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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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45.目利き

 冒険者ギルドを出ると、ギルド前はあれほど冒険者で溢れかえって居たにもかかわらず人影がまばらで、往来の平民たち意外見当たらなかった。

 冒険者たちはクエストを達成するために街の内外に散らばったようだ。


 大通りには街の中心に向かって辻馬車が走っているが、誰も乗っていなくて空車だった。

 おそらく街の中心から客を乗せて移動した後の回送なのだろう。

 少しだけ乗ってみたいと思ったが、お金を節約しなくてはいけないと思い直して我慢をした。



 ゆっくりとした足取りで、背の低いノームが営んでいる高級武装具店『カラム&ブライアン武装店』に向かう。

 カラムさんの店は品揃えが確かで、王都でも有数の武器防具店だ。

 職人のドワーフであるブライアンさんが、店の裏手で大半の商品を作っているらしいが、あの店内の高価な武具を作れる職人だなんて凄い人だと思う。

 どうにかして会ってみたいものだ。


 今回店に向かう目的は、ぼろぼろになった防具の新調と短剣の修理だ。

 俺は金貨一枚という決して安くない値段で武装一式を買ったのだが、伐採所クエストでの激しい連戦で、短剣がおしゃかになり防具も穴だらけ、数日経たないうちに使い物にならなくなってしまった。

 別にクレームを付けに行こうと言う訳ではないが、買ったばかりなので安く修理をしてもらえるかもしれないし、ゴブリン退治で大金も稼ぐことができたので、金属製の防具を新調しようと思ったのだ。


 先日は店が開いていなかったが今日はどうだろう。


(まあ、開いていなかったら明日にでも行けばいいからそれほど気にしなくてもいいな)


 気楽な気持ちでフラフラと通りを歩いていく。

 家具を売る店や洋服を専門に扱う店、雑貨を売っている店など大通りにはいろいろな店が立ち並んでいた。

 そのどれもが高級店で、庶民が気軽に入店できる雰囲気ではない。

 さすが王都のメインストリートだと関心をしてしまった。



 そう言えば王都に住む一般の人々は、どのような暮らしをしているのだろうか。

 賃貸物件や家屋の購入、土地などは売ってもらえるのだろうか。

 不動産屋さんなどがあれば詳しい話を聞いてみたいと思う。

 まだまだ異世界について知らないことばかりで、もっと多くの情報を入手しなければならないと思った。



 そんな事を考えながら歩いていると、斜向はすむかいに目的の店が見えてきた。

 石畳の大通りを横切り、『カラム&ブライアン武装店』に到着する。

 扉の前で身なりを正し、ドアノブを回して店内を覗いた。

 するとシャンデリアが店内を明るく照らしていて、お店がきちんと営業していることがわかった。

 少しだけホッとして店の中に入っていく。

 奥に長い店内の一番奥のカウンターに店主であるカラムさんの姿を見つけた。


「カラムさんこんにちは」


 カウンターに近づきながら声を掛けた。


「おや? お客様は先日おいでになられた方ですね。いらっしゃいませ、今日はどのような御用でしょうか?」


 カウンターで何やら書き物をしていたカラムさんが顔を上げてこちらを見た。

 俺の顔を覚えていたらしく、ニッコリと笑って歓迎してくれる。


「実はギルドのクエストを達成して少しばかりお金を稼ぐことができたんで防具を新調しようかと思い来たんですよ」


「おお! それはそれは良うございましたね。数日で防具を新調なされるとはよほど実入りの良いクエストを受注なされたのでしょうな。そして見事に達成なされた。素晴らしいことです!」


