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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
48/90

47.新しい鎧


 応接間から更に裏手へ続く廊下の左右の壁際に、鉄くず同然の武器や防具がうず高く積み上がっていた。

 窓のない一本道の通路はブライアンさんの工房へ続いているのだろう。

 その乱雑な通路を歩いていくと空気が少しずつ暖かくなっていった。

 明らかに廊下の奥に熱源がある。



「どうですか、暗い廊下でしょ? ブライアンには窓をつけろといつも言っているのですが、頑固者なので窓をつけようとしないのですよ。暗いほうが落ち着くと言ってきかないのです」


 カラムさんは苦笑いをしながら俺を案内してくれている。

 しかし俺は『暗視』スキル持ちなので全く暗くなかった。



 細い廊下の終点には無骨で重そうな木の扉があった。

 何の変哲もない扉だが、年季だけは入っていて黒光りしている。

 その扉が少しだけ空いていて中から熱気が吹き出していた。

 先行しているカラムさんはなれた手付きでその扉を大きく開いた。


 次の瞬間、熱風が大きな塊になって廊下を吹き抜けた。

 じっとりと首筋に汗が滲んでくる。

 中に入ってみると室内は高温で、鍛冶場の炉が赤々と炎を上げていた。

 窓の一切ない奥に細長い部屋、換気はきちんとされているらしく有毒なガスなどは発生していない。

 しかし、真夏の炎天下よりも熱い空気が、呼吸をすることを困難にしていた。


「だいぶ暑いですね」


 思わずカラムさんに話しかけてしまう。


「慣れない方は一時間もとどまっていられない場所ですよ。私も実は苦手でしてね、滅多にここへは足を踏み入れないのですよ」


 カラムさんは説明をしながら奥へ進んでいく。

 部屋の壁には長剣や短剣、金属製の鎧などが所狭しと飾られていた。

 表の店にあるきらびやかな武具ではなく、落ち着いた感じの物が多いようだ。


「ユウヤ様は暗いところが得意なようですね。この暗闇の中をつまずきもせずに歩ける方はそう居ませんよ」


 俺が床に置かれた金槌や作りかけの防具の部品を、苦もなく避けて歩く姿にカラムさんが驚いている。


「昔から目はいいほうなんですよ」


 適当に答えて誤魔化す。

 むやみに暗視スキルを持っていることを教える必要もないからな。




「おい、早くこっちに来い」


 キョロキョロとあたりを見渡していると、工房の奥からブライアンさんの呼ぶ声が聞こえてきた。

 なかなかやって来ない俺にしびれを切らしているようだ。

 慌てて奥へ進んでいくと、放射熱を盛大に放ちながら鉄を溶かす炉が右手に見えた。

 炉の横にはうず高く石炭が積まれていて足元には金床が置いてあった。


 ドーム状の天井は真っ黒くすすけている。

 石炭の横には様々な種類の地金インゴットが積まれていた。


 ブライアンさんは工房の一番奥の一角に座っていた。

 使い込まれた椅子と机が置いてあり、机の上には武器や防具の設計図らしき丸められた紙の束が山盛りになっていた。


「やっと来たな、そこに座るんじゃ」


 空いている椅子を指し示してブライアンさんが言う。

 俺は言われるままに椅子に座り、ブライアンさんを見た。


「じゃあ私は店の方へ戻りますね。ユウヤ様、ごゆっくりどうぞ」


 俺を案内し終えたカラムさんが軽く会釈をした後に早足で去っていった。

 暑いところが苦手だと言っていたから逃げ出したのだろう。

 遠くの方で扉を閉めるバタンという音が聞こえてきた。

 鉄を熱する炉だけがあかあかと光っている、部屋の中は更に気温が上がっていった。



「随分暗いところで仕事をしているのですね」


 机を挟んで座っているブライアンさんに話しかける。


「儂らドワーフは本来なら山の穴蔵で暮らしている種族じゃからな。暗闇でもよく見えるんじゃよ。そういうお前さんもきちんと見えているようじゃな、おおかた暗視スキルを持っておるのじゃろう、儂の目は誤魔化せんぞ」


 その答えに俺はびっくりしてしまった。

 なぜ俺が暗視スキルを持っていることがバレてしまったのだろう。

 キッドさんがバラしたとは思えないので訳がわからないな。



[名前……ブライアン・アイアンフッド 種族……ドワーフ 職業……鍛冶かじ師 スキル……『名匠』『頑強』『暗視』『身体能力向上』]


