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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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75.砦内部

 汚物の中を突き進み砦内部へ侵入したユウヤは、早速探索を開始するのだった。




 俺が侵入した小部屋は便所兼ゴミ捨て部屋だった。

 悪臭が部屋全体に充満して目がしみる。

 溝が掘ってあるだけの便所には、垂れ流された糞がそのままの状態で残っている。

 大量のハエが飛び回っていて一分一秒でも早く立ち去りたいと思った。

 部屋の扉をそっと開けて通路を注意深く見る。

 左右に伸びている通路には人っ子一人居らず、灯りさえも点いていなかった。

 俺は短剣を抜き去り慎重に移動を開始した。


 左右どちらに行けばセシルさんたちがいる場所に出られるかなど皆目見当もつかない。

 そこで通路を右に進みつつ、片っ端から扉を開けていく作戦に出た。


 灯りが全くない通路をしっかりとした足取りで進んでいく。

 初めて発見した扉の前に立ち、扉に耳を押し当てて中の物音を聞いてみる。

 しばらく静かに聞いていたが、一切物音はしなかった。

 取っ手をゆっくりと回して少しだけ扉を開ける。

 部屋の中に頭だけ差し込んで様子を見る。

 そこは盗賊たちの寝室と呼べる部屋だった。


 三段のベッドが所狭しと並び、酒瓶や食べかけの果物などが散乱している。

 盗賊なんてだらしがない奴がなる職業なので、部屋が整理整頓していたら逆に怖い。

 誰かが中で寝ているかもしれないと警戒したが、部屋の中はもぬけの殻で誰も寝ては居なかった。


(さて、次の部屋へ行こうか、どんどん調べていくぞ)


 あまり悠長に探索しては居られない、時間をかければかけるほど捕虜になった仲間たちが危険にさらされてしまうからだ。

 特にジルとセシルさんを探し出すことは急務だった。

 サギーは彼女たちを慰み者にすると言っていた。

 そんなことは絶対にさせてはいけない、強い決意で探索を続行した。



 一部屋、二部屋と確実に潰し、通路の突き当りまで到着する。

 そこには螺旋らせん階段があり、階下に繋がっていた。

 まだこの階すべての部屋を調べ終わっていないので、下に降りるか降りないかを迷ってしまう。

 しかし俺の勘が階下を探せと言っている気がする。

 意を決して螺旋階段を音を立てずにゆっくり降りていった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 螺旋階段を降りる度に空気が淀んでいくのが感じられた。

 換気がされておらず腐敗臭やカビ臭さがどんどん濃くなっていく。

 相変わらず辺りに灯りは一切ないが、確実に階段を降りてどんどん下へ潜っていった。


 しばらく降りていくと荒削りの石畳が見えてきた。

 どうやら砦には地下室があったようだ。

 奥へ一本、石畳の通路が伸びている。

 壁には粗末な燭台が等間隔に掲げられていて、ロウソクのほのかな明るさを提供していた。


 湿り気を帯びた石畳の通路を奥へ慎重に進んでいく。

 粗末な作りの扉が左右にあり、扉に取り付けてある小窓には錆びた鉄格子がはまっていた。

 一室ずつ小窓から中を確認していく。

 最初の部屋は空っぽで誰も閉じ込められていなかった。

 次の部屋には白骨死体が横たわっていた。

 一瞬仲間たちの一人かと思ったが、この短期間に白骨化することなどないので俺の思い違いだった。


 白骨死体のある部屋を見ている時、微かにうめき声を聞いた気がした。

 うめき声は隣の牢屋から聞こえてくる。

 慎重に移動して中の様子を確かめる。


(あっ、サイモンさんじゃないか!)


 うめき声を上げていたのは王国衛兵のサイモンさんだった。

 鎖に繋がれた状態で床に寝そべっているサイモンさんは、相当具合が悪いらしく低い声で唸るばかりだった。


「サイモンさん、聞こえますか? 助けに来ましたよ!」


 盗賊共に見つかっては困るので小声で話しかける。

 しかしサイモンさんは俺の声が聞こえないらしく、相変わらず唸るだけだった。


「おい、その声はユウヤか! こっちだお前の後ろの牢屋だ!」


 聞き覚えのある声が、後ろから聞こえてくる。

 俺は扉から離れ後ろを向き、声の主を探した。


「ライアスか!? 生きていたんだな!」


 ちょうどサイモンさんが閉じ込められている向かいの牢屋に駆け寄る。

 鉄格子からはライアスの顔が見えていた。

 ライアスの後ろにはべソンの顔も見える。


「これは夢じゃねえよな、ユウヤ生きていたのか。コネチトが裏切ったぜ! 俺はてっきり奴にやられちまったと諦めていたんだ、しかしよくここがわかったな」


 ライアスは衰弱しているものの、命に別状はなさそうだ。


「俺もコネチトに襲われたんだよ、奴の事は後で説明する、それより今助けるからな、どうにかして扉をこじ開けられないかな」


 俺は古めかしい錆びた錠前を掴んで、力いっぱい引っ張ったりねじったりしてみた。

 しかし錠前はびくともせず、いたずらにカチャカチャと金属音を立てる

だけだった。


「いいかユウヤよく聞くんだ、一番奥の部屋が拷問部屋になっている。そこに騎士様とセシルが連れて行かれたんだ。早く助けないと取り返しがつかないことになっちまう、俺達のことは後回しでいいから彼女たちのところへ行ってくれ」


