76.救出
単身で砦内部に侵入したユウヤは、地下牢にて仲間たちを発見した。
螺旋階段を駆け下りてくる何者かの足音が地下牢に響き渡った。
慌てて俺は隠れ場所を探すが、袋小路になっている通路には隠れる場所が一切ない。
サギー達がいる拷問部屋に入るわけにもいかず、発見されるのも時間の問題になってしまった。
ピロリンッ!
『スキル、『隠密』を獲得しました』
女神様は俺のことを見ているのだろうか?
今回もギリギリのところで有用なスキルを手に入れることができてしまった。
暗闇に俺の体が溶け込んでいく。
牢獄の暗がりと同じ明暗になった俺は、通路の隅に静かに潜んで気配を消していった。
足音がどんどん近くなってくる。
地下牢の通路をやかましい音を立てて盗賊が走り寄ってきた。
拷問部屋の扉が勢いよく開けられ、ザッパーが顔を出す。
俺が潜んでいる場所から二メートルも離れていないにもかかわらず、盗賊はもとよりアサシンであるザッパーすら俺に気づかない。
「どうした! 何かあったのか!?」
「兄貴、砦の入り口付近で、木にロープで縛り付けられたアンドレの野郎を見つけやした。アンドレは全身の骨が砕かれていて重症でさあ、命に別状はありやせんが例の冒険者にやられたと言ってやす!」
盗賊からの報告にザッパーが唸りを上げる。
どうやら道案内役の盗賊は仲間たちに発見されたようだ。
「あの野郎、俺の毒を受けて死ななかったっていうのか!? しぶとい野郎だな! それで奴は今どこにいるんだ!」
「へい、アンドレは脅されて奴を砦まで案内しちまったそうでさあ、奴は今頃、砦の周辺で侵入する機会を伺っているかもしれやせん!」
「なんだと! アンドレの野郎を叩き斬れ! アジトを教えるバカがあるか! 今から俺が指揮をとって山狩りをするから手下どもを広場に集めるんだ!」
烈火の如く怒り狂うサギーは、報告に来た手下とともに通路を足早に遠ざかっていった。
探している張本人がまさかそばに居るとは思わなかったのだろう。
とんだ間抜け野郎たちだな。
俺はゆっくりと立ち上がり、サギーたちが螺旋階段に消えてゆくのを確認してから、ジルたちが囚われている拷問部屋へ音を立てずに侵入していった。
ー・ー・ー・ー・ー
拷問部屋へ滑り込むとちょうど拷問官がジルに近づいて行くところだった。
拷問官は俺が部屋へ入ってきたことを気づいていないようだ。
「ぐへへへ、サギーの兄貴が居ない間に女騎士の味見をさせてもらおうかね。大人しくしていれば痛くしないからな」
下品な笑い声を上げながらジルに近づく拷問官。
「やめろ! 汚い手で私に触るな!」
鎖をジャラジャラと鳴らしながら身を悶えさせる騎士ジル。
目には涙を浮かべていて、然しもの女騎士も体を穢されてしまう恐怖に震えているようだ。
俺は素早く拷問官の後ろに移動した。
「汚い手で触るな!」
髪の毛を鷲掴みにして腕力でジルから引き離しにかかった。
ベリっと音がして拷問官の頭皮が髪の毛ごと剥がれてしまう。
「ギャッ!」
拷問官が汚い悲鳴を上げ暴れ始める。
構わず足払いを決め、拷問官を石畳に叩きつけた。
「この汚い豚野郎が!」
更に脇腹に手加減なしのサッカーボールキックをお見舞いする。
「グエエエエエエ!」
ガマガエルのような声を伴って拷問官の口から血反吐が吐き出された。
俺のブーツは拷問官の脇腹に深々とめり込んでいる。
破裂した腹から大量の血液とともに内臓が飛び出した。
拷問官は即死寸前で血の泡を吹きながら痙攣し始めた。
駄目押しに痙攣している拷問官の頭に思いっきりパンチをお見舞いする。
メコッと鈍い音がして拷問官の顔が陥没した。
大量の血液が陥没した部分から湧き出す、拷問官の体が凄まじい勢いで痙攣して跳ね回った。
そして最後に強く跳ねた後に絶命した。
豚野郎の死亡を確認した俺は、汚らわしい躯を思い切り蹴飛ばして部屋の片隅に叩きつけた。
「ジル様助けに来ましたよ」
俺はジルに駆け寄って『隠密』スキルを解除した。
