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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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78.盗賊たちにはこの辺で退場してもらおう

 盗賊団討伐隊の生き残りによる砦からの脱出行が始まった。




 砦からの脱出は困難を極めた。

 建物の出口には盗賊たちが固まっていて、発見されずに通過することはできそうにない。

 仮に強引に押し通ればたちまちのうちに増援が来てしまうことが予想される。

 俺一人ならば、盗賊たちを蹴散らして砦から出て行くことも可能だが、ジルやセシルさんを守りながら脱出することは難しい。

 これ以上、負傷者や死者を出さずに本陣へ戻るにはどうすればいいのだろうか。

 俺は物陰に隠れながらこれからどうしようか迷っていた。



「ジル様、どうすれば安全に砦から脱出できますかね」


 ここは指揮官であるジルに決めてもらうしか無い。

 俺は考え込んでいるジルに恐る恐る聞いてみた。


「正直いい案が思い浮かばないのだ……、相手は盗賊と言えど数十人規模の集団だ。我ら数名ではどうやっても数で押し切られてしまうだろう、不甲斐ない私を許してくれ……」


 すっかり自信をなくしたジルが深々と頭を下げてくる。


「ジル様、おやめください! こんな状況じゃ仕方がありません、ジル様のせいではありませんよ!」


 慌ててサイモンさんがジルの事を擁護する。

 誰一人として良案を考えついた者はおらず、重い雰囲気が場を包み込んだ。




「あの……、ユウヤさんが侵入してきたお便所の穴から脱出しませんか?」


 だいぶ顔色が戻ってきたセシルさんが遠慮がちに提案してきた。


「え!? マジで言ってんの?」


 俺は思わずぞんざいな口調で聞き返してしまった。

 周りの仲間達もギョッとした表情をしてセシルさんを見ている。


「私、どれだけ汚かろうが死ぬよりはマシだと思うのです。それにユウヤさんも通ってきたのですから、私達にも通れるはずです!」


 セシルさんの目は真剣そのもので、思いつきで言ったわけではなさそうだ。


「それしかあるまいな……、ユウヤ、案内頼めるか?」


 ジルも決意を固めたらしく、俺をまっすぐに見て言ってくる。

 ライアスたちはすでに諦め顔でジルに判断を任せるようだ。


「……わかりました、気は進みませんが戻りましょうか……」


 あの便所の穴をまた通ると思うとめまいがしてくる。

 しかし、現状ではそれしか脱出する道はないと思い直して、もと来た道を戻り始めるのだった。



 ー・ー・ー・ー・ー



「ここですよ……、あの穴から俺は入ってきたんです……」


 便所の扉を開け、室内へ入っていく。

 相変わらずむせるほどのアンモニア臭が充満していて目がしょぼしょぼしてしまった。


「なっ、何だこの臭いは!」


 想像を絶する臭気にジルが大きな声を上げてしまう。

 盗賊たちがジルの声を聞きつけて向かって来るのではないかと気が気でない、慌てて便所の扉を閉めた。

 途端に狭い室内に六名がひしめき合う形になってしまう。



「ベソン押すんじゃねえよ! 便器に足が入っちまうじゃねえか!」


「そんな事を言っても狭いのだから仕方がありませんよ、我慢してください!」


 冒険者の二人は仲良く押し合っている。

 今にも糞が溜まっている便器に倒れ込みそうだった。


(どうせ今からうんこまみれになるんだから騒ぐなよ……)


