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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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59.山狩り開始

 物資の収納を完了した俺は、騎士ジルが天幕から出てくるまでの間、広場の片隅に腰掛けておとなしく待つことにした。

 遠巻きに俺を見ていた衛兵たちも、時間が経つにつれて我に返って山狩りの準備に取り掛かり始めた。

 その様子を俺はぼ~っとしながら眺めていた。



 衛兵たちはおそろいの革鎧を着込み、小ぶりの盾を装備している。

 腰には長めの短剣が差してあり、手には短槍と呼ばれる武器が握られていた。


 短槍は長さが穂先から石突まで合わせると一メートル五十センチほどの槍だ。

 長槍と違って取り回しがよく、接近戦でも十分に戦うことができる。

 あの短槍を突きつけられて周りを囲われたら、並の人間では手も足も出ないだろう。

 今回は山中が戦場になりそうだが、短槍なら十分に戦うことができるだろうな。




 天幕の入り口付近が騒がしくなってきた。

 中から護衛の騎士たちが出てきて衛兵たちと何かを話している。

 そのうちに衛兵たちが天幕の前に横一列に整列した。

 衛兵たちの人数は全部で一五名、討伐隊に参加した衛兵が二十名なので拠点である本陣の守備兵以外は山狩りに参加することになる。

 その衛兵たちを指揮するのが二名の騎士で、拠点に残るのはジルを含め三名の騎士と五名の衛兵、そして俺を抜かした八名の冒険者達だった。

 


 天幕の中から全身鎧をつけた騎士ジルが姿を表す、騎士や衛兵は最敬礼でジルを迎えた。

 俺もゆっくりと立ち上がって衛兵たちの後ろに並んだ。

 未だに昨日のことで頭にきているが、ジルを無視するほど反抗するつもりはなかった。



「任務ご苦労、今日から盗賊団をあぶり出す山狩りが始まる。敵は百名からなる大群だ。盗賊たち一人ひとりの戦力は全く問題にならないほど脆弱だが、数に物を言わせて襲ってきた場合には苦戦を強いられる場合もあるだろう。みな気を引き締めて任務にあたってほしい」


 短めの訓示をジルが言い終え、騎士たちが衛兵に指示を出して本陣を出発する準備に取り掛かった。

 俺も一番うしろから衛兵たちについて行こうとした。


「ユウヤよ少し待て」


 歩き出そうとした矢先に騎士ジルが声をかけてきた。


「なんですか?」


 昨日の今日なのでジルとはあまり話したくない、俺はぶっきらぼうな返事をしてジルの顔をまともに見なかった。

 また変な事を言われたら、今度こそ爆発して暴れ回ってしまう気がするのだ。


「そう邪険にするな、お前に聞きたいことがあるのだ」


 今日のジルは高圧的ではなく、俺の態度にも苦笑いをしているだけで怒り出すことはなかった。


「聞きたい事とは何でしょうか?」


「お前はその力をどこで手に入れたのだ。数日前にはお前からそれほどの力を感じ取れなかったぞ」


 騎士ジルは俺の力に興味があるらしい、確かに数日前の俺は非力な人間だった。

 今の俺は騎士隊全員を相手にしても十二分に戦えるほどの力を有しているのだ。


「冒険者に戦力の秘密を聞くのはルール違反ですよ。俺は数日前より強くなった、ただそれだけですよ」


 俺が女神様にチートスキルをもらって異世界から来たことなど教えられるわけないのだ。

 ここは冒険者を全面に押し出してしらばっくれるほかないだろう。


「確かにそうだが、その力を騎士団のために使う気はないか? 今なら高待遇で取り立てることもやぶさかではないのだが」


 驚くべきことに騎士ジルは俺を騎士団に勧誘してきた、昨日の態度とは百八十度違っていてびっくりしてしまう。


「お断りします、俺は自由に冒険がしたいんですよ。規律を重んじる騎士団は俺には耐えられそうにないですからね。俺の力を借りたいのならクエストで依頼をしてください。折り合いが付けばいつでも力を貸しますよ、では失礼します」


 俺は言いたいことをはっきり言うことにした。

 いつまでも権力に顔色をうかがって、小さくなっていることに疲れてしまったのだ。

 俺は話を切り上げてジルの元を離れていった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 王都ミドルグの西方地域は近年治安が悪化していた。

 その原因は犯罪集団『ケルベロス』によるものが大きかった。

 街道を中心にして強盗殺人や強姦が多発して、村一つまるごと焼き討ちで消滅したという事件もあった。

 事態を重く見た王国は騎士団を派遣することを決定した。

 その討伐隊に荷役として徴兵されてしまった俺は、騎士ジルの強権によって討伐活動にまで駆り出されていた。




『ケルベロス』のアジトがあるとされる山中を、俺は衛兵たちにまぎれて探索していた。

 かなり険しい山道なので『身体能力向上』のスキルがない者たちはかなり苦しそうだ。

 二日ほどでアジトを見つけられれば上々で、見つけられなければ見つけるまで探索を繰り返す予定だ。

 早くアジトを見つけて盗賊たちを捕縛しなければ、キッドさんたちが危険にさらされてしまうので俺は焦っていた。



 お昼近くになり、盗賊たちの足取りがつかめないまま昼食を摂ることになった。

 俺は騎士たちに指示されるがままに『無限収納』から食料を出していった。

 黒パンに干し肉、飲み物はぬるいただの水で、比較的平らな地面に座り込んだ衛兵たちは黙々と食べていた。


 俺も切り株に腰掛けて自分用の食料を出して食べる。

 本当は熱々の串焼き肉や白パンを食べたいのだが、衛兵たちに見つかると大事になってしまうので、彼らと同じものを出して食べた。


(こんな食事をしていたら体が参ってしまうんじゃないのか? 夕食はなにか温かい物を作ろうかな)


 騎士や衛兵は嫌いだが、粗末な食事をしている彼らを見ると、ついつい暖かくおいしい食事を提供したくなってしまう。

 しかし衛兵十五人に騎士が二人の大所帯なので、料理を作ろうにも大したものは作れそうになかった。


(う~ん、ステーキ肉は人数分焼くには時間がかかりすぎるからな、無難なところでスープでも作ろうか。肉たっぷり入れた熱々のスープが一品増えただけでも皆嬉しがるかな?)


