62.オーク集落壊滅作戦②~壊滅からの……~
ネームドモンスター『暴走のバズ』が出現し、討伐隊は壊滅寸前にまで追い込まれた。
「に、逃げろ! あれはスキル持ちだぞ!」
「ハイオークが隠れていやがった!」
「撤退だ! 勝てるはずがない!」
遺跡内はパニック状態になっている。
今まで優勢だった戦闘は、新手のオークによる精神攻撃で一気に劣勢になり、数人の衛兵はすでに殺されてしまった。
突撃を繰り返す巨大なオークは、今も衛兵たちを次々に血祭りにあげていた。
地面に倒れていたオークたちが立ち上がる。
あれだけ槍傷を受けたにもかかわらず、未だに絶命していないことは驚異に値する。
オークたちは全身が血液でずぶ濡れでフラフラしているが、巨大な丸太の棍棒を拾い上げるとゆっくりと衛兵たちを攻撃し始めた。
全滅という言葉が俺の脳裏に浮かんでくる。
遺跡内ではオークたちに追い立てられ、恐慌状態の衛兵たちが逃げ惑う光景が広がっていた。
遺跡内では優勢だった状況が完全に逆転して、オークたちの攻撃一辺倒になっていった。
衛兵たちは元より、騎士たちでさえ逃げ惑っている。
段平が一閃する度にその軌道上の物が全て両断され、凄まじい勢いで辺りに飛び散っていった。
暴れまわるハイ・オークは、周りの石壁や自分たちの家までお構いなしに破壊していく。
その中を逃げ惑う衛兵たちの数はすでに半分近くが減少していた。
衛兵の数名は三匹のオークによって殺害されていた。
丸太のような棍棒で頭を粉砕された若い衛兵は、オークたちに踏み潰されて徐々にミンチにされていく。
そして横薙ぎに棍棒を受けた衛兵は、凄まじい勢いで遺跡の壁に激突して赤い花を咲かせていた。
その中で『暴走のバズ』の攻撃は一味違っていた。
巨大な身体を素早く突進させながら段平をめちゃくちゃに振り回す『暴走のバズ』。
その軌道上にあるもの全てを吹き飛ばし薙ぎ払い粉々にしていった。
体当たりをされた衛兵は全身の骨を粉々に砕かれ、遺跡の石畳に擦り付けられてグズグズにすり潰されていた。
段平を盾で受けた衛兵は、盾ごと真っ二つに切り分けられ、臓物を撒き散らしながら宙を舞った。
騎士と衛兵合わせて十七名の内、約半数である八名がオーク達によって物言わぬ屍にされてしまった。
その間わずか二分ほど、嵐のような攻撃は未だに収まる気配を見せなかった。
目の前に広がる光景を驚愕の表情で俺は見ていた。
昨日の夜に笑い合って夕食を食べた衛兵たちが、巨大な魔物に蹂躙されているのだ。
数瞬前まで優勢だった戦闘なのに、蓋を開けてみれば隊は壊滅寸前。
そのギャップに頭が追いつかず、思考停止に陥っていた。
「ユウヤ聞こえるか? この隊はもう駄目だ、俺はお前を守れと命令を受けている、速やかにこの場を離脱するぞ」
サイモンさんが囁きかけてきた。
俺はまだ尻餅をついた状態で頭一つ遺跡の壁からでているが、サイモンさんは身体を低く地面に擦り付けてオークたちから身を隠している。
「そう言っても体が動きませんよ」
俺は泣きそうになりながらサイモンさんに答えた。
「ゆっくりと深呼吸してみろ、そして体の末端からゆっくりと動かすんだ。動けないなら早めに言え、俺がお前を担いで逃げるからな」
サイモンさんは俺の傍らで辛抱強く語りかけてくる。
俺も必死に身体を動かそうと精神を統一した。
ドスンと音がして遺跡の壁が崩れ落ちる。
土埃に目をつむり、再び目を開けるとそこには巨大なオークが立っていた。
先程まで矢を浴びて転げ回っていたうちの一匹で、全身血だらけで怒り狂っている。
「クソッ! 見つかってしまったか!」
中腰になりオークを睨みつけたサイモンさんは、短槍をガッチリと構え直して戦闘態勢に入った。
「サイモンさん、俺のことは構わず逃げてください。このままでは二人とも殺されてしまいますよ!」
「バカを言え、動けないお前を見捨てるほど俺は腐ってないんだ。お前は俺が守るから安心しろ!」
悔しいが体が動かなければ戦うことも出来ない。
俺は半分諦めてサイモンさんだけでも逃げてもらおうと思った。
このままでは二人とも衛兵たちと同じ運命をたどることになる。
「いいから行ってください! 俺は自分でどうにかしますからお願いします!」
オークの棍棒がゆっくりと振り上げられる。
すでに奴の射程圏内に俺たちは入ってしまっている。
(クソッ! 動け! 動け! 動けぇぇぇ!)
