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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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58.心強い仲間たちと陰湿な衛兵たち

 女騎士の傲慢な態度にとうとう切れてしまったユウヤは、騎士たちと一触即発の状態になってしまった。




 冒険者たちが野営している区画へと戻ってくると、彼らは円陣を組んで夕食を摂っていた。

 その中でライアスが俺のことをいち早く見つけて手を振ってきた。


「おおユウヤ! お前の夕食もらってきてやったぜ!」


 ライアスが元気な声で呼びかけてくる、彼の手にはトレーが載せられており、てんこ盛りの配給食が入っていた。


「なんだお前顔色が悪いんじゃねえか? 騎士様になにか言われたのか?」


 俺にトレーを渡しながらライアスが聞いてくる、その心配そうな声に周りの冒険者達も何事かと注目してきた。

 冒険者というのは基本的に勘がいい、危険を素早く察知するため仲間の顔色など些細なことでも見逃さないのだ。

 俺の様子がおかしいことをライアスはいち早く気づいたようだ。



「明日からの山狩りに参加しろって言われてね。話が違うと言ったら、牢屋にぶち込むって脅してきたんだ。頭にきたから怒鳴りつけてしまったよ」


 聞かれるままに状況を説明する。

 別に口止めされたわけでもないから話してしまってもいいだろう。

 しかし一触即発になったことだけは言わないほうがいいだろうな。


「はぁ~? お前何考えてんだよ! そんな事してよく戻ってこれたな。普通なら今頃頭と胴体が離れているぜ!」


 ライアスが呆れ顔で俺を見てきた。


「どうやって放免してもらったのですか? 騎士様に逆らって無傷だなんて信じられませんよ」


 べソンもライアスと同様に呆れ返っている。

 話を聞いていた他の冒険者達も皆呆れ顔だが、厄介事はごめんだと離れていく奴は一人もいなかった。

 不謹慎なことに、面白そうなことが始まったと嬉しそうにしている奴もいる。

 そんな中で、指欠損男であるコネチトはどの冒険者達より嬉しそうで、いつになく満面の笑みを湛えていた。


「さすがはユウヤの旦那だな! 騎士たちを恐れないなんておみそれしたぜ!」


 コネチトのように嬉しがっている冒険者が半分ぐらいいるだろうか、後半分は俺を心配そうに見ている。


 騎士に逆らった俺から離れていかない冒険者達に俺は驚いていた。

 もちろんライアスもベソンも俺から離れてはいかない。

 数日寝食をともにしただけなのに冒険者たちの中に仲間意識が芽生えていたようだ。



「それでユウヤはどうするんだ?」


「まあ話し合いの結果、山狩りには参加することにしたよ。どうしても『収納』持ちが必要だと頼まれたからな、給金もはずむって言っていたからあまりごねるのもまずいだろ?」


 ライアスの問に夕食の黒パンをかじりながら詳細を語っていく。

 冒険者たちは呆れ顔や驚きの表情、中には尊敬の眼差しまで向けてくる者もいた。


「でも少しまずいことになったかもしれませんよ」


 そんな中、先程から深刻そうな顔をしていたベソンが口を開いた。


「騎士様たちがユウヤ殿をこのままにしておくとは思えませんよ、騎士様は以外に陰湿なところがありますからね。表では正義を振りかざしていますが裏では汚いことも平気でやる者もいますよ。特に寝込みは気をつけたほうがいいですね」


