73.ユウヤは豹変す
サギーの凶刃に倒れ、死にかけたユウヤは、またしてもスキルを獲得して復活した。
藪の中を走って行くにつれて、争いの音がどんどん大きくなっていった。
戦闘音はしばらく聞こえていたが、もう少しで討伐隊と合流するときになってピタリと止んでしまった。
(どっちが勝ったんだ、まさか盗賊団じゃないだろうな!)
焦る気持ちを抑えつつ藪の合間から獣道を覗き見る。
そこには後ろ手に縛られた騎士ジルとセシルさんの姿があった。
更にライアスやサイモンさんも同じく縛られて転がされている。
周囲には無数の衛兵や冒険者達の屍が散乱していた。
そして討伐隊が倒したであろう盗賊たちの死体も多数転がっていた。
「おい、その大柄の騎士は生かしておくと危険だ、首をはねてしまえ!」
サギーの命令で盗賊たちが動き出す。
後ろ手に縛られ猿轡を噛まされた騎士バーナードが、盗賊たちに押さえつけられ、地面に這いつくばった。
すかさず盗賊の一人が斧を振り下ろす。
あっという間の出来事で助けに飛び出すことも出来なかった。
騎士バーナードの首はコロコロと回転しながら転がっていく。
首のない胴体からはおびただしい血が吹き出し辺りが血の海になった。
(くそう、なんて酷いことをするんだ……)
唇をかみしめて奴らの非道を我慢する。
いま出て行ったらセシルさんやジルを人質に取られ、思うように動けないだろう。
飛び出していきたい気持ちをぐっと堪えて藪の中に潜む。
藪に潜み盗賊たちの出方を見る。
これ以上処刑が続くようなら一気に飛び出してサギーの首を切り裂こうと覚悟を決めた。
「兄貴、こいつはどうしますか?」
盗賊の一人が転がされているサイモンさんを槍先で突きながら聞いてきた。
聞かれたサギーは少し思案した後言い放った。
「そいつは砦につれて帰るぞ、奴隷の首輪をつけてから、働かせるか盗賊にしてこき使ってやる」
「面倒だから殺しましょうよ、こいつ俺を槍で刺そうとしたんですぜ」
盗賊は力いっぱいサイモンさんを蹴り飛ばした。
くぐもった唸り声を上げてサイモンさんが苦しがる。
「おい、俺の言うことが聞けねえのか? 何なら俺がお前を刺殺してやってもいいんだぜ」
サギーは短剣をちらつかせて生意気な手下を脅した。
「す、すまねえ兄貴、勘弁してくれ!」
盗賊はサギーに恐れをなしておとなしくなった。
その様子を見てサギーが満足する。
「おい、あの二人は戻ってきたか?」
サギーが手下どもに確認する。
あの二人とは俺が殺した間抜けな盗賊のことだろうか。
「まだでさあ、そろそろ戻ってきてもいい頃ですがね」
「誰か行って確認してこい、サボってやがったら俺に報告しろ!」
またサギーの機嫌が悪くなることを恐れた手下どもは、慌てて藪の中に消えていく。
俺のすぐ横を盗賊たちが移動していくが、間抜けな盗賊たちは俺に気づくことはなかった。
「おい、そいつらを立たせて歩かせろ、歩けねえ奴は殺してもいいからな。ねぐらへ帰還するぞ、今夜は祝杯だ!」
サギーの言葉に盗賊たちが喜びの雄叫びを上げる。
捕虜になってしまったジルやセシルさんが歩き出した。
遠目にも顔色が蒼白で、ショック状態のようだ。
更にサイモンさんやライアス、ベソンが後に続いていく。
(おっ! べソンも生きていたか、待ってろスキを見て助けてやるからな!)
