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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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67.せっかく戻ってきたのに……

 盗賊討伐任務に失敗したユウヤたちは、騎士ジルの待つ本陣へ失意のうちに撤退するのだった。





 翌日、野営地を出発した討伐隊は、遅い足取りだが確実に移動して暗くなる前に本陣に到着した。

 丸一日の行軍でみな疲れ切っており、誰もが押し黙っていた。


 本陣のやぐらで見張りをしている衛兵が、山中から戻ってきた討伐隊を見つけ、慌てた様子で鐘を鳴らして陣中に知らせていた。

 その鐘の音を聞いて、本来なら戻ってこれたことに喜びを感じるはずの討伐隊だが、誰ひとりとして嬉しく思う者はいなかった。

 嬉しいどころかみな表情を固くしてうつむいている。

 討伐隊全員が死刑宣告を受けて断頭台に登る時のような気持ちだった。


 本陣をぐるりと囲んでいる塀の入り口が開かれ、衛兵たちが慌てて出て来た。

 討伐隊の様子がおかしいので皆いぶかしがっている。



「どうした!? だいぶ早く戻ってきたな、盗賊共は見つかったのか? ん?

随分と人数が少ないな、騎士様はどこにおられるのだ?」


「まさか盗賊どもを討伐し終えたのか? だいぶ兵士が少ないようだがどうなっているんだ」


 本陣を守っていた衛兵たちが俺たちを取り囲んで質問攻めにする。

 その頃には冒険者たちも騒ぎを聞きつけて集まってきていた。


「ユウヤ、無事だったか。戻ってこれて何よりだな!」


 ライアスがいち早く駆けつけて俺に話しかけてくる。


「まあ無事は無事なんだけどな……、ちょっとまずいことになったよ」


 俺は歯切れ悪く返事をした。

 周りを取り囲んでいる冒険者たちは不思議そうな顔をして俺やサイモンさんたちを見ていた。


「どうなってんだ? ユウヤ何があったんだよ」


 ライアスが戸惑いながら俺に質問をしてきた。


「ああ、実はオークとの戦闘があって討伐隊は壊滅したんだよ……、何とか俺たちだけ生き残って戻ってきたんだ……」


 俺の説明に衛兵や冒険者達がどよめき、驚きの表情をする。


「なんだって! それは大変だ、今すぐジル様に伝えなければ!」


 俺の話を聞いていた衛兵が、驚き慌てふためいて走り去っていった。

 サイモンさんが悔しそうにうつむいている。

 生き残った衛兵たちはみな同じ状況で、担架に乗せられた重傷者は無念そうな表情をしている。




 しばらくの間、門の前で待っていると、騎士ジルが護衛の騎士を従えてやって来た。


「邪魔だどけどけ!」


 女騎士を護衛している騎士たちが殺気立っていて怒鳴り散らしている。

 ジルは押し黙ったまま黙々と歩いてくる。

 冒険者達が慌てて左右に分かれたので、俺も後ろに下がって事態を見守ることにする。


「何があったのだ、騎士ラリーはどこに居るのだ? アランの姿も見えないではないか!」


 戻った衛兵たちを見渡しながら騎士バーナードが吠える。

 サイモンさんがさっと前に出ると片膝を付き騎士ジルに報告を開始した。


「報告いたします! 盗賊団討伐隊は昨日オークの集落を発見し、騎士ラリー様の命令でこれと交戦いたしました! 討伐はしましたが、隊は壊滅し半数以上の死者を出し、騎士ラリー様並びに騎士アラン様討ち死に、生き残った我らはやむを得ず撤退してきた次第でございます! ジル様、申し訳ございません!」


 サイモンさんは一気に報告し終わると両手をついて土下座状態になった。

 次々に衛兵たちがサイモンさんに習い土下座する。


(土下座なんて冗談じゃないぞ! 俺はしないからな!)


 ジルなんかに死んでも土下座なんてしたくない、俺は更に冒険者たちの中へ姿を隠した。


「なんてことだ! お前達七名しか生き残らなかったのか!? どうしたのだお前は足がないではないか、それではもう戦えぬぞ!」


 取り乱した騎士ジルは衛兵たちを口汚く罵っている。

 せっかく戻ってきたのにあの言い方はないのではないだろうか?

 更にジルはきょろきょろと辺りを見渡している、誰かを探しているのかな?


「冒険者ユウヤはどうしたのだ! 奴の姿が見えぬぞ!」


「ユウヤ殿はご健在です! 先ほどまでそこに居たはずですが……」


 サイモンさんが慌ててジルに答える。

 どうやらジルは俺のことを探しているようだ。


 周囲に居た冒険者達が俺からゆっくりと離れていく、とばっちりを受けたくない冒険者たちは俺をジルに差し出した。


(なんだよ! かくまってくれてもいいじゃないか……)


 棒立ちになっている俺は騎士ジルに見つかってしまった。


「あの……、ただ今戻りました」


 見つかってしまったからには挨拶せざるを得まい。

 気まずいが仕方がないので軽くお辞儀をしつつ挨拶をするのだった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 本陣の中央にある天幕の中で俺とジルは執務机を挟んで対峙していた。

