表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
82/90

81.盗賊砦を壊滅せよ③~数は力だった……~

 砦の広場に躍り出たユウヤは、魔術師との直接対決に挑むのだった。




「ファイアーボール!」


 魔術師が呪文を叫ぶ。

 メラメラと炎を上げながら火球が一直線にこちらへ飛んでくる。

 目の前に迫る炎の塊を『俊足』のスキルを活かしてギリギリのタイミングでかわしながら俺は全力疾走した。

 頭の上をファイアーボールが通り過ぎていき、放射熱で顔が焼けていく。


『激痛耐性』が働いているはずだが、スキルで補えないほどの苦痛が頭部を中心に広がっていく。

 兜の下の頭皮がじりじりと焼け焦げ、髪の毛が燃えたときの嫌な臭いが鼻腔に広がった。

 ファイアーボールが鼓膜を破壊するほどの轟音を伴って通り過ぎていった。


 眼前には魔法をよけられ、驚愕の表情を貼り付けている魔術師がいる。

 装備はローブのみで防御力は皆無だ。

 俺は勝ちを確信して上段に長剣を振り上げ、最後の間合いを詰めた。


「覚悟しろ魔術師!」


 渾身の上段切りを魔術師の頭めがけて振り下ろす。

 魔術師の脳天に刃先が到達する寸前に俺の背中に悪寒が走った。


 緊急回避で体を投げ出し、魔術師の横をすり抜ける。

 魔術師は尻餅をついて頭をかばっている。

 俺の肩口に激痛が走り鮮血がほとばしった。



 一回転、二回転と地面を転がりながら攻撃者からの攻撃をかわす。

 地面に低く構えて素早く周辺を見渡して襲撃者を探すが、どこにも襲撃者を目視できない!


(この攻撃はサギーだな、一体どこに居るんだ!)