 もそもそした干し肉を咀嚼そしゃくしながら夕食のことを考える。

 もちろん盗賊たちのアジトが見つかれば、悠長に夕食など作っていられないだろうから午後の探索次第だ。

 それでも誰かが喜んでくれるかもしれない美味しい料理のことを考えていると、強制的に山狩りに駆り出されて滅入った気持ちが少しだけ晴れる気がした。



 ー・ー・ー・ー・ー



 結局一日目は盗賊たちを見つけられず探索を切り上げることになった。

 山の中腹に野営地を決めて野営の準備を開始する。


『無限収納』から寝袋を人数分出して衛兵たちに手渡す。

 寝袋一つなら大した荷物ではないが、十七名分となると話は違う。

 大量の物資を収納から取り出す俺を、衛兵はもとより騎士たちも驚きの表情で見ていた。

 本来ならば寝袋や自分が消費する食料などは、背負って探索するのが普通なのだ。

 嫌がらせで全ての荷物を俺の『無限収納』に収めさせ、身軽なからだで探索してきた衛兵たちは、ばつが悪そうな顔をして俺から寝袋を受け取っていた。


 早めの野営で辺りがまだ暗くならないので、衛兵たちは地べたに座って疲れを癒やしていた。

 その中で俺はテキパキとかまど用のレンガを出していった。

 数人の衛兵が少し離れたところから興味深そうに見ているが、話しかけてくることはなかったので俺も無視して作業を進めた。

 あっという間にかまどが組み上がり、薪をくべて火をおこす。

 火の勢いが安定してきたので、俺が持っている一番大きくて深い鍋をかまどにかけ水を注ぎ込んだ。

 野菜を出してナイフで切りながら鍋に投入する。

 テーブルやまな板など出していられないので、大ぶりに切っただけの男の料理だ。

 もちろん野菜は俺の備蓄からの持ち出しだ、大量の野菜を適当に切ったら、次は森林狼の塊肉を取り出した。


 その頃になると衛兵たちが俺の周りに大勢集まって来て、俺の料理を作る姿を見学し始めていた。

 森林狼の肉を切り取って鍋に入れているのを見た衛兵たちは「おお!」とどよめき、更に見学者が増えていく。

 衛兵たちはよだれを垂らしかねないほど鍋を凝視している、その様子が面白かったので追加で肉を大量に鍋に入れていった。


 味付けは塩と胡椒、そして香草を何種類か入れる、そして灰汁あくを丁寧に取りながら弱火で煮込んでいった。



 具沢山のスープが完成した頃には辺りがすっかり暗くなり、夜空には星が輝いていた。

 森の中からは虫たちの鳴き声が聞こえてくる。

 衛兵たちは思い思いに焚き火を囲んで夕食を待っていた。



「温かいスープを作ったんで食べてください」


 騎士たちにスープを手渡す。


「そ、そうか、ありがたくいただくぞ」


「かたじけない、いい匂いだな」


 騎士たちはスープを手にとって俺に礼を言ってくる。

 隊長がラリー・クレイ、そして副長が騎士アラン・クーガンだ。

 二人とも騎士ジルと揉めたときに傍らにいた騎士で、俺のことをよく思っていないはずだが、礼儀を重んじる彼らはきちんとお礼を言ってきた。

 こころなしか表情も和らいで俺への評価が少しだけ良くなった気がした。


 騎士の次は衛兵たちの番だ。


「皆さんの分もあるので順番に並んでください、たくさんあるので慌てなくていいですよ」


 衛兵たちは我先にかまどの前に集まってきた。

 作っている最中から食べたそうな顔をしていたので我慢できなかったのだろう。

 衛兵たちをなだめつつ、深皿にスープを注いで手渡す。


「すまんな、いただくぞ!」


「いい匂いだな、うまそうだ」


「こんなに肉を入れてくれるのか? ありがとよ!」


 スープを手渡された衛兵たちが俺にお礼を言ってくる、出発前の敵意剥き出しだった彼らはもうここにはいなかった。


「おかわりも十分あるので慌てなくていいですからね、たくさん食べて明日も頑張りましょう!」


 配っているうちに俺も嬉しくなって声が弾んできた。

 俺の作った料理を嬉しそうに食べるのを見て、彼らに対する嫌な気持ちがす~っと無くなっていくのを感じた。

 そこかしこから「うまいうまい」と声が聞こえてくる。

 おかわりをする衛兵でかまどの周りはいつまでも混雑していた。

 





 温かい食事は人を穏やかにするようだ。

 静かだった野営地は、笑い声がそこかしこで聞こえ始め、楽しそうな話し声が森の中にこだましていた。

 俺は満足しながらスープを飲み、パンをかじってその様子を眺めるのだった。

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