渡った。
慌てて『心理の魔眼』で詳しく調べる。
『神の裁きは女神イシリスの怒りです。加護を受けし者を害するあらゆる障害を一掃します。一方、極稀に奇跡を与えます』
俺はその説明を読んだ瞬間に全滅することは無くなったと確信した。
「みんな俺のそばに寄ってくれ! 今から奴らに女神様の裁きが下る!」
不安そうに空を見つめているジルやセシルさんを抱き寄せる。
二人は一瞬驚いたようだが、すぐに俺に身を預けた。
サイモンさんやべソンもできるだけ近くに寄ってきた。
盗賊たちが逃げ出そうとするが、体が一切動かずにその場に釘付けにされた。
「ひぃぃぃ! 足が動かねえよ、石になっちまったようだ!」
「兄貴! 助けてくだせえ指一本動きやせん!」
盗賊たちが恐怖に震えながらサギーに助けを求める。
しかし助けを求められたサギーもまた、一切体を動かすことができずにその場に立ち尽くしていた。
「野郎! ユウヤ、おめえ何をしたんだ!?」
鬼の形相でサギーが俺をにらんでくる。
「お前が善人ならば何も起こらないだろうよ。しかし悪人ならば天の裁きで死ぬだけだ」
「ふざけるな! おい、てめえ! 汚え真似しねえで勝負しろ!」
怒りの眼差しでサギーが吠える。
「どの口が言っているんだ! お前が今までどれだけ汚いことをしてきたか忘れたのか!」
ジルが怒り心頭でサギーに向かって絶叫した。
きつく抱き寄せなければ今にも切りかかっていきそうだ。
そうこうしている間に響き渡っていた笛の音がパタリと鳴り止んだ。
そして天空から光の筋が降り注ぎ始めた。
「サギー! これは俺が今獲得したスキル『神の裁き』だ! 己の罪の重さに焼き尽くされて死ね!」
光の束が砦めがけて降り注いでくる。
轟音が辺りを支配して視界が全て白く染まる。
盗賊の一人に光の一筋が直撃する。
「ぎゃ!」
ジュッという音とともに盗賊の体がどろどろに溶け出し、グズグスに崩れ落ちて石畳の上に広がっていく。
装備や衣服までも溶け出し、骨格も残らず溶け切った。
砦のあちこちで盗賊が光りに包まれ消滅していく。
数十人残っていた盗賊たちは全て肉汁になってサギーだけが取り残された。
そしてサギーにも光が注がれて頭からどんどん溶け出し始めた。
「くそ! ユウヤ呪ってやるぞ! 俺が死んでも『ケルベロス』は……、滅びはしない!」
サギーの頭皮が溶け、髪の毛ごとベロリと地面に落ちる。
「イヒッ、ヒヒッ、いいことを教えてやろう……、兄貴の奪還計画はすでに最終段階に入っている……。数日前に伐採所を襲撃するための部下を送ったから明日の今頃には到着するだろうぜ……」
骸骨むき出しのサギーが驚愕の事実を俺に突きつけた。
「何だと! おい、それは本当なのか!?」
サギーは俺の声がもう聞こえないようだ。
目玉がドロリと落下して体の肉も溶けきった。
「お前の…… 大切な仲間は…… 皆殺しだ……、ざまあ見やがれ……」
不吉な捨て台詞を言い放ったサギーの頭蓋骨が、唐突に破裂して骨格がドシャリと地面に崩れ落ちた。
強敵だったアサシン、サギー・ザッパーは神の怒りに触れて死亡した。
砦内に盗賊たちの姿は一切確認することは出来ない、立っているのは討伐隊の生き残りである俺たちだけだった。
ー・ー・ー・ー・ー
「終わったのか……?」
しがみついていたジルが俺から離れポツリと呟く。
セシルさんはいまだに目をつぶって俺に抱きついていた。
「ユウヤ、今の光の正体は一体何だったんだ?」
サイモンさんが青白い顔をしながら問いかけてきた。
「今の全体攻撃はイシリス様が放った裁きの光です。味方であるサイモンさんたちには害はありませんから安心してください」
「そうなのか……、驚くことばかりで疲れてしまったぞ……」
サイモンさんがどっかりと腰を下ろす。
腰を下ろした瞬間に、隣に横たえられていたライアスの遺体がムクリと上半身を起こした。
「おわっ!」
サイモンさんが飛び起きて転がり離れた。
「ライアス! お前生きていたのか!」
俺はびっくりしてライアスに駆け寄った。
「おお! 神の奇跡です、女神イシリス様のお慈悲が賜われました!」