 広場の石畳に片膝を付き周囲を警戒しながら剣を構えた。

 サギーの『暗殺術』による毒ナイフの攻撃を受けたので、本来なら毒で死亡するのだが俺にはもう毒は通用しない。

 サギーは広場のどこかに潜みながら首をひねっていることだろう。

 しかし奴の居場所を発見できない以上、こちらが不利なことには変わりなかった。


 いつの間にか魔術師は、はるか遠くまで走って逃げ、盗賊たちと合流してしまった。

 八方から盗賊たちが一斉に俺に向かって押し寄せてくる。

 その間にも城壁の上から矢が唸りを上げて降り注いでくる。

 大盾で矢を弾き飛ばしながら立ち上がり、盗賊たちを迎え撃った。




 広場は盗賊たちとの乱戦に突入した。

 スキルを駆使して奮戦するが、如何いかんせん数が多すぎる。

 じりじりと壁際に追い詰められ、城壁を背にして防戦一方になってしまった。


 反対側の城壁の上からはとめどなく矢が降り注ぎ、俺は自由に動けなくなってしまう。

 盗賊たちは慎重に周りを囲って闇雲な突撃は控え始めた。

 更に囲いの中から五メートル以上ある長槍が俺めがけて突かれ始めた。


 長槍の攻撃はえげつない。

 盗賊は容赦なく突く動作を繰り返し、時には上から槍先を振り下ろしてくる。

 大盾で槍先を弾くも盾の耐久値は削られ穴が空き始めた。

 このままでは遠からず串刺しにされてしまうだろう。

 絶体絶命のピンチに追い打ちをかけるように不吉な旋律が聞こえ始めた。



「炎の精霊よ……、ここに集い給え……」


 囲いの中から魔術師の呪文詠唱が始まる。

 盗賊団の魔術師は、かなりの熟練者なのだろう。

 二発のファイアーボールを打ち出してもなお、気絶せずにさらなる呪文を唱え始めたのだ。


「万物のマナを集約してひとかたまりの火球へ昇華せよ……」


 爆発的な魔力を杖先に集めた魔術師は、げっそりと頬がコケ落ちてフラフラになっている。

 最後の魔力を振り絞ってのファイアーボールをいま撃ち出そうとしていた。

 これほどの至近距離からの魔法攻撃は避けることができそうにない。

 やはり超越者と言えど一人で多勢と戦うには無理があったようだ。

 俺が倒れた後、セシルさんたちのことが気にかかるが、もはやここまで、最後は潔く爆散して果てようか。

 覚悟を決めた俺は仁王立ちになって盗賊たちをにらみつけた。



「マナを解き放ち、我の敵を討ち滅ぼせ!」


 魔術師が魔法を完成して杖を振り上げた。

 最後のキーワードが高らかに発せられる。




「ファイアーボ……」


 魔術師は呪文を最後まで言い終えずにバタリと倒れ落ちた。

 その背中には深々といしゆみボルトが突き刺さっている。


「な、何で出てきたんだよ……」


 俺は目を見開いて射線の先を見つめた。

 そこにはサイモンさんを初め、ジルやセシルさん、ライアスやベソンの姿が見えた。

 ライアスさんは片膝を付き、弩を構えた状態だ。

 魔術師を一撃で倒した矢は、ライアスさんが放ったものだったのだ。

 俺が砦の広場で乱戦を繰り広げている間に、砦の正面突破を図って加勢に来てくれたようだ。



「ユウヤ! 助けに来たぞ!」


 ジルが叫び声を上げて剣を高らかに掲げた。


「盗賊共よ、正義の剣を受けるがいい、みなのもの突撃だ!」


 ジルが檄を飛ばし、一斉にライアスたちが突撃を開始する。


「だめだ! サギーがどこかに隠れているんだ、突撃するな!」


 俺は声を張り上げて突撃をやめさせようとした。

 しかし盗賊共の怒号にかき消されて仲間たちに俺の声は届かない。



 黒い霧が突撃する仲間たちにまとわり付くのが微かに見える。

 サギーの姿が陽炎かげろうのようにゆらゆらと霧の中から現れ、先頭を走るライアスに襲いかかった。


「やめろ! ライアス回避しろ!」


 俺の絶叫も虚しく、深々とナイフがライアスの首筋に突き刺さった。

 猛毒を塗りつけたサギーの必殺剣が今、ライアスの命を刈り取ろうとしている。


「ライアス! うおおおお!」


 泡を吹きながら倒れ込むライアスの姿を見て俺は絶叫した。

 頭に血が上り、目の前が真っ赤に染まって意識が飛びそうになる。

 体中の細胞から魔力が溢れ出し砦全体を包み込んでいく。



 一気に広がった魔力は、そのまま天空へ光の柱となって突き立った。

 一瞬で砦全体が光に照らされる。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。




 砦を立っていられないほどの縦揺れが襲い、更に山中全体に広がっていく。

 盗賊たちは尻餅をついたり四つん這いになったりして慌てふためいている。

 そのすきを突いて囲みを突破してライアスの元へ走り寄った。


「ライアス、しっかりしろ!」


 ライアスの上半身を起こして呼びかけるが返事がない。

 周りには驚きの表情をしたジルやセシルさんが居る。

 べソンが駆け寄ってきてヒールを唱え始めた。

 手先から淡い光が発せられ、ライアスに吸い込まれていく。

 しかし一向に回復する兆しはなく、どんどん体温が下がっていった。

 心臓はすでに止まってしまい、呼吸はもうしていない。

 俺は素早く『無限収納』からポーションをありったけ出してライアスに振りかけた。


 反応は無く、完全にライアスは死亡した。




「イヒヒヒ! いけ好かない奴を殺すことができて嬉しいぜ!」


 いつの間にかサギーが近くに姿を現した。

 俺たちを挑発するように高笑いをしている。


「きさま! 裏切り者め!」


 ジルが激昂してサギーに突撃する。


「ジル様、無茶ですおやめください!」


 慌ててセシルさんがジルを止めるためにしがみついた。


「サギー、お前という奴は……。一時的とは言え仲間だったライアスを手に掛けるなんて恥を知れ!」


 俺はいまだに笑い続けているサギーをにらみつけながら立ち上がった。

 地響きが更に大きくなっていき周囲の城壁が崩れ始める。

 崩壊する砦の広場で長剣を構え直してサギーに対峙する。

 盗賊たちはぐるりと俺たちを取り囲んで、サギーが突撃命令を下すのを待っている。

 絶体絶命のピンチは全滅という形で幕を閉じそうだ。

 ジルやサイモンさんたちも覚悟を決めた顔つきになった。


「お前ら突撃しろ!」


 サギーの掛け声に応え、一斉に盗賊どもが殺到してくる。




 ファァァン!




 甲高い金属的な笛の音がまばゆく光る夜空から鳴り響いた。

 その大音響は山々に反響しやまびことなって轟く。

 更に空が白く輝きだした。

 突撃を開始していた盗賊たちが驚いて立ち止まる。

 その場に居合わせた俺以外の者たちが敵味方関係無く不安そうに空を見上げた。



 そんな中、俺の脳裏には笛の音に負けないほどの大音量でスキル獲得の知らせが聞こえていた。



 ピロリンッ!


『スキル、『神の裁き』を獲得しました』





 天空が一層光り輝き、真昼のように輝きだした。

 逃げ惑うことさえ忘れた盗賊たちはその場に固まり、その強い光を見つめるだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