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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
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5.びっくり仰天の事実

 詰め所から開放された俺は、暫し落ち着いて『収納』の中身を調べることにした。




 広場を離れ、大通りを眺めながら道の端にたたずむ。

 まずは『収納』の中の物を確認していこう。

 再び『収納』を開く。

 スーツや革靴に関してはあまりにも異世界では目立ってしまうので、『収納』から取り出すことはもう無いだろう。

 日本で生きた証として大事にしまっておくことにする。


 腕時計、これはまだ動くのだろうか。

 防水機能付きの多機能なタイプ、少々奮発して買った俺のお気に入りの時計だ。

 取り出して調べてみるが何処も壊れたところはなく、今でも使えるようだった。

 時間を確認するため腕時計は必須なので左手に付ける。

 正確な時間はわからないので、正午に時計の針を合わせた。

 当分の間はこれでいいだろう。


 次にスマホがきになる。

 まあダメ元で操作してみようか。

 俺は収納から薄い長方形の機械を取り出して画面をタップした。

 やはり通話は出来ないようだ。

 インターネットにもつながらないようで、スマホとしての重要な機能の部分は完全に使用できなくなっていた。

 当たり前だが異世界と日本は電波でつながっていない。

 そもそも充電することも出来ないので、充電された電気がなくなれば使えなくなるだろう。


 今は懐中電灯代わりに使うことぐらいしか用途はないようだった。

 いや、写真や動画は撮れるな、それにメモ帳の代わりにもなる。

 計算だってできるぞ、意外にスマホは貴重かもしれない。

 闇雲に動かして電池を消耗しても仕方がない。

 俺は電源を落として『収納』にスマホを放り込んだ。

 スマホ依存気味だった日々に別れを告げて、第二の人生を歩むことにした。



 最後は便箋びんせんに書かれた手紙だ。

 これは俺の持ち物ではない。

 はたして何が書いてあるのか皆目見当もつかなかった。

 便箋を取り出し、ゆっくりと書いてある内容を確認していった。




『この手紙を読んでいるという事は、無事に異世界にたどり着けたということですね。突然慣れない世界へ放り込まれて戸惑いがあるかも知れません。しかし気を強く持って生きていかなくてはいけませんよ。スキルを少しお得にしておきました。最大限に活用して生きていってください。あなたに幸多からんことを祈っております。イシリスより』




 手紙の主はイシリスさんだった。


(色々お世話してくれたうえに手紙までくれるなんて、イシリスさんはいい人だなぁ)


