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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第二章~新人冒険者~
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44.新人冒険者

 エイシス王国、王都ミュンヘルの朝は早い。

 人々はまだ薄暗い夜明けから起き出し活動を開始するのだ。

 街の中心部を南北に貫いている大通りを忙しげに人々が往来している。

 新鮮な野菜を満載した荷車を、仲良く青空市まで移動させている商人風の夫婦。

 農具を担いで歩くのは、ミュンヘルの郊外で農業に従事している人々だろう。

 大通りには朝霧がまだ漂っていて視界は良くないが、皆一様にして早足だった。



 その集団の中で目立っているのは、なんと言っても冒険者だろう。

 三人から五人ほどの集団が多く、みな思い思いに武装している。

 鉄板で補強した革鎧を着込んで長剣を腰に挿している戦士風の大男や、軽装備で足取りが軽いシーフ職の女性。

 目深にフードを被り長い杖を手にしているのは魔法使いだろう。

 それぞれのパーティーで固まって雑談をしながら歩いているが、目指す先は誰も同じ場所だった。


 冒険者達が目指している場所は、ミュンヘルで一番活気がある冒険者ギルドだ。

 その日暮らしの冒険者たちの日課は、朝一でのクエストの取り合いだった。

 割の良いクエストを受注できれば今夜の酒の量が増え、酒場で頼める料理が一品増えるのだ。

 刹那的に生きる彼らは我先にギルドへ向かい、ライバルたちを出し抜いて優良なクエストを獲得しようとした。

 したがってギルドへ近づくにつれて、冒険者たちは殺気立っていく。

 その流れに紛れて俺もギルドへ向かって移動していた。




 お城に近い一等地にそびえ立つ四階建てのギルドが前方に見えてきた。

 無骨な石造りでかなり年季が入っている。

 すでに冒険者たちでギルドの入口付近は渋滞が起きている。

 所々では怒鳴りあいの喧嘩まで勃発していてかなり殺伐としていた。


 俺はその冒険者達をかいくぐって入り口へ近づいていった。

 ベテランと思しき強面の男たちがこちらを睨んでいるが、気にせずにズンズン進んでいく。

 真っ暗なゴブリンの巣穴に潜っていくことに比べれば、ここにいる冒険者たちなど大した脅威とは思えなかった。

 睨んでいる男たちに向かってこちらも睨み返す。

 男たちは俺の気迫に押されて素早く目線を外し、ちょっかいを掛けることを止めたようだ。

 数日前の俺なら男たちの威嚇に恐怖を感じて逃げ帰ってしまったかも知れない。

 しかし今の俺はスキルのおかげもあって心に余裕ができていた。



 俺がギルドへ来た目的は、キッドさんに教えてもらった『超越者』のことや、王国や大陸の情報を取得するためだった。

 昨日のうちにキッドさんとは別れていて、今朝は一人での行動になっていた。


 昨日の早い時間に王都へ戻ってきた俺は、キッドさんとともにギルドへ向かった。

 そしてゴブリンの魔石などを換金したわけだが、その金額は思ったよりも大金になった。

 ゴブリンだけでも五十匹以上倒したので当たり前だが、全て精算してみれば俺の取り分は金貨三枚と銀貨五十七枚あまりになった。

 この金額は、森林狼の毛皮や肉、スライムの魔石や薬草などすべてを入れての金額だ。

 特に森林狼の毛皮が高額買取だったことが幸いした。

 イシリスさんにもらったお金が金貨二枚ほど残っていたので、合計して金貨五枚に銀貨五十七枚、そして銅貨が沢山。

 日本円にして五百五十七万円という大金が手元にあることになる。


 この後、武具を新調するつもりなので大半が無くなってしまうと思うが、わずか数日で稼いた金額にしては上々の成果だと思う。

 普通ならばこれほど短期間に大金を稼ぐことなどできないだろう。

 これは全てキッドさんのおかげなのだ。

 丁寧に冒険の仕方を教えてくれたばかりか、討伐報酬の取り分も平等にしてくれた。

 いい人に巡り会えて俺はラッキーだったと思う。

 そのおかげで思わぬ大金を手にできてしまい、しばらくは余裕を持って暮らしていけそうだった。




 冒険者でごった返しているエントランスを素通りして二階へと階段を登っていく。

 エントランスは明るいが、階段は薄暗く足元は見えづらい、そんな中をしっかりとした足取りで登っていった。

 二階まで吹き抜けになっているので、冒険者達が掲示板に群がっているのがよく見えた。


 薄暗い廊下を奥へ進んで行くと、図書室と書かれた看板が貼り付けてある扉が見えてきた。

 昨日のうちに図書室を使う許可はとってあるので、ここまで誰とも話してはいない。