 俺は冷たい目で二人を見た後、ジルに向き直ってこれからのことを話していった。


「ジル様、甲冑かっちゅうを脱いでください。さすがに重すぎて落ちてしまいますからね」


「そうだな……、この高さから落ちたらひとたまりもないな……」


 ジルはダストシュートの蓋を開けて下を覗き込んでいた。

 俺が話しかけるとそそくさと鎧を脱ぎだし、それをセシルさんが手伝い始めた。


「ユウヤさんは『クリーン』ってあと何回使えるのですか?」


 ジルの鎧を脱がせながらセシルさんが俺に話しかけてくる。


「どうだろう、何回でも使えると思いますよ」


 セシルさんが何を気にしているかわからないが正直に答えた。


「え!? 自分でわからないのですか!?」


 驚いた顔でセシルさんが聞いてきた。


「ユウヤ殿が七回ほど呪文を使ったのを俺は見たことあるぞ、それでも気絶せずに平気な顔をしていたのだから大したものだよ」


 サイモンさんの証言を聞いて皆んな俺の魔力量に感心しているようだ。

 今しがたまで取っ組み合いをしていたライアスとべソンまで驚きの表情で俺を見ている。


「やっぱりユウヤさんは凄いですね……、私考えたのですが、この穴に『クリーン』を掛けてもらえれば汚れずに通ることが出来ると思うのです。お願いできませんか?」



 セシルさんの提案を聞いて俺は愕然としてしまった。

 なぜ今まで気が付かなかったのだ。

 侵入する際に『クリーン』を連発しながら登ってくれば、あんなトラウマになる体験をせずに済んだのではないだろうか。

 自分の馬鹿さ加減に驚きを通り越して呆れてしまった。


「良い提案ですね……、もっと早くに教えてほしかったくらいです……」


 すっかり落ち込んでしまったが、気力を振り絞って小声で『クリーン』を唱えていった。


「クリーン、クリーン、クリーン……」


 便所全体に『クリーン』を唱える。

 今まで激臭に包まれていた空間はあっという間に無臭になり、便器の中の汚物はどこかへきれいに無くなってしまった。

 新品同様になった便器が淡い光に照らされて光っている。

 飛び回っていた蝿さえもいつの間にか居なくなっていた。

 生体にまで『クリーン』が効くことがわかり驚いてしまう。

 俺はダストシュートに近づいていくとおもむろに蓋を開いた。

 穴の外には遥か下に河原が見え、大量の汚物が山積みになっている。


「クリーン!」


 穴の奥を目標にして気合を入れてクリーンを唱える。

 たちまちのうちにダストシュート全体がぴかぴかになり、河原に山積みになった汚物たちも綺麗サッパリ消え去った。


「さあ、一人ずつ降りてください。俺が最後に降りますからね」


 俺が唱えた『クリーン』の威力に呆気に取られている仲間たちをロープで一人ずつ河原へ下ろしていく、初めはライアスが降り、サイモンさん、ベソンが順番に降りていった。


「一人で降りられますか? 結構な高さがありますよ」


 病み上がりでまだ本調子でないセシルさんに一声かける。


「大丈夫ですよ、こう見えても木登りとか得意なんです!」


 にっこり笑ったセシルさんは「では、行きます!」と言い残してダストシュートへ消えていった。

 残るはジルと俺だけになる。


「ジル様、甲冑は俺が預かっておきますね、それから提案があるのですが聞いてもらえますか?」


「ん? 何だ改まって、その話は今でなくてはいけないのか?」


 ジルは下降しようとロープを握りしめていたが、その手を離してこちらに向き直った。


「はい、ぜひ聞いてもらいたいんです」


「そうか、では言ってみろ」


「正直、このまま暗い山中を逃げても追手を振り切ることはできないと思うんですよ、誰かが囮になって敵を引きつける事が必要だと思うんです。さらに言ってしまえば、ある程度盗賊の人数を減らしたほうがいいと思うんですよ」


 俺の話を真剣な顔をしてジルが聞いている。


「一時間だけ、川辺りに隠れて待っていてもらえませんか? 必ず一時間で決着をつけます」


 俺は力強く言い切った。


「……本気なんだな? 盗賊とは言え、かなりの人数を相手にすることになるぞ、もちろんユウヤが嫌っていた殺人も大量にしなくてはならなくなる。ユウヤはそれでいいのか?」


「俺、吹っ切れましたよ。この世界には生きるに値しない下衆どもが居ました。魔物と同じ害悪な連中は成敗したほうがいいのです」


 俺を騙し討ちにしたサギー、ジルやセシルさんに暴力を振るい、更に暴行しようとした拷問官、他にも反吐へどが出るほどの無頼漢たちを見てきた。

 そんな奴らにはこの辺でこの世から消えてもらおうではないか。


「なんだかユウヤはどこか違う世界から来たような言い方をするな」


 ジルが少しだけ苦笑して俺を見ている。

 そんな彼女を見て俺は秘密を打ち明ける決心をした。


「ジル様、俺はこの世界の住人ではないんですよ。超越者と言えば理解してもらえますか?」


 俺の告白にジルは目を大きく開けて固まってしまった。

 超越者という触れてはいけない言葉を聞き、頭の良いジルは全てを理解したようだ。


「いいですね? 一時間だけ隠れていてください。超越者がどこまで出来るか盗賊共で試します。さあ、早く行ってください!」


 無言のままのジルを穴へ押しやりロープを持たせる。


「わかった、決して無茶をしてはいけないぞ、森の中で待っているからな」


 ジルは真剣な表情をしたまま、しっかりとロープを握りしめて下降していった。





 無事に全員が降りたのを見届けた俺は、盗賊どもを一掃するため準備に取り掛かるのだった。

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