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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
49/90

48.多額の出費

「おや、ユウヤ様お帰りですか?」


 工房から店の方へ戻って来るとカラムさんが声を掛けてきた。


「鎧をお買い上げくださったのですね、ありがとうございます」


 満足そうな顔でカラムさんが微笑んでいる。


「こんな性能の良い鎧を格安で譲ってもらえて恐縮です」


「いえいえ、ブライアンが気に入ったお客様なのでお気になさらないでください。とてもお似合いですよ、私の専門は錬金術なので魔法付与の方を鎧に施したくなった折はお安くいたしますよ」


 カラムさんはカウンターからこちらに近づいてきて俺の周りを一周回った。

 新品の鎧を見てとても満足そうだ。


「あの、一つ聞きたいんですがこの鎧に魔法付与をして売り出したらどのくらいするんですか?」


 店にある鎧はどれもこれも高級品なので気になってしまいカラムさんに聞いてみる。


「そうですね……、付与する前の鎧をもし売るならば金貨六枚。魔法付与を施して売れば、種類などにもよりますが軽量化と防御強化辺りを付与して金貨十五枚ぐらいですかね。あまり重ねがけしても金額が高くなりますからそのくらいが妥当でしょうか」


 少し考えた後にカラムさんが教えてくれる。

 その金額の大きさに驚いてしまい声が出なくなる。


「そんな高価な鎧を売ってもらって大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ、誰にでもその値段で売るわけではありませんからね。ブライアンの気に入ったお客様なので特別ですよ」


 カラムさんは安く鎧を売ってしまったことを全く気にしていないみたいだ。


「ありがとうございます、また寄らせてもらいますね」


 カラムさんに挨拶して店を後にする。



 店の扉の前まで来た時、一つ忘れていたことを思い出した。


「あ、カラムさん、一つ思い出したんですが、短剣を一振り売ってもらえませんか? このまえ買ったやつが駄目になってしまったので予備武器がほしいんです」


 振り返ってカラムさんに話しかける。

 カラムさんは「なるほど」と言って近づいてきた。


「確かに予備武器は必要ですね。特に短剣は狭い場所での戦闘に必須ですからなくては困りますよ」


「少し店内を見せてもらえますか?」


 刀剣コーナーを見ながらカラムさんに聞く。


「もちろんですよ、ゆっくりとご覧ください」


 カラムさんは俺を刀剣コーナーへ親切に案内してくれた。

 店の左側は武器を扱っている場所で、きらびやかな長剣や、鋭く尖った槍などが飾られている。

 数日前に来たときは怖くて手に取ることが出来なかった武器をゆっくりと見ていった。



[ミスリルソード…… ミスリルをコーティングした長剣]


[鋼鉄のハルバード…… 長い柄が特徴の槍斧そうふ


[硬鉄鋼の戦鎚せんつい…… 戦闘に特化した金槌]



『心理の魔眼』で一つ一つ確認しながら武器を見ていく。

 刀身が銀色に輝く長剣を持ち上げて構えてみると、バランスが素晴らしくとても軽い剣だということがわかった。

 微かに刀身自体が光を発しているような気がする。


「その剣はミスリル鉱を鋼鉄に被せた魔法剣ですよ。軽量化の魔法を付与しているので女性の戦士に人気です。それから魔法の伝導力がいいので魔法剣士の方にも人気ですね」


 カラムさんはなかなか短剣コーナーへ行かない俺に、嫌な顔をせずに説明をしてくれる。

 ちらりとミスリルソードの名札を見ると金貨四十枚と書いてあった。


(げっ、何だこの値段は! 日本円で四千万円!? 誰が買えるんだ。一流冒険者になれば買えるのだろうか……)


 ミスリルソードの値段の高さに驚いてそっと元の位置に戻す。


「ユウヤ様ならすぐにお買いになることが出来ますよ。その時は勉強させてもらいますね」


 ニッコリと笑っているカラムさんの冗談のような言葉に苦笑いしてしまった。


「こんな凄い武器買える気がしませんが、頑張ってお金貯めますよ」



 目の保養を終えてお目当ての短剣コーナーへ移動する。

 そこにも高価な武器が並べられていて、とてもではないが買える値段ではなかった。


「どれもこれも素晴らしいんですけど今の所持金じゃ買えませんね。金貨一枚ほどでいい短剣ありますか?」


 思い切ってカラムさんに相談してみる。

 もし無いのなら青空市にでも行って粗悪品な中古の武器を買おうと思った。


「大丈夫ですよ、金貨一枚あればベテラン冒険者さんがお求めになられる短剣が買えますよ。魔法付与の剣は無理ですがこれでどうでしょうか」


 カラムさんは迷わずに一振りの短剣を取り出した。

 きらびやかな短剣たちに目を奪われて気が付かなかったが、短剣コーナーの片隅に陳列されていたようだ。



[鋼鉄製の短剣…… 刃渡り四十センチ、名匠が鍛えた一振り]