 俺が牢屋の扉をどうにか開けようとしていると、ライアスが小声で話しかけてきた。

 その内容に怒りがこみ上げてくる。


「わかった、セシルさんたちを助けたら必ず戻ってくるからな、それからこれを渡しておく」


 鉄格子の間から『無限収納』に収まっていた短剣を差し入れた。

 更に熱々の串焼き肉や冷えた飲み物を差し入れする。

 

「あとこれはポーションだ、一気に飲んで回復に努めてくれ、では行ってくる」


 串焼き肉を手に持ってなにか言いたそうなライアスを残して通路をさらに奥へ進んでいく。

 歩きながら愛用の短剣を抜き出し、いつ敵が現れてもいいように臨戦態勢に入った。



 ー・ー・ー・ー・ー



 通路を奥へ進むにつれて何かを叩く乾いた音がしてきた。

 最初はなんだか分からなかったが、だんだん音の正体がわかってくる。



「王国はどの程度こちらの情報を持ってるんだ!」


「うっ……、知らんっ! 私は何も知らんぞ!」


 通路の最奥の扉からむちを打つ音が聞こえてくる。

 更に問いただす男の声、そしてジルの苦しげな声が聞こえていた。

 俺は扉に取り付いて中の様子を探ることにした。

 扉を少しだけ開けて部屋の中を覗き見る。

 そこは拷問部屋という表現がふさわしい空間が広がっていた。

 篝火かがりびが四方に焚かれており、様々な拷問器具が置かれている。

 そして部屋の奥には拷問を受けているジルの姿があった。


 彼女は太い鎖で両手足を拘束され、石壁に貼り付けにされ身動きができない状態にされていた。

 ジルがつけていたはずの鎧は全て剥ぎ取られて、部屋の片隅に打ち捨てられている。

 鎧下に付けていた衣服はぼろぼろの状態だ。

 先ほどから拷問官による鞭打ちが行われており、体中アザだらけで痛々しい状態にされていた。


(なんて酷いことをするんだ……)


 尋問しているのはサギー・ザッパーで、手には棍棒が握られている。

 拷問官のムチの合間にサギーは力いっぱい棍棒をジルに叩きつけていた。

 容赦のない鞭打ちに棍棒による殴打、手加減なしの拷問は到底耐えられるものではない。


(このままではジルが死んでしまう、どうにか助ける方法はないだろうか……)



「しぶとい女騎士だな、ではセシルに聞いてみようか」


 サギーが楽しそうに言い放った。

 奴の視線の先にはジルと同様に貼り付けにされ、ぐったりと頭をたれて気を失っているセシルさんの姿が見える。

 セシルさんも装備を剥ぎ取られて衣服はボロボロ状態だ。

 さらに体中アザだらけにされていて見るに堪えない。

 サギーは篝火に近寄ると赤々と熱せられた火かき棒を取り出した。


「セシルの目玉に火かき棒を押し当てるぞいいのか?」


 未だに気絶しているセシルさんの顔に火かき棒が押し当てられようとしていた。


「やめろ! セシルに手を出すな!」


 ジルが必死に叫び暴れる。


「やめてほしければ情報を洗いざらい吐け、そうすればやめてやるぞ」


 サギーはどうにかしてジルから情報を引き出そうと、いろいろな拷問方法を駆使しているようだ。

 ジル本人ではなく部下であるセシルさんをいたぶるのも拷問方法のひとつなのだろう。

 今はまだ火かき棒はセシルさんの顔には押し付けられてはいないが、拷問がエスカレートしていけばセシルさんもただでは済まないと思われる。



(これ以上は見てられないな、一か八か突入するか)


 サギーの胸糞悪い尋問に我慢できなくなってきた。

 俺は突入することを決めて短剣を強く握り直した。

 ここからはスピード勝負だ、一気に部屋に突入してサギーと拷問官を倒さなければならない。

 初めに狙うはサギーの首。

 アサシンである奴には一度背後を取られてしまったので、一方的に制圧できる可能性は低いだろう。

 おそらくジルかセシルさんのどちらかに負傷者がでてしまう可能性が高い。

 しかしここで攻撃しなければ最悪の事態になってしまうかもしれないのだ。

 覚悟を決めた俺は呼吸を整え、突入のタイミングを図った。




 いざ突入!


 扉を力強く蹴り開けようとした時、慌ただしく螺旋階段を駆け下りてくる大きな音が牢獄に響き渡った。

 突入することを中止して慌てて物陰に隠れようとしたが、どこにも隠れる場所がない!





 一気にピンチに陥ってしまった俺は、どこか隠れる場所がないか懸命に辺りを見渡すのだった。

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