表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
65/90

64.オーク集落討伐作戦④~死闘終結~

 ネームドモンスター『暴走のバズ』との死闘は、超越者であるユウヤの勝利で幕を閉じた。




「ユウヤ! 大丈夫か!」


 誰かに声を掛けられ意識を取り戻した。

 目を開けるとサイモンさんが心配そうに覗き込んでいる。

 そして周りには生き残った衛兵たちが俺のことを取り囲んでいた。


「どれくらい気を失っていたんですか?」


「それほど長くない、ほんの三十分ほどだぞ」


 サイモンさんが答えてくれる。

 俺はゆっくりと上半身を起こして辺りを見渡した。

 キッドさんにもらった長剣は鞘に収められて傍らに置いてあった。

 俺はほっとして長剣を側に取り寄せてしっかりと握りしめた。


 そして近くに倒れ込んでいる首のない巨大なオークの死体を見た。

 オークの上半身には無数の短槍が突き刺さっており、俺が気を失っている間に衛兵たちが打ち込んだようだった。

 仲間を殺され行き場のない怒りを、すでに死亡した『暴走のバズ』の亡骸にぶつけたのだろうか。



「オークの残党はいませんでしたか? ここは奴らの住処すみかですから他に居るかも知れません」


「大丈夫だ、俺たちで遺跡や遺跡の周辺をくまなく探索した。雌と子供のオークが数匹居たがすでに討伐したぞ」


 サイモンさんが遺跡の方を指差して俺に答える。

 その指が指し示している方向には小さなオークの死体が積み上がっていた。


「意識を取り戻してすぐですまないが、『収納』からポーションを出してくれないか? 重傷者がいるから治療したいんだ」


 サイモンさんがすまなそうに言ってくる。


「わかりました、どうぞ」


 すぐに救急キットを取り出してサイモンさんに渡す。

 衛兵たちは俺に気を使いながらも素早く救急キットを取り上げると仲間の元へ走っていった。


(俺が気を失っていたために治療が遅れてしまったのか……。『収納』持ちが戦闘に参加してはならない理由がよくわかったよ……)


 意識のない俺から勝手に物資を取り出せない衛兵たちは、俺が倒れている間やきもきしたはずだ。

 物資運搬係が安全であることの重要性が身にしみてよく理解できた。



「少し休んだらここを離れましょう。新手のオークが住処に戻ってきたら大変ですからね」


「そうだな、衛兵たちに指示してくる。ユウヤはもう少しだけ横になっていたほうがいいぞ。……それから、後でいいからユウヤのことを少し話してくれ、未だにハイ・オークを単独で倒したなんて信じられないぞ……」