べソンが祈りを捧げるために地面に膝を付ける。
「俺は生きてんのか……、首筋に致命傷を受けたはずなんだが……」
ライアスが首筋をさすりながら辺りを見渡している。
女神イシリスの裁きは、敵である盗賊団を消滅させただけではなく、死んだはずのライアスを復活させていた。
驚くべき神の奇跡に一同絶句してしまう。
しばらく無言でその場に固まっていたが、俺はサギーが最後に言った言葉を思い出して我に返った。
「大変だ……、伐採所が危ない!」
「ユウヤ、慌てても仕方がないぞ、王都から三日離れた距離であるこの地ではどうすることも出来ないからな」
ジルが冷静に分析してくる。
「しかしこのまま放って置けませんよ! ジル様、ここで俺は討伐隊を離脱します。俺を行かせてください!」
盗賊団討伐クエストはまだ完了していないが、どうしても伐採所へ行かなくてはならない。
俺は隊長であるジルに懇願して頭を下げた。
「ユウヤさん無茶ですよ、ここから急いで麓に降りて早馬を飛ばしても二日はかかる距離です。王都の警備兵が気づいて討伐してくれていることを祈りましょう」
セシルさんも俺を止めるようだ。
「いえ、俺は行きますよ、誰がなんと言おうと行きます!」
砦の正門に向かって俺は走り出した。
もうここには敵は居ないのだ。
『収納』持ちであるセシルさんが居るので帰りの道中も困らないはずだ。
「ユウヤ待て!」
ジルが叫ぶ。
『統率』のスキルは凄まじく、俺の足が勝手に止まってしまう。
「行かせてください! お願いします!」
振り返ってジルに懇願する。
「まあ落ち着くのだ、もう私は止めはしないぞ、だが少しだけ待っていろ。セシル、紙と筆を持て!」
「かしこまりました!」
ジルの命令にセシルさんが反応して『収納』から紙と筆入れを取り出した。
それを受け取った女騎士は何やら紙にサラサラと文字を書き始めた。
一分一秒が貴重な俺はその行動にじれてしまう。
ようやく書き終えたジルが紙を折りたたんでこちらに渡してきた。
「本来なら封蝋を施すところだが今は緊急事態なのでこれを一緒に持っていくのだ」
ジルは指輪を抜き去って俺に渡す。
「なんですかこれは」
俺は受け取りながらジルに聞いた。
「山から降りたらまず本陣に寄るのだ、そしてこの指輪と手紙を騎士フィリップに渡せ。そうすれば奴が軍馬をお前に貸し与えてくれるだろうよ。走って行くよりも何倍も早いだろうから乗って行くのだ、こんな事しか今はできないが王都へ戻ったら必ず褒美を取らせるからな」
「ありがとうございます! では、これで失礼します!」
深々と頭を下げ、今度こそ全力疾走で砦の門へ向かった。
「ユウヤがんばれよ!」
「神のご加護を祈っております!」
「お前なら間に合うぞ、諦めるな!」
ライアスやベソン、そしてサイモンさんの声が背中に届いてくる。
「ありがとう、また王都で会おう!」
俺は走りながら後ろを振り向き、仲間たちに向かって手を振った。
「ユウヤさんありがとうございました! 王都でお会いしましょう!」
セシルさんも声を震わせながら手を一生懸命に振っている。
俺は前を向き直って更に加速した。
はたして伐採所が襲撃される前にたどり着けるだろうか。
いや、絶対に間に合わせて見せる!
俺は硬い決心をして夜の山中に飛び込んでいくのだった。
ー備考ー
[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 クラス……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『俊足』『隠密』『剣技』『暗殺術』『防御』『体捌き』『精密投擲』『突き』『連続突き』『唐竹割り』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『毒耐性』『麻痺無効』『勇敢』『平常心』『神の裁き』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]
・NEWスキル……『神の裁き』




