65.思わぬ臨時収入
ブラブラと散策していると広場の片隅に木造物の残骸を発見した。
そこはオークたちが生活していたバラック小屋だったが、『暴走のバズ』自らが暴れ回って破壊してしまった場所だった。
その残骸を『無限収納』にどんどん吸い込んでいった。
小屋の壁だったであろう端材や、屋根の一部を収納していくと、テーブルや椅子が姿を現してきた。
小屋は派手に崩れ落ちたにもかかわらず、頑丈なテーブルや椅子は壊れなかったようだ。
(おや? なんかあるぞ)
テーブルの下に一抱えほどの箱があるのを発見した。
収納する手を休めて汚らしい箱を瓦礫の中から引っ張り出す。
蓋の上に積もっている土埃を払ってから、注意深く観察していった。
小脇に抱えられるくらいの長方形の箱、装飾は一切なく表面はぼろぼろだ。
箱の四方をくまなく調べたが、鍵穴などは見当たらなかった。
今すぐに開けてみたい衝動に駆られる。
(待て待て、こういった箱には罠が仕掛けられているんだよな。ファンタジー小説で読んだことあるぞ)
箱に伸ばした手を引っ込める。
中を確認してみたいが罠を解除する技術を俺は持っていないのだ。
慎重に事を運ばないと、いきなり爆発してしまうかもしれない。
それとも毒でも噴射されるかな?
俺は楽しくなってきて箱を四方から調べまくった。
「よし、大丈夫そうだな……」
数分後、調べることに飽きた俺は箱を開ける決心を固めた。
もちろん罠がかかっているのか、いないのかなど、いくら見ても分かるはずもない。
一か八か罠がかかっていないことを願って箱を開けることにした。
蓋の部分を両手でしっかりと持ち深呼吸する。
そしてゆっくりと上に持ち上げていった。
(待てよ、『真理の魔眼』で視てみれば罠の有無が分かるんじゃないのか?)
開ける寸前で突然ひらめいてしまいニヤケてしまった。
危険を冒すこと無く罠があるかどうか分かるかもしれない。
俺は早速『真理の魔眼』で箱を視てみた。
[宝箱…… 粗末な宝箱。罠はかかっていない]
(よし! 思ったとおりだ、早く気付けばよかったよ)
再び宝箱に取り付いた俺は一ミリ、二ミリと蓋を慎重に持ち上げていった。
隙間から中を見るが何が入っているかは分からなかった。
もちろん『真理の魔眼』は正しいので、簡単に開けてしまってもいいのだが、何事も雰囲気が大事だと俺は思うのだ。
勿体つけて開ければ冒険をしている様な気持ちになれると思う。
こういったわくわく感を俺は大事にしたいと思うのだ。
蓋を半分ほど開けて、そこからは一気に開けることにする。
何が入っているかは見てからのお楽しみだ。
一気に宝箱を開けた俺は箱の中を覗き込んだ。
箱の中には汚らしい毛皮が一枚入っていた。
周囲に悪臭が漂い始める。
その臭いを思いっきり嗅いでしまった俺は、鼻の奥を刺激する激臭に顔をしかめてしまった。
宝箱にはオークの着替えが入っていたようだ。
持ち主のオークには宝物だったのかもしれないが、悪臭漂う毛皮など俺はいらなかった。
がっかりしながらも毛皮を取り出す、そのまま『無限収納』に放り込んでしまおうとした。
チャリンッ!