 ちらりと確認すると数日前に買った短剣とは明らかに違う説明が視えた。

 おそらくだがブライアンさんが鍛えた短剣ではないだろうか。

 刀身が少し短い気もするが、予備で使う予定なので問題ないだろう。


 カラムさんから短剣を受け取り、シャンデリアの明るい光にかざしてみる。

 鏡のように磨かれた両刃の刀身が俺の顔をはっきりと写している。

 しのぎ部分、すなわち刀身の盛り上がっている部分は、かなり分厚く激しい戦闘にも十二分に耐えることができるだろう。

 それとは対照的に刃先部分は薄く、切れ味がかなり良さそうだった。

 一番重要な切っ先は鋭角に尖っており、突き攻撃に最適な形状をしていた。

 これなら俺の戦闘スタイルにぴったりだな。



「この商品はブライアンが鍛えた一振りですから、この間のような短剣のようにやわではないですよ。ドラゴンの鱗にも突き立てられますよ」


 嘘か真かカラムさんのセールストークを聞きながら慎重に吟味していく。

 軽く一振りすると空気を切り裂く小気味良い音が鳴った。

 バランスはもちろん、重さもちょうどよく使い勝手が良さそうだ。

 予備武器で使うには少し惜しい気がするが、肝心なときに武器が壊れないのは重要なことだ。

 俺は思い切ってこの短剣を買うことにした。


「いいですね、おいくらですか?」


「そうですね……、先日お売りした短剣が駄目になった保証を兼ねて銀貨九十枚に負けておきますよ。この短剣ならばよほどのことが起こらない限り壊れませんから安心してください」


 カラムさんは中古の短剣を売ってしまったことを気にしていたようだ。

 別に短剣が曲がってしまったのはカラムさんのせいではないのに悪いことをしてしまったな。

 所持金は残り金貨一枚と銀貨五十七枚。

 少しでも安くしてもらえるのはありがたい。


「じゃあ買いたいと思います」


 俺は無限収納から金貨一枚を取り出してカウンターに置いた。

 カラムさんは金貨を取り上げると、お釣りの銀貨を前掛けのポケットから取り出した。


「毎度ありがとうございます。さやの方を今持ってきますから待っていてください」


 精算を済ませるとカラムさんは嬉しそうに店の奥に消えていった。

 短剣は抜身のままで飾られていたので鞘は別のところにあるようだ。

 俺が払った金額は合計で金貨五枚だが、『カラム&ブライアン武装店』の売上的にはどうなのだろうか。

 日本円で五百万円の売上なのだから結構良い金額だと思うのだがな。



 暫く待っていると革の鞘にしっかりと収まった短剣を持ってカラムさんが戻ってきた。

 新品の鞘は二枚の厚革を張り合わせたタイプで、びょうで留めてあるシンプルな物だ。

 まだ誰も使っていない武器はやはりいいものだ、嬉しくなって笑顔になってしまった。


「試しに腰に挿してみてはどうですか? しっかりと装備できるように調整しますよ」


 カラムさんが提案してくる。


「是非お願いします」



 俺の返事を聞いたカラムさんが嬉々として腰に短剣を取り付けてくれた。

 短剣は鎧の後ろ部分、ちょうど腰の後ろに横向きで装着してある。


「どうですか? これなら咄嗟とっさの時に素早く抜いて攻撃できますよ」


 腰にしっかりとベルトで固定された短剣は邪魔な感じが全くしない。


(さすが武装店のプロだな、これなら武器をいちいち『無限収納』から取り出さなくても使えるぞ)


 店の一角にある姿見で確認すると、我ながら冒険者の風格が少し出てきたことに気づいた。

 高価な鎧や武器を装備すると相手になめられずに済みそうだな。


「とてもお似合いですね、これならベテラン冒険者に間違われてしまいそうですね」


 カラムさんのセールストークも絶好調だ。

 とても気分がよくいい買い物ができた。



「ありがとうございました。また寄らせてもらいますね」


 今度こそ店を後にする。

 大きな買い物をしてしまったが全く後悔はなかった。


「またいつでもいらしてください、お待ちしておりますよ」





 店の前までカラムさんが出てきて見送ってくれた。

 俺は軽く会釈をして大通りを広場に向かって意気揚々と歩いていくのだった。





 ー備考ー


 ユウヤの所持金残高 銀貨六十七枚、銅貨多数


 有意義な買い物でしたが、ユウヤは所持金の大半を使ってしまいました。

 計画性が無いことがユウヤの欠点なようです。

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