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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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66.野営にて

 遺跡からの撤退は思いの外スムーズに行えた。

 オークの生き残りが襲撃して来ることもなく、盗賊たちと鉢合わせするようなこともなかった。

 八名まで少なくなった討伐隊は、暗くなる前に今朝出発した野営地に無事到着した。



 重傷者の世話で動けない衛兵たちの代わりに、俺は野営の準備をテキパキとこなしていった。

 野営地の中心部に焚き火を設置して火を起こす。

 その横に動けない衛兵を寝袋に包んで寝かせていった。


 数張りのテントを設置して、かまどを作って煮炊きをする。

 一人でこなすにはなかなか大仕事で休んでいる暇はなかった。


 今夜の夕食は具合が悪い衛兵たちのためにパンがゆを作った。

 野菜スープに黒パンを入れただけだが、弱っている衛兵にはこれが一番だと思う。

 もちろん普段どおりに動ける衛兵たちのために精の付く物も料理した。

 具体的には森林狼のステーキと具沢山のシチューだ。

 討伐隊の人数が減ったことで凝った料理が出せるようになり、複雑な気持ちになってしまう。

 しかし疲労困憊ひろうこんぱいの中、仲間たちを担架で運んだ衛兵たちに英気を養ってもらいたかったので、出来る限り豪華な食事を作った。



 夕食はみなに好評で衛兵たちは先を争うように平らげていった。

 特に森林狼のステーキは喧嘩が起こるほど好評で、追加でお代わりを用意したぐらいだった。

 衛兵たちはみな俺に笑顔でお礼を言ってくる。

 中には涙ぐんでいる奴まで居る始末だった。



 食事の後、負傷した衛兵は早々に寝袋に包み静養させた。

 見張りの順番は比較的負傷の度合いの軽い衛兵と俺で請け負うことになった。


「ユウヤ、お前は見張りをしないで寝てくれていいぞ。野営の準備を一人でこなした上においしい夕食を作ってくれたんだ。見張りまでさせてしまったら罰が当たってしまうからな」


 サイモンさんが気を使ってくれる。

 周りの衛兵たちもみな同意見で俺に向かって休んでくれと口々に言ってきた。


「いえ、今は非常事態ですから協力できることはさせてください。人手は多いほうが安心ですよ」


 サイモンさんたちの申し出を嬉しく思いながらもきっぱりと断る。

 瀕死の重傷で苦しんでいる衛兵も居るのだ、俺だけのんきに眠っているわけにはいかなかった。

 それにハイ・オークとの戦闘を終えてから体の調子がすこぶるいいのだ。

『瀕死回復』の作用で体の疲労までリセットされたのだと思う、凄まじいチートスキルの効果に驚きを隠せないが、今はその効果がありがたかった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 夕食を終えて装備の手入れや負傷兵の世話などを各自でおこなう。

 俺も食器の片付けや、焚き火に薪をくべる作業など一通りこなしていった。

 一段落した頃、サイモンさんが近づいてきて俺を見ていた。

 何か言いたそうだが言えずにその場にとどまっている感じだった。


「どうしたんですか?」


 不思議になって聞いてみる。

 俺が話しかけたことできっかけが出来たのか、サイモンさんは恐る恐るという感じで話し始めた。


「ユウヤ、話せる範囲でいいからハイ・オークを倒したお前の力のことを教えてくれないか? もちろん話せないことは言わなくていいぞ」


 遠慮がちにサイモンさんが言ってきた。

 周りには遠巻きに俺を衛兵たちが見ていた。


「わかりました、少し話をしましょうか」


 何も語らない訳にはいかないだろう。

 俺は作業の手を止めてみんなが集まっている焚き火の側に移動していった。



 俺が座ると衛兵たちも集まってきて思い思いに地面に座っていった。

 みんな興味津々で、負傷した衛兵も寝袋の中から聞き耳を立てている。


「何から話せばいいですかね、全ては話せませんがなるべく疑問に答えますよ」


 サイモンさんや衛兵たちを見ながら質問を待つ。


「俺が代表して聞くことにするぞ。その前にユウヤ、俺たちを救ってくれたことを心から感謝する。返しきれない恩を受けたとみな思っている、ありがとう」


 サイモンさんは深々と頭を下げて来た。

 周りの衛兵たちも一緒になって頭を下げている。

 本陣での憎悪剥き出しの衛兵たちはもうここには居なかった。


「俺はやれることをしただけですよ、戦えるから戦っただけです。頭を上げてくれませんか」


 大男たちに頭を下げられてムズムズしてしまった。

 俺はあまり人に感謝されることに慣れていないのだ。


「そうか……、それでは少し質問させてくれ、ユウヤはオークのことをどのように認識しているんだ?」


「そうですね……、冒険者の間では発見次第、撤退推奨の強敵ですね。個人で討伐する魔物ではないと思います」


「そうだな、その考えでおおむね合っているぞ。オークの集団は軍隊で討伐するのが常識だ、その軍隊を持ってしても多大な犠牲が出るので非常に難度が高い作戦になってしまうんだ」


 サイモンさんは俺の回答に満足して少しだけ付け加えた。


「なのにユウヤはオークを一撃のもとに倒した。そして上位種であるハイ・オークまで倒してしまった。これはもう普通ではないぞ、なぜ倒せたのかできれば教えてくれないか」


 冒険者に手の内を明かせというのはご法度なのだが、聞かずにはいられなかったのだろう。

 サイモンさんや衛兵たちは俺の説明を聞きたくて仕方がないようだ。


(どこまで話せばいいのだろう難しいな……)