ピクリとも動かないだらしない身体に心の中で悪態をつく。
サイモンさんは絶対に勝てはしない戦いに挑んでいるのだ。
なのに俺は地面に這いつくばって足手まといになってしまった。
「王国騎士団をなめるな! 死ね!」
サイモンさんが鋭い短槍の突きをオークめがけて繰り出した。
短槍はオークの下腹に見事に突き刺さったが魔物はまったくひるまない。
グォォォォォ!
雄叫びとともに丸太の棍棒が振り下ろされる。
サイモンさんは攻撃直後で回避することが出来ない。
棍棒はサイモンさんの頭をしっかりと狙っていて、このままでは確実に殺されてしまう!
(動け! 動け! 動いてくれ! 女神様助けてください!)
心の中で絶叫する。
俺は無意識にイシリス様に助けを求めていた。
ピロリンッ!
『スキル、『麻痺耐性』を獲得しました』
ピロリンッ!
『スキル、『麻痺耐性』が『麻痺無効』に進化しました』
ピロリンッ!
『スキル、『俊足』を獲得しました』
腹の底から力が湧き上がり、全身が熱くなって光に包み込まれた。
湧き上がり続ける力は身体を突き破ってとめどなく発散されている。
一瞬にしてスキルを大量に獲得した俺は、劇的に素早く動けるようになった。
バネのように飛び起きた俺は、素早く抜剣するとサイモンさんとオークの間に体をねじ込んだ。
目の前のオークの動きが緩慢に見える。
もちろん巨大な豚が攻撃する軌道は『予測回避』ではっきりと分かっていた。
「おらあぁぁぁ!」
銀色に輝くブロードソードを下段から逆袈裟斬りに振り上げる。
ちょうど棍棒の軌道と重なるようにわざと合わせた。
ガチンッと音がして棍棒に銀色の剣身がぶつかり、そのまま滑り上がっていく。
そして徐々に棍棒の軌道がサイモンさんの頭から外れていく。
ズドンッとすさまじい爆音が俺とサイモンさんの直ぐ側で聞こえ、オークの棍棒は地面にめり込んだ。
「今のうちに森の中へ逃げてください!」
振り向きざまにサイモンさんを突き飛ばした。
「ユウヤ! なぜ動けるんだ、それにその力は何なんだ!」
吹き飛ばされながら驚愕の表情でサイモンさんが絶叫する。
俺に押されて転がりながらサイモンさんは倒れ込んだ。
「話は後です! こいつを倒してみんなを助けに行きます!」
目の前のオークを睨みつけながら剣を構える。
身体から弩の矢を大量に生やしている醜い化け物は、全身を血だらけにして怒り狂い、臭い鼻息を吐き出していた。
豚のギョロ目は血走り半分以上飛び出している。
丸太のような腕がしっかりと棍棒を握りしめて俺の頭を狙っていた。
俺は剣を構え直して慎重に間合いをとった。
相手の力量がわからないので下手に突っ込むことは出来ない。
オークは慎重な俺の行動を怯えと捕らえたようで、ジリジリと前に進んできた。
緊張が高まりオークが攻撃を仕掛けようとした。
上段に構えた棍棒を更にしっかりと握りしめた右腕が、今にも振り下ろされようとしている。
俺の目の前に薄っすらと攻撃軌道が現れ、徐々に赤く染まっていく。
ブモォォォォ!