 ブライアンさんのステータスを視てみるが、特に変わったことはなかった。

『心理の魔眼』みたいな透視スキルを持っているかと思ったが、持っていなかったのでほっとする。

 スキル欄に見知らぬスキルがあったのでついでに視てみる。



『名匠は優れた職人に発現するスキルです。たゆまぬ努力と長年の研鑽でまれに取得できます』


『頑強は常時発動スキルです。特に身体が強い者に発現します』



 ブライアンさんはなかなか良さそうなスキルを持っているようだ。

 ドワーフ鍛冶師のイメージ通りの人だな。



「なぜ俺が暗視スキルを持っていると思うのですか?」


 不思議に思ったので直接聞いてみる。


「なあに勘じゃよ、人間種で暗闇を普通に歩ける者は大概暗視スキルを持っているものじゃよ」


 なるほど、こういったことから相手のスキルを予想できるのか。


「それより鎧を買いに来たのじゃろ。そこに置いてある鎧を持っていけ、代金はさっき言った金額でいいぞ」


 ブライアンさんは俺の後ろを指差して鎧の話をしてきた。

 振り返ってみると壁際に一着の革鎧が鎧掛けに掛けてあった。

 

 その鎧はひと目見ただけで初心者冒険者では手が出ない高級品だということがわかった。

 丁寧になめした革鎧に所々金属のプレートが貼り付けられている。

 そのプレートは急所を守るようになっており、動きを阻害する事はなさそうだ。

 プレートには細かな意匠が施されており、表の店で売れば相当な値段になる代物だった。


「あの……、とても金貨四枚では買えない鎧だと思うのですが」


 俺はブライアンさんがなぜ高価な鎧を売ってくれるのかわからず戸惑ってしまった。


「まあ先行投資じゃな、キッドがお前さんをべた褒めしていたから儂も興味が湧いただけじゃ。それにその鎧はまだ魔法付与していない前の物じゃから、お前さんが想像しているほど高価ではないぞ」


「魔法付与ですか?」


「そうじゃ、高価な鎧には大体において魔法がかかっておるのじゃ。軽量化じゃったり防御力増大じゃったりいろいろじゃがな。その革鎧は付与する前の物じゃからそれほど高くはないのじゃ。魔法付与に関してはカラムが専門じゃから儂はあまり詳しくないがな」


 ブライアンさんの説明を聞いて納得はしたが、それでも高価な鎧には違いないのだ。

 その鎧をさっき会ったばかりの俺に気前よく売ってくれるのはおかしいのではないだろうか。


「本当に買わせてもらってもいいのですか?」


 正直この鎧はほしい。

 初心者用の革鎧ではこの先冒険するのに心もとないのだ。


「ほれ、さっさと着てみるのじゃ。儂が調整してやろう」


 俺がグズグズしているのを見かねてブライアンさんが立ち上がった。

 ズンズンと鎧に近寄っていくと鎧掛けから革鎧を持ち上げた。


「少々重いがお前さんなら大丈夫じゃろう。その初心者鎧を脱いで早く着てみるのじゃ」


 俺に近寄ってきたブライアンさんが催促してくる。


「わかりました。着てみますね」


 ブライアンさんの圧力に負けて革鎧を装備してみる。

 装備してみると今までの初心者用の鎧とは全く別物で驚いてしまった。

 どっしりとした着心地で、少々重いが防御力は段違いに高そうだ。

 その重さも『身体能力向上』スキルが有る俺には全く問題にならないほどの重さだった。

 金属プレートが胸の部分や腹の部分、首筋部分などに使われていて、これならゴブリンの攻撃ぐらいなら跳ね返してしまうだろう。

 硬い革が少々体に当たるがこのくらいなら我慢ができそうだった。


「どうじゃ、きつくはないか? きついなら留め金部分を直してやるぞ」


 ブライアンさんは俺に鎧を着せてところどころ微調整をしている。

 調整するたびにどんどん違和感がなくなっていき、体にピッタリ吸い付くような着心地になっていった。

 微調整が終わると今まで装備していた革鎧よりも格段に身体にフィットして動きやすくなった。

 さすが本職の調整は凄いと感心してしまう。



「凄くいいですね! 今までの鎧とは全然着心地が違いますよ!」


 興奮して大きな声が出てしまう。

 それほど違いが大きすぎて感情を抑えることが出来なかった。


「気に入ったなら何よりじゃ、また金を稼いだら来るがいい。次は割引せずに買ってもらうぞ」


 満足そうにブライアンさんが言う。


「はい! 絶対買いに来ます! それからこれ、代金です」


『無限収納』から金貨四枚を取り出してブライアンさんに差し出す。


「お前さん収納持ちなのか、やはり儂の目に狂いはないようじゃな」


 ブライアンさんは金貨を受け取ると満足そうにうなずいた。





 それから少しだけブライアンさんと話をした。

 キッドさんのことを聞いたり、南の森を探索した時の話をしたり。

 ブライアンさんは顔に似合わず面白い人で、すぐに打ち解けてしまった。

 かならずまた来ることを約束して工房を後にするのだった。





 ー備考ー


 ユウヤが購入した革鎧


[厚革こうかくの革鎧…… 硬い革を幾重にも重ね、金属プレートを急所部分に貼り付け強化した高価な革鎧]

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