衣服をぼろぼろにされ泥まみれのべソンも確認できる。
討伐隊は彼ら以外全て殺されてしまったようだ。
奴らがいなくなるのをじっと待つ、しばらくして周囲を気にしながら獣道に出てみる。
そこは惨憺たる有様で、血の海に屍が浮かんでいるような光景が広がっていた。
衛兵や冒険者、盗賊たちが折り重なって死んでいる。
臓物が飛び出た死体や頭を潰された死体、四肢が切断された死体まであった。
時刻は四時をまわり、辺りは夕焼けに染まっている。
死体を目ざとく見つけたカラスたちが上空を舞っている。
俺が居ることで地上に降りては来ないが、誰も居なくなればカラスたちの宴が始まるはずだ。
俺は手のひらを死体にかざして一気に収納していった。
敵味方見境なく取り込んでいく。
またたく間に獣道は元の状態に戻ってしまった。
そのことを確認した俺は再び茂みに隠れ、様子見に行った盗賊たちを待ち伏せることにした。
ー・ー・ー・ー・ー
「おかしい、奴らどこに行ったんだ?」
「冒険者の死体も見当たらなかったな……」
しばらく茂みに身を隠していると、盗賊たちが大声で話しながら戻ってきた。
仲間の盗賊たちはもちろん、俺の死体すら見つけられなかった奴らは首を傾げて不思議がっている。
「ああっ!? 今度は騎士たちの死体まで無くなっちまったぜ、どうなってんだ!」
大規模戦闘があった獣道はすっかりきれいになっていて、血の一滴も落ちてはいない。
「おかしいぞ! 兄貴に知らせなければ!」
盗賊たちは慌てふためき、サギーの消えていった方角へ駆け出そうとした。
「お前ら待て! 今戻っても兄貴になんて言うんだよ、死体が全部消えたなんて言えねえぞ」
一人の盗賊が仲間たちを止めた。
「そうだな、周囲をもう少し探してみようぜ、なんか手がかりがあるかも知んねえからな」
相談は終わり、盗賊たちは辺りを捜索し始めた。
(いくら捜索してもお前らの探しものは見つからんよ、奴らは俺の『無限収納』の中だからな)
間抜けな盗賊が一生懸命に探している様子をしばらくの間観察する。
今俺がしなくてはいけないことは、盗賊に拉致された仲間たちを助け出すことだ。
それには盗賊共のアジトを発見しなくては始まらない。
(一人だけ道案内に生かしておいてやろうか……)
俺は暗い笑みを浮かべて行動に出た。
付近を捜索している盗賊は四人だけだ。
まず一番俺に近い盗賊に忍び寄って行く。
頬に傷のある盗賊は雑草をかき分ける作業に夢中でこちらに気づいていない。
そっと後ろから近づいて口を手で押さえた。
「ふぐぐぐっ」
暴れる盗賊を力任せに押さえつける。
腰から短剣を抜き、一気に心臓に突き刺した。
目を見開いて盗賊が痙攣する。
暴れ回る盗賊に馬乗りになり絶命するのを静かに待った。
ピロリンッ!
『スキル、『暗殺術』を獲得しました』
俺の頭の中にスキル獲得のお知らせが響き渡った。
(お、いいものを獲得できたな、確かサギーが持っていたスキルだよな)
絶命した盗賊を『無限収納』に吸い込みながら次の獲物を見定める。
残りの盗賊はあと三人、一人だけ離れて捜索している奴を生かしておいてやろう。
投げナイフを『無限収納』から二本取り出し、獣道を調べている盗賊たちの頭に狙いを定める。
連続して素早く投擲したナイフは、一直線に音もなく盗賊たちの眉間に吸い込まれた。
断末魔の悲鳴を上げることもなくどっさりと崩れ落ちる盗賊たち、その様子を見届けてから生き残った最後の一人に近づいていった。
「騒ぐな、騒げば命はないぞ」
長剣を首筋に突きつけて盗賊に声をかける。
「な、何だおめえは、生きていたのか!」
俺の顔を思い出した盗賊が声を上げた。
黙らせるために少し強めに長剣を首に押し当てる。
「黙れと言っているんだ、死にたいのか?」
盗賊の首筋が少しだけ切り裂かれて血が流れ出す。
「ヒッ! や、止めてくれ! おとなしくするから」
「周りを見てみろ、お前以外の盗賊は俺が全て倒した。もう助けは来ないだろうよ」
低い声で盗賊を脅す。
盗賊は倒れて事切れている仲間の姿を見てガタガタと震えだした。
「お前は幸運だぞ、アジトへの案内役に選ばれたんだからな。俺をお前達のねぐらに連れて行け、嫌だと言うならここで死んでもらう」
もう一度長剣を首筋に押し付ける。
長剣の切っ先は盗賊の喉を切り裂いて大量の血液が流れ出した。
俺は『無限収納』からポーションを取り出した。
「いいか? 肯定なら首を縦に振れ、あまり時間がないぞ、後少しでお前は失血死するからな。アジトに連れて行くか? 行くのならポーションで治してやるぞ」
盗賊は俺の問いかけに全力で首を縦に振った。
鮮血が飛び散り盗賊の体が赤く染まっていく。
「よし、賢明な判断だ」
ポーションを盗賊に振りかけ、強引に口の中に押し込む。
盗賊は夢中になってポーションをがぶ飲みした。
「どうだ? 少しは楽になったか?」
「は、はい! 逆らわねえので殺さねえでください、案内もちゃんとするんでお願いします!」
盗賊は土下座状態になって許しを請おてきた。
「よし、早速道案内してもらおうか、俺を騙そうなんて考えるなよ? 生きていたければ俺を怒らすな」
盗賊を後ろ手に縛り上げてアジトへ道案内をさせる。
すっかり怯えきった盗賊は、抵抗もせずに俺を盗賊団のねぐらへ連れて行くのだった。
ー備考ー
[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 クラス……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『俊足』『剣技』『暗殺術』『防御』『体捌き』『精密投擲』『突き』『連続突き』『唐竹割り』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『毒耐性』『麻痺無効』『勇敢』『平常心』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]
・NEWスキル……『暗殺術』