絶叫とともにオークが棍棒を振り下ろした。
巨漢の衛兵でも防ぎきれない一撃が俺の頭上に落ちてくる。
(思ったよりも遅いな……)
はっきりと棍棒の軌道が見え、ゆっくりとした動作で振り下ろされている棍棒を避ける。
斜め左前に一歩だけ足を運び、紙一重で棍棒をかわす。
棍棒が通過した風圧が俺の顔面をとらえるが、構わず長剣を振り上げた。
狙うはオークの脇の下、急所の一つで血管が多く通っているところだ。
サパッといい音がしてオークの右腕が付け根から切り落とされる。
キッドさんからもらった最高級の長剣は、いとも簡単にオークの利き腕を切り落とした。
ピギィィィィ!
大量の鮮血をほとばしらせながらオークが苦しげに絶叫する。
しかし戦意を失わずに左手の拳を握り込んで殴りかかってくる。
俺はオークの横に素早く回り、膝の関節部分を切りつけた。
関節は意外ともろく、何の抵抗もなく切断できた。
膝から下の片足を失った大きな豚は、体重を支えきれなくなり絶叫を上げながら崩れ落ちた。
「死ね豚野郎!」
横一線に剣を走らせ、豚の頭を切り飛ばす。
見事に切断されたオークの首は、空高く飛び上がり遺跡の内部へ消えていった。
ゆっくりとオークの首なしの身体が崩れ落ちる。
大量の血液が切断した首元から噴水のように吐き出された。
驚くべきことに首のないオークは未だに呼吸している。
首のない身体は、切断された首から息を吐く度に鮮血が泡立ちジュブジュブと音を立てる。
その驚異的な生命力に俺は驚きを隠せなかった。
長剣を逆手に持ちゆっくりと首なしオークの心臓に突き立てる。
肉を切り裂く感触が手に伝わってくるが、お構いなしに深く突き刺した。
ブルブルと痙攣してオークは動かなくなる。
オークが完全に動かなくなったのを確認してからゆっくりと長剣を引き抜いた。
「ユウヤ……、お前は本当にユウヤなのか?」
一部始終を見ていたサイモンさんが血の気を失った顔で聞いてくる。
「もちろんですよ、今から残りの豚も始末します」
『無限収納』から皮の盾を取り出して左腕に装備する。
右手でしっかりと長剣を握り込んだ俺は、足早に遺跡内へと進んでいった。
今も遺跡内部から激しい戦闘音が聞こえてくる。
俺はオークたちがいる遺跡内へ、瓦礫の壁を乗り越えて戦いに身を投じるのだった。
ー備考ー
※補足 ユウヤが麻痺を克服できたのは『全能回復』のおかげです。
女神様から頂いたこのチートスキルは、病気や怪我、ステータス異常からユウヤを迅速に回復してくれます。
そして『超熟練』による有効スキルの早期獲得、さらに『女神イシリスの加護』でユウヤは手厚く護られています。
ユウヤはピンチになる度にどんどん強くなっていくのです。
[名前……ユウヤ・サトウ 種族……ヒューマン 職業……冒険者 クラス……ブロンズ タイプ……戦士 スキル……『万能言語』『無限収納』『真理の魔眼』『全能回復』『超熟練』『予測回避』『瀕死回復』『身体能力向上』『暗視』『俊足』『剣技』『防御』『体捌き』『精密投擲』『突き』『連続突き』『一撃離脱』『受け流し』『激痛耐性』『グロテスク耐性』『麻痺無効』『勇敢』『平常心』 魔法……『クリーン』 加護……『女神イシリスの加護』]
・NEWスキル……『麻痺無効』(『麻痺耐性』が進化)、『俊足』
『麻痺無効』…… 麻痺の状態異常を無効化するスキル。
『俊足』…… 移動する速度が劇的に上がるスキル。相対的に相手の動きが遅く見える。




