79.盗賊砦を壊滅せよ①~戦闘開始~
盗賊団を自らの手で壊滅することを決意したユウヤは、一旦仲間たちと離れ、ひとり砦内部に残るのだった。
ジルたちが無事に砦から脱出したのを見届けた俺は、『無限収納』を開いて装備品の物色に入った。
盗賊たちのお宝部屋で収集した武具の中から、戦闘に適した物を選んでいく。
鋼鉄製の小手や同じく鋼鉄製の兜を装着していく。
更にブーツも革のブーツから金属板がふんだんに使われている戦闘ブーツに履き替えた。
もちろん盾も選ぶ。
今まで装備していた皮の盾は『暴走のバズ』の攻撃で壊れて無くなってしまった。
新たに選んだ盾は、少し大きめで長方形の金属盾だった。
種類としては大盾に分類されるものだろうか。
盾の表面に棘が無数に生えている代物で、うかつに触れば串刺しになってしまう恐ろしい盾だった。
大盾を左腕に構えて愛用の長剣を右手にかまえる。
スペアの短剣はジルに貸してあるので、『無限収納』から同じ様な短剣を出して腰に差した。
「よし! いつもと同じように戦闘すれば勝てるはずだ。落ち着いていくぞ」
大きめの声で気合を入れ、気持ちを落ち着かせる。
そして便所の扉を思い切り蹴り開け、通路へ飛び出した。
向かうは砦の正門。
盗賊たちを見つけ次第、問答無用で殺害することを心に決めていた。
ー・ー・ー・ー・ー
足早に砦内部を移動していく。
捕虜に取られていたジルたちも無事に砦を脱出できたので、もうコソコソと隠れて移動する必要はない。
新たに装備したブーツには、靴底に滑り止めのために金属の鋲が打ち付けてある。
砦の床は石畳なので歩く度にごつごつと大きな音を立てていた。
その金属音は石壁の通路に反射して盛大に鳴り響いている。
その音を、いくら間抜けな盗賊たちでも聞きつけたようで、砦内部のあちこちが騒がしくなってきた。
(どうやら見つかったみたいだな、そろそろ戦闘になるだろうな)
俺は長剣を構え直し、更に大盾を前面に構えた。
ドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。
大勢の盗賊たちが俺が進んでいる通路に殺到しているようだ。
通路を左に曲がったところでとうとう盗賊たちと接敵した。
「いたぞ! 例の冒険者だ、他の奴らにも知らせろ!」
ピ~っと笛の音が通路に鳴り響き、砦全体が慌ただしくなった。
俺は一気に駆け出して盗賊たちに接近した。
「野郎! 生きて帰れると思っ!」
先頭に居た盗賊が啖呵を切ったが、最後まで言い終わるのを待たずに大盾で殴りつけた。
ドカンと重い衝突音を伴い盗賊は吹き飛ぶ。
八つ裂きにちぎれ飛んだ盗賊が、バラバラに解体されて絶命する。
問答無用の俺の攻撃に殺しのプロである盗賊たちが呆気に取られている。
俺はそのまま止まらずに盗賊たちの間を走り抜けた。
「お、お前ら奴を追いかけろ!」
リーダー格の盗賊が怒声を上げる。
我に返った盗賊たちは慌てて俺を追いかけ始めた。
盛大に騒音を撒き散らしながら俺は通路をひたすらに駆けていた。
少し間隔を空けて盗賊たちが追いかけてくる。
盗賊たちは懸命になって全力疾走するが、『身体能力向上』でごりごりに体力を強化している俺に追いつくことは出来ない。
盗賊たちはすでに体力を使い果たして息が上がってしまい、みな喘いでいる。
俺は余裕を持って通路を駆け抜け、砦の中央広場に通ずる出入り口に到着した。
出入り口はひらけた空間になっており、大量の盗賊たちが俺を待ち受けていた。