 ベソンの言葉に冒険者達が一斉にうなずく。

 俺も予想していたことなのでべソンの考えに賛成だった。

 起きている間なら騎士たちが何人襲いかかってきても勝てる自信はある。

 しかし意識がない時に襲われたらひとたまりもないだろう。


「よっしゃ! ユウヤが寝ているときは俺たちが見張っていてやろうじゃねえか。みすみす仲間を殺されるわけにはいかねえからな」


 ライアスが勢いよく立ち上がると拳を振り上げて宣言した。

 それを見ていた冒険者たちも一斉に同意する。


「みんなありがとう、とても嬉しいよ」


 俺は胸にこみ上げてくる感情を一生懸命に抑えながら冒険者達に感謝した。

 まさかみんなが俺のことを守ってくれるなんて思っていなかったのだ。

 異世界では権力者に絶対服従だと思っていたが例外もあるらしい、その例外が今の状況で、寝食をともにした仲間のためなら権力に逆らうこともためらわないようだ。

 異世界も捨てたもんじゃないな。


 冒険者は荒くれ者の集まりだと思っていた。

 だから騎士ジルに詰め所に連れてこられた時、周りとあまり関わらないようにしようと思ったのだ。

 しかし冒険者達は皆いい奴だった。

 もちろん危ない奴らも少なからずいることはわかっている。

 しかし少なくともここにいる奴らはいい奴だ。

 先入観で判断してはいけないことがよくわかった。




 夕食を食べた後は武器や防具の手入れを皆思い思いに行った。

 明日からは騎士たちによる山狩りが行われるのだが、冒険者たちは本陣を守ることが仕事だった。

 比較的安全な任務だが全く危険が伴わないわけではない。

 盗賊がスキを突いて襲撃してくるかもしれないし、周辺の魔物が襲ってくるかもしれない。

 いつでも万全の体制で戦闘を行えるようにしておくことが冒険者の勤めなのだ。


 俺もキッドさんにもらった愛用の剣を入念に手入れしていった。

『クリーン』をかけ、鏡のように磨かれた刀身をじっと見つめる。

 この剣を握っているとキッドさんたちのことを思い出す。

 やはり無理を押してでも伐採所へ行けばよかったと今更ながら思った。

 盗賊たちのことをキッドさんたちに教えに行かなかったことは間違っていた。

 騎士たちは自分たちの考えは全て通ると勘違いしている。

 子供の頃から騎士に逆らうなと教えられている異世界人と違って、自由な日本から来た俺にはそのような考えは通用しない。


(もう権力者達の顔色をうかがって暮らすことはやめよう。そしてできるだけ早くキッドさんたちに会いに行こう)


 俺は切れ味鋭い刀身を見つめながら固い決心をするのだった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 早朝に野営地が慌ただしく動き出していた。

 朝日が登るはるか前に男たちは起き出して、今日行われる山狩りの準備を黙々とこなしていた。

 結局寝込みを襲われることはなかった。

 冒険者達が俺が寝ていたテントの周辺で警戒してくれたことが大きいだろう。

 しかしいつ何時報復を受けるかもわからないので緊張の一日が始まろうとしていた。



「冒険者ユウヤ、山狩りの準備のため付いてきてくれ」


 騎士フィリップがどことなく険しい顔をして俺に近寄ってきた。

 俺が昨日抵抗したことは騎士団の中ではすでに知られていて、騎士や衛兵たちは俺のことを敵視しているようだった。

 騎士フィリップも例外ではなく、どこかよそよそしい態度で気まずい。

 もちろん表面上は平静を保っているが、何か一つでも俺がミスをすれば捕まえてやろうという雰囲気がプンプンしていた。

 仲間の冒険者達も心配そうに俺を見ている。

 そんな仲間たちに「心配いらない」と一言いって、フィリップとともに歩き出した。




 フィリップの後を天幕がある中央広場付近まで移動をする。

 そこにはうず高く物資が積まれていて、衛兵たちがたむろしていた。


「本日から討伐隊は騎士二名と衛兵十五名による山狩りを行う、したがって大量の物資が必要になる。冒険者ユウヤの役目は物資の運搬だ、ここにある物資を『収納』に収めてくれ」


 衛兵たちが俺の事を睨んでいる中で、騎士フィリップが淡々と指示を出してくる。


「もし全て入り切らないなら『収納』内の予備物資を排出しても構わないぞ。予備物資は本陣で管理するから遠慮なく申し出るように。それでも収納しきれないものは衛兵が担いで行くので無理はしないように」


 騎士フィリップは、俺の『収納』スキルが凄まじい容量なのを知っているので至って冷静だ。

 俺は言われるがままに物資を『収納』へ収めていった。



 物資の内訳は食料や衣料品、そして予備の武装など多岐にわたり、その量も尋常じゃない。

 総勢十八名が山中で野営する物資量なので大量なのはわかるが、それにしても量が多すぎる。


 一般の『収納』持ちでは到底入り切らないほどの物資量を前にして、衛兵たちが俺の収納限界を今か今かと待っていた。

 収納できないと俺が言った時に嫌味でも言ってやろうと待ち構えているのだ。


 しかし奴らの目論見は徒労に終わることとなった。

 俺の『収納』はただのスキルではないのだ、物資をいくらでも入れることができる『無限収納』なのだ。


 天幕前にうず高く積み上がっていた大量の物資が、またたく間に俺の『無限収納』へ吸い込まれていく。

 その様子を衛兵たちが驚きの表情で見ていた。


「収納しましたよ、まだまだ余裕があるので入れたいものがあるなら遠慮なく言ってください」


 騎士フィリップに向かって冷たく言い放つ。


「い、いやもう大丈夫だろう……。後はその辺で待機していてくれ、じきにジル様が天幕から出てくるはずだ」


 フィリップは怯えた顔をして俺に指示を出してきた。

 遠巻きに見ていた衛兵たちもみな怯えた顔をしている。

 一人の人間が収納できる常識を遥かに超える物資が目の前から消えてしまったのだ、人は理解できないものに怯えてしまうものなのだ。


「化け物か……」


 衛兵の一人が小さくつぶやく。

 俺はつぶやいた衛兵をじろりと睨み返した。

 睨まれた衛兵は怯えた顔をして後ずさりする。

 そして俺の視線から逃れるように仲間の衛兵の影に隠れてしまった。





 広場にいる衛兵たちは微動だにせず恐怖の表情で俺を見ている。

 そんな中、天幕の屋根に掲げられている王国旗だけがパタパタと風にはためいていた。

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