46.気に入られたようだ
「では拝見します」
真剣な表情でカラムさんはゆっくりと短剣を鑑定し始めた。
手に持った瞬間、カラムさんはすぐに短剣が使い物にならないほど損傷していることを見抜いたようだ。
それでも俺には質問をせず、ゆっくりと鞘から短剣を取り出そうとした。
しかし、短剣の刀身は鞘の中で曲がっているので簡単には抜けない。
小さな体のカラムさんは勢いをつけて思いっきり短剣を引き抜いた。
「これはまた……、派手に壊れましたね。失礼ですがどのような使い方をされたのですか? ゴブリン一匹と戦闘をした程度ではこれほど損傷することはないはずですが」
じっくりと短剣を鑑定した後で、困惑した表情をしたカラムさんが聞いてきた。
新参でブロンズランクの冒険者である俺が、まさか森の奥深くに分け入って森林狼や大量のゴブリンたちと戦闘をしたとは思わないだろう。
どこまで話そうか迷うが、ギルドにも報告してあるので正直に話してしまってもいいのではないだろうか。
「実はクエストで南の森のゴブリン狩りをしたんですよ。そのときに森林狼と戦闘になりまして、十匹ほどその武器で倒しました……」
「ええっ!? この武装で南の森の深部まで行ったのですか!? にわかには信じられませんよ。失礼ですが、自殺行為ですよ! からかうのはやめてもらえませんか?」
俺の話を遮ってカラムさんが口を挟んできた。
俺が嘘を言っていると思い憤慨しているようだ。
確かにカラムさんが怒るのも仕方がないとは思う。
このミュンヘル周辺にはゴブリンですら滅多に姿を現さないのだ。
ましてや森林狼なんて、相当な森の奥地へ行かなくては遭遇しない敵だった。
しかし俺は嘘を言ってはいない。
『無限収納』から戦利品であるゴブリンの魔石を数個取り出す。
更に森林狼の大きな肉の塊を取り出した。
「信じられないかもしれませんが、俺が言っていることは全て本当のことです。この肉は狼たちを解体して手に入れました。この魔石はゴブリンたちの体内から取り出したものです」
ギルドには全ての魔石を売ったわけではない。
カンテラの燃料用や、もしもの場合に備えて少量だけ残しておいたのだ。
更に狼の肉も自分で食べる用に少量だけ取っておいた。
美味しい肉なので少しずつ大事に食べる予定なのだ。
『無限収納』から証拠の品々を取り出した俺を見ながらカラムさんが口を開けている。
驚いた表情をしていて固まってしまったようだ。
「ユウヤ様、疑ってしまい申し訳ありませんでした」
テーブルに額を付けてカラムさんが謝罪してくる。
自分から話を聞かせてほしいと言ってきたのに、俺のことを非難するなんて考えてみれば失礼な話だ。
しかし俺は大人の対応をした。
「別にいいですよ。俺としては短剣を修理してもらえるか教えてもらえればそれでいいです」
テーブルの上に置かれている短剣を見つめながら話す。
「はい、早速ドワーフに査定をさせたいと思います。少々お待ち下さい」
平謝りをしながらカラムさんが奥に消えていく。
俺はどっと疲れてしまいソファーにもたれかかった。
暫く待っているとカラムさんが戻ってきた。
カラムさんの後ろからやけに横幅のある体型の男が部屋に入ってくる。
ひげで顔中が隠れていて背丈は俺の肩ぐらいしかなさそうだ。
革の前掛けにごついブーツを履いていて、グローブのように分厚い手のひらをしていた。
鋭い眼光で俺のことを値踏みしている男は、その手に俺の短剣を握りしめている。
カラムさんがその男のことを俺に紹介してきた。
「このドワーフが共同経営者のブライアンです。ユウヤ様と一度お話したいと言ったので連れてきました」
カラムさんは手短に男のことを説明した。
ブライアンさんは紹介された後もむっつりと黙ってこちらを睨んでいる。