 俺は悩んでしまった。

 いくら和解したと言えど、王国の関係者に全て話してしまっていいものなのだろうか。

 キッドさんは秘密を誰にも言ってはいけないと言っていた。

 しかしここ半月ほど冒険者として活動してきて、静かに暮らすことが出来ないことはよくわかった。

 誰にも会わずに山の中で暮らすなら別だが、人と何らかの関わりがある以上、俺の秘密はいつか暴かれてしまう。

 俺は決心して静かに話し始めた。


「みなさんは超越者という存在を知っていますか? 俺はその超越者かもしれないんです。信じられないかもしれませんが、俺はこの世界の人間ではないんですよ」


 俺が静かに語り始めるとサイモンさん初め衛兵たちは驚きの表情で固まってしまった。

 みな大変なことを聞いてしまったと青ざめている。


「詳しくは言えませんが、俺はオークを単独で倒すだけの力を持っています。これ以上は言えません、どうか察してください。できればここで聞いたことは秘密にしておいてくれませんか? あまりおおごとにしてほしくないんですよ」


 スキルを大量に持っていることなど言えるはずもないので、これ以上詳しくは言わないことにする。


「超越者か……、あれだけの強さなんだから冗談ではなさそうだな、ユウヤの説明で大体わかったぞ。この件は俺たちが聞いてはいけないことのようだな、これ以上は何も聞かないことにするよ、しかし本陣に戻ればオークのことを騎士様たちに報告しなくてはならない。そこは理解してくれ」


 サイモンさんはこれ以上聞くことを止めたようだ。

 衛兵たちも誰一人として口を開くものはいなかった。


「やはり俺が超越者だということは秘密にしてもらえませんか……」


「いや、その部分は報告から省くことにする。ユウヤが話したくなければ黙っていればいいぞ。話を聞いておいて無責任な対応になってしまって申し訳ない、しかし俺たちの手に負える話じゃないから勘弁してくれ」


 サイモンさんはすまなそうに謝ってきた。

 俺としては黙っていてくれるだけでもありがたいので、その申し出を快く受けた。

 話が終わり皆んな無言で考え込んでいる。

 知ってはいけないことを聞いてしまい戸惑っているようだった。



「しかし凄かったよな、ユウヤの長剣がオークを真っ二つにしたのには驚かされたぞ」


 衛兵の一人が沈黙に耐えかねてわざと明るい声で話し始めた。


「そうだよな、内臓がドバっと飛び出て俺は驚いちまったぜ!」


 その話に乗って他の衛兵も話し始めた。

 衛兵たちは超越者の話には一切触れようとはしなかった。

 しかし俺が戦闘で見せた立ち回りを褒め称えて大いに盛り上がっていた。


 俺は衛兵たちの話を聞きながら騎士達にどう説明するか考えていた。

 騎士ジルは間違いなく俺に話を聞いてくるだろう。


「ユウヤにそんな事情があったなんて知らなかったんだ。すまなかったな」


 サイモンさんが近くに寄ってきて小声で話しかけてきた。

 話を聞かせてくれと言ってきた手前、責任を感じているのだろうか。


「いえ、いつかはわかってしまうことですから気にしないでください。それより本陣に戻ったら騎士たちに怒られそうですね」


「確かに任務を途中で放棄して戻るのだから最悪は打首だろうな」


 サイモンさんは諦めの表情をしている。


「そこまで厳しいのですか?」


 俺はびっくりして聞き返してしまった。

 オークとの戦闘という想定外の出来事があったのだから、撤退は仕方がないと思われるのだが……。


「隊の大部分を率いて討伐に出発したにもかかわらず、盗賊のアジトすら発見できずに撤退するわけだから、厳しい沙汰があっても驚かんよ」


「でもオークを討伐すると決めたのは死亡した騎士たちではないですか、サイモンさんたちが裁かれるのはおかしいですよ」


 命令を下した騎士たちは物言わぬむくろになってしまった。

 今は俺の『無限収納』の中に他の衛兵たちの遺体とともに収納されている。


「それでもだ、軍隊は連帯責任が基本だからな。ああ、ユウヤは冒険者だから心配しなくてもいいぞ、俺達兵士とは違うから罰せられることはないからな」


 サイモンさんは苦笑しながら言ってきた。

 別に心配していた訳ではなかったのでなんとも言えない気持ちになる。

 死ぬのは嫌だが、サイモンさんたちが打ち首になるところを見るのも辛いのだ。


「そろそろ寝たらどうだ? 朝の見張りまでゆっくりしてくれ。大丈夫だ、お前を襲う奴はこの隊にはいないぞ、もしいても俺が返り討ちにしてやるから安心して寝てくれ」


 俺が警戒してろくに寝ていないことをサイモンさんは知っていたようだ。


「ありがとうございます、では休ませてもらいますね」





 焚き火から離れ、テントへ向かう。

 衛兵たちはみな俺におやすみと声を掛けてきた。

 寝込みを襲うような奴はもういないだろう。

 俺はテントへ潜り込むとキッドさんからもらった長剣を傍らに置いて眠りにつくのだった。

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