金属的な音が辺りに響き渡る。
びっくりした俺は箱の底を覗き込んだ。
「おお! これはお金じゃないか!?」
宝箱の底には鈍く光っている金貨や銀貨が見て取れた。
なぜオークがお金を持っているのだろう。
持っていても使えるわけでもあるまいし、ピカピカ光っている物でも集める習性でもあるのだろうか。
汚らしく汚れた金貨や銀貨を取り出す。
数えてみると金貨が四枚に銀貨が五枚、そして一枚の銅貨があった。
思わぬ収入に飛び上がって喜んだ。
ひとしきり喜んだ後、ふと考えが頭の中に芽生えた。
(このお金は一体誰の物になるのだろう……)
よくよく考えてみれば俺は今、討伐隊の一員なのだ。
もしかしたらこのお金は隊の物なのではないのだろうか。
誰も見ていないからといってネコババしてしまって良いわけがない。
さっそくサイモンさんに聞くことにして広場を後にした。
「サイモンさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
忙しく動き回っているサイモンさんをつかまえる。
周りでは重症を負った衛兵たちも起き上がって旅支度をしていた。
「なんだ、何が聞きたい?」
忙しそうに荷物をまとめているサイモンさんは、手を止めること無く返事をする。
「実は遺跡の中で宝箱を発見したんですよ。それで開けてみたんですが、中から金貨や銀貨が出てきました。だから誰の物か聞きたいんです」
薄汚れた金貨や銀貨をサイモンさんに見せながら聞いてみた。
「おお、だいぶいい稼ぎになったな。お宝はユウヤの物だぞ、俺達は王国兵だから私物化する権利はないが冒険者は別だ。クエスト最中でも冒険者が発見した物や倒した魔物の権利はすべて保証されるんだ」
「そうだったんですか、それじゃいただきますよ」
にっこり笑ってお金を収納する。
日本円にして四百万円ほどがいきなり懐に入ってきてしまい、嬉しくなってしまった。
「そんなことよりハイ・オークの魔石や討伐部位のほうが貴重だぞ、早く魔石を取ってこいよ」
横で話を聞いていた衛兵が『暴走のバズ』の首なし死体を指差しながら俺に話しかけてきた。
「たしかに大事だよな、ハイ・オークの魔石なんていくらで売れるか見当もつかねえな」
サイモンさんも難しい顔をして話に乗ってきた。
「どういう事ですか? あの豚っていい値段で売れるんですか?」
「当たり前だろ、個人で討伐できる魔物じゃないぞ、軍隊が出撃して倒すような化け物だから、ハイ・オークの魔石なんて市場に出てきた例なんてないぞ」
呆れ顔をしたサイモンさんが説明してくれる。
「そうなんですか、とりあえず収納しておくことにしますよ。子供オークと雌オークも一緒に入れておきますね。後で一緒に魔石取りをしましょう」
遺跡の壁横に積み上げられている小さなオーク達を手早く収納していく。
幼体のオークは意外と小さくてゴブリンに毛が生えたくらいの大きさだった。
雌オークも大して大きくはない、オークという魔物は成体の雄だけが巨大だということがわかった。
次々にオーク達を手のひらで吸い込んでいく、山のように積まれていたオークたちの死体が俺の『無限収納』へ収められてしまった。
その作業を衛兵たちは呆れ顔で見ていた。
「しかしユウヤの『収納』は底無しだな。そうだ、『収納』と言えば本陣での嫌がらせすまなかったな、このとおりだ勘弁してくれ!」
サイモンさんが俺に謝ってくる。
周りの衛兵たちも次々に謝罪してきた。
「もう気にしていませんよ、それよりそろそろ出発しましょう。怪我人の装備などは俺が収納して持って行きますから遠慮しないで言ってくださいね」
衛兵たちの謝罪を受け入れ、オークたちの死体を収納した俺は、新たなオークが出現する前に遺跡を出発することを提案した。
衛兵たちもその提案に賛成してくれて早々に立ち去ることが決定した。
「よし、昨日の野営地まで戻ろう。どのみち任務続行は無理だから一旦本陣に戻るぞ」
サイモンさんがとりあえずの隊長を引き受け指示を出していく。
衛兵たちは歩けない仲間たちを担架に乗せて運ぶようだ。
ゆっくりした移動になってしまうが夕方までには野営地に到着できると思う。
衛兵たちはみな疲れ果て傷ついているが、どこかほっとした表情だ。
確実に死を覚悟した戦闘から生きて帰れることの奇跡を噛み締めているようだった。
俺も衛兵たちと仲良くなれたこと、そして少しだけでも命を救えた事がとても嬉しかった。




