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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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60.絶望

 次の日の朝、俺は木の幹に背をつけて剣を抱えながら、小鳥のさえずりに目を開けた。

 辺りはまだ日が昇っておらず、夜明けにはもう少し時間がかかりそうだ。


 昨日の夕食で衛兵たちと食卓を囲み、俺も衛兵たちも少しだけわだかまりが無くなったような気がした。

 しかし俺はうつらうつらはしたものの、熟睡することなく朝を迎えることとなった。

 なぜ眠っていないのか、それは俺が衛兵たちをまだ信用できないでいるからだ。


 討伐隊の総大将である騎士ジルに歯向かった俺は、騎士や衛兵たちから憎まれていた。

 カリスマ的な騎士であるジルに反抗的な俺は、彼らからすれば排除しなければならない敵なのだ。


 起きている間に襲撃を受ければ俺一人でも十分に対処できる、それだけの力を俺は持っているのだ。

 しかし眠った状態からは身を守れる自信はなかった。

 味方になってくれる冒険者はここにはいない、誰が襲ってくるかわからない状況で、眠ることは出来なかった。

 隊の物資を一手に預かっている俺は、物資を人質にとっている形になるので襲われる確率は低いだろう。

 しかし絶対に襲ってこないという保証はないので怖くて眠ることは出来なかったのだ。



 辺りが明るくなるにつれて衛兵たちが起き出した。

 その様子を確認してから俺は気合を入れて立ち上がった。


 かまどに火を入れ、牛乳を鍋に入れる。

 砂糖を多めに入れ、ホットミルクを作った。

 更にフライパンにバターを溶かし、卵と牛乳をかき混ぜたものを入れる。

 火を通しながらかき混ぜていくとスクランブルドエッグが出来上がった。

 本当はオムレツを作りたかったのだが、人数分を作るには時間が足りないのでしかたがない、味は同じなのでみんな喜んでくれるはずだ。


 朝食を配り終え、衛兵たちが食べている間に目をつぶって休息する。

 俺は朝食は摂らずに少しでも眠気を取ることを優先した。



「おい冒険者、顔色が悪いがどうかしたのか?」


 食事を終えて食器を戻しに来た衛兵の一人が心配して声を掛けてくる。

 今は放っておいてほしいのだが心配してくれているので邪険には出来ない。

 