 ジルの横には騎士バーナードと騎士フィリップが立っている。

 騎士バーナードは熊のような体格をしていて顔中無精髭ぶしょうひげだらけの中年男だ。

 騎士フィリップは残念そうな顔をしている。

 先ほどからオークとの戦闘をサイモンさんが詳しく説明していた。


いしゆみによる一斉射撃からの突撃が成功して、初めはこちらが有利に戦闘は進んでいったのですが、途中でハイ・オークが現れて形勢が逆転してしまいました。騎士様たちが奮戦するもいま一歩力及ばず戦死、隊は壊滅いたしました」


 脂汗を流しながらサイモンさんが説明していく。


「たかだか十数名の兵士とハイ・オークとで戦闘を行えば蹂躙じゅうりんされてしまうのは当たり前だ! なぜもう少し慎重に行動しなかったのだ!?」


 ジルが苛立たしげに問いただす。

 サイモンさんに言っても仕方がないだろうに、叱責されるべき騎士たちはミンチになって『無限収納』に収まっているんだぞ。

 いっそのことここにぶちまけてやろうかな?


「結果論ですが、ハイ・オークの出現を予測できなかったのが敗因の全てです。偵察した際にはハイ・オークの姿は確認できなかったのです」


 サイモンさんが悔しそうに拳を強く握りしめて震えている。


「お前はハイ・オークがどれだけ手強い相手かわかっているのか? その話が本当ならなぜお前たちが生き残って居るのだ。おかしいではないか!」


 ジルの容赦のない尋問が続く。

 サイモンさんは顔面蒼白になりながらも一生懸命に説明していった。


「はい、我らも死を覚悟したのですが、ここに居るユウヤ殿の活躍で九死に一生を得ました。全滅寸前まで追い詰められたところでユウヤ殿が戦闘に加勢してくれましてオークどもを討伐したのです。真に鬼神の如き強さとはあのことでしょう、ユウヤ殿の働きがなければ我々はこの地に戻っていません」


 サイモンさんの話を聞きながらジルは俺のことをまじまじと見ている。

 黙っていればかなりの美人なのでずっと黙っていてほしい。


「それで、お前が一人でハイ・オークを倒したとサイモンが言っているが本当なのか?」


 明らかに信じていない口ぶりでジルが聞いてくる。

 護衛に立つ騎士たちは相変わらず俺に敵意を剥き出しにしている。


「まあ、そうですね。今回は運がよく倒せましたよ」


「運良く倒すことが出来れば世話はないのだ!」


 今まで苛立たしげだがおとなしく話を聞いていた騎士バーナードが、いきなり激昂げきこうして怒鳴り散らした。

 俺は嘘を言っていない、チートスキル『瀕死回復』がなければ俺は死んでいたのだから。


「騎士団きっての槍使いである騎士ラリー・クレイが敵わなかった魔物に、お前のような青二才が勝てるはずなかろう! サイモン! お前は嘘を言っておるな、そこに直れ、そこの嘘つき冒険者共々儂が今すぐ成敗してくれようぞ!」


 顔を真赤にして怒鳴り散らす騎士バーナードは今にも剣を抜き放ちそうだ。

 

(やれるものならやってみろ、一瞬であの世に送ってやるから)


 俺は冷静にバーナードのことを睨み返した。

 こいつの実力はすでにわかっているのだ、怒鳴りつければ怖がると思ったら大間違いだぞ。


「やめよ! なぜお前はいつも大声を上げるのだ。今は話を聞いているのだから控えよ!」


 騎士ジルの叱責が飛ぶ。

 途端にバーナードはおとなしくなって元の位置に戻った。


「冒険者ユウヤよ、その話が本当なら討伐部位があるはずだ。それをこの場に出してみろ」


 ジルはいたって冷静だった。

 確かに討伐した証があれば嘘か本当か分かるのだ。


「いいですけど結構えげつないですよ? 今ここで出すのはやめたほうがいいんじゃないですかね」


 嘘つき呼ばわりされてムカついていたので少々挑発的な発言をしてしまう。


「なに? どういうことだ、討伐部位ごときに私が臆するというのか?」


 ジルが俺の言動に敏感に反応して方眉かたまゆを上げた。


「早く出さぬか! ジル様を待たせるな!」


 バーナードがまた怒鳴る。

 頭にきたので右腕をさっと前に出すと一気にブツを取り出した。



 ドカンと盛大な音がして執務机の上に一抱えもあるハイ・オークの首が落ちた。


「ヒエッ!」


 騎士ジルが可愛い声を上げて椅子から飛び上がる。

 護衛の騎士たちもビクっとして一歩後ろに下がった。

 恨めしそうな顔をしたハイ・オークの首は、執務机の上をコロリと一回転した後にまっすぐと騎士ジルをにらんで止まった。


「確か討伐部位は鼻でしたよね、まだ切り離していないので頭ごとですいません」


 俺は悪びれもなく言い放った。

 びっくりしたまま目を見開いて、騎士たちが『暴走のバズ』の生首を見ている。

 バズの首は先ほど切り離したように新鮮で、首の切り口はまだ乾いていなくて血がにじみ出していた。





 ジルたちの顔が面白いので少しだけ気持ちがすっきりした。

 未だに固まっているジルは驚いた顔も美人だった。

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