 美人で世話好きなイシリスさんに惚れてしまいそうになる。

 しかしもう会うことはないので、とても残念だった。

『収納』の中身は全て調べ終えた。

 次は街の探索をしようと思う。



 空きっ腹を抱えながら大通りを歩いていく。

 なかなか大きな街のようだ。

 人々は生気に溢れ、子供もたくさん駆け回っていた。

 異世界は少子化など起こっていないようだ。

 普通の人々に混じって獣の頭を持った獣人や、耳の細長いエルフ、樽のような体のドワーフなどの姿が見える。

 改めて異世界へ来たことを実感した。


 通りは石畳で馬車が行き交っている。

 歩道との境には溝が掘ってあり、雨水が流れるようになっていた。

 所々に穴が空いていて地下には下水道が流れているようだ。

 なかなか文明が進んでいるようだな。

 異世界はテレビで見たことがあるヨーロッパの町並みに酷似していて、衛生観念もかなり発達しているようだ。

 魔法もある異世界なので、現代日本とは異なる形で文明が発達しているのだろう。


 道の両側には様々な店がのきを連ねていた。

 石作りの建物が多く古めかしい感じから、日本のように地震が多発するところでは無いようだ。

 武器や防具を売っている店、道具屋に錬金術の店。

 食べ物屋などは大通りにはないようだ。

 どこか市場みたいなものがあるのかも知れないな。



 ひときわ大きな建物の前で立ち止まる。

 見上げるとそこは教会のような施設だということがわかった。

 屋根の上に丸に十字架のシンボルが飾ってある。

 高い塔の上には時を知らせる鐘が見える。

 異世界ではどんな神様がまつられているのだろうか。

 少し興味があったので教会に近づいて様子をうかがってみた。


 白い壁は漆喰しっくいだろうか、光沢が美しく日光を受けてひかり輝いていた。

 見上げれば窓にステンドグラスが多用されていて、なかなか豪華に仕上がっている。

 これだけ素晴らしい教会に祀られている神様にさらに興味をいだいた。


 しばらくすると中からシスターらしき女の人が出てきたので少し話を聞いてみた。


「すみません、ここは教会ですか?」


「ええそうですよ、ここは女神教の教会です。誰でもお祈りが出来るのでいつでもいらしてくださいね」


 にこやかに微笑んでシスターが説明をしてくれる。


「少し中を見せてもらってもいいですか?」


「どうぞお入りになってください。私はこれから用事があるので中の者に声を掛けてくださいね」


 シスターは一礼すると通りを横断して行ってしまった。

 見送った俺は教会に静かに入っていく。

 扉を進むとそこは礼拝堂で、石畳の床は磨かれて鏡のようだ。

 室内は明るく、周囲の窓は色とりどりのステンドグラスで覆われていた。

 太陽はいま真上に差し掛かろうとしていた。

 強烈な日差しが、ステンドグラスを通して室内を照らし、光と影を作り出しておごそかな雰囲気をかもし出している。

 大勢の人が座れる長椅子が中央の道を挟んで左右に並んでいた。

 丁度先客は一人も居なくて、オレ一人が教会を独占した状態だった。


「すみません、少し見学させてください」


 入り口付近にいた若いシスターに声をかける。


「どうぞご自由に見学なさってください。祭壇に向かって女神様にお祈りしますと心がおだやかになりますよ」


 紺色の修道服を着込み、頭にはすっぽりと頭巾をかぶっている。

 顔は美形でなかなかのスタイルだ。

 シスターでなければ口説きたいところだが、教会はその様なところではない。


「ありがとうございます」


 にっこりと笑って許可をしてくれたシスターに、俺も一礼をする。

 静かに奥へ進み、祭壇の前に立った。

 祭壇には女神教のシンボルである丸に十字の置物が置いてある。

 供物がたくさん置いてあり、祭壇の後ろには女神様の銅像が飾られていた。

 そこで俺は固まってしまった。


 なぜ固まってしまったのか、それは祭壇の奥に飾られていた銅像が、謎の空間で会ったイシリスさんにそっくりだったからだった。

 スラリとしたスタイル、目鼻立ちがはっきりとした絶世の美女。

 スーツ姿ではなく、ゆったりとした服装を身に着けていた。

 髪の毛は緩やかにウエーブして腰の方まで到達している。

 慈愛に満ちた穏やかな表情をたたえていて、受付をしてくれたときと同じ表情で驚いてしまった。

 あまりに長く俺が立ち尽くしているので、シスターが近寄ってきて説明をしてくれた。


「どうですか、心が洗われる気持ちでしょう? この御方が女神イシリス様ですよ。運命と試練、そして慈愛(じあい)(つかさど)る女神様です。この世界をお作りになった神々の一柱でもあらせられます」


 衝撃の事実をシスターは教えてくれた。

 謎の空間で受付嬢をしていたイシリスさんは女神様だったらしい。

 どうりで綺麗なはずだな。

 女神様とわかっていたらあんなぞんざいな話し方をしなかったのに……。


「ええ、素晴らしいですね。女神様はとても優しい方です……」


 俺はイシリス様から目を離さずにシスターに答えた。


「ふふふ、まるでイシリス様にお会いした事があるような口ぶりですね。しかし女神様がお優しいのは事実ですよ。我々をいつも見守ってくれているのです」


 シスターはとても嬉しそうにしている。

 両膝を付き祭壇に向かう。

 俺が祈りを始めたのを見届けるとシスターは静かに離れていった。

 銀貨を一枚お供えして目をつぶり、女神様に祈りを捧げた。


(イシリス様、知らなかったとはいえ、無礼な態度をしてしまいすみませんでした。精一杯異世界で暮らしていこうと思います)


 長く、真剣な感謝の祈りを終えて俺は立ち上がった。

 晴れ晴れとした気持ちになり教会をあとにする。

 帰り際シスターに一礼すると、彼女は満足そうににっこりとほほえみ返してくれた。





 教会の外に出ると、ちょうどお昼を告げる鐘の音が鳴り響いた。

 俺は清々(すがすが)しい気持ちで大通りを城の方に向かって歩いて行くのだった。

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