「……いや、なんでも無い心配しないでくれ……」


 眠いのを我慢して衛兵に返事をする。

 食器を受け取ると洗わないままで『無限収納』に突っ込んだ。

 その後も食器を戻しにくる衛兵たちに代わる代わる話しかけられ、頭を休めることは出来なかった。

 俺が思っているよりも衛兵たちは俺のことを嫌いではないのだろう。

 旨い料理を提供したことが好感度を上げたのだろうか……。



 野営地を撤収して二日目の探索が始まる。

 今日は山の中腹から頂上付近に捜索の範囲を変える予定だそうだ。

 この山林は大昔の遺跡が数多く残っているらしい、その一つ一つを今日から捜索することになっていた。



 ー・ー・ー・ー・ー



 探索が始まり遺跡群を調査していくと、古代の小規模な集落跡で盗賊たちとは異なる驚異に遭遇した。

 異変を感じたのはまだ昼にならない午前中だった。

 二つ目の遺跡を調査し終え、三つ目の遺跡へ移動を開始しての折に、前方から風にのって異様な匂いが流れてくるのを感じ取った。

 それは獣臭を強烈にして腐敗臭を加えたような臭い、どこかで嗅いだことがあるような嫌な臭いだった。



「なにか変な匂いがしませんか?」


 隣を歩いているひげもじゃの衛兵に話しかける。

 その頃には周りの衛兵たち全員が異臭に気付き、辺りをキョロキョロと見渡していた。


「たしかに変な匂いがするな、まるで肥溜めの近くを通ったときのような臭いだ。お前何の臭いかわかるか?」


 衛兵は臭そうに鼻をひくつかせて俺に聞いてきた。


「何でしょうね……、嗅いだことがあるような無いような……、どっちにしても嫌な予感がしますね」


「まったくだな、騎士様のところへ集まるとするか」


 俺も衛兵も不安を覚えて前方へ歩き出した。




 前方には衛兵の人だかりができていて騎士たち二人が中心にいた。

 その二人は何事かを話し合っている。

 周りの衛兵たちはみな不安そうな顔をして武器を構えて周りを警戒していた。


「おい、何が起こっているんだ?」


 俺と一緒に歩いてきた髭もじゃの衛兵が、人だかりの中のひとりに話しかけた。


「まだわからない、いま斥候を出したところだ。騎士様からは警戒して待機するようにとの命令だ」


 若い兵士が不安そうな顔で答えた。


「おい冒険者、お前は俺達から離れるなよ。何かあったら身を守ることに専念しろ」


 髭もじゃの衛兵が俺を気遣ってくれる。

 周りの衛兵たちも俺をかばうように展開して槍を構えた。



 ー・ー・ー・ー・ー



「報告します、前方の遺跡に中規模のオーク集落を確認しました。目視できた頭数はおよそ五匹です。討伐は困難を極めると思われます」


 斥候に出ていた衛兵が慌てて戻ってきて隊長格の騎士たちに報告をした。

 周囲で報告を聞いていた衛兵たちは動揺してお互いに顔を見合わせている。


「そうか、それは厄介だな。できれば戦闘を回避したいところだが、数が数だけにこのまま放置するわけにもいかないな」


 騎士ラリーが悩ましげに頭を抱えた。


「オークの成体は何匹居たのだ?」


 騎士アランが斥候に出た衛兵に問う。


「はっきりとは断定できませんが、少なくとも三匹は戦闘ができる成体だと思われます。オークたちは遺跡を基礎にして家屋を多数建築していますので、その中にまだ成体がいるかも知れません」


 斥候の報告に絶望のざわめきが衛兵たちから湧き上がった。

 王国の兵士として見過ごすわけにはいかない規模のオーク集落に、衛兵たちの士気は限りなく低くなった。



【オーク】…… 豚の顔をした二足歩行の獣人。凶暴な性格で好戦的。体格が大きく、腕力が強い。武装をしている率が高く、接近戦では勝ち目がない。発見時撤退推奨。討伐部位は鼻。



 俺はギルドの図書室で読んだ『ミュンヘル周辺魔物図鑑 一巻』の文章を思い出していた。

 凶悪な魔物で撤退推奨の強敵だ。

 ミュンヘル周辺には滅多に姿を表さない魔物なので、大して気にしてはいなかったが、まさかここに来て戦闘になるとは思っても見なかった。

 今思えば薪を集めに行った森の中で、ライアスたちとオークのことを話した事がフラグだったのかも知れないな。




 結局山狩りは一旦中断してオーク討伐をすることになった。

 衛兵たちは青い顔をしながらも武装の確認をして戦闘に備えている。

 俺もなにか手伝うことができるのではないかと考え、忙しそうにしている隊長に近づいていった。


「すいません、俺は何をすればいいのですか?」


「ん? 何だ冒険者か、戦闘用の物資を出した後はお前は何もせずに後方で待機だ。お前は物資運搬係なのだから死なれては困るからな。おいそこのお前、こいつに張り付いて守ってやれ」


 騎士ラリーは俺の側に居る髭もじゃ衛兵に命令を出した。


「了解しました!」


 髭もじゃは騎士に向かって敬礼する。

 騎士ラリーは小さくうなずくと俺から視線を外した。




「よろしくな冒険者、俺の名前はサイモンだ」


 髭もじゃの衛兵がにやりと笑って手を差し出してきた。


「ユウヤですよろしくおねがいします」


 俺はその手を握り返して自己紹介をした。

 サイモンさんは俺のことを嫌っている様子はなく、むしろ気遣ってくれている。

 衛兵の中にも気のいい人がいるようだ。


 隊長に言われたとおりに『無限収納』からいしゆみを取り出し衛兵たちに渡す。

 弩というのはコンパクトで強力な弓で、銃のように構えて撃つ遠距離武器だ。

 遠距離攻撃をした後の衛兵による突撃。

 シンプルだが効果的な戦法でオーク達を撃退する予定のようだった。


 一通り弩を衛兵に渡し終えた俺は、慌ただしく動き回る衛兵たちを横目に見ながら暇になってしまった。

 戦闘に関して俺の出番はないらしい、軍隊がどのように魔物を討伐するのか見学させてもらうのもいいかも知れないな。





「全員固まって静かに進め!」


 騎士ラリーの命令で衛兵たちが動き出す。

 みな顔面蒼白で絶望の顔をしていた。

 そんな衛兵たちを見ながら俺も後ろからゆっくりと付いて行くのだった。

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