 そう言い残してサイモンさんは離れていった。

 一人になり、傍らに転がっている『暴走のバズ』の生首を拾い上げた。

 ハイ・オークを倒したことは確かに事実だ。

 しかしサイモンさんは大きな勘違いをしている。

 俺が倒したのはハイ・オークの、更に上位種であるネームドモンスターなのだ。

 単独で討伐不可と言うより、大軍でも討伐不可能な魔物だった。


 恨めしそうな表情をしている『暴走のバズ』の生首をまじまじと見る。

 先ほどまで生気にあふれ、狂暴で凶悪な戦闘を仕掛けてきたモンスターを少しの間眺めていた。

 そしてゆっくりとした動作で、『無限収納』へ生首を収めた。




 首を収納して冷静になってくると身体が血まみれなのが気になってきた。

 血だけではなく肉片や、なんだかわからない破片も体中にへばりついている。

 さらに凄まじい悪臭が俺の体から発散されていることに気づいてしまった。


「クリーン」


 耐えきれなくなって小声で『クリーン』を発動した。

 一瞬で体が綺麗になり、へこみは治らないが革鎧はピカピカになる。

 長剣もピカピカ、武具全体が新品のように綺麗になった。

 まだ周辺にはオークたちの生活臭や死亡した衛兵の臭いが充満しているが、体からは一切臭い匂いが出なくなって気分が良くなった。


 一つため息を付いた後、ゆっくりとした動作で立ち上がった。

 遺跡の壁際は野戦病院さながらの状態になっており、重症の衛兵たちが寝かせられている。

 その側をサイモンさんや比較的軽傷の衛兵が忙しく動き回っていた。



「サイモンさん、何か手伝うことはありませんか?」


「寝ていなくても大丈夫なのか?」


 俺がすぐに起きてきたのでサイモンさんはびっくりしている。


「ええ、体力には自信があるんですよ。さっきは戦闘に勝利して気が抜けてしまっただけなんです」


「そ、そうか、それじゃあこいつらの顔でも拭いてやってくれないか? 血と泥で汚いままで不憫ふびんだからな」


 サイモンさんは悲しそうな顔で寝かせられている衛兵たちを見た。

 衛兵たちはみな重傷者で足や手がなくなっている兵士も居た。

 彼らの顔は血みどろで、とても不潔だった。


「ん? ユウヤお前なんか小綺麗だな、さっきはこいつらと同じくらい血まみれだったはずだが……」


 サイモンさんが俺の顔をまじまじと見て言ってきた。


「実は俺、『クリーン』を使えるんですよ」


 あんな派手な戦闘を見られたんだ、いまさら生活魔法ごとき隠しても仕方がないだろう。


「ええ! お前呪文まで使えるのか!? これは驚いたな!」


 サイモンさんや周りの衛兵が更にびっくりして俺を凝視してきた。

 呪文を使えるのがそんなに珍しいことなのだろうか?


「みんなに『クリーン』を掛けますよ。サイモンさんにも後で掛けてあげますね」


 説明するのが面倒くさいので話を切り上げて『クリーン』を唱えていく。


「クリーン、クリーン、クリーン、クリーン……」


 俺が呪文を唱える度に衛兵の誰かが小綺麗になっていく。

 七回呪文を唱えたところで全員が綺麗な状態になった。


 呪文を七回、ということは俺を含めて八名しか生き残れなかったということだ。

 討伐隊は騎士二名と衛兵十五名、そして俺の合計十八名で本陣を出発した。

 そして今は半数以上が物を言わぬむくろになってしまった。

 騎士ラリーや騎士アランも鎧を残してすり潰されてしまったのだ。

 遺体が残っている方が少数という惨状だった。


「そんなに呪文を連続で唱えても大丈夫なのか? ぶっ倒れてしまわないのか!?」


 衛兵の一人が驚きの表情で聞いてくる。


「え? どういう意味ですか?」


 俺が不思議そうな顔をしているとサイモンさんが説明し始めた。


「呪文っていうのは本来連発出来るものではないんだぞ、いくらベテランの魔法使いでも七回も唱えれば気を失うはずだぞ」


「そうなんですか、知りませんでしたよ。まあ、気にしないでください、俺は特殊なんですよ」


 騎士ジルに逆らったときから、あまり我慢せずに生活しようと心に決めていたのだ。

 大っぴらに能力をひけらかすつもりは毛頭ないのだが、ネームドモンスターを倒したのを目撃してしまった人たちに、別段隠し立てするつもりもなかった。



「とにかく、ここを早く離れたほうがいいですね。俺、今から撤収の準備をしてきますよ。魔物とか収納してきますね」


 後でまとめて説明するつもりなので、いちいち説明していられない。

 驚いて固まっている衛兵たちをその場に残して遺跡の広場へと足を踏み入れた。



 ー・ー・ー・ー・ー



 遺跡の広場は改めて見てみるとひどい有様だった。

 瓦礫とめくれ上がった石畳、そして魔物と人間の死体やその痕跡。

 むせ返るような悪臭にハエが大量に集まり飛び回っていた。


 広場の隅では死肉を漁りに来たスライムたちがプルプルと動いている。

 俺はゆっくりと近づいていくと長剣で素早くスライムを切り刻んだ。


 あまり長いはしたくないので、片っ端から『無限収納』へぶち込んでいった。


 オークや衛兵の死体、スライムの核に、主を亡くした武具の数々。

 ついでだったのでオークたちの生活道具や、動物の骨でできた奇妙なオブジェだった物も手のひらに吸い込んでいく。

 ふと気になってオークたちが装備していた棍棒を視てみた。



[棍棒…… 敵を殴りつけるための棒]



 これだけ大きな棍棒なのに地味な説明にがっかりしてしまう。

 巨大な棍棒を拾い上げて素振りをしてみた。

 ブンッと小気味よい音がして丸太のような棍棒が唸りを上げて振れてしまった。

 我ながら凄まじい腕力に驚いてしまう。


(こんな重い丸太を振り回せるようになってしまったなんて驚きだな……)





 日本で暮らしていた時に比べてありえないほどの腕力を身につけてしまった俺は、ブンブンと棍棒を振り回しながら遺跡の中を散策して行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