 扉を開けて中へ入ると案の定誰もいなかった。

 冒険者たちはせっかくの情報源がただで手に入る環境があるにもかかわらず、誰も熱心に図書室へ来ることはないようだ。

 貸切状態で調べ物が出来るので俺としては嬉しいのだが、もったいないことだな。



 窓際の一部を除き全ての壁には本棚が設置してあり、所狭しと分厚い本が並んでいる。

 貴族の年鑑から料理本まで、多様なジャンルの書籍を一冊ずつ手にとって調べていった。


 この大陸にある国の情報や、どの国と国が敵対しているかなどを調べていく。

 意外なことにこの大陸には小国が多く、小競り合いなどを頻繁に行っているようだ。

 その中でエイシス王国は大国の部類に属していて国力もかなりあるようだった。

 この国にいる限りは滅多なことでは他国からの侵略などはないだろう。

 少しだけ安心して更に情報を吸収していくのだった。




 お目当ての『超越者』に関して書かれている本はあまり多くなかった。

 その少ない本も子供が好きそうな物語が大半で、専門的に解説している本は一冊もなかった。

 仕方がないので数冊の物語を手にとって中央のテーブルへ移動する。


 図書室の中央には大勢が一度に座ることが出来る長テーブルと長椅子が設置してあった。

 丁寧に掃除はしてあるが、古めかしくざらついた長椅子に腰掛けて、テーブルに本を置く。

 一冊ずつ表紙を開いてゆっくりと読み進めていった。



 物語の内容は、選ばれし勇者が仲間たちと共に魔王を倒すという極ありふれたものだった。

 その中で勇者はチートスキルを駆使して敵の軍勢をなぎ倒したり、不思議な力で仲間たちを守ったりした。

 全ての物語で共通する点は、勇者たちに力を与えたのが女神イシリスだということだ。

 これらの物語は女神教の素晴らしさを教えるための教本だと思う。

 どこまでが本当の出来事なのか疑わしいものだった。


 結局キッドさんが教えてくれたこと以上のことはわからずじまいだった。

 その中で一点だけ、興味深い記述を図書室の本棚から発見することができた。

 それは王国の歴史を記した書物に書かれていたのだが、エイシス王国を起こした初代の国王はどうやら『超越者』らしいとのことだ。


 もちろん今では亡くなっていて会うことは出来ないが、『超越者』の末裔である王族に話を聞く機会があれば、もっと詳しいことがわかるかも知れなかった。

 しかし、何のコネもない平民の冒険者が、貴族に会うことなど夢のまた夢なので、実質『超越者』の情報を調べることはここで行き詰まることになった。


 まあ、予想はしていた結末なのでそれほど落ち込みはしない。

 明日からは新しいクエストを受注して真面目に仕事をすることにしよう。




 図書館を後にして一階のエントランスへ降りていく。

 朝一に行われた冒険者たちのクエスト争奪戦は一息ついたらしく、エントランスにはまばらにしか冒険者は居なかった。

 その冒険者達も今日は休みの者が多く、併設された酒場で早くも酒盛りが始まっていた。

 ちらりと受付の方を見ると街の衛兵たちが何やら受付嬢と話をしていた。

 受付嬢は俺のお気に入りのトリシアさんだ。

 なにか揉め事なのかと思って聞き耳を立てるが、ガヤガヤしたエントランスの中では会話までは聞こえなかった。

 トリシアさんの表情は至って普通なので厄介事ではなさそうだ。

 興味も失せたのでクエスト確認のために移動することにした。



 掲示板に近寄っていく。

 掲示板の周りには、朝一でのクエスト争奪戦に参加できなかった新人冒険者しか居なくて、なれない様子でブロンズ帯クエストを真剣に見ていた。

 俺も冒険者になって数日しか経っていないので、新人冒険者と言っていいだろう。

 彼らに混じって掲示板をゆっくりと見ていった。



【ブロンズ帯クエスト】


[薬草採取……常時依頼クエスト 依頼主……ミュンヘル商業ギルド]


[荷物運び……倉庫整理の運搬作業の依頼 ※賃金等は要相談]


[ゴブリン駆除……常時依頼クエスト 依頼主……冒険者ギルド]


[下水に巣食う大鼠の駆除……ミュンヘル商業ギルド ・駆除個体数で報酬を出します]


[都市警備隊の下働き……雑用係募集、警備隊への登用有り]



 別段変わったクエストは無いようだ。

 俺が受注した『森林警備の助手』のクエストは掲示板からなくなっていた。

 キッドさんはもう伐採所に戻ったのだろうか。

 ジェシカちゃんやヘザーさんは元気にやっているかな。

 少しだけ懐かしくなってしまった。





(さて、ギルドにはもう用は無いな、次はカラムさんのところに行って防具でも新調しようかな)


 俺はギルドを退出して『カラム&ブライアン武装店』に向かうのだった。

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