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アドベンチャラー~超越無双の冒険者~  作者: 青空 弘
第一章~見習い冒険者~
43/90

43.新たなる冒険へ

 俺が食堂に姿を表すと冒険者達が一斉にこちらを見てきた。

 俺はフレデリコがステーキの件で、辛辣しんらつな言葉を投げかけてくると覚悟していた。

 しかしフレデリコは驚いた顔をして俺を見ているだけだった。

 フレデリコだけではない、横に座っているアザルや、ジェシカちゃんとヘザーさんまでも驚きの顔でこちらを見ていた。


 嫌な予感がする。

 俺はキッドさんを咄嗟に見た。

 キッドさんは一つうなずくとこちらに近づいてきた。


「ユウヤ、ひと足お先に遠征のことをかいつまんで説明しておいたぞ。森林狼のことやゴブリンのことをそれとなく話した。もちろん異世界の秘密は喋ってはいないから安心しろ」


 キッドさんは素早く耳打ちをしてくる。

 

「どんなふうに説明したんですか!? みんな驚いて固まっているじゃないですか!」


 俺は小声で抗議する。


「大丈夫だ、討伐数を過小に申告したし、ユウヤの討伐個体数も押さえ気味に報告したからな。俺一人で倒したとはさすがに無理があるから仕方がないぞ」


「それはそうですけど……」


「おい新入り、お前結構やるみたいだな。こっちに来て酒でも飲めよ」


 引きつった顔をしたフレデリコが手招きしている。

 先程までの強気な態度は完全に無くなっていた。


「キッドさん、やっぱりおかしいですよ。フレデリコさんはあんな人ではないですよ!」


 俺の抗議にもキッドさんは頭を掻いて、詳しいことは教えてくれなかった。

 秘密は守ったと言っていたから、俺が異世界から来たことなどは言っていないだろう。

 テーブルに着いて周りを見渡してみる。

 フレデリコは愛想笑いをしてソワソワしていた。

 アザルも同様で伏し目がちだ。

 ジェシカちゃんは興味津々で俺のことを見つめている。

 ヘザーさんは……、いつもと同じで少しだけ安心する。


 俺は無言でパンをかじりスープを飲み干していく。

 その一挙手一投足を冒険者達が見守っていた。

 とても居づらい。

 俺はいたたまれなくなって物置部屋へ退散しようとした。


「そろそろステーキが出来たはずよ!」


 俺の横に座っていたクリスティーナさんが勢いよく立ち上がった。


「あ、俺も手伝います!」


 逃げるようにクリスティーナさんを追いかけて厨房へ移動する。


「あら手伝ってくれるの? それだったら大皿にステーキを盛り付けてくれないかしら?」


 後からやってきた俺にクリスティーナさんが微笑みかける。

 今の俺にはクリスティーナさんが天使に見えた。


「わかりました、これですね?」


 台の上に巨大な皿が用意してある。

 クリスティーナさんはオーブンの扉を開けると、鍋つかみを手にはめて大きな焼き皿を台の上に置いた。

 焼き皿の上には狼の肉が美味しそうに焼かれている。

 塩コショウと香草だけなのに食欲をそそられるいい匂いが厨房全体に広がった。


 大皿にステーキを移し替え、食堂に戻ってキッドさんの前に置く。


「おお、うまそうだな! 今夜はいくらでも食べていいぞ、ジェシカいっぱい食べるんだぞ」


「うん、わかったわ!」


 仲の良い親子は嬉しそうにステーキを取皿に分けていった。

 フレデリコたちもステーキに気を取られて俺のことは忘れてしまったようだ。

 少しだけホッとして厨房に戻っていった。


「皆さん喜んで食べ始めました」


「それは良かったわ、私たちも奴隷たちに肉を配って早く食べましょう」


「わかりました」


 大皿に山盛りのステーキ肉を再度食堂へ運び込む。

 奴隷たちのテーブルを回って、一人一切れずつ配っていった。


「まったく……、奴隷共に肉をやるなんてとんだあまちゃんだぜ……」


 裏からフレデリコがぼやく声が聞こえてくる。

 しかし俺はその声を無視して奴隷たちの粗末な器にステーキを入れていった。

 奴隷たちはノロノロとした動作で俺の顔を見てくる。

 濁った瞳に感情は無いが、驚き戸惑っているようにも見えた。


「大丈夫だから食べてみてくれ、美味しいぞ」


 俺は木こりたちに声を掛けながらステーキを配っていった。

 配る先から木こりたちが貪るようにステーキを食べ始めた。


「奴隷たちも嬉しそうですね、肉なんてここへ来てから食べたことがないですからね」


 大皿を空にしてクリスティーナさんが近寄ってきた。

 ちょうど俺も全ての奴隷たちにステーキを配り終えたところだった。


「彼らが大罪を犯したのは知っているのですがあまりにも可哀想ですよ。なんとかなりませんか?」


 鼻息を荒く手づかみで肉にかぶりついている男たちを見て思わす聞いてしまった。


「私たちではどうしようもないのよ。ここの運営はすべて王国から指示が出ているの。私たちも好きで奴隷たちを粗末に扱っているわけではないのよ、わかってね」


 クリスティーナさんは寂しそうに言うと、厨房へ消えていった。

 クリスティーナさんだって意地悪をしているわけではないのにひどいことを言ってしまった。

 厨房へ言って謝ろう。



 厨房へ向かうとクリスティーナさんがエプロンで目頭を押さえていた。


「クリスティーナさん、さっきは考えなしに言ってしまってすみませんでした」


