72.またもや壊滅か?
冒険者仲間コネチトは『ケルベロス』の幹部サギー・ザッパーだった。
サギーの騙し討ちにまんまとはめられたユウヤは窮地に陥ってしまった。
「俺はコネチトだがコネチトではないぞ、本当の名はサギー・ザッパーって言うんだ。ダミアン・ザッパーは俺の兄貴だよ。俺は『ケルベロス』のナンバーツーさ!」
コネチトは驚愕の事実を俺に突きつけた。
頭が混乱してしまうがコネチトを『真理の魔眼』で視る。
[名前……サギー・ザッパー 種族……ヒューマン 職業……盗賊 タイプ……アサシン スキル……『身体能力向上』『危険回避』『暗視』『暗殺術』『隠蔽』]
更に名前の欄を凝視した。
『サギー・ザッパーは、犯罪組織『ケルベロス』の幹部です。エイシス王国内で殺人、強姦、盗みなどあらゆる凶悪犯罪を犯しました。現在、ダミアン・ザッパーの代行として『ケルベロス』を統率しています』
驚くべきことにコネチトの言っていることは本当だった。
『真理の魔眼』で視たステータスには知らない名前が写っている。
名前を詳しく見た結果、紛れもなく『ケルベロス』の大幹部だということが確認できた。
そしてスキル欄には多数のスキルが書かれていた。
『身体能力向上』や『暗殺術』など今まで視えなかったスキルがある。
『暗殺術』とはどんなスキルなのだろうか。
暗殺だなんて危険なキーワードのスキルは、注意しなくてはいけないだろう。
そして一番驚いたスキルは『隠蔽』だ。
奴は『隠蔽』スキルでステータスを改変していただけではなく、姿かたちを変えることまでおこなっていたのだ。
「驚いて声も出ねえみてえだな、討伐隊に潜入して色々情報をいただかせてもらったぜ。あんたが兄貴の安否を知らせてくれた時は飛び上がって喜んだぜ」
不敵な笑みを浮かべてサギーが言い放つ。
知らず知らずの間に盗賊たちに情報を与えてしまっていたようだ。
「あんたには悪いがここで死んでもらうぜ、オークを倒した戦力は侮れねえからな」
サギーが手を上げて部下たちに攻撃命令を下そうとする。
「おい待て! 討伐隊はどうなるんだ!?」
「自分の心配をしたほうがいいんじゃねえのか? まあ、冥土の土産に教えてやるか。討伐隊は皆殺しだ、女騎士と女冒険者はねぐらに連れ帰って慰み者にしてから殺すがな!」
サギーの発言に盗賊どもがゲラゲラと笑う。
そのいやらしくゲスな笑い声に反吐が出てしまう。
俺は甘かったようだ、このクズどもは魔物と同じだ、駆除しなければ世の中のためにならない害獣だ。
人殺しは嫌だがこいつらをのさばらせておくことはもっと嫌だ、考えを改めた俺はサギーたち盗賊共に向かって言い放った。
「コネチト、いやサギー! 降参すれば命までは取らない、しかし抵抗するなら殺害も辞さない、おとなしく投降しろ!」
俺の言動に盗賊たちが更に声高に笑った。
「あ~? おめえ一人に何ができるんだ? それにおめえは人殺しはしねえんじゃねえのかよ? それとも俺たちは人じゃねえとでも言うのか!? 構わねえから奴を殺せ!」
激昂したサギーが攻撃命令を下した。
その瞬間に四方の樹上から何本もの矢が飛来してきた。
体を捻って全ての矢を躱す。
十名以上の盗賊たちが一斉に飛びかかってくる。
正面から五名、左右に散らばった盗賊が五名。
俺を囲むように展開した盗賊たちは攻撃を開始した。
体が勝手に動いて盗賊どもを迎え撃つ。
正面からバカ正直に突っ込んできた盗賊を、上段から真っ二つに切り裂いた。
一瞬で絶命した盗賊が二枚に分かれ、血しぶきを上げてその場に崩れ落ちる。
初めて人殺しをしたというのに何の感情も湧いてこなかった。
至って冷静に盗賊たちを見据えて俺は叫んだ。
「襲ってくる者はすべて殺す! これは正当防衛だ! 覚悟して来い!」
長剣を横薙ぎに振り、血糊を飛ばしながら宣言する。
盗賊たちは一瞬怯んで攻撃を躊躇した。
「何やってんだ、相手は一人だぞ、お前ら全員でかかれ!」
サギーの激が飛ぶ。
我に返った盗賊たちが飛びかかってきた。
左右から襲ってくる盗賊たちをギリギリまで待ってから一歩身を引いてかわす。
一緒くたになったところを『連続突き』を素早く繰り出して穴だらけにした。
頭や心臓、腹部などを瞬時に何箇所も刺された盗賊たちはボロ雑巾のように崩れ落ちる。
その屍を乗り越えて数歩前に出る。
サギーを探すが姿が見えない。
探している間にも矢が雨のように降り注いでくる。
しかし、直線的な攻撃は『予測回避』で難なく躱すことができる。
樹上に狙いを定めてナイフを投擲する。
放射状に広がった無数のナイフが確実に盗賊たちに突き刺さり、絶命した盗賊たちがバラバラと落ちてきた。
一瞬、強い殺気を感じて体を捻りながら後ろを振り返った。
そこには黒い霧をまとわせたサギーが居て、短剣を素早く俺の首筋に突き刺してきた。
間一髪、奴の攻撃を躱す。
首筋に短剣を突き立てられることはなかったが、頬を生ぬるいものが落ちてきた。
手で拭うとそれは俺の血だった。
「この攻撃をかわしたのはお前が初めてだぜ、背中にも目ン玉付いてるんじゃねえのか?」
サギーが俺の反射神経に呆れ顔で言い放った。
「だがもう決着はついたぜ、お前らよく見とけ! こいつはもうすぐ死ぬぞ!」
サギーが余裕で部下たちに声をかける。
何を言っているのかわからないが、俺は長剣を構え直して距離をとった。
ドクンッ!
心臓が爆発するほどの動悸が突然襲ってきた。
息ができずにその場に膝をつく。
「この短剣にはワイルドベアーも即死するほどの強力な毒が塗ってあるんだ、すぐに心臓が止まってあの世行きだぜ!」
盗賊たちから歓声が上がる。
サギーは得意げに短剣を部下に見せびらかしている。
「しかしまあ、よくもこれだけ一瞬で殺してくれたもんだな、また手下どもを募集しなくちゃならなくなったじゃねえか」
無数の屍を見ながらサギーがため息をついた。
「お前を隊から引き離したのは正解だったぜ!」
サギーの素早い蹴りが俺の腹に食い込む、俺は衝撃で地面に転がってしまった。
「グフッ!」
サギーに蹴られ肺に残っていた空気が一気に放出された。
呼吸をしようとしても腹が痙攣して息ができない!
「お前らこいつの後始末は任せるぞ、俺は女騎士たちを捕まえてくるからな」
サギーが二人の盗賊に指示を出し、他の盗賊たちを引き連れて足早に獣道の方へ消えていった。
俺が絶命するのを待つこと無くサギーはこの場を去った。
それだけ己の毒攻撃に自信があるのだろう。
心臓の鼓動がどんどん弱っていく。
猛毒に侵されてしまった俺は死亡する寸前まで追い込まれた。
ピロリンッ!
『スキル、『毒耐性』を獲得しました』
イシリスさんの声が頭の中に響き渡り、急激に意識が覚醒していく。
心臓が規則正しく動き出し、呼吸も楽にできるようになった。
寝転んだまま辺りを見渡す。
すると盗賊たちが俺にとどめを刺そうと近づいてくるところだった。
奴らのすきを突いて攻撃するため、そのままの姿勢で迎え撃つことにした。
「しかしサギーさんの毒はえげつねえな、どうだ、もう死んでるか?」
異様に鼻が大きい盗賊が相棒に聞く。
「よく分からねえ、とりあえずトドメさしちまおうぜ!」
聞かれた盗賊は手元の短剣を弄びつつ近づいてきた。
「おい気をつけろよ、毒に侵された血に触れただけでお陀仏だからな!」
「わかってらあ、俺はとどめを刺すことは得意なんだぜ!」
完全に油断しきった盗賊が俺の間合いに入ってくる。
長剣を突き出し近づいてきた盗賊の首に突き刺す。
突き刺された盗賊は体をブルブルと震わせて死のダンスを踊り始めた。
「はえっ! な、なんでおめえは動けるんだ!」
残された盗賊はあまりの驚きに尻餅をついた。
じりじりと後ろに下がった盗賊は、くるりと踵を返して藪の中に逃げだした。
素早くナイフを投擲して逃げ出した盗賊の息の根を止める。
辺りには屍が散乱している。
俺以外、誰も動く者はいなくなった。
微かに獣道の方で争う音が聞こえるような気がする。
討伐隊が盗賊たちに後れを取ることはないと思うが、早く加勢に行ったほうがいいだろう。
慣れた手早さで盗賊たちの遺体を『無限収納』に吸い込んでいく。
そして俺は討伐隊が居る獣道へ戻るために鬱蒼と生い茂る藪の中に突入して行くのだった。
ー備考ー
[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 クラス……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『俊足』『剣技』『防御』『体捌き』『精密投擲』『突き』『連続突き』『唐竹割り』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『毒耐性』『麻痺無効』『勇敢』『平常心』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]
・NEWスキル……『毒耐性』
『毒耐性』…… 毒に強い抵抗力を持ち、毒の効果を弱めるスキル。
『暗殺術』…… 暗殺するための多種多様な技、隠密性が高い技が多い。
『隠蔽』…… 姿かたち、更にはステータスをも改ざんし隠すことができるスキル。術者の熟練が高いほど見分けることが難しくなる。