 俺が防具を買いに来たためか一層笑顔になってカウンターから出てきた。

 相変わらず俺の腰までの背丈しか無く、見下げて会話をすることに少しだけためらってしまう。

 必然的にカラムさんは俺を見上げる形になるが、一切気にしていないようなのでこんなものなのだろう。



 俺の体をなめるように見ていたカラムさんが、ニッコリとした表情から一転して深刻な顔になる。


「お客様……、失礼ですがその革鎧に空いた大穴はどうなされたのですか?」


 恐る恐るという感じでカラムさんは尋ねてきた。


「いや、ちょっと戦闘でこしらえてしまった穴なんですよ。思ったより敵の攻撃が強くて避けられませんでした」


「これは槍で突かれた傷ではないですか? それも相当な深手を負ったはずですが……」


 カラムさんは俺の周りをゆっくりと回りながら背中に空いたもう一つの穴も見逃さなかった。

 俺を見上げているカラムさんは、ますます深刻な顔になっていって顔色が悪い。


「あの……、よろしければ奥でお話をお聞かせ願えませんか? その革鎧を売った手前、どうしても事情を聞かせてほしいのですが。お時間の方はよろしいでしょうか?」


「ええ、まあいいですけど。あまり面白い話ではないですよ?」


 あまりにカラムさんが豹変してしまい、少々面食らってしまった。


「ではこちらへお越しください、足元が暗いのでお気をつけてくださいね」


 小人であるカラムさんの後ろをゆっくりとついていく。

 カラムさんは小走りに走りながら店の奥へ俺を案内していった。




 店の奥にはこぢんまりとした部屋があり、ソファーとテーブルが備え付けられていた。

 周りにはきらびやかな魔道具や、超高級そうな刀剣がガラスケースに飾られている。

 推測するにここは上客を接待するための応接室のような所なのだろう。


「どうぞおかけになってください。今お飲み物をお持ちします」


 カラムさんはせかせかと奥に引っ込んでいった。

 俺は一人応接室に残され、貴重な品々を眺めながら彼が戻ってくるのを待つのだった。




「おまたせしました。熱いのでお気をつけください」


 トレーに乗せた金属製のカップになみなみと注がれたメンドル茶をカラムさんが持ってきた。

 カラムさんはこぼさないように慎重な手付きでテーブルの上に置いた。


(うわっ! またメンドル茶が出てきた! この世界にはこれ以外の飲み物はないのか!?)


 心の中で毒付くが一切顔には出さない。


「ありがとうございます。いただきます」


 飲まないのも悪いのでカップを口に持っていって飲むふりをする。

 鼻先に青臭い香りが漂ってきてとっても不快だ。

 すぐさまテーブルにカップを戻すとカラムさんの顔を見た。



「お客様のお名前をお伺いしていませんでした。よろしければお教え願えませんでしょうか」


 向かいのソファーに腰掛けたカラムさんは深々とお辞儀をしてくる。


「ユウヤです。この街に来たばかりの新参冒険者ですがよろしくおねがいします」


 丁寧に自己紹介をして俺も頭を下げた。


「ではユウヤ様、早速その槍傷やりきずのことを教えてもらえますか?」


「ええ、この傷は南の森でゴブリンと戦闘になりまして、そのときにやられたものです」


「見たところ穴の位置から一撃で付けられたものではないですか? 脇腹を貫通して背中まで達する攻撃を受けたと推察いたしますが?」


 カラムさんは驚くべきことに正確な槍による傷を言い当てた。

 伊達に防具を売っている商人ではないようだ。

 大して考えもせずこの店に来てしまったが、少々まずいことになってきたようだ。


「まあそうなんですよ。なんとかゴブリンを退治して連れの僧侶に治療をしてもらったんですよ」


 とっさに嘘を言ってその場をごまかす。

 まさかキッドさんに続きカラムさんにまで俺の秘密をばらすわけにもいかない。


「そうですか……、このような致命傷を受けて絶命しなかったと言う事は、ユウヤ様はとても運がお有りのようですね。本来ならば突き刺されたショックで即死しても不思議ではないでしょう」


 多少疑問は残るが納得したようで、カラムさんは深くうなずいている。

 カラムさんの見立ては大したものだ。

 確かにスキルがなければ今頃森の片隅で腐乱死体になっているはずだからな。


「武器の方も先日お売りした物とは変わっておりますが……」


 ソファーの横に立て掛けておいたブロードソードを遠慮がちに見たカラムさんが質問をしてくる。


「実はそのこともこちらに来た理由でもあるんですよ。ちょっと見てくれますか?」


 俺は『無限収納』からカラムさんに売ってもらった『なまくらな短剣』を取り出した。

『クリーン』の呪文で新品同様に手入れはされているが、もう使い物にならない短剣をカラムさんに差し出す。





「では拝見します」


 真剣な表情でカラムさんはゆっくりと短剣を鑑定していくのだった。

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