「なっ! ユウヤお前なのか!」
ジルには隠密状態になった俺の姿が見えていなかったようで、いきなり姿を現した俺を見て驚きの表情をしている。
「鎖を断ち切ります、動かないでください」
長剣をさっと一閃して鎖を切り飛ばす。
返す刀でもう一方の鎖も断ち切った。
「ユウヤ!」
ジルが泣きながら俺にしがみついてきた。
「もう大丈夫ですよ、俺が来たからには盗賊たちに指一本振れさせませんからね」
ジルをなだめるために抱きしめ、背中を擦ってやる。
しばらくの間、ジルの泣き声だけが拷問部屋に聞こえていた。
「さあ、セシルさんを解放して砦から脱出しましょう」
美人に抱きつかれるのは嬉しいが、そう悠長にしてはいられない。
俺は『無限収納』から予備の衣服を取り出すとジルに差し出した。
「すまない、お前は命の恩人だ」
ジルはだいぶ落ち着いてきたようで服を素早く着ていった。
その間に俺はセシルさんの鎖を断ち切り、石畳の上に毛皮を敷いた後にそっと寝かせた。
もちろん気を失っているセシルさんをそのままにはしておけない、毛皮を追加で何枚か出し体を包み込んだ。
「これを装着しましょう、セシルさんが意識を取り戻したらここを離れます」
散乱していたジルの鎧を集めてくる。
騎士の鎧は一人では装着できないようで、ジルに教えてもらいながら一つずつ装着していく。
最後に兜をジル自ら被り、見た目だけは立派な騎士に戻った。
「ジル様これを飲んでください、それから『クリーン』を掛けますね」
ジルにポーションを差し出し、呪文を唱える。
またたく間に鎧がピカピカになって威厳ある王国騎士が出来上がった。
「ユウヤは呪文まで唱えられるのか!? 一体お前は何者なんだ!」
驚き固まっているジルにブライアンさん特製の短剣を渡す。
なまくらな武器では心もとないので、特別に貸し与えた。
「話は後です、今はこの砦から脱出することだけを考えてください」
「そ、そうだな、すまない」
ジルはだいぶ落ち着いてきたようで、俺達が危険な状況に陥っていることを理解したようだ。
「ううん……」
そうこうしている間にセシルさんが意識を取り戻した。
「……ユウヤさん?」
まだ焦点が合わない目で俺を見たセシルさんが聞いてくる。
「助けに来ましたよ、一緒にここを脱出しましょう」
「ユウヤさん……」
力なく泣き出したセシルさんは俺の手をしっかりと握りしめて離そうとはしなかった。
「ジル様、セシルさんを少し見ていてもらえますか? ライアスたちを牢屋から救出してきます」
セシルさんに『クリーン』を唱え、ジルにポーションと着替えを渡し立ち上がる。
セシルさんは俺にすがりつこうとするが、ジルが間に入ってなだめ始めた。
「ユウヤ……、セシルと私の名誉のために言っておくが、私達はそのう……男たちに乱暴されていないからな……」
ジルが言いにくそうだがはっきりと言ってくる。
「そうですか、それを聞いて安心しました。では、すぐ戻ってきますから待っていてください」
心の中で安堵して拷問部屋を出る。
細心の注意をはらいながらライアスたちが囚われている牢屋に近づいて行くのだった。
ー備考ー
[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 クラス……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『俊足』『隠密』『剣技』『暗殺術』『防御』『体捌き』『精密投擲』『突き』『連続突き』『唐竹割り』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『毒耐性』『麻痺無効』『勇敢』『平常心』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]
・NEWスキル……『隠密』
『隠密』……『暗殺術』の派生スキル。姿を周囲に溶け込ませて隠れるスキル。