「こんにちは、ユウヤといいます」
変な間に耐えきれず俺から話しかける。
「……ブライアンじゃ。お前さん見たところ初心者冒険者ではないな、武器もきちんと扱えるはずじゃ。どうしてこの短剣がこんなになったか詳しく聞かせてくれんか」
ブライアンさんは見ただけで俺が並の冒険者ではないことを言い当てた。
たしかに俺はただの初心者冒険者ではない、スキルを大量に所持しているスーパー初心者冒険者だ。
流石にステータスを看破したわけではないだろうが、ひと目見ただけでそのことを言い当てたブライアンさんは只者ではないだろう。
「カラムさんにも説明したのですが、南の森の奥深くに探索に行ったのですよ。もちろん一人で行ったわけではありませんがね、森林狼を十頭ほどとゴブリンを数十匹、後はスライムを多数倒しました。短剣の扱いが未熟だったので、今回の探索で使い物にならなくなってしまったのです」
俺の説明を黙って聞いているブライアンさん。
先程の説明のときにカラムさんは途中で口を挟んできたが、ブライアンさんは最後まで口を挟んではこなかった。
「ふむ、ゴブリン数十匹か……。大体の事情はわかった。結論から言うとこの短剣はもう使い物にならんよ。それにその革鎧もお前さんにはふさわしくないな」
考え込んでいたブライアンさんは、俺の説明をすんなりと受け入れた。
そして俺の知りたいこともちゃんと教えてくれた。
残念だが短剣は直らないようだな。
「ところでその剣はどうしたんじゃ? お前さんが買える品ではないと思うが」
先程からブライアンさんが俺の武器をチラチラと見ていることは分かっていた。
キッドさんからもらった長剣がどうやら気になるらしい。
「これですか? これは今回のクエストでお世話になった伐採所の隊長にもらったのですよ。キッドさんという方ですが知っていますか?」
キッドさんはゴールドランクの冒険者だ。
それなりに名は通っていそうなので聞いてみた。
「ああ、よく知っているとも。キッドは昔からの馴染みでな、その剣も儂が作ったものじゃよ。お前さんキッドによほど気に入られたようじゃな」
ブライアンさんは少しだけ表情を緩めると懐かしそうに語った。
まさかこの長剣の作者だったとは知らなかったので驚いてしまう。
「そうだったのですか。キッドさんにはかなりお世話になりましたよ。昨日まで一緒だったのですがギルドに報告して別れました」
「ああ知っとるよ、昨日キッドが顔を見せたからな。詳しくは聞いていないが生きのいい新人冒険者と知り合いになったと言っていた。きっとお前さんのことじゃろうよ」
俺の話を嬉しそうに聞いていたブライアンさんは大きくうなずいた。
「たしか防具を新調したいと聞いたが、お前さん今いくら持っているんじゃ」
ブライアンさんは俺の懐具合を単刀直入に聞いてくる。
ぶっきらぼうな物言いだが別に不快ではない。
「予算は金貨四枚くらいですね。それで鎧を買いたいと思います」
俺が予算を告げると隣でおとなしく聞いていたカラムさんが嬉しそうな表情をした。
ブライアンさんは黙ってなにか考えている。
「よし、一緒に裏の工房へ来い。お前さんにふさわしい鎧を見繕ってやろう」
そう言うとブライアンさんは立ち上がって奥へ消えていった。
カラムさんは驚いた表情をしている。
「ブライアンはユウヤ様を余程気に入ったようですね。工房へ客を入れることなど滅多にありませんよ。さあ、足元に注意して私についてきてください」
ソファーから勢いよく飛び降りたカラムさんは、俺を見上げながら説明をしてきた。
俺はソファーの横に立てかけておいた長剣を手に取ると、ゆっくりとした足取りで工房へ続く暗い廊下を進んでいくのだった。