そして扉には閂がかかっており、厳重に封鎖されていた。
勢いで押し通ることはできそうにないので、無理やり押し通るのを諦めて走ることをやめた。
「てめえ死ねや!」
待ち受けていた盗賊の一人が、俺の前に躍り出て短剣を振りかぶった。
その盗賊は極度に興奮した状態で目が血走っている。
その盗賊に構わず近づいていって上段から長剣を振り下ろす。
『唐竹割り』が決まり、長剣の一撃を短剣で受けた盗賊の頭が短剣ごと吹き飛ぶ。
そのままの勢いで振り抜き、体を真っ二つに切り分けた。
盛大に血飛沫を上げながら石畳の上に死体が転がる。
天井や壁、床に至るまで真っ赤なペンキをぶちまけたようになってしまった。
「ひいいい!」
「ば、化け物か!」
「こんな奴と戦うなんて聞いてねえぞ!」
一斉に盗賊たちが俺から距離を取る。
「奴はスキル持ちだ、闇雲に突撃しても敵わねえぞ! 囲んで一気に攻撃しろ!」
リーダー格の的確な指示で盗賊たちが俺を取り囲む。
その頃になると俺を追いかけていた盗賊たちも出入り口に到着した。
人間は簡単には止まれないようだ。
盗賊たちは止まる力も使い果たしていたようで、そのまま走って俺に突っ込んでくる。
攻撃射線をかわしながら先頭で走り寄る盗賊の首を一太刀で切り取る。
切れ味鋭い刃先でスッパリと首を切り取られた盗賊の体が、その勢いのまま走っていき扉に激突した。
その間にも走り寄る盗賊たちを『連続突き』で血祭りにあげていく。
穴だらけにされた数名の男たちが石畳に倒れ込んで絶命した。
長剣は盗賊たちの血油でベタベタになっている。
そのことを目ざとく発見したリーダーが部下たちに檄を飛ばした。
「お前らビビるな、奴の剣は油まみれでもう切れねえぞ、一気に畳み込め!」
一斉に盗賊たちが駆け寄ってくる。
俺はちらりと長剣を見た後に小さくつぶやいた。
「クリーン」
たちまちのうちに大剣は新品の切れ味を取り戻した。
その事に気がついていない盗賊たちは我先に突貫してくる。
剣を中段に構えた俺は、横薙ぎに盗賊どもを切り捨てた。
一体、二体と盗賊共の胴体が上下に分かれて切り飛んでいく。
一気に四体の盗賊を上下真っ二つに切り分け、五体目の腹に長剣がめり込んで止まった。
腹に長剣を抱えて口から血を吐き出している盗賊を、重いブーツで足蹴にする。
残るはリーダー格の盗賊だけだ。
俺は無言で屍を乗り越え、その盗賊へ近づいていった。
「ひぃぃぃぃ!」
一面血の海になり、死体の山が散乱する中、リーダー格の盗賊が腰を抜かして尻餅をついた。
口をパクパクさせてなにか言いたいようだ。
おおかた命乞いでもしようとしているのだろうが、恐怖で思うように声が出ないのだろう。
情けをかけずに首を刎ねる。
驚きの表情を張り付かせたまま生首は血の海を転がっていった。
出入り口の扉の前に立っているのは俺だけになった。
まわりは惨殺体で溢れ返っている。
その様子を見ても俺は何の感情も湧いてこなかった。
『グロテスク耐性』、『勇敢』、『平常心』。
どのスキルが関係しているのかわからない、多分全てのスキルが作用しているのだろう。
死体を踏みつけながら扉に近づいていく。
閂を外してゆっくりと扉を開けていった。
「ファイアーボール!」
扉を開け放った瞬間、男の低い声が聞こえ、目の前が真っ白に光って爆発した。
体中を衝撃が駆け巡り、更に炎と熱に包み込まれる。
爆風で通路の奥へ吹き飛ばされ、錐揉み状態で叩きつけられた。
俺は攻撃魔法の直撃を受け、意識が遠のいていくのを感じていた。