 俺が来たのを見てクリスティーナさんが慌てて笑顔になる。


「いいのよ、奴隷たちがあんなに嬉しそうにしていたのを見たことがなかったから私嬉しいわ。ユウヤさん、奴隷たちの代わりにお礼を言います。ありがとう」


 クリスティーナさんは頭を深々と下げた。


「奴隷たちが喜んでくれたなら俺も嬉しいですよ。俺たちもステーキ肉を食べませんか?」


「そうね、早く食べないとフレデリコに全部食べられてしまうわよ」


 笑顔になったクリスティーナさんと食堂へ戻る。

 大皿にはまだ大量のステーキ肉が残っていてみんなが俺たちを待っていた。


 楽しくおしゃべりをしながら夕食会が進んでいく。

 奴隷たちもいつもより少しだけ嬉しそうにしている気がした。



 ー・ー・ー・ー・ー



 食後の食堂には木こりたちの姿はなく、冒険者達とクリスティーナさんが真剣な顔つきで椅子に座っていた。

 キッドさんが立ち上がって今回の遠征の詳細を語っていく。

 森林狼との遭遇と撃退、ゴブリンの小規模な巣穴の発見と討伐。

 驚きながらも口を挟まずにみんな静かに聞いていた。


 もちろん俺の話題もキッドさんは話す。

 見習い冒険者である俺が、いかにして大量のゴブリンたちの巣穴から生還したかを、キッドさんが誤魔化しながら話していった。

 しかしいくらキッドさんがゴールドランクの冒険者だと言えど、見習いと二人だけでゴブリンの巣を壊滅したことをみんな驚き、そして疑っていた。

 冒険の知識がある者ならば、到底生還できる遠征の内容ではなかったのだ。

 そのことからキッドさんの力を引いた戦力がイコールで俺の戦力だとベテランの冒険者達は推察した。


 初心者冒険者ではない、キッドさんと同等の力を持つ得体のしれない部外者。

 それが俺に対するみんなの評価だった。

 しかし余計な詮索をしないこともベテラン冒険者たちは心得ていた。

 自分たちのボスであるキッドさんが誤魔化して語るということは、それなりの事情があるのだろうと口をつぐむ。

 こうしてどこかちぐはぐな報告会は終わりに近づいていった。




「……ということで今回の遠征は大成功で終わることが出来た。大規模なゴブリンの棲家は見つからなかったが、少なくとも南の森にはゴブリンたちは居なくなった。そこで臨時に雇っていたユウヤは今日をもって伐採所警備隊を除隊することになった。短い期間だったがユウヤお疲れだったな」


 キッドさんが拍手をして俺を見てくる。

 冒険者たちもどことなくホッとした表情で拍手をしていた。


「本当に短い時間でしたが有意義に過ごせました。特に冒険のいろはを教えてくれた隊長には感謝しても感謝しきれません。ありがとうございました。みなさんもよそ者である俺を受け入れてくれてありがとうございました」


 パラパラと拍手が上がり、報告会は終了した。




 暗い階段を登って俺は物置部屋へ戻って来ていた。

 扉を開けるとそこにはなにもない狭い空間があり、小窓からは月が見えていた。

 キッドさんからもらった長剣を腰から外し壁に立てかける。

 扉を背にしてどっかりと腰を下ろすと、目が暗闇に慣れるまで静かにしていた。


 明日は伐採所を出て街へ戻ることになる。

 短い期間だったが有意義なクエストだったと思う。

 狼たちやゴブリンたちとの戦闘で多少の自信もついた。

 なんとかこの世界で生きていけるだろう。


 小さな窓から月を眺めながら、異世界へ転移してからここ数日に起こった様々な出来事を思い出し、伐採所最後の夜を過ごすのだった。



 ー・ー・ー・ー・ー



 エピローグ




 朝日が伐採所の広場に差し込む中、いつものように木こりたちを先導して作業に向かう冒険者達を俺は見送っていた。

 フレデリコやアザルは早々にでかけてしまったが、ジェシカちゃんとヘザーさんは別れを惜しんでくれるようだ。


 俺とキッドさんもこれからミュンヘルの街へ出立する予定だ。

 キッドさんはギルドへの報告とお宝換金のためで、もう少しだけ一緒にいることができた。

 


「ユウヤさん、元気でね」


「ユウヤ、またな」


 ジェシカちゃんもヘザーさんも笑顔だ。


「ユウヤさん、またいつでも働きに来てくださいね」


 クリスティーナさんも見送りに出てきてくれていた。


「はい、みなさんもお元気で」


 得体の知れない冒険者である俺を見送ってくれることがとても嬉しい。


「さあ、仕事に取りかかれ。今日は急斜面の現場だから木こりたちのことを注意して監視するんだぞ」


「わかってるわ、行ってくるね」


 キッドさんに急かされてジェシカちゃんたちが森の中に消えていく。

 最後に遠くで手を振ってくれたので、俺も大きく手を振った。



「さて、俺たちもそろそろ行くか、クリスティーナ後はよろしく頼むぞ」


「行ってらっしゃい気をつけてくださいね」


 クリスティーナさんがニコリと微笑んだ。


「お世話になりました」






 ぺこりと頭を下げてミュンヘルに向かって歩きだす。

 見上げれば空は朝から晴天で雲がひとつもない。

 異世界へ来て初めてのクエストをやり遂げた事は、これからの冒険者生活での大いなる自信になった。

 俺は胸を張って伐採所を後にするのだった。




                           第